1 00:00:08,113 --> 00:00:09,841 怖い話を上手く書きあげる方法は? 2 00:00:09,841 --> 00:00:12,162 もちろん おぞましい怪物を登場させたり 3 00:00:12,162 --> 00:00:13,423 血しぶきをあげたり 4 00:00:13,423 --> 00:00:15,442 四方から何かを 飛び出させることもできます 5 00:00:15,442 --> 00:00:18,732 しかし一流のホラー作家 H・P・ラヴクラフトは 6 00:00:18,732 --> 00:00:23,953 「もっとも古くからある最悪の恐怖は 知られざるものに対する恐怖である」と言います 7 00:00:23,953 --> 00:00:27,284 ホラー作家は 恐怖を直接的に表現するのではなく 8 00:00:27,284 --> 00:00:31,313 それが起こる予期の中に読者を宙吊りにして 未知への恐怖をあおります 9 00:00:31,313 --> 00:00:34,605 これこそサスペンス(持続的緊張感) の状態です 10 00:00:34,605 --> 00:00:39,342 よくあるサスペンスの例は ホラー映画やミステリー小説に見られます 11 00:00:39,342 --> 00:00:41,251 「お化け屋敷の中には何があるのか?」 12 00:00:41,251 --> 00:00:43,993 「晩餐の招待客の中で 誰が殺人犯なのか?」 13 00:00:43,993 --> 00:00:46,943 しかし サスペンスは これらのジャンルを越えて存在します 14 00:00:46,943 --> 00:00:48,714 「ヒーローは危機を乗り切れるのか?」 15 00:00:48,714 --> 00:00:50,873 「はたして ふたりは最後に結ばれるのか?」 16 00:00:50,873 --> 00:00:56,113 「主人公にこれほどの苦痛を与える 暗い秘密とは?」 17 00:00:56,113 --> 00:00:59,617 持続的緊張感を作り出す鍵は 読者が答えを出したくなるような 18 00:00:59,617 --> 00:01:02,157 疑問を一つ ないし いくつか用意し 19 00:01:02,157 --> 00:01:07,956 答えを明かすことを引き延ばしながら 読者の関心を保ち 謎解きを続けさせることです 20 00:01:07,956 --> 00:01:13,065 では 皆さんが作品を書く時に持続的緊張感を 作り出すにはどんな手法があるでしょうか? 21 00:01:13,065 --> 00:01:14,644 まず 視点を限定しましょう 22 00:01:14,644 --> 00:01:18,952 全容を知っていて 全てを伝えられる 「全知の語り手」を登場させるのではなく 23 00:01:18,952 --> 00:01:22,515 登場人物の視点から物語を進めましょう 24 00:01:22,515 --> 00:01:25,932 彼らが 読者と同じ程度の事しか 知らない状態から始めてもよいでしょう 25 00:01:25,932 --> 00:01:28,608 彼らが情報を得るにつれ 私たちも話が見えてくるのです 26 00:01:28,608 --> 00:01:33,267 古典小説の例として『吸血鬼ドラキュラ』では 手紙や日記の記述を通して話が展開し 27 00:01:33,267 --> 00:01:35,468 そこで この物語の登場人物は 自らの体験を伝え 28 00:01:35,468 --> 00:01:38,361 迫りくるものに恐れを抱きます 29 00:01:38,361 --> 00:01:41,237 次に ふさわしい舞台を選び 適切な描写をしましょう 30 00:01:41,237 --> 00:01:46,806 曲がりくねった廊下や秘密の通路のある 古びた屋敷やお城は 31 00:01:46,806 --> 00:01:50,836 何か不穏なものが隠されていることを 示唆します 32 00:01:50,836 --> 00:01:56,278 夜 霧 嵐といったものも全てが 登場人物たちの視界を狭め 33 00:01:56,278 --> 00:01:59,128 行動を制限する上で 同じような役割を果たします 34 00:01:59,128 --> 00:02:03,030 だからビクトリア朝のロンドンは 人気の舞台となっているのです 35 00:02:03,030 --> 00:02:06,866 そして普通の場所や物さえも 不気味になりえます 36 00:02:06,866 --> 00:02:10,047 例えば ゴシック小説『レベッカ』では 37 00:02:10,047 --> 00:02:17,108 主人公の新居に飾られていた花が 血のような赤色だと表現されています 38 00:02:17,108 --> 00:02:20,238 3つ目 文体と文の形を上手く使いましょう 39 00:02:20,238 --> 00:02:24,358 単に何が起こるかだけでなく その伝え方やテンポに 40 00:02:24,358 --> 00:02:27,728 注意を払うことで 持続的緊張感を高められます 41 00:02:27,728 --> 00:02:32,168 エドガー・アラン・ポーは『告げ口心臓』にて 語り手の精神状態を 42 00:02:32,168 --> 00:02:35,959 突如途切れる断片的な文章で表現しました 43 00:02:35,959 --> 00:02:38,508 そして この作品で用いられている 他の短い平叙文は 44 00:02:38,508 --> 00:02:43,631 息もつかぬほどのスピード感と 重々しい間を 織りなすように作り上げています 45 00:02:43,631 --> 00:02:46,400 映画においては アルフレッド・ヒッチコックの撮影技法は 46 00:02:46,400 --> 00:02:50,639 長い静寂や 階段のショットを用いることによって 47 00:02:50,639 --> 00:02:53,699 不安感を作り出したことで 知られています 48 00:02:53,699 --> 00:02:56,481 4つ目 「劇的アイロニー」を使いましょう 49 00:02:56,481 --> 00:02:59,430 読者にずっと 事情を知らせないだけではいけません 50 00:02:59,430 --> 00:03:01,827 時に 物語の重大な秘密を 登場人物には明かさず 51 00:03:01,827 --> 00:03:08,310 読者だけに明かすことで持続的緊張感を 最大限にあおることができます 52 00:03:08,310 --> 00:03:11,151 この技法は 「劇的アイロニー」として知られ 53 00:03:11,151 --> 00:03:13,481 物語の謎は 何が起こるかではなく 54 00:03:13,481 --> 00:03:17,637 登場人物たちが真相を いつ どのように知るかという点になります 55 00:03:17,637 --> 00:03:19,741 古典戯曲の『オイディプス王』では 56 00:03:19,741 --> 00:03:23,591 オイディプスは自分が殺めたのが 実の父であったことと 57 00:03:23,591 --> 00:03:25,601 実の母と結婚していたことに 気づいていません 58 00:03:25,601 --> 00:03:29,520 しかし観客は真相を知っており オイディプスが徐々に真相を知るのを見ることで 59 00:03:29,520 --> 00:03:34,021 物語に苦悶に満ちた見せ場が作られます 60 00:03:34,021 --> 00:03:36,095 最後は はらはらする場面で 終わらせる手法です 61 00:03:36,095 --> 00:03:38,003 やりすぎには 気を付けなければなりません 62 00:03:38,003 --> 00:03:43,483 安易なトリックだと言う人もいますしね でも この技法の効果は侮れません 63 00:03:43,483 --> 00:03:46,763 1つの章、エピソード、 巻やシーズンの最後を 64 00:03:46,763 --> 00:03:50,862 何か重大なことが明らかになる直前や 65 00:03:50,862 --> 00:03:55,234 微かな希望が残された 危機的状況の真っ最中に終える技法です 66 00:03:55,234 --> 00:03:57,532 一瞬だろうと数年だろうと 続きを待っている間 67 00:03:57,532 --> 00:04:01,863 次に何が起きるのかと 私たちの想像力が掻き立てられ 68 00:04:01,863 --> 00:04:04,162 さらに持続的緊張感が高まっていくのです 69 00:04:04,162 --> 00:04:06,753 最悪の事態は大抵の場合避けられ 70 00:04:06,753 --> 00:04:10,049 一件落着した感じがして 安堵するのです 71 00:04:10,049 --> 00:04:14,153 ただ それでも私たちは きっと主人公を襲うであろう次の不幸にも 72 00:04:14,153 --> 00:04:17,107 やっぱりまた 気を揉んでしまうことでしょう