昔々 この世界は大きな大きな 機能不全家族でした 偉大で強大な親と 自分では何もできず 救いようのない悪い子供たち その中でもうるさい子たちが 親の権威に盾突こうとすると こっぴどく叱られ 親の部屋に忍び込んで 秘密の書類の入った引き出しを 覗こうものなら罰せられ これもお前たちのためだから 二度と立ち入るなと言いつけられました そんなある日 男が町にやって来て 親の部屋から盗んだ 秘密文書の入った箱を たくさん持ってきて言いました 「君らの親はこんなに色々 隠してきたんだよ」 子供たちはそれを見て驚愕しました 地図や会合の議事録には 親たちがお互いに罵り合っている様子が 書かれていたのです まるで子供のように振る舞い 子供のように失敗もしていました 子供たちとの唯一の違いといえば 親の失敗は秘密の収納庫に 隠されていたことでした しかしその町に住むある女の子は こう思いました これは秘密裏に保管されるべきではないし もしそうするとしても 法律を作って 子供にも知る権利を与えるべきだと 女の子はそれを実現するべく 行動を起こしました この物語の女の子は 実は私です そして私が探していた秘密文書は この建物の中にありました イギリスの国会議事堂です そして私が入手したかったデータとは 国会議員の経費の領収書でした 訊いて当然だと思っていました それが民主主義じゃないですか!(拍手) 核兵器貯蔵庫の暗証番号を 教えろとは言っていませんしね でもこの「知る権利」の行使に対し まるでそんな 核兵器レベルの要求をしたかのような ものすごい抵抗を受けました この戦いは5年間続きました そもそもこれは 私が送った数百件の問い合わせの一つに 過ぎなかったのです イギリス議会に革命を起こそうだなんて 正直 これっぽっちも 思ってなかったのですから そんな意図はなく ただ情報公開の請求をしただけです 当時書いていた初の著書の 下調べの一環に過ぎませんでした でも結果的に延々と続く法廷闘争に なってしまったのです 5年間にわたる議会との闘争の末 ある日私は イギリスの高等法院で 最も高位な3人の判事を前に 情報公開を議会に強制するか否かの 判決を待っていました 正直な話 大して期待していませんでした それまでに色々見てきた経験から 権威というものは 常に癒着するものだからと 自分の運を諦めていました でも結果はなんと私の勝訴でした やったー!(拍手) しかしこの話はそこで終わりません 議会は情報公開を散々遅らせたうえに 遡及的な法改正を図りました 判決が議員に適用されないように しようとしたのです 過去に成立していた 議員を対象外とする情報公開法を 維持することで公開義務から 逃れようという目論見です しかし彼らの計算外だったのが 記録のデジタル化です 紙の領収書がすべて スキャンされ保存されていたため そのデータベース全体をコピーして ディスクに落とし 議会の外に悠々持ち出すといったことが 非常に簡単に出来るようになっていたのです 実際にデータは持ち出され 売りに出され デイリーテレグラフ紙が競り落としました その後数週間にわたり暴露が続いたのを 皆さんも覚えていますよね ポルノ映画の領収書に始まり お風呂の栓 キッチンのリフォーム 未返済のローンまで 全てが公にさらされました 最終的に6人の閣僚が辞任 300年の歴史上初めて 議長が辞任を余儀なくされ 情報の透明性の公約を基に 新たな政権が発足しました その選挙でも120人の議員が引退し さらにそこから 下院議員4人と上院議員2人が 詐欺罪で服役することになりました ありがとうございます (拍手) こんな話をしたのは これが イギリスだけの問題ではなかったからです 現在世界中で起こっている 権力との軋轢のほんの一例です 国のトップで権力を握るお偉方が あまり世間の詮索を受けずに 民衆を支配できると思ってきたのが そんなやり方を不満に思った民衆に 突然糾弾されることになるという流れです 今では 民衆は ただ不満を抱えているだけでなく 公式のデータという証拠をつかんでいる というわけですね というわけで世界では 情報の民主化が進んでいます 私はこの業界ではかなり長い方です ちょっと恥ずかしい話なんですが 子供の頃でさえ 私は 小さなスパイ帳を作って 近所の人たちの行動を 観察して記録していました 将来調査報道の記者になる 前兆だったように思えます 情報を調査するこの業界で 長く働いてきましたが かつては非常にニッチだったこの分野が 今では主流となり 権力の座にある人間の動向に対し 世界中の人々が これまでにないほどに 興味を持つようになっています 自分たちの名前や金を使って行われる 意思決定に物申したいのです このような情報の民主化が起こっている現代を 情報の啓蒙時代とも呼べるでしょう 17~18世紀の啓蒙運動と 共通する概念が多いからです 例えば 真実の追求 言われたことを鵜呑みにはしません 「俺が言うからそうなんだ」は通じません むしろ自分の目で見て試して 初めてわかる真実を 探求していくということです 初代啓蒙運動の時 同じ原理で 様々な疑問が生まれました 「民衆を支配する王には 神聖な権利がある」とか 「女は男に従属するべきだ」とか 「教会の権威は神が与えた」などという 既成概念に挑戦したのを 当然ながら 教会はよく思わず 運動を抑え込もうとしました しかし教会にとって計算外だったのが 技術の力でした 活版印刷技術のお陰で 突然 こういった思想が安く、速く、遠くまで 広められるようになりました そして人々はコーヒー・ハウスに集い アイデアを練ったり 革命を企てたわけです 今日ではデジタル化がこれにあたります 情報から物質的な質量をすべて取り除き コピーして情報を共有する これが今の時代 ほぼ無料でできます 活版印刷機はインターネットに コーヒー・ハウスはソーシャルネットワークになり 時代は ネットで完全に繋がったシステムに 向かって動いていますが ここでは今やグローバルな意思決定が 求められています 温暖化や 金融システム 地球資源についてなどです たとえば 家を買うという重要な決断をする時 即決はしませんよね 皆さんはどうだか知りませんが 私はそのレベルの大金を払うなら 色々見て決めたいですから 金融システムについて考えるなら かなりの情報が必要です だって これだけの量の情報を たった一人で処理し 分析して 適切な意思決定をするのは 不可能な話ですから 情報公開を要求する人が 増え続けている理由はここです 情報開示法が生まれている理由です 環境について言えば 欧州議会のオーフス条約がありますね かなり強い 「知る権利」を 住民に与える政令です もし地域の水道会社が 下水処理水を川に流しているとしたら 住民にはそれを知る権利があるというものです 金融業界について言えば 国民の知る権利は以前より拡大しています 例えば 様々な反汚職対策法や 金融規制があり 企業の情報開示義務も増え 国境を越えて資産追跡もできるので 資産隠蔽や脱税や給与不平等などが 起こりにくくなっています いいことですよね こういった情報がどんどん 一般市民の手に入りやすくなっています 外から中へ 完全に網羅するシステムが 完成しつつあります しかし一つだけ例外があります 何だと思いますか? この全てのシステムを支える 基盤システムそのものです 権力を体系付けて 行使するためのシステムです つまり 政治のことです トップダウン的階層構造である 政治制度に話が戻るわけです このシステムで処理されるべき 莫大な量の情報は どうやったら処理しきれるのでしょうか? 残念ながらできません どうにもなりません これこそ 今あちこちで起こっている 政府の不正行為絡みの問題の 根本的原因だと思います さて 先ほど私の体験談を 少しお話しましたね 英国議会に物を申し メディアを騒がせながら 無理やり現代化を推し進めてきました 他にも同じような運動を している人々について ご紹介します この方はセブ・ベーコンという コンピュータープログラマーですが Alaveteliという 情報の自由を推進するプラットフォームを 作った人です オープンソースで情報を記録する仕組みで 情報開示の要求をしたり 国や地域の政府組織に質問をしたりする際 こういった手続きにありがちな煩雑さを 省いてくれます 通常はそれはもう非常に面倒ですが これを使えば簡単です 質問を入力するだけでいいのです 例えば「前科のある警察官は何人?」 などです 質問は答えられる人に送られ タイムリミットが近づくと通知が来ます やりとりは全て記録・公表され 誰にでも見れるように アーカイブされるわけです これはオープンソースなので どの国でも使えます どんな形でも情報公開法がある国なら どこでも利用できます 現在このシステムが存在する 国のリストがこちらです これにまた何ヶ国か加わる予定です この仕組みをいいなと思った方で お住まいの国に該当する法律がある方 そういう方からの連絡は大歓迎とのことです ぜひ協力し合って このシステムを あなたの国でも始めてください この方はビルギッタ・ヨンスタティアー アイスランドの議員です 国会議員としては 非常に変わった経歴を持つ方で 元々はアイスランドの経済が破綻した時期 議事堂の外でデモをしていた人です その後 ある改革案の委員に選出され 現在はプロジェクトの先頭に立っています アイスランド現代メディア構想 と呼ばれるもので 最近 資金が増えて 世界規模の展開を始めました 表現の自由や 内部告発者の保護 名誉毀損罪からの保護 情報公開元の保護など 世界最高の法律をそろって取り入れ アイスランドを安全な出版天国にしよう という取り組みです どんな人のデータでも安全に保護されます 近年 ユーザーデータに 政府の手が 伸びてきていますが アイスランドは国を挙げて 情報の避難所を 作ろうとしているわけです 私の専門分野の調査報道でも 世界規模で考える必要が増しています これはInvestigative Dashboard というサイトで 独裁者の資産についてなどの 調査をしたい時に使えます 例えばホスニ・ムバラク エジプトでは立場が悪くなったので 資産を海外に逃がしている真っ最中です この件について調べるとなると 世界中 できるだけ多くの 企業登記記録データベースへの アクセス権が必要になります このサイトでは そういったデータベースを 一箇所に集約することで ムバラク氏の親戚や友人や 護衛の責任者は誰か などの情報を 探せるようになっています ムバラク氏がどうやって エジプトから資産を移動しているか 試しに調べてみてください しかし 意思決定の中でも 最も影響力がある事柄 例えば戦争などについての 最も重要な決定事項についてとなると こういう情報はただ開示要求を すればいいというわけにはいきません 非常に難しい題材なので こればかりは 情報リークなど 違法な手段に頼る他ないのが現状です 例えば ガーディアン紙が アフガン戦争について 調査した時のことです おわかりでしょうが 国防省に行って 情報を要求しても どうにもなりませんね 当然ながら 何も出てきません この記事の時はアフガン戦争に関し アメリカ兵が記録した 何万もの報告書がリークして このお陰でガーディアン紙は 調査を行えたわけです もう一つ かなり大規模な調査になるのが 世界の外交についてです これも完全にリークがベースです 25万1千件に及ぶ 米国の外交公電のリーク この件では私も調査に関与していました というのもこのリーク情報を 米国政府を恨むウィキリークス利用者を 通じて得た結果 ガーディアン紙から仕事が入ったためです このリークを手にした時の経験 当事者の私の口から 言わせてもらうと 素晴らしいの一言でした 「オズの魔法使い」のあるシーンを を思わせるものでした どのシーンかわかりますか? 子犬のトトが 魔法使いのいる場所まで走っていって カーテンを引っ張って― 「スクリーンの後の男を見てはならぬ!」 となるシーンです まさにそんな感じでした 非常に尊大な顔をした 大物政治家の面々が ただの人であると わかってきたのです 皆 お互い文句を言い合ってました この公電文書 かなり際どい内容でしたよ でも この人たちが 私たちと同じ ただの人間で 特別な力もない 魔法使いでもなく 私たちの親でもないと 皆に理解してもらうのは 大事なことだと思ったんです でもさらに 一番興味をそそられたのが 世界中の様々な国で蔓延する 汚職のひどさでした 権力の中枢にある人々や 公務員に特に多く 自分個人の利益の追求のため 国の金を横領していました 公務上機密という制度のおかげです ウィキリークスの話 しましたよね この機密文書を全公開する以上に オープンなことはないと思いませんか ジュリアン・アサンジは それをやってくれたわけです 合法で無難な新聞社のやり方は生ぬるいと ウィキリークスで 何もかも暴露し アフガン戦争で罪のない一般市民が 攻撃されていたことが明らかになりました しかし同時に ベラルーシでは独裁政権が アメリカ政府に連絡を取った国内の民主活動家 全員のリストを入手する ということも起こりました こんな情報開示は行き過ぎでしょうか? 私はそうは思いません 徹底的情報開示というものは 権力、義務、説明責任などを 求めないのではなく むしろ権力と協力して 義務や説明責任を分担していくものだと 考えています 実は ウィキリークスの 二重リークを得た件で ジュリアンに訴えられそうになりました これって正直 ウィキリークスのコンセプトと ものすごく矛盾していますよね (笑) もう一つ気をつけたいのが 権力が持つ恐ろしいほどの誘惑です 権力を手に入れたときや 権力を扱うとき 権力について語るとき 人が手に入れる力の 誘惑に堪えるためには 2つの資質が絶対不可欠です 懐疑心と謙虚さです 懐疑心はつまり 何でも鵜呑みにせず常に疑う心ですね 何に対しても理由を問うべきです 誰かがそうだと言っただけでは不十分 なぜそうなのか根拠や証拠を求めるべきです 謙虚さが必要なのは 人は誰でも 間違いを犯すものだからです 懐疑心と謙虚さがない人は 権力を手に入れたが最後 改革者から独裁者へまっしぐらです ジョージ・オーウェルの『動物農場』を 読めばすぐわかります 権力が人を腐敗させる様を 語った本ですから では解決策は何でしょうか? 情報を得る権利を法の下で 具現化することだと私は思います 私たち一般人が現在持つ権利は とてつもなく弱いものです 公的機密法がある国は たくさんあります イギリスにもあります イギリスの公的機密法には 公益性の審査基準がありません つまり 公的機密を手に入れた人は 犯罪者として罰を受けるのです 実際 公的機密を報道して 極めて重い罪で罰せられた事件が たくさんあります これが変わったらいいと思いませんか 考えてみてください もしも公的情報開示法があって 公職者が公共の利益に反して 情報をもみ消したり 隠ぺいしたことが判明した際 罰を受けることになったら 素晴らしいと思いませんか? そう そうです!「力」のポーズ なんちゃって (拍手)(笑) 世界がそんな方向に向かえばいいと 願っています ですから 悪いことばかりではないんです 状況は確実に良いほうに向かっています でも権力の中枢に近づけば近づくほど 情報は閉ざされ 不透明になってきます ちょうど先週のことですが ロンドン警察の警視総監の 話を聞きました 警察は国民の情報通信の全てに アクセスすべき理由 司法の管理を受けずに 国民を監視する権利が必要な理由が 生死に関わる問題だからだそうです 本当にそう言ったんですよ 生死に関わる って そこには何の根拠もありませんでした 理由も証拠も示さずに 「俺がそうだと言うからそうなんだ ただ信じてくれ」 と言っているわけです 国民の皆さんには残念ですが 啓蒙時代前の教会支配に逆戻り してしまったようですね 私たちはこの支配に対し 立ち上がらねばなりません 先ほどの警視総監は イギリスの通信データ法という 法律に言及しました これは本当に最悪な法律です アメリカではサイバーセキュリティー法 というものがあり 国内の監視管理用途にボット使用を 検討しているそうです さらに国家安全保障局は 世界一巨大なスパイセンターを建設中です 米国議会議事堂の5倍の大きさです ここでは情報通信を傍受・分析し インターネットのトラフィックや 個人データも監視しています 社会の毒は誰なのかか 目を光らせているわけです さて 冒頭の話に戻りましょうか 秘密を暴露された親たちは慌てふためき 全てのドアに鍵をかけ 家中にCCTVカメラを取り付け 私たち皆を監視し始めました 地下を掘って スパイセンターを開設 コンピューターアルゴリズムを作り 面倒を起こす子供は誰か目を光らせ 誰かが苦情を言おうものなら テロ容疑で逮捕するようになりました これっておとぎ話でしょうか それとも悪夢のような現実でしょうか おとぎ話にはハッピーエンドもありますが そうでないこともありますね グリム童話を読んだことない人は いないと思いますが grim(不吉な)という言葉通り 厳しい状況です でも世の中はおとぎ話とは違います あると思いたくないような 更に酷い現実も存在しうる一方で 皆が思っているより 状況は明るいという可能性も いずれにせよ そろそろ私たちは あらゆる問題をひっくるめて 世界をありのままの姿で捉えられるように なるべきだと思います そうすることで初めて 問題が解決できるから 「皆 いつまでも幸せに暮らしたのでした」 と言えるような 世界を作っていけるからです(笑) ありがとうございました (拍手) ありがとう(拍手)