1 00:00:07,014 --> 00:00:12,249 エタノール ― 数個ほどの炭素原子で 構成されるこの分子は 2 00:00:12,249 --> 00:00:15,089 酔いの原因となります 3 00:00:15,089 --> 00:00:17,750 単にアルコールと呼ばれることが多い エタノールは 4 00:00:17,750 --> 00:00:21,120 アルコール飲料の有効成分です 5 00:00:21,120 --> 00:00:23,840 その分子のシンプルさから 膜を通過しやすいので 6 00:00:23,840 --> 00:00:26,160 様々な隙間に忍び入り 7 00:00:26,160 --> 00:00:31,369 他の不格好な分子と比べ 幅広い作用をもたらします 8 00:00:31,369 --> 00:00:33,979 では具体的には どのように酔いをもたらすのか 9 00:00:33,979 --> 00:00:38,510 また なぜ作用が人によって 著しく異なるのでしょうか 10 00:00:38,510 --> 00:00:40,058 これらの疑問に答えるには 11 00:00:40,058 --> 00:00:43,905 アルコールが体内を巡る過程を 追う必要があるでしょう 12 00:00:43,905 --> 00:00:47,293 アルコールは胃に入り込み 13 00:00:47,293 --> 00:00:51,300 特に小腸などの消化管を通って 血液中に吸収されます 14 00:00:51,300 --> 00:00:53,820 食後は胃と小腸の仕切りとなる 幽門括約筋が閉じるため 15 00:00:53,820 --> 00:01:01,231 胃の内容物が 血液中に入る アルコールの作用に影響を与えます 16 00:01:01,231 --> 00:01:04,443 そのため ボリューム満点な食事の後に 血液中に入り込むアルコール量は 17 00:01:04,443 --> 00:01:09,066 空腹時に同じアルコール飲料を飲んだときの 4分の1にしかならないかもしれません 18 00:01:09,066 --> 00:01:11,756 アルコールは血液を通じて 各器官へと巡ります 19 00:01:11,756 --> 00:01:14,073 流れ込む血流が特に多いのは 20 00:01:14,073 --> 00:01:16,673 肝臓と脳です 21 00:01:16,673 --> 00:01:19,583 最初に肝臓に到達し 22 00:01:19,583 --> 00:01:22,953 肝臓内の酵素がアルコール分子を 2段階で分解します 23 00:01:22,953 --> 00:01:29,420 まずADHという酵素がアルコールを 毒性のあるアセトアルデヒドに変えます 24 00:01:29,427 --> 00:01:36,090 次にALDHという酵素が有毒な アセトアルデヒドを無毒なアセテートに変えます 25 00:01:36,090 --> 00:01:40,210 血液が循環するにつれて肝臓は アルコールを除去し続けますが 26 00:01:40,210 --> 00:01:44,026 この最初の除去過程によって アルコールが 27 00:01:44,026 --> 00:01:47,269 脳や他の器官に どれほど到達するかが決まります 28 00:01:47,269 --> 00:01:51,199 脳の感度はアルコールの 感情 認知 29 00:01:51,199 --> 00:01:56,623 および行動への影響 つまり酩酊の程度を 左右する要因になります 30 00:01:56,623 --> 00:02:01,360 アルコールは脳の主な抑制性の 神経伝達物質であるGABAを増やし 31 00:02:01,360 --> 00:02:06,081 脳の主たる興奮性の神経伝達物質 グルタミン酸を減らします 32 00:02:06,081 --> 00:02:08,631 これにより神経細胞の 信号伝達能力が格段に低下し 33 00:02:08,631 --> 00:02:13,375 中等度に摂取した人はリラックスし より多く摂取した人は眠りに落ち 34 00:02:13,375 --> 00:02:19,330 毒性のある摂取量では生存に必要なレベルの 脳活動を阻害する可能性があります 35 00:02:19,330 --> 00:02:22,100 アルコールはまた 中脳から 動機づけに重要な領域である ― 36 00:02:22,100 --> 00:02:28,164 側坐核まで伸びている 神経細胞の小さな集団を刺激します 37 00:02:28,164 --> 00:02:29,854 中毒性のある麻薬のように 38 00:02:29,854 --> 00:02:32,944 側座核でドーパミンの放出を促し 39 00:02:32,944 --> 00:02:36,004 飲酒する人の喜びをこみ上げさせます 40 00:02:36,004 --> 00:02:40,746 アルコールはまた いくつかの神経細胞に エンドルフィンを合成 放出させます 41 00:02:40,746 --> 00:02:44,566 エンドルフィンはストレスや危険に対して 気持ちを落ち着かせようとします 42 00:02:44,566 --> 00:02:47,354 エンドルフィンのレベル上昇は 43 00:02:47,354 --> 00:02:51,104 アルコール摂取に伴う多幸感と 緊張緩和に寄与します 44 00:02:51,104 --> 00:02:51,970 最後に 45 00:02:51,970 --> 00:02:55,776 肝臓におけるアルコール分解速度が 脳の吸収速度を上回ると 46 00:02:55,776 --> 00:02:58,006 酩酊感が薄れていきます 47 00:02:58,006 --> 00:03:00,616 この過程の各段階における個人差が 48 00:03:00,616 --> 00:03:03,966 人々の酔い方に 多かれ少なかれ左右します 49 00:03:03,966 --> 00:03:07,846 例えば 体重が同じ男女が同じ食事内容をとり 50 00:03:07,846 --> 00:03:14,731 同じ量を飲酒しても 血中アルコール濃度(BAC)は異なります 51 00:03:14,731 --> 00:03:17,656 これは女性の方が 血液量が少ない傾向があるからで 52 00:03:17,656 --> 00:03:20,056 それは脂肪の割合が一般的に高く 53 00:03:20,056 --> 00:03:22,466 筋肉に比べ必要とする血液が 少ないことによります 54 00:03:22,466 --> 00:03:25,816 血液量が少ないながらも 同量のアルコールを運んでいるので 55 00:03:25,816 --> 00:03:29,356 女性の方が濃度が高くなります 56 00:03:29,356 --> 00:03:34,908 肝臓のアルコール分解酵素の 遺伝的な相違もBACに影響を与えます 57 00:03:34,908 --> 00:03:37,938 そして 定期的に飲むことで 58 00:03:37,938 --> 00:03:40,103 これらの酵素の産生量が増え 耐性に寄与します 59 00:03:40,103 --> 00:03:43,693 これに反して 長時間にわたって飲み過ぎる人にとっては 60 00:03:43,693 --> 00:03:48,252 逆効果で 肝臓障害を発症することがあります 61 00:03:48,252 --> 00:03:54,723 一方で ドーパミン GABA エンドルフィンの伝達の遺伝的な相違が 62 00:03:54,723 --> 00:03:57,743 アルコール使用障害発症のリスク要因と なっている可能性があります 63 00:03:57,743 --> 00:04:01,253 生まれつき エンドルフィンや ドーパミンのレベルが低い人は飲酒に頼る傾向が 64 00:04:01,253 --> 00:04:02,574 あるかもしれません 65 00:04:02,574 --> 00:04:05,183 エンドルフィンに敏感に反応し 66 00:04:05,183 --> 00:04:10,243 多幸感が強まることに起因する 高い過剰飲酒リスクを抱える人たちもいます 67 00:04:10,243 --> 00:04:12,803 また GABAの伝達作用に違いがあることで 68 00:04:12,803 --> 00:04:16,593 アルコールの鎮静効果に 特に敏感な人たちもいて 69 00:04:16,593 --> 00:04:20,873 無秩序な飲酒による障害が起こる リスクを低くしています 70 00:04:20,873 --> 00:04:25,575 一方 脳はGABA ドーパミン エンドルフィンの伝達を減らし 71 00:04:25,575 --> 00:04:30,423 グルタミン酸の活性を高めることで 慢性的なアルコール摂取に適応します 72 00:04:30,423 --> 00:04:34,413 つまり 習慣的に飲酒している人は 不安になったり 睡眠障害になったり 73 00:04:34,413 --> 00:04:37,513 快感を味わうことが 少なくなる傾向にあるということです 74 00:04:37,513 --> 00:04:41,103 このような構造的で機能的な変化は 飲酒すると正常であるのに 75 00:04:41,103 --> 00:04:45,053 飲酒すると落ち着かなくなることで 無秩序な飲酒につながり 76 00:04:45,053 --> 00:04:47,587 悪循環が定着してしまいます 77 00:04:47,587 --> 00:04:53,333 そのため遺伝的特徴と飲酒歴の両方が アルコールへの影響度に関係します 78 00:04:53,333 --> 00:04:55,543 つまり ある人々は他の人よりも 79 00:04:55,543 --> 00:04:58,247 飲酒により特定のパターンに 陥りやすいことを意味しています 80 00:04:58,247 --> 00:05:02,847 飲酒の履歴は 神経系の反応や行動の変化につながるのです