WEBVTT 00:00:00.000 --> 00:00:02.337 これまで 7年間 ニューヨークのサフォーク・カウンティで 00:00:02.337 --> 00:00:04.634 救急救命士として働いてきました 00:00:05.104 --> 00:00:06.359 自動車事故から 00:00:06.359 --> 00:00:09.677 ハリケーン・サンディの大災害まで 緊急隊員としての経験も数多くあります NOTE Paragraph 00:00:09.677 --> 00:00:11.421 大抵の人にとって 死ぬこととは― 00:00:11.421 --> 00:00:13.389 最も怖い体験だと思います 00:00:13.389 --> 00:00:14.810 死を予期できる人も できない人もいます 00:00:14.810 --> 00:00:16.809 あまり知られていない医療用語に― 00:00:16.809 --> 00:00:18.913 突然おとずれる悲運を意味する 00:00:18.913 --> 00:00:20.859 インペンディング・ドゥームという言葉があります 00:00:20.859 --> 00:00:22.186 これはもう症状のようなものです 00:00:22.186 --> 00:00:23.919 私は医療従事者として 様々な症状に 00:00:23.919 --> 00:00:25.741 対応できるよう普段から訓練されていますから 00:00:25.741 --> 00:00:27.282 心臓発作の患者が僕の目を見て 00:00:27.282 --> 00:00:29.510 「私は今日死ぬんですよね」と言ったとしても 00:00:29.510 --> 00:00:33.236 患者の状態を再評価できるよう 訓練されているのです NOTE Paragraph 00:00:33.236 --> 00:00:35.382 クリティカルケアの仕事を通して― 00:00:35.382 --> 00:00:37.328 この患者はあと数分しかもたないという場面に 00:00:37.328 --> 00:00:38.965 居合わせたことが何度もあります 00:00:38.965 --> 00:00:42.090 そういうとき 本当に何も手の施しようがないんです 00:00:42.090 --> 00:00:44.876 そんなとき向き合わなければならないのは 00:00:44.876 --> 00:00:48.588 本人に自分が死ぬんだということを告げるべきか 00:00:48.588 --> 00:00:51.615 それとも嘘をついて慰めを言ってあげるべきか というジレンマです 00:00:51.615 --> 00:00:53.808 この仕事をやり始めて間もない頃 00:00:53.808 --> 00:00:55.366 私は単純に嘘をつくことを選んでいました 00:00:55.366 --> 00:00:57.295 それは怖かったからです 00:00:57.295 --> 00:00:59.635 本当のことを伝えたら 00:00:59.635 --> 00:01:02.976 その人は恐怖のなかで死ぬことになるだろうと 00:01:02.976 --> 00:01:06.182 怖くて仕方がない状態で 人生の終わりを迎えることになると NOTE Paragraph 00:01:06.182 --> 00:01:08.988 ところがある出来事を通して すべてが変わりました 00:01:08.988 --> 00:01:11.794 5年前 バイク事故の対応をした時のことです 00:01:11.794 --> 00:01:14.601 バイクに乗っていた人は致命傷を負っていました 00:01:14.601 --> 00:01:17.432 その患者を診たとき 何をどうしたとしても 00:01:17.432 --> 00:01:19.399 助けることはできないことは明白でした 00:01:19.399 --> 00:01:22.664 それまでの患者と同じように その人も私の目を見て 00:01:22.664 --> 00:01:26.523 「僕は死ぬんでしょうか?」と訊きました 00:01:26.523 --> 00:01:29.582 これまでとは違う選択をしよう 00:01:29.582 --> 00:01:33.452 その瞬間 真実を伝えようと思いました 00:01:33.462 --> 00:01:36.556 彼がこれから死ぬんだということを 00:01:36.556 --> 00:01:39.820 そして私にはどうすることもできないことを 伝えることにしたんです 00:01:39.820 --> 00:01:43.596 彼の反応に私は大変ショックを受けました 00:01:43.596 --> 00:01:45.501 そのことは今でも忘れられません 00:01:45.501 --> 00:01:47.927 彼は安らかに 自分の死を受け入れたという顔つきでした 00:01:47.927 --> 00:01:49.630 私が想像していたような恐怖や不安は 00:01:49.630 --> 00:01:52.010 彼の表情には存在しなかったのです 00:01:52.010 --> 00:01:55.222 ただ静かに横たわる彼の目を見たとき 00:01:55.222 --> 00:01:57.950 心の平安と運命を受け入れているのだ ということが理解できました 00:01:57.950 --> 00:01:59.688 その瞬間私は決心しました 00:01:59.688 --> 00:02:04.402 嘘をついて慰めようとするのは 私がすべきことではないと 00:02:04.402 --> 00:02:07.147 それからも 患者の命の最期の瞬間に 00:02:07.147 --> 00:02:09.655 何度も立ち会いましたが― 00:02:09.655 --> 00:02:11.511 ほとんどの場合先ほどと同様に 00:02:11.511 --> 00:02:13.150 施す手はありませんでしたが 00:02:13.150 --> 00:02:16.484 どの人も真実を伝えると同じように反応しました 00:02:16.484 --> 00:02:18.550 そこにあったのは 心の平安と運命の受容でした 00:02:18.550 --> 00:02:20.972 これまで数多くこういう場面を経験してきて 00:02:20.972 --> 00:02:25.247 パターンが三つあることに気付きました NOTE Paragraph 00:02:25.247 --> 00:02:28.903 いつ遭遇してもショックを受けてしまう 一つ目のパターンが 00:02:28.903 --> 00:02:32.840 宗教とか文化的な背景に関係なく 00:02:32.840 --> 00:02:35.675 許しを乞う というパターン 00:02:35.675 --> 00:02:37.221 人によって罪と認識していたり 00:02:37.221 --> 00:02:40.090 後悔だったりしますが 00:02:40.090 --> 00:02:42.503 罪悪感というのは全世界共通のものなんです 00:02:42.503 --> 00:02:43.899 かつて年配の男性をケアしました 00:02:43.899 --> 00:02:46.317 大変深刻な心臓発作でした 00:02:46.317 --> 00:02:48.443 今にも心停止するかという状況で 00:02:48.443 --> 00:02:51.368 私も覚悟して機器の準備を進めました 00:02:51.368 --> 00:02:55.721 そして その瞬間が すぐそこまで来ていることを告げました 00:02:55.721 --> 00:02:58.719 すると彼は私の声のトーンや 身振りからすでに察していたのです 00:02:58.719 --> 00:03:01.385 胸に除細動器のパッドを当てて 00:03:01.385 --> 00:03:03.289 迫りくる瞬間に備えていたとき 00:03:03.289 --> 00:03:05.817 彼は私の目を見てこう言いました 00:03:05.817 --> 00:03:08.517 「もっと子供たちや孫たちと過ごせばよかった― 00:03:08.517 --> 00:03:11.588 自分のために時間を使いすぎた」 と 00:03:11.588 --> 00:03:13.920 死の瞬間を目前にして 00:03:13.920 --> 00:03:16.854 彼が求めたものは 許し でした NOTE Paragraph 00:03:16.854 --> 00:03:18.742 次に 二つ目のパターンですが 00:03:18.742 --> 00:03:21.030 二つ目は 忘れないでほしい という願いです 00:03:21.030 --> 00:03:23.287 私の思いの中や 00:03:23.287 --> 00:03:25.001 愛する人々の思いの中で 00:03:25.001 --> 00:03:27.150 人は決して滅びることはないということを 00:03:27.150 --> 00:03:29.474 愛する人々の心の中や思いの中に 00:03:29.474 --> 00:03:32.118 それこそ 私やスタッフ 周りにいる人なら誰でもいいから 00:03:32.118 --> 00:03:35.391 自分はこれからもずっと誰かの心の中に 生き続けることを確信したいのです 00:03:35.391 --> 00:03:38.282 数え切れないくらいの多くの患者から 僕のじっと目を見て 00:03:38.282 --> 00:03:42.220 「私のことを忘れないでほしい」と言われました NOTE Paragraph 00:03:42.220 --> 00:03:44.672 最後に三つ目のパターンです 00:03:44.672 --> 00:03:47.900 毎回 私の心にずっしりと重くのしかかる 魂に深く響くパターンなのですが 00:03:47.900 --> 00:03:51.440 死に際に彼らがどうしても知りたいこととは 00:03:51.440 --> 00:03:54.222 それは彼らの人生には意味があり けっして無駄に人生を過ごしたのではない 00:03:54.222 --> 00:03:57.170 決して意味のないことに 一生を費やしたのではないということなのです NOTE Paragraph 00:03:57.170 --> 00:04:00.319 この仕事を始めたばかりの早い時期に 00:04:00.319 --> 00:04:03.568 電話で駆けつけた ある案件がありました 00:04:03.568 --> 00:04:06.817 交通事故で車が高速で激突したため 00:04:06.817 --> 00:04:10.068 体が車の中で がんじがらめ になっていました 00:04:10.068 --> 00:04:12.500 絶体絶命の状況でした 00:04:12.500 --> 00:04:14.740 消防隊が駆けつけて 体を車から出す作業を始めてから 00:04:14.740 --> 00:04:17.707 私はなんとか処置をしようと 車によじ登りました 00:04:17.707 --> 00:04:20.767 その時車の中の彼女が言いました 00:04:20.767 --> 00:04:23.980 「もっともっと生きているうちに やりたいことが一杯あったのに」 00:04:23.980 --> 00:04:27.832 自分が生きていたという証を残せなかったと 彼女は感じたのです 00:04:27.832 --> 00:04:29.789 話を続けるうちに彼女には 00:04:29.789 --> 00:04:32.197 二人 養子の子どもがいて 二人とも 00:04:32.197 --> 00:04:35.312 もうすぐ医大に進学する予定である ということがわかりました 00:04:35.312 --> 00:04:37.382 この二人の子どもは 彼女がいなかったら決して― 00:04:37.382 --> 00:04:40.100 手にすることができなかったチャンスを 彼女のおかげで手に入れることができた 00:04:40.100 --> 00:04:42.321 そして医者になって人の命を助けるために 00:04:42.321 --> 00:04:44.762 医学の道へ進むことにしたのです 00:04:44.762 --> 00:04:48.339 彼女を車から助け出そうと力を尽くしましたが 00:04:48.339 --> 00:04:52.569 それがかなわぬうちに 彼女は息絶えました NOTE Paragraph 00:04:52.569 --> 00:04:54.661 いろいろな映画で目にする人の最期は 00:04:54.661 --> 00:04:55.945 恐怖や不安ばかりなので 00:04:55.945 --> 00:04:58.857 死ぬ瞬間とはそういうものなのだと思っていました 00:04:58.857 --> 00:05:01.535 しかし 状況がどうであれ 00:05:01.535 --> 00:05:04.448 その人の最期という 00:05:04.448 --> 00:05:08.140 ほんの短い時間の中で やってあげられる本当に小さなこと 00:05:08.140 --> 00:05:11.704 その人を安心させてあげるという 取るに足らないような小さなことこそ 00:05:11.704 --> 00:05:14.633 人の最期に平安と運命の受容を もたらすのだ と思い知ったのです NOTE Paragraph 00:05:14.633 --> 00:05:16.665 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:05:16.665 --> 00:05:20.319 (拍手)