1 00:00:01,000 --> 00:00:03,916 私の父は偽造者です 2 00:00:03,916 --> 00:00:05,861 一般的に偽造者というと 3 00:00:05,861 --> 00:00:08,778 金目当てのものが多く 4 00:00:08,778 --> 00:00:12,300 貨幣や絵画の偽造が頭に浮かぶでしょう 5 00:00:12,300 --> 00:00:14,612 父の偽造はそんなものではなく 6 00:00:14,612 --> 00:00:15,800 30年もの間 7 00:00:15,800 --> 00:00:18,502 偽造文書を作っていました 8 00:00:18,502 --> 00:00:20,447 自分のためではなく 9 00:00:20,447 --> 00:00:24,336 迫害や抑圧を受けている人々を 救うためにです 10 00:00:24,336 --> 00:00:26,500 父をご紹介しましょう 11 00:00:26,500 --> 00:00:29,500 19歳の頃の父です 12 00:00:29,500 --> 00:00:33,500 きっかけは第二次世界大戦のことです 13 00:00:33,500 --> 00:00:35,500 当時17歳だった父は 14 00:00:35,500 --> 00:00:37,200 偽造文書制作グループに入れられ 15 00:00:37,200 --> 00:00:41,700 レジスタンスの 文書偽造のエキスパートになりました 16 00:00:41,700 --> 00:00:43,500 よくある話と違うのは 17 00:00:43,500 --> 00:00:46,500 祖国解放後も70年代まで 18 00:00:46,500 --> 00:00:49,600 父が偽造文書を作り続けたことです 19 00:00:49,600 --> 00:00:51,250 私が幼かった頃 20 00:00:51,250 --> 00:00:53,398 当然この事は全く知りませんでした 21 00:00:53,398 --> 00:00:55,900 真ん中で変な顔をしているのが私です 22 00:00:55,900 --> 00:00:58,232 私はパリ郊外で 23 00:00:58,232 --> 00:01:02,121 3人兄弟の末っ子として育ちました 24 00:01:02,121 --> 00:01:05,011 みんなと同じように 「普通」のお父さんがいて― 25 00:01:05,011 --> 00:01:06,956 とはいえ父は同級生の親より 30歳も年上で 26 00:01:06,956 --> 00:01:10,845 祖父でも通るほどの年齢でした 27 00:01:10,845 --> 00:01:13,800 写真家であるとともに ストリートエデュケーターであった父は 28 00:01:13,800 --> 00:01:17,400 法の遵守については厳しく言う人でした 29 00:01:17,400 --> 00:01:19,700 そして一度も偽造者だった過去については 30 00:01:19,700 --> 00:01:21,900 話してくれませんでした 31 00:01:21,900 --> 00:01:24,459 しかし ある出来事をきっかけに 32 00:01:24,459 --> 00:01:27,376 私は父に疑いを抱くようになりました 33 00:01:27,376 --> 00:01:30,293 私が高校で悪い成績をとったことがあり 34 00:01:30,293 --> 00:01:32,238 滅多にない事なので 35 00:01:32,238 --> 00:01:35,183 両親には隠す事にしました 36 00:01:35,183 --> 00:01:39,072 そのためには 親のサインを 偽造する必要がありました 37 00:01:39,072 --> 00:01:42,200 私は母親のサインを偽造し始めました 38 00:01:42,200 --> 00:01:44,907 父のサインは偽造不可能だったためです 39 00:01:44,907 --> 00:01:47,824 何枚か紙を用意し 似せるために 40 00:01:47,824 --> 00:01:50,741 何度も何度も練習して ようやく 41 00:01:50,742 --> 00:01:52,686 安定して上手く書けるようになると 42 00:01:52,686 --> 00:01:54,630 実行に移しました 43 00:01:54,631 --> 00:01:57,000 後日 母が私の学校鞄の中に 宿題を見つけ 44 00:01:57,000 --> 00:02:00,492 すぐさまサインが 偽造された事を見破りました 45 00:02:00,492 --> 00:02:02,437 母はかつてないほどに 私を怒鳴りつけました 46 00:02:02,437 --> 00:02:05,354 私は部屋に閉じこもり 布団の中で丸まって 47 00:02:05,354 --> 00:02:08,299 父が仕事から帰るのを待ちました 48 00:02:08,299 --> 00:02:10,189 ただ不安でいっぱいでした 49 00:02:10,189 --> 00:02:12,161 父が帰ってきたのが聞こえ 50 00:02:12,161 --> 00:02:16,078 私はまだ布団の中でした 父は部屋に入ってくると 51 00:02:16,078 --> 00:02:18,023 ベッドの端に座って 52 00:02:18,023 --> 00:02:20,913 黙っていたので 私が布団から顔を出すと 53 00:02:20,913 --> 00:02:23,830 父は私を見て笑い出しました 54 00:02:23,830 --> 00:02:26,747 父は私の宿題を手に 笑いが止まらなかったのです 55 00:02:26,747 --> 00:02:31,100 それから「もっと上手くできただろう これじゃ小さすぎだよ」と言いました 56 00:02:31,100 --> 00:02:37,000 確かに少し小さかったです 57 00:02:37,000 --> 00:02:39,000 私はアルジェリアで生まれ 58 00:02:39,000 --> 00:02:42,305 そこでは父は「ムジャヒッド」と 呼ばれていました 59 00:02:42,305 --> 00:02:43,500 「戦士」という意味です 60 00:02:43,500 --> 00:02:48,084 後にフランスに移り 私は大人の話を盗み聴くのが大好きで 61 00:02:48,084 --> 00:02:51,001 父のそれまでの生活に関する あらゆる話を聞きました 62 00:02:51,001 --> 00:02:53,919 特に第二次世界大戦で 父が「行った」事― 63 00:02:53,919 --> 00:02:55,863 アルジェリア戦争で「した」事について 64 00:02:55,863 --> 00:02:58,781 戦争を「する」というのは 兵士として戦うことだと考えていましたが 65 00:02:58,781 --> 00:03:02,698 父が平和主義者で非暴力を 貫いているのを知っていたので 66 00:03:02,698 --> 00:03:06,000 ヘルメットと銃を装備した父の姿は 想像しがたいものでした 67 00:03:06,000 --> 00:03:08,000 実際に その予想ははずれだったのです 68 00:03:08,000 --> 00:03:11,200 ある日 父がフランス国籍を取得するため 69 00:03:11,200 --> 00:03:14,366 ファイルを整理している間に 70 00:03:14,366 --> 00:03:16,311 偶然にいくつかの文書が 71 00:03:16,311 --> 00:03:18,728 私の目に止まりました 72 00:03:18,728 --> 00:03:20,400 本物ですよ! 73 00:03:20,400 --> 00:03:23,118 私のものです 私はアルゼンチン生まれだとあります 74 00:03:23,118 --> 00:03:24,900 偶然見つけたこの文書は 75 00:03:24,900 --> 00:03:27,007 役所に申請するときに役立つようにと 76 00:03:27,007 --> 00:03:29,700 ある極秘任務のために 77 00:03:29,700 --> 00:03:32,869 父のした仕事に感謝の意を表して 78 00:03:32,869 --> 00:03:34,788 軍から贈られたものでした 79 00:03:34,788 --> 00:03:37,705 突然のことに私は驚きました 80 00:03:37,705 --> 00:03:39,400 お父さんはスパイなの? 81 00:03:39,400 --> 00:03:41,566 ジェームズ・ボンドみたい 82 00:03:41,566 --> 00:03:46,455 父に聞きたい事がたくさんありましたが 父は答えませんでした 83 00:03:46,455 --> 00:03:49,400 それから いつかは父に聞かなければ 84 00:03:49,400 --> 00:03:52,000 と自分に言い聞かせました 85 00:03:52,000 --> 00:03:54,151 それから私は母親となり息子を授かり 86 00:03:54,151 --> 00:03:57,300 ついに父に尋ねるべき時が来たと思いました 87 00:03:57,300 --> 00:03:59,300 私は母親となって 88 00:03:59,300 --> 00:04:01,300 父が77歳の誕生日を祝っているときに 89 00:04:01,300 --> 00:04:03,600 急に 私はとてつもない不安に襲われたのです 90 00:04:03,600 --> 00:04:05,848 もし父が死んでしまって 91 00:04:05,848 --> 00:04:07,793 話してくれなかったことや 92 00:04:07,793 --> 00:04:09,737 秘密をそのままに逝ってしまったらと 93 00:04:09,737 --> 00:04:12,100 私たちにとって そして他の人々にとっても 94 00:04:12,100 --> 00:04:13,627 父の物語を知ることが 95 00:04:13,627 --> 00:04:15,572 いかに大事かを何とか説得しました 96 00:04:15,572 --> 00:04:17,516 父は打ち明ける決意をしてくれ 97 00:04:17,516 --> 00:04:18,800 私は本を書きました 98 00:04:18,800 --> 00:04:21,406 後ほど その一部を朗読します 99 00:04:21,406 --> 00:04:24,323 さて 父の物語です 父はアルゼンチンで生まれました 100 00:04:24,323 --> 00:04:26,268 父の両親はロシア系でした 101 00:04:26,268 --> 00:04:30,185 一家は1930年代に フランスに移住しました 102 00:04:30,186 --> 00:04:35,000 父の両親はユダヤ系でロシア人で 何よりとても貧しかったため 103 00:04:35,000 --> 00:04:38,000 父は14歳で働き始めなければ なりませんでした 104 00:04:38,000 --> 00:04:39,200 父が唯一持っているのは 105 00:04:39,200 --> 00:04:40,500 小学校の卒業証書です 106 00:04:40,500 --> 00:04:43,000 父はドライクリーニング屋の仕事を見つけ 107 00:04:43,000 --> 00:04:46,200 そこで魔法を見つけました 108 00:04:46,200 --> 00:04:48,000 父はその話をすると とても魅力的です 109 00:04:48,000 --> 00:04:50,800 それは化学染色の魔法です 110 00:04:50,800 --> 00:04:52,600 第二次世界大戦中に 111 00:04:52,600 --> 00:04:55,467 父は15歳で母親を亡くしました 112 00:04:55,468 --> 00:04:58,000 この出来事は 113 00:04:58,000 --> 00:05:00,000 父が化学に没頭するきっかけとなりました 114 00:05:00,000 --> 00:05:02,700 それが悲しみを癒す唯一の方法だったのです 115 00:05:02,700 --> 00:05:06,163 一日中 師匠にたくさんの質問をして 116 00:05:06,164 --> 00:05:09,000 学び どんどん知識を蓄積しました 117 00:05:09,000 --> 00:05:10,500 そして夜に誰も見ていないところで 118 00:05:10,500 --> 00:05:12,700 練習をして経験を積みました 119 00:05:12,700 --> 00:05:17,800 父が最も興味を持ったのは インクの漂白でした 120 00:05:17,800 --> 00:05:20,000 実は父が偽造者となったのは 121 00:05:20,000 --> 00:05:22,500 実は 父が偽造者となったのは 122 00:05:22,500 --> 00:05:24,500 偶然のようなものでした 123 00:05:24,500 --> 00:05:27,000 父の家族はユダヤ系だったため 迫害されていました 124 00:05:27,000 --> 00:05:30,000 ついに全員が捕まり ドランシー強制収容所に連行されましたが 125 00:05:30,000 --> 00:05:33,200 アルゼンチン人としての証明書のおかげで ぎりぎり脱することができました 126 00:05:33,200 --> 00:05:34,335 出られはしたものの 127 00:05:34,336 --> 00:05:37,252 常に危険と隣り合わせでした 「ユダヤ人」と大きく文書に残されていたのです 128 00:05:37,253 --> 00:05:40,500 文書偽造をする必要があると 判断したのは祖父でした 129 00:05:40,500 --> 00:05:44,000 父は法を遵守するようにと 教育されてきたので 130 00:05:44,000 --> 00:05:46,000 迫害されていたにもかかわらず 131 00:05:46,000 --> 00:05:48,000 文書偽造を考えたこともありませんでした 132 00:05:48,000 --> 00:05:51,000 しかし レジスタンスから来た ある男性に会いに行ったのは父でした 133 00:05:51,000 --> 00:05:53,500 当時 証明書には堅い表紙がついており 134 00:05:53,500 --> 00:05:55,000 手書きで 135 00:05:55,000 --> 00:05:58,000 職業が書かれていました 136 00:05:58,000 --> 00:06:00,200 生き延びるためには仕事が必要でした 137 00:06:00,200 --> 00:06:02,200 父はその男性に「染色業」と 138 00:06:02,200 --> 00:06:04,000 書くように頼みました 139 00:06:04,000 --> 00:06:07,000 男性はにわかに とても興味を抱き 140 00:06:07,000 --> 00:06:10,200 「染色業」なら インクの漂白法 を知っているかと尋ねました 141 00:06:10,200 --> 00:06:12,500 もちろん父は知っています 142 00:06:12,500 --> 00:06:14,300 すると突然 その男性は 143 00:06:14,300 --> 00:06:17,000 レジスタンスが抱える 重大な問題について話し始めました 144 00:06:17,000 --> 00:06:19,600 優れた専門家でさえも 145 00:06:19,600 --> 00:06:23,200 ウォーターマンの青いインクは 「消えないインク」と言われ 146 00:06:23,200 --> 00:06:25,400 漂白できたためしがないと言うのです 147 00:06:25,400 --> 00:06:29,300 父はただちに 「自分はその漂白法を知っている」 148 00:06:29,300 --> 00:06:30,500 と答えました 149 00:06:30,500 --> 00:06:33,700 すると男性はこの技術を 即座に教えてくれるという 150 00:06:33,700 --> 00:06:37,500 弱冠17歳の若者に いたく感心し採用しました 151 00:06:37,500 --> 00:06:40,500 そして知らず知らずのうちに 父は色々な発明をしました 152 00:06:40,500 --> 00:06:43,150 学校に通う子供たちの筆箱に入っている 153 00:06:43,150 --> 00:06:46,000 修正ペンがそのひとつです 154 00:06:46,500 --> 00:06:51,500 (拍手) 155 00:06:52,000 --> 00:06:53,400 それは始まりに過ぎませんでした 156 00:06:53,400 --> 00:06:55,000 これは父です 157 00:06:55,000 --> 00:06:56,500 研究室を与えられると 158 00:06:56,500 --> 00:06:57,900 1番若かったにもかかわらず 159 00:06:57,900 --> 00:07:00,800 父はすぐに偽造文書制作に 問題があることを理解しました 160 00:07:00,800 --> 00:07:03,700 そこですべての活動が停まってしまうのです 161 00:07:03,700 --> 00:07:06,300 需要は伸びる一方で 162 00:07:06,300 --> 00:07:08,900 既存の文書を改ざんすることは 難しいとわかりました 163 00:07:08,900 --> 00:07:10,400 父はゼロから文書を作成する事にし 164 00:07:10,400 --> 00:07:13,200 プレス機や写真製版― 165 00:07:13,200 --> 00:07:14,800 ゴム印も作り始めました 166 00:07:14,800 --> 00:07:16,600 父のあらゆる発明品の中には 167 00:07:16,600 --> 00:07:20,000 自転車の車輪を使った 遠心分離機もあります 168 00:07:20,000 --> 00:07:22,000 父は制作する事に取り憑かれており 169 00:07:22,000 --> 00:07:24,800 とにかく全てをやる必要がありました 170 00:07:24,800 --> 00:07:27,000 父は単純な計算をしました 171 00:07:27,000 --> 00:07:30,100 1時間で30通の偽造文書が作成できます 172 00:07:30,100 --> 00:07:34,500 もし1時間寝たら 30人の命が奪われるかもしれません 173 00:07:34,500 --> 00:07:37,500 17歳にして 174 00:07:37,500 --> 00:07:40,700 他の人々の命に対する 責任を感じていました 175 00:07:40,700 --> 00:07:43,700 そして友人が逃げる事が できなかった収容所から 176 00:07:43,700 --> 00:07:47,300 自分は逃げたという生存者としての罪悪感を 177 00:07:47,300 --> 00:07:49,552 感じながら生きていました 178 00:07:49,553 --> 00:07:52,470 それが おそらく30年もの間 179 00:07:52,471 --> 00:07:55,100 あらゆるものを犠牲にして 180 00:07:55,100 --> 00:07:57,400 証明書の偽造を続けてきた理由でしょう 181 00:07:57,400 --> 00:07:58,300 それには多くの 182 00:07:58,300 --> 00:08:00,200 犠牲を伴いました 183 00:08:00,200 --> 00:08:02,700 報酬は受け取らなかったため 184 00:08:02,700 --> 00:08:04,500 金銭的な犠牲を払っていました 185 00:08:04,500 --> 00:08:07,200 父にとって支払いを受ける事は 卑しい事でした 186 00:08:07,200 --> 00:08:08,800 もし支払いを受けるようになったら 187 00:08:08,800 --> 00:08:10,600 偽造をするのに正当かどうかに応じて 188 00:08:10,600 --> 00:08:13,000 やるかどうかを選ぶ事ができなくなります 189 00:08:13,000 --> 00:08:14,900 30年もの間 父は日中は写真家で 190 00:08:14,900 --> 00:08:16,500 夜は偽造者だったのです 191 00:08:16,500 --> 00:08:18,500 父はいつもお金に困っていました 192 00:08:18,500 --> 00:08:21,500 それから感情的な犠牲もありました 193 00:08:21,500 --> 00:08:24,500 妻にも話せない秘密を抱えて どうやって一緒に暮らせるでしょう? 194 00:08:24,500 --> 00:08:28,700 毎晩 実験室にこもっている理由を どう説明したらいいのでしょう? 195 00:08:28,700 --> 00:08:32,000 他に家族を巻き込んでの犠牲もありました 196 00:08:32,000 --> 00:08:35,400 私はずっと後になって知りました 197 00:08:35,400 --> 00:08:38,500 ある日 父が私に姉を紹介してくれました 198 00:08:38,500 --> 00:08:42,500 それから兄がいる事も説明してくれました 199 00:08:42,500 --> 00:08:48,500 初めて兄と姉と会った時には 私は3歳か4歳でしたが 200 00:08:48,500 --> 00:08:50,300 彼らは私より30歳も年上でした 201 00:08:50,300 --> 00:08:55,800 2人とも今は60代です 202 00:08:55,800 --> 00:08:58,500 本を書くために 203 00:08:58,500 --> 00:09:02,000 姉の知っている父はどんな人であったか 204 00:09:02,000 --> 00:09:03,500 姉に尋ねてみました 205 00:09:03,500 --> 00:09:07,600 姉の知っている父は 「日曜日にみんなを迎えに来るから 206 00:09:07,600 --> 00:09:11,800 一緒に散歩に行こう」と言って 207 00:09:11,800 --> 00:09:14,400 家族がお洒落をして待っていると 208 00:09:14,400 --> 00:09:16,200 ほとんど来ないような人だったそうです 209 00:09:16,200 --> 00:09:19,500 「電話するよ」と言っても電話はなく 210 00:09:19,500 --> 00:09:21,500 顔を見せることもありませんでした 211 00:09:21,500 --> 00:09:24,800 そして ある日ついに姿を消しました 212 00:09:24,800 --> 00:09:26,200 時が経って 213 00:09:26,200 --> 00:09:29,400 もう自分たちは忘れられてしまったに違いない 214 00:09:29,400 --> 00:09:31,000 と思っていたそうです 215 00:09:31,000 --> 00:09:32,500 さらに時間が経つと 216 00:09:32,500 --> 00:09:34,500 2年目が終わる頃から 217 00:09:34,500 --> 00:09:37,700 「父はたぶん死んだのだろう」と思っていました 218 00:09:37,700 --> 00:09:40,000 そして私は父の過去について 219 00:09:40,000 --> 00:09:42,900 色々聞くことで おそらく 辛くて父が話したくないような 220 00:09:42,900 --> 00:09:45,700 過去をかきまわすことになることに 221 00:09:45,700 --> 00:09:47,300 気がつきました 222 00:09:47,300 --> 00:09:52,000 私の異母兄弟が見捨てられ 孤児になったと感じていた時 223 00:09:52,000 --> 00:09:53,700 私の異母兄弟が見捨てられ 孤児になったと感じていた時 224 00:09:53,700 --> 00:09:56,000 父は偽造文書を作っていたのです 225 00:09:56,000 --> 00:09:59,500 父が家族にも話さなかったのは 家族を守るためでした 226 00:09:59,500 --> 00:10:01,300 解放後も父は偽造文書を作り 227 00:10:01,300 --> 00:10:04,200 強制収容所で生き延びた人々が イスラエル建国前の 228 00:10:04,200 --> 00:10:06,100 パレスチナに向かえるようにしました 229 00:10:06,100 --> 00:10:08,500 父は断固とした反植民地主義者だったので 230 00:10:08,500 --> 00:10:12,000 アルジェリア戦争のときは アルジェリア人のために偽造文書を作りました 231 00:10:12,000 --> 00:10:14,600 アルジェリア戦争後は 232 00:10:14,600 --> 00:10:17,200 国際的なレジスタンス運動の広がりの中で 233 00:10:17,200 --> 00:10:18,900 彼の名前は知られることとなり 234 00:10:18,900 --> 00:10:21,200 世界中の人々が彼を訪ねて来ました 235 00:10:21,200 --> 00:10:24,700 アフリカでは国々が 独立のために闘っていました 236 00:10:24,700 --> 00:10:27,700 ギニア、ギニアビサウ、アンゴラなど 237 00:10:27,700 --> 00:10:32,200 父はネルソン・マンデラの 反アパルトヘイト政党と関係を持ち 238 00:10:32,200 --> 00:10:35,700 迫害されている南アフリカ人のために 偽造文書を作りました 239 00:10:35,700 --> 00:10:37,500 ラテンアメリカでは 240 00:10:37,500 --> 00:10:40,200 独裁政権に反対する人々を助けました 241 00:10:40,200 --> 00:10:42,100 ドミニカ共和国やハイチ 242 00:10:42,100 --> 00:10:48,200 ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、 エルサルバドル、ニカラグア 243 00:10:48,200 --> 00:10:53,800 コロンビア、ペルー、ウルグアイ、 チリ、メキシコなどです 244 00:10:53,800 --> 00:10:55,500 それからベトナム戦争がありました 245 00:10:55,500 --> 00:10:57,800 ベトナム人に対して 武器を持って戦うことを拒否する 246 00:10:57,800 --> 00:11:01,000 アメリカの脱走兵のために 偽造文書を作成しました 247 00:11:01,000 --> 00:11:03,000 ヨーロッパも例外ではありません 248 00:11:03,000 --> 00:11:05,141 父はスペインのフランコ政権や 249 00:11:05,142 --> 00:11:08,900 ポルトガルのサラザール政権 250 00:11:08,900 --> 00:11:13,892 ギリシャの独裁政権の 反対派の活動家のために 251 00:11:13,893 --> 00:11:15,600 偽造文書を作成しました 252 00:11:15,600 --> 00:11:18,754 フランスでは1968年5月の ただ1度だけありました 253 00:11:18,755 --> 00:11:21,400 父は好意的に 254 00:11:21,400 --> 00:11:24,200 五月革命を見ていましたが 255 00:11:24,200 --> 00:11:26,500 父の心は他のところにありました 256 00:11:26,500 --> 00:11:30,000 なぜなら15カ国以上の国々のために 働いていたからです 257 00:11:30,000 --> 00:11:32,368 ある時 みなさんも ご存知かもしれない人のために 258 00:11:32,369 --> 00:11:34,312 偽造文書を作る事にしたことがあります 259 00:11:34,313 --> 00:11:37,229 (笑) 260 00:11:37,230 --> 00:11:38,850 当時 彼はもっと若くて 261 00:11:38,850 --> 00:11:41,000 彼が帰国して会議で話すことができるように 262 00:11:41,000 --> 00:11:44,036 父は偽造文書を作るのを承諾しました 263 00:11:44,037 --> 00:11:49,000 そのときの偽造文書のほとんどが メディア関連のもので 264 00:11:49,000 --> 00:11:52,500 人生で作ってきた中で 最も役に立たないものだったと言っていました 265 00:11:52,500 --> 00:11:54,000 それでも父は承諾したので 266 00:11:54,000 --> 00:11:57,400 ダニエル・コーン=ベンディットの命は 267 00:11:57,400 --> 00:11:59,594 危険にさらされていませんでしたが 268 00:11:59,595 --> 00:12:01,000 当局を欺いて 269 00:12:01,000 --> 00:12:03,484 国境ほど穴だらけのものは他にないということ 270 00:12:03,485 --> 00:12:06,500 そしてアイディアには国境など 存在しないのだと見せつけるには 271 00:12:06,500 --> 00:12:11,000 絶好のチャンスでした 272 00:12:11,000 --> 00:12:13,000 私が子どもの頃 273 00:12:13,000 --> 00:12:17,097 友達はお父さんにグリム童話を 読み聞かせてもらっていましたが 274 00:12:17,098 --> 00:12:20,987 私の父は控えめな英雄たちの話をしてくれました 275 00:12:20,988 --> 00:12:23,904 揺るぎのない理想を掲げ 276 00:12:23,905 --> 00:12:26,821 奇跡を起こした人々です 277 00:12:26,822 --> 00:12:30,800 そんな英雄たちには 軍隊の後ろ盾は必要ありません 278 00:12:30,800 --> 00:12:33,300 いずれにせよ 仲間は 279 00:12:33,300 --> 00:12:36,545 信念と勇気を持った 一握りの人たちだけでした 280 00:12:36,546 --> 00:12:37,800 随分あとになって 281 00:12:37,800 --> 00:12:41,407 寝る前にしてくれたお話は 父自身の話であったことがわかりました 282 00:12:41,408 --> 00:12:44,324 払わねばならなかった犠牲のことを考えて 283 00:12:44,325 --> 00:12:46,269 後悔はあったかと父に尋ねると 284 00:12:46,270 --> 00:12:48,000 父は「なかった」と答えました 285 00:12:48,000 --> 00:12:50,159 何もせずに不当な扱いを見過ごしたり 286 00:12:50,160 --> 00:12:53,076 それに服従することはできなかったと 教えてくれました 287 00:12:53,077 --> 00:12:56,100 父はもうひとつの世界の存在を 確信しており 288 00:12:56,100 --> 00:12:58,300 今も信じているのです 289 00:12:58,300 --> 00:13:01,300 誰も偽造者を必要としない世界は 可能なのだと 290 00:13:01,300 --> 00:13:03,300 今もそれを夢見ています 291 00:13:03,300 --> 00:13:04,744 私の父が 292 00:13:04,745 --> 00:13:06,500 今日この会場に来ています 293 00:13:06,500 --> 00:13:10,579 アドルフォ・カミンスキーです こちらへどうぞ 294 00:13:10,580 --> 00:13:30,999 (拍手) 295 00:13:31,000 --> 00:13:34,000 ありがとうございました