「美しさなんて忌々しい!」
と思いながら
父親に断崖に捨てられたプシュケは
周りを見渡していました
彼女は完璧すぎるほど
美しい容姿をもって生まれ
愛の女神ヴィーナスの
新たな化身として崇拝されました
しかし現実世界の人間は怖がって
言い寄ってもきません
彼女の父親は
アポロンの神託を請いました
アポロンは光明と理性
そして予言の神です
父親は プシュケを険しい岩山に
捨てるようにと言われました
そこで 冷酷で残忍 蛇のようで
羽のある悪魔と結婚するだろうと
ひとり岩山にいたプシュケは
西風神ゼファーが
優しく彼女を空中に
持ち上げるのを感じました
ゼファーは彼女を
宮殿の前で降ろしました
「ここがあなたの家です」
見えない声が聞こえました
「あなたの夫が寝室で待っています
会う勇気があるのなら」
勇気ならあるわよ
彼女は独り言を言いました
寝室は真っ暗で
夫の姿は見えませんでした
でも彼は蛇らしい様子など
全くありませんでした
肌は柔らかで 声も振る舞いも
優しかったのです
彼女は彼に
何者なのか尋ねましたが
その質問には答えられないと
彼は言いました
彼女が彼を愛しているなら
知る必要はないだろうと
彼の訪問は毎晩続きました
間もなく プシュケは身ごもりました
彼女は喜びましたが
葛藤もありました
見たこともない男性の
子供を育てるなんて!
ある晩プシュケは 眠っている夫に
オイルランプを持って近づきました
彼女が目にしたのは
キューピッドでした
矢を射ることで 神々や人間を
愛欲のとりこにする神です
プシュケはランプを取り落とし
キューピッドを火傷させてしまいました
彼はずっとプシュケを
愛していたのだと言いました
以前 嫉妬深い母親ヴィーナスに
若い彼女を矢で射って困らせるよう頼まれ
そのさい彼は プシュケの美しさに心を奪われ
その矢で自分を傷つけたのでした
しかし彼は 神と人間が対等に
愛し合えるとは信じていませんでした
彼女が 彼の真の姿を知った今
ふたりの幸せの願いは逃げ去り
彼は飛び立ってしまいました
絶望の中取り残されていたプシュケに
あの見えない声が再び聞こえ
こう言いました
彼女とキューピッドが
対等に愛し合うことは可能だと
勇気づけられた彼女は
彼を探しに出発しました
しかしヴィーナスが行く手を遮り
こう言いました
解決不能な課題をいくつか成し遂げないと
キューピッドとは結婚できないと
最初のプシュケの課題は ひと晩で
膨大な数の雑多な種を仕分けることでした
希望を捨てそうになった
ちょうどその時
アリの群れが 気の毒がって
手伝ってくれました
彼女は最初の試練を
くぐり抜けたのです
次の課題は 黄金の羊の毛を
ヴィーナスに持っていくことでした
黄金の羊は さまよう者の
内臓をえぐり出すと言われていましたが
川の神が彼女に
イバラに引っかかった羊毛の
集め方を教えてくれて
成功しました
最後の課題は 黄泉の国に行って
死の女神プロセルピナを説得し
ヴィーナスのために
彼女の美のしずくを箱に入れて
もらってくることでした
またしても あの見えない声が現れ
プシュケを助けてくれました
そして黄泉の国の番犬である
ケルベロスのためのお菓子と
船頭カロンに ステュクス川を渡してもらう
お金を持っていくよう教えてくれました
3つ目にして最後の課題を成し遂げ
プシュケは生者の国に帰還しました
ヴィーナスの宮殿のすぐ外で 彼女は
プロセルピナの美の箱を開きました
いくらか自分のために
取っておこうと思ったのです
しかしその箱に詰まっていたのは
美ではなく 眠りでした
プシュケは道に倒れました
傷の癒えたキューピッドは
眠る花嫁のもとに飛んできました
彼は 自分は愚かで
間違っていたと言いました
未知に直面しても
怖気づかない彼女の姿は
彼女が自分と対等以上の存在だと
証明していました
キューピッドはプシュケに
神酒ネクターを飲ませて不死身にしました
間もなく プシュケは
女の子を産みました
ふたりはその子に
「快楽」という意味の名前をつけ
その子とキューピッド
そして「魂」という意味の名を持つプシュケは
その後ずっと 人々の恋愛を
惑わせるようになったのです