0:00:09.983,0:00:12.929 それはカウントダウンから始まります 0:00:12.929,0:00:16.050 1947年8月14日 0:00:16.050,0:00:21.720 ムンバイである女性が [br]深夜12時を回る頃にお産を迎えます 0:00:21.720,0:00:24.758 インド中では人々が息をひそめ 0:00:24.758,0:00:31.369 200年近く続いたイギリス支配からの[br]独立宣言を待っています 0:00:31.369,0:00:33.579 そして12時きっかりに 0:00:33.579,0:00:40.572 身もだえる赤ん坊と 2つの新しい国が[br]同時に生まれました 0:00:40.572,0:00:45.532 これらの出来事から始まる[br]『真夜中の子供たち』は 0:00:45.532,0:00:50.906 インド系イギリス人の作家[br]サルマン・ラシュディの名作です 0:00:50.906,0:00:56.456 新国家と同い年である赤坊の名前は[br]サリーム・シナイ 0:00:56.456,0:00:58.452 この小説の主人公です 0:00:58.452,0:01:01.590 物語は 彼の30年の半生を 0:01:01.590,0:01:06.470 過去と未来を行き来しながら進み [br]シナイ家の秘密や 0:01:06.470,0:01:08.843 闇に包まれた謎を想像し 描いていきます 0:01:08.843,0:01:13.403 その中でも最も不思議なことは [br]サリームには魔法の力があり 0:01:13.403,0:01:17.302 それが なぜか彼の生まれた時刻に[br]関係していることです 0:01:17.302,0:01:19.246 しかもその現象は[br]彼1人に限らないのです 0:01:19.246,0:01:22.626 深夜12時頃に生まれた[br]すべての子供たちには 0:01:22.626,0:01:25.469 特別な力が宿っています 0:01:25.469,0:01:29.619 例えば [br]見事な魔力を持つ魔女パールヴァティー 0:01:29.619,0:01:34.259 そしてサリームの天敵である[br]優れた戦士 シヴァ 0:01:34.259,0:01:36.381 サリームはテレパシーを通して 0:01:36.381,0:01:41.452 他の真夜中に生まれた多くの子供たちと[br]交流を図ります 0:01:41.452,0:01:45.331 その中には時間や鏡をくぐり抜ける者や 0:01:45.331,0:01:48.808 水中で性転換する子供 0:01:48.808,0:01:52.232 そして多言語を話す[br]結合双生児などがいます 0:01:52.232,0:01:56.282 サリームはあらゆる不思議な出来事や 0:01:56.282,0:01:59.384 (インドの)歴史の愉快な語り手となります 0:01:59.384,0:02:02.531 彼の誕生日は祝福すべき日ですが 0:02:02.531,0:02:06.735 同時にインドの[br]激動の時代の始まりでもあります 0:02:06.735,0:02:10.277 1948年に[br]インドの独立運動のリーダーである 0:02:10.277,0:02:13.176 マハトマ・ガンディーが暗殺されました 0:02:13.176,0:02:16.606 独立と同時に[br]「インド・パキスタン分離独立」 0:02:16.606,0:02:19.022 イギリスの支配下にあったインドから 0:02:19.022,0:02:22.969 パキスタンが分離し[br]2つの国となる出来事が起こりました 0:02:22.969,0:02:31.142 これが引き金となり1965年と[br]1971年に両国の間で戦争が勃発 0:02:31.142,0:02:33.974 サリームはこれらを含め[br]様々な出来事に触れ 0:02:33.974,0:02:37.732 1971年のバングラデシュ独立や 0:02:37.732,0:02:41.378 インディラ・ガンディーが非常事態として[br]樹立した政権にまでさかのぼります 0:02:41.378,0:02:45.828 歴史と並行して進む[br]『真夜中の子供たち』の壮大な構図は 0:02:45.828,0:02:49.921 ポスト・コロニアル文学の中の[br]最高傑作のひとつと呼ばれる ― 0:02:49.921,0:02:51.651 理由となっています 0:02:51.651,0:02:56.431 このようなジャンルでは 一般的に[br]植民地や 元植民地であった国に 0:02:56.431,0:02:58.800 暮らしていた人々の体験を語り 0:02:58.800,0:03:05.708 革命 移民 アイデンティティなどのテーマを[br]通して 植民地化の後遺症を探っています 0:03:05.708,0:03:12.358 ラシュディはサリームと同じく1947年に生まれ[br]インドとイギリスで教育を受け 0:03:12.358,0:03:16.912 遠く離れた国々の[br]歴史背景 政治的発言 0:03:16.912,0:03:19.072 そしてマジックリアリズムの作風で[br]知られています 0:03:19.072,0:03:23.214 ラシュディは インドとパキスタンの文化を[br]数多く描くことで 0:03:23.214,0:03:25.954 『真夜中の子供たち』を[br]豊かな作品に仕上げています 0:03:25.954,0:03:32.391 それは家庭の伝統から食べ物 [br]宗教 民話と多岐にわたります 0:03:32.391,0:03:36.801 恋人のパドマが見守る中 夜通し描く 0:03:36.801,0:03:41.521 サリームの物語は [br]千夜一夜物語を思い起こさせます 0:03:41.521,0:03:46.646 千夜一夜物語ではシェヘラザードと言う名の[br]女性が 王に夜な夜な物語を聞かせ 0:03:46.646,0:03:48.414 生き延びようとします 0:03:48.414,0:03:50.039 サリームが理解していたとおり 0:03:50.039,0:03:57.336 千と一とは 物語の中の“夜と魔法と[br]パラレル・ワールドの数”なのです 0:03:57.336,0:03:58.925 小説の中で 0:03:58.925,0:04:03.065 ラシュディの描く数々の異世界は[br]私達を魅了します 0:04:03.065,0:04:06.290 時には それはジェットコースターのような[br]躍動感のある物語です 0:04:06.290,0:04:08.342 サリームは語ります 0:04:08.342,0:04:11.971 「私は誰?その答えは ― 0:04:11.971,0:04:19.461 私は 私の“世界的存在”の影響を受けた[br]“世界的存在”を有するあらゆる人と物であり 0:04:19.461,0:04:22.628 私が現れなければ[br]私が過ぎ去った後に 0:04:22.628,0:04:25.968 起こることのなかった[br]あらゆることである 0:04:25.968,0:04:28.951 しかも この事に関して[br]私は特別な存在ではない 0:04:28.951,0:04:33.741 今や6億人以上いる[br]一人一人の“私” は 0:04:33.741,0:04:36.006 同じような群衆の中にいる 0:04:36.006,0:04:38.585 最後にもう1度言おう― 0:04:38.585,0:04:43.675 私を理解するには [br]世界を飲み込まなければいけない」 0:04:43.675,0:04:46.911 サリームの語りには[br]息もつけないほどの質の高さがあり 0:04:46.911,0:04:51.391 ラシュディは[br]人生の宇宙論的帰結を描くと同時に 0:04:51.391,0:04:57.271 歴史を1つの物語に凝縮することに[br]疑問を投げかけます 0:04:57.271,0:05:00.908 彼の奇想天外なストーリーや[br]姿を変えていく登場人物は 0:05:00.908,0:05:04.372 常に人々を魅了し[br]賞賛を集めてきました 0:05:04.372,0:05:08.832 『真夜中の子供たち』は[br]名誉あるマン・ブッカー賞を 0:05:08.832,0:05:10.646 出版されたその年に受賞しただけでなく 0:05:10.646,0:05:15.935 2008年のコンテストでは[br]競合する39人の歴代受賞者を抑え 0:05:15.935,0:05:19.193 最高傑作と称えられました 0:05:19.193,0:05:22.105 壮大なスケールで語られた傑作の中で 0:05:22.105,0:05:25.578 ラシュディは [br]真実は1つではないと語りますー 0:05:25.578,0:05:30.358 さまざまな形で世界が[br]現実となって同時に現れ 0:05:30.358,0:05:34.118 あまたの人生を経験し[br]時計が時刻を1つ刻む毎に 0:05:34.118,0:05:39.638 様々な瞬間を体験しているのだと[br]考えることが賢明だということです