1 00:00:01,500 --> 00:00:03,934 微生物は 特に乳児にとって 2 00:00:03,958 --> 00:00:05,851 悪いものだと 3 00:00:05,875 --> 00:00:08,268 考えがちかもしれません 4 00:00:08,292 --> 00:00:11,125 しかし研究者は 実はそれが 逆であることを示しました 5 00:00:12,375 --> 00:00:15,393 真相はもう少し複雑なだけでなく 6 00:00:15,417 --> 00:00:18,542 実際にはもっとずっと面白いのです 7 00:00:19,500 --> 00:00:21,851 私たちの 良い健康状態には 8 00:00:21,875 --> 00:00:24,000 微生物の適切な調整が必要なようです 9 00:00:25,083 --> 00:00:26,809 どの微生物でもいいのではなく 10 00:00:26,833 --> 00:00:29,226 適切な組み合わせが必要です 11 00:00:29,250 --> 00:00:31,934 進化の中で 我々が共存できるように適応した 12 00:00:31,958 --> 00:00:35,708 微生物を使って それがうまく達成できました 13 00:00:36,875 --> 00:00:38,518 ですので まさに生まれた時点で 14 00:00:38,542 --> 00:00:43,226 適切な組み合わせの微生物を獲得し始めるのは 驚くべきことではないと思います 15 00:00:43,250 --> 00:00:45,458 少なくとも我々の一部はそうしています 16 00:00:46,667 --> 00:00:49,684 帝王切開で生まれた赤ちゃんと 自然分娩で生まれた赤ちゃんでは 17 00:00:49,708 --> 00:00:50,976 微生物に関して言えば 18 00:00:51,000 --> 00:00:54,143 人生のスタートは同じではありません 19 00:00:54,167 --> 00:00:58,559 出生後には 数え切れないほどの 幼児期の出来事や状況が 20 00:00:58,583 --> 00:00:59,893 様々あって 21 00:00:59,917 --> 00:01:04,059 それらが腸内微生物叢の形成に さらに修飾を加えます 22 00:01:04,083 --> 00:01:09,184 具体的には 乳児や母親に 処方される薬剤や 23 00:01:09,208 --> 00:01:12,351 その家庭にいるペットや兄弟の数 24 00:01:12,375 --> 00:01:14,184 そして家の衛生状態も影響します 25 00:01:14,208 --> 00:01:16,184 ただ 家については 26 00:01:16,208 --> 00:01:19,083 常時 完璧に清潔という状態では ないのが望ましいです 27 00:01:20,542 --> 00:01:23,809 母子の栄養もそうです 28 00:01:23,833 --> 00:01:28,768 これらの出来事と状況は全て 29 00:01:28,792 --> 00:01:31,268 腸内微生物叢の形成に 大きな役割を果たしており 30 00:01:31,292 --> 00:01:35,833 生涯に渡る子どもの健康に きわめて大きな影響を及ぼします 31 00:01:37,167 --> 00:01:40,684 ここで述べているのは 健康に対する小さな影響ではなく 32 00:01:40,708 --> 00:01:43,143 もっと大きな影響のことです 33 00:01:43,167 --> 00:01:46,226 私たちがどんな微生物を獲得するかは 34 00:01:46,250 --> 00:01:51,268 肥満 糖尿病 さらには いくつかのがんなどの病気の 35 00:01:51,292 --> 00:01:52,833 発症しやすさに影響を与えます 36 00:01:54,000 --> 00:01:57,101 今述べたこれらの人生初期の出来事の多くは 37 00:01:57,125 --> 00:01:59,476 我々が影響を与えることができず 38 00:01:59,500 --> 00:02:00,934 避けられないものです 39 00:02:00,958 --> 00:02:04,268 例えば帝王切開は 新生児を救うために開発され 40 00:02:04,292 --> 00:02:06,351 日常的に行っているものですし 41 00:02:06,375 --> 00:02:10,143 ほとんどの薬剤は 正当な理由で処方されています 42 00:02:10,167 --> 00:02:13,018 特に乳児においてはそうです 他にも色々あります 43 00:02:13,042 --> 00:02:16,143 そういう訳で 44 00:02:16,167 --> 00:02:18,684 乳児の腸内微生物叢の形成を 妨げる可能性のある 45 00:02:18,708 --> 00:02:22,143 人生初期の出来事が発生した後に 乳児の健康を守る方法を 46 00:02:22,167 --> 00:02:25,042 学ばなければなりません 47 00:02:26,542 --> 00:02:27,893 私が研究者として 48 00:02:27,917 --> 00:02:31,268 また 乳児の健康プラットフォームの 技術的リーダーとして 49 00:02:31,292 --> 00:02:35,518 日々 解決を目指している問い — 50 00:02:35,542 --> 00:02:39,309 私が この講演で 答えようとしている問いとは 51 00:02:39,333 --> 00:02:41,809 どのようにすれば全ての乳児が 52 00:02:41,833 --> 00:02:45,101 どのように生まれ どんな初期の出来事に 遭遇したとしても 53 00:02:45,125 --> 00:02:50,208 生涯の健康を得るための細菌を 同じく手に入れられるかです 54 00:02:51,375 --> 00:02:53,333 崇高な動機に思われるでしょう 55 00:02:54,125 --> 00:02:55,393 そのとおりです 56 00:02:55,417 --> 00:02:57,101 では 実際に見ていきましょう 57 00:02:57,125 --> 00:03:02,500 最初に 微生物には適切な組み合わせが 必要だと申し上げましたね 58 00:03:04,333 --> 00:03:06,434 適切な組み合わせを得るために 59 00:03:06,458 --> 00:03:09,934 身体に生息する微生物を 特定の順序で 60 00:03:09,958 --> 00:03:11,583 取り込む必要があります 61 00:03:12,875 --> 00:03:16,351 これは微生物定着の進行過程として 考えることができます 62 00:03:16,375 --> 00:03:21,101 私たちの身体に ごく初期に生息する微生物は 63 00:03:21,125 --> 00:03:24,684 乳児の腸内の環境を変化させ 64 00:03:24,708 --> 00:03:28,768 次の微生物が参入できるようにします 65 00:03:28,792 --> 00:03:30,684 それはまるで最初の侵略者が 66 00:03:30,708 --> 00:03:33,059 まず先に 他の入植者が足場とするための 67 00:03:33,083 --> 00:03:35,208 インフラを設営するようなものです 68 00:03:36,292 --> 00:03:39,059 もし乳児が帝王切開で生まれた場合 69 00:03:39,083 --> 00:03:43,101 初期段階の微生物定着に 大きな違いが生じます 70 00:03:43,125 --> 00:03:47,851 母体の膣 糞便や皮膚の細菌の代わりに 71 00:03:47,875 --> 00:03:51,809 主に皮膚の細菌のみが乳児の腸に入るためです 72 00:03:51,833 --> 00:03:56,726 すると微生物定着の進行は 全く異なるものになります 73 00:03:56,750 --> 00:04:02,601 進化の過程で私たちが適応したものと 違うというだけで 74 00:04:02,625 --> 00:04:08,226 帝王切開で生まれた赤ちゃんに 後年 健康上の不利益が生じるかもしれません 75 00:04:08,250 --> 00:04:11,184 ここでは例として体重増加を取り上げます 76 00:04:11,208 --> 00:04:14,143 いくつかの研究ですでに示されていますが 77 00:04:14,167 --> 00:04:16,309 腸内微生物叢の組成は 78 00:04:16,333 --> 00:04:18,184 体重に関連するのと同様 79 00:04:18,208 --> 00:04:20,518 糖尿病や心血管疾患などの 80 00:04:20,542 --> 00:04:24,226 発症の可能性に関連します 81 00:04:24,250 --> 00:04:26,684 そして現在 82 00:04:26,708 --> 00:04:29,226 将来 肥満や体重超過になりうる人々は 83 00:04:29,250 --> 00:04:31,726 既に 乳児の頃には 84 00:04:31,750 --> 00:04:34,768 糞便サンプル内の微生物の一部が 85 00:04:34,792 --> 00:04:38,250 欠如していることが示されています 86 00:04:39,125 --> 00:04:43,101 また 帝王切開で生まれた赤ちゃんと 87 00:04:43,125 --> 00:04:46,351 幼少期に大量の抗生物質を 投与された赤ちゃんでは 88 00:04:46,375 --> 00:04:50,768 同じ微生物が欠如している 可能性が明らかになっています 89 00:04:50,792 --> 00:04:52,434 この話を完結させるものとして 90 00:04:52,458 --> 00:04:54,809 いくつかの研究では 91 00:04:54,833 --> 00:04:56,934 帝王切開で生まれた 92 00:04:56,958 --> 00:05:01,018 もしくは幼い段階で沢山の 抗生物質を投与された乳児は 93 00:05:01,042 --> 00:05:05,143 肥満や50%もの体重過多になることが 示されています 94 00:05:05,167 --> 00:05:06,417 これは大きな数字です 95 00:05:07,500 --> 00:05:09,768 いまここで こう思っている方も いるでしょう 96 00:05:09,792 --> 00:05:14,268 「大変 帝王切開を受けたばかり」 「自分は帝王切開で生まれた」 97 00:05:14,292 --> 00:05:16,792 「子供が抗生物質を投与された」 98 00:05:17,917 --> 00:05:20,851 でも心配しないで下さい 99 00:05:20,875 --> 00:05:23,809 もしこのような微生物がいなかったり 100 00:05:23,833 --> 00:05:26,143 あるいはなんらかの理由で失われたりしても 101 00:05:26,167 --> 00:05:29,309 後で獲得することができます 102 00:05:29,333 --> 00:05:31,792 でも 乳児は獲得に少し助けが必要です 103 00:05:32,708 --> 00:05:37,500 すでによく知られていることの一つに 母乳栄養があります 104 00:05:38,417 --> 00:05:40,476 母乳は一種の奇跡のようなものです 105 00:05:40,500 --> 00:05:43,601 乳児のための栄養が含まれているのに加えて 106 00:05:43,625 --> 00:05:48,417 良い微生物のための栄養が 含まれているからです 107 00:05:49,792 --> 00:05:52,643 母乳栄養の乳児には好都合ですが 108 00:05:52,667 --> 00:05:56,684 全員 母乳で育てられる わけではありません 109 00:05:56,708 --> 00:06:01,934 母乳で育てられていない赤ちゃんが 乳児期のうちに 110 00:06:01,958 --> 00:06:04,393 腸内微生物叢の形成を 111 00:06:04,417 --> 00:06:08,143 阻害する可能性のある出来事に 見舞われたら 112 00:06:08,167 --> 00:06:11,893 それを回復するために 何ができるでしょうか? 113 00:06:11,917 --> 00:06:16,667 ここからは解決策について お話ししましょう 114 00:06:17,375 --> 00:06:21,601 この研究分野は 近年大きく前進をしています 115 00:06:21,625 --> 00:06:25,684 まず 不足している微生物があれば 116 00:06:25,708 --> 00:06:27,976 経口摂取できることがわかっています 117 00:06:28,000 --> 00:06:32,059 摂取されて良い効果を表す微生物のことを プロバイオティクスと呼び 118 00:06:32,083 --> 00:06:33,643 ここ数年に渡って 119 00:06:33,667 --> 00:06:36,434 臨床試験がいくつか行われています 120 00:06:36,458 --> 00:06:38,726 また幼児においても 121 00:06:38,750 --> 00:06:41,875 後年に湿疹のリスクを減らすなど 素晴らしい効果が見られます 122 00:06:43,458 --> 00:06:45,976 2つ目の革新は 123 00:06:46,000 --> 00:06:49,101 研究者が母乳に注目するようになって 実現しました 124 00:06:49,125 --> 00:06:51,434 母乳への注目は理にかなっていました 125 00:06:51,458 --> 00:06:56,309 先ほどお話しした通り 母乳栄養は腸内細菌叢の健全な形成を 126 00:06:56,313 --> 00:06:59,700 助けることがすでに知られていたからです 127 00:06:59,750 --> 00:07:03,476 母乳の中にヒトミルクオリゴ糖という 128 00:07:03,500 --> 00:07:07,059 固形成分が含まれていることは 129 00:07:07,083 --> 00:07:09,601 1930年代には発見されていましたが 130 00:07:09,625 --> 00:07:12,559 その機能は 発見後 何十年もの間 131 00:07:12,583 --> 00:07:17,000 謎に包まれていました 132 00:07:17,833 --> 00:07:20,476 科学者は大変頭を悩ませていました 133 00:07:20,500 --> 00:07:24,226 なぜなら 母乳にかなり多く 含まれていたからです 134 00:07:24,250 --> 00:07:27,851 全固形分の中で 3番目に量の多い物質ですが 135 00:07:27,875 --> 00:07:31,643 ヒトどころか 乳児にさえ消化されません 136 00:07:31,667 --> 00:07:35,351 では何故 母親はそれらを母乳中に 合成するのでしょうか 137 00:07:35,375 --> 00:07:38,143 自分の栄養源を使って 138 00:07:38,167 --> 00:07:41,184 乳児が利用できないものを? 139 00:07:41,208 --> 00:07:43,643 通常自然界はそのように働いていません 140 00:07:43,667 --> 00:07:44,934 そうですよね? 141 00:07:44,958 --> 00:07:48,726 最終的に この物質の役割が わかったときには 142 00:07:48,750 --> 00:07:50,934 かなり驚きました 143 00:07:50,958 --> 00:07:56,351 乳児にとって最適な微生物に 選択的に栄養分を供給し 144 00:07:56,375 --> 00:07:59,768 その子の健康を左右していたのですから 145 00:07:59,792 --> 00:08:03,893 ヒトミルクオリゴ糖には 化学構造が異なる 100を超える種類があって 146 00:08:03,917 --> 00:08:08,708 今では その一部を 研究室で合成できます 147 00:08:10,000 --> 00:08:12,393 それらをプロバイオティクスと一緒に 148 00:08:12,417 --> 00:08:15,643 母乳から摂取できない 子供や幼児向けにパッケージ化すれば 149 00:08:15,667 --> 00:08:18,393 乳幼児期に微生物叢の形成を 150 00:08:18,417 --> 00:08:20,559 阻害する出来事に遭遇した場合でも 151 00:08:20,583 --> 00:08:24,375 これを回復することができるのです 152 00:08:25,417 --> 00:08:27,684 これが解決方法です 153 00:08:27,708 --> 00:08:30,893 研究者として 現時点で 付け加えなければならないのは 154 00:08:30,917 --> 00:08:33,851 この分野の研究が まだ進行中で 155 00:08:33,875 --> 00:08:36,809 すべきことが まだたくさん 残っているということです 156 00:08:36,833 --> 00:08:40,226 科学者がよく使う言葉ですよね 157 00:08:40,250 --> 00:08:45,268 ただ いろいろな状況下で 重要な微生物のうち どれが欠けているのか 158 00:08:45,292 --> 00:08:49,018 そして 特定の乳児の症例で 微生物叢を回復するには 159 00:08:49,042 --> 00:08:53,601 どんなヒトミルクオリゴ糖を どのプロバイオティクスに配合すべきかを 160 00:08:53,625 --> 00:08:59,583 さらに深く理解するために 私たちは着実に前進しています 161 00:09:01,458 --> 00:09:04,059 この講演から覚えておいてほしいのは 162 00:09:04,083 --> 00:09:08,809 確かに 自然分娩で母乳栄養の赤ちゃんは 人間が適応するように進化してきた 163 00:09:08,833 --> 00:09:10,809 微生物叢を持っていますが 164 00:09:10,833 --> 00:09:14,268 その形成が不可能な場合でも 165 00:09:14,292 --> 00:09:18,625 健康への悪影響を減らす方法が あるということです 166 00:09:21,083 --> 00:09:25,893 最後に 少しの間 こんな世界を想像してください 167 00:09:25,917 --> 00:09:28,684 あなたが赤ちゃんを 168 00:09:28,708 --> 00:09:31,476 健康診断に連れて行くと 169 00:09:31,500 --> 00:09:35,809 定期的に腸内微生物叢の形成を モニターしてくれて 170 00:09:35,833 --> 00:09:38,476 もし乱れが確認された場合は 171 00:09:38,500 --> 00:09:42,184 微生物叢を回復する製品が オーダーメイドで処方されるような 172 00:09:42,184 --> 00:09:43,880 医療システムがある世界です 173 00:09:44,583 --> 00:09:47,518 こういう予防的な医療システムのおかげで 174 00:09:47,542 --> 00:09:52,101 慢性疾患の発症が 非常に稀なものになるとしたら 175 00:09:52,125 --> 00:09:55,042 どれほど素晴らしいことでしょうか 176 00:09:56,458 --> 00:09:58,167 そんな世界を想像できますか? 177 00:09:59,458 --> 00:10:03,000 そんな未来が実現可能だと思いますか? 178 00:10:05,583 --> 00:10:07,059 私は可能だと思います 179 00:10:07,083 --> 00:10:09,809 そういう未来を信じ そんな未来の発展に 180 00:10:09,833 --> 00:10:11,750 貢献したいと思っています 181 00:10:13,250 --> 00:10:18,101 全ての乳児が生涯に渡って 健康を維持できるように 182 00:10:18,125 --> 00:10:20,250 人生の出発点が適切に 調整される未来に向けて 183 00:10:21,208 --> 00:10:22,476 ありがとうございました 184 00:10:22,500 --> 00:10:25,125 (拍手)