WEBVTT 00:00:00.669 --> 00:00:03.444 このトークはがんと糖質についてです 00:00:03.889 --> 00:00:07.166 私は大学生の時 糖質に興味を持ちました 00:00:07.190 --> 00:00:09.042 こんな砂糖のことではありません 00:00:09.066 --> 00:00:14.017 生物学の教授に教わった糖質とは 00:00:14.041 --> 00:00:18.183 人体の細胞をおおっているものです 00:00:18.733 --> 00:00:22.843 おそらく みなさんは自分の体の細胞が 糖質でおおわれているとは知らなかったでしょう 00:00:22.867 --> 00:00:24.442 私も大学で 00:00:24.466 --> 00:00:26.621 これに関するクラスを 取るまでは知りませんでした 00:00:26.645 --> 00:00:28.057 しかし 当時 00:00:28.081 --> 00:00:31.640 これが発見された1980年代は 人体の細胞が 00:00:32.560 --> 00:00:36.814 どうして糖質でおおわれているのか よく分っていませんでした 00:00:36.838 --> 00:00:40.805 大学の授業で書き留めておいたことを よく見直して気付いたことは 00:00:40.829 --> 00:00:45.374 細胞をおおう糖質は M&Mピーナツを覆う糖衣のようなものだ 00:00:45.398 --> 00:00:46.604 ということです 00:00:47.198 --> 00:00:50.864 細胞をおおう糖質は 00:00:50.888 --> 00:00:52.718 保護的な役割りをして 00:00:52.742 --> 00:00:55.993 細胞を強く丈夫にする役割を果たすと 思われていましたが NOTE Paragraph 00:00:56.934 --> 00:00:59.060 それから何十年も経った今 00:00:59.084 --> 00:01:01.360 もっと複雑だ ということが分かっています 00:01:01.906 --> 00:01:06.367 細胞の糖質は実際とても複雑で 00:01:07.183 --> 00:01:12.695 みなさんが微小の飛行機になって 00:01:12.719 --> 00:01:16.501 細胞の上を飛んで 細胞の表面を見下ろしたなら 00:01:16.525 --> 00:01:18.891 こういう風に 00:01:18.915 --> 00:01:21.116 地勢でも見ている感じでしょう 00:01:21.140 --> 00:01:25.170 この低木や木々のようなものが複合糖質で 00:01:25.194 --> 00:01:27.726 柳の木が風になびいて 00:01:27.750 --> 00:01:29.787 揺らいでいるようです 00:01:29.811 --> 00:01:33.624 人体の細胞にある 木の葉のような 00:01:33.648 --> 00:01:36.574 複合糖質について考え始めると 00:01:36.598 --> 00:01:39.715 生物学者であり化学者でもある私にとって 00:01:39.739 --> 00:01:42.743 それは 最も大きな関心事の1つとなりました 00:01:43.657 --> 00:01:46.592 現在 私達は人体の細胞の表面をおおう糖質を 00:01:46.616 --> 00:01:51.703 言語のようなものとして捉えています 00:01:52.342 --> 00:01:56.223 この糖質の複雑な構造には 多くの情報が蓄えられています NOTE Paragraph 00:01:57.142 --> 00:01:59.711 それは どういうことでしょう 00:02:00.548 --> 00:02:05.492 複合糖質に関する情報は ある程度わかっていて 00:02:05.516 --> 00:02:10.295 それは医学の世界において 非常に重要です NOTE Paragraph 00:02:10.777 --> 00:02:15.919 その1つが細胞の糖質で 血液型が決まるということです 00:02:17.041 --> 00:02:21.195 血液細胞の1種である赤血球は 糖質でおおわれており 00:02:21.219 --> 00:02:25.896 その糖質の化学構造により 血液型が決まるのです 00:02:25.920 --> 00:02:29.843 私の血液型は O型だと分かっています 00:02:29.867 --> 00:02:32.692 O型の方は どれくらいいますか 00:02:32.692 --> 00:02:33.924 手を挙げて下さい 00:02:33.924 --> 00:02:35.377 かなり一般的な血液型なのに 00:02:35.401 --> 00:02:38.336 少ししか手が挙りませんでした 私の質問を聞いてなかったか 00:02:38.360 --> 00:02:41.250 自分の血液型を知らないかです どちらも喜ばしくないですね NOTE Paragraph 00:02:41.274 --> 00:02:42.289 (笑) NOTE Paragraph 00:02:42.313 --> 00:02:44.976 ともかく 私と同じO型の人達には 00:02:45.000 --> 00:02:47.715 この化学構造が 00:02:47.739 --> 00:02:49.777 赤血球の表面にあります 00:02:50.296 --> 00:02:54.019 3つの単糖が繫がり より複雑な糖質の化学構造を作っている 00:02:54.043 --> 00:02:56.311 というのがO型の定義です NOTE Paragraph 00:02:57.366 --> 00:02:59.496 では血液型がA型の人は どれくらいいますか? 00:03:00.574 --> 00:03:01.743 ここのあなた 00:03:01.767 --> 00:03:04.728 赤血球のある酵素が 00:03:04.752 --> 00:03:07.168 もう1つの構成部分である― 00:03:07.192 --> 00:03:08.567 赤で示してある糖質を付加し 00:03:08.591 --> 00:03:10.415 もっと複雑な構造を作っています 00:03:11.116 --> 00:03:13.506 B型の人はどれ位でしょうか? 00:03:14.298 --> 00:03:15.463 かなりいますね 00:03:15.487 --> 00:03:18.215 あなた方はA型とは少し違う酵素があり 00:03:18.239 --> 00:03:20.355 僅かながら異なる構造をしています 00:03:20.379 --> 00:03:22.492 ABの人達は 00:03:22.516 --> 00:03:25.708 母親からと父親から それぞれの酵素を受けつぎ 00:03:25.732 --> 00:03:29.507 ほぼ同等の割合で 両方の化学構造を持っています 00:03:29.531 --> 00:03:31.935 こういうことが明らかになり— 00:03:31.959 --> 00:03:34.697 今や前世紀の話ですが— 00:03:34.721 --> 00:03:38.238 世界で最も重要な医療処置の1つである 00:03:38.262 --> 00:03:40.640 輸血が可能になったのは 周知のとおりです 00:03:40.664 --> 00:03:42.560 自分の血液型を知ることで 00:03:42.584 --> 00:03:45.176 あなたが輸血が必要な時に 00:03:45.200 --> 00:03:47.721 ドナーの血液型が同じかどうか 確かめることが出来ます 00:03:47.745 --> 00:03:51.066 そうすることで あなたの体に 異質の糖質が入り込んで起きる 00:03:51.783 --> 00:03:54.220 拒絶反応を防ぐことが出来ます NOTE Paragraph 00:03:56.113 --> 00:04:00.355 その他に細胞表面の糖質は どんな役割りをしているのでしょう? 00:04:01.112 --> 00:04:05.805 がんの有無を知らせている かもしれません 00:04:06.708 --> 00:04:08.960 数十年前 00:04:08.984 --> 00:04:14.377 がん組織の分析から がんと糖質との関係が解明され始めました 00:04:14.401 --> 00:04:18.912 考えられる典型的な筋書きとしては 患者のがんが検出されたら 00:04:18.936 --> 00:04:22.764 生検で採取されたその組織が 00:04:22.788 --> 00:04:25.558 病理検査室へ送られ 00:04:25.582 --> 00:04:29.713 糖の化学変化が分析されます これに基づいて最も適した治療法が 00:04:29.737 --> 00:04:34.451 がん専門医に知らされるでしょう 00:04:34.979 --> 00:04:37.863 がんと糖質との関連を研究して 発見されたことは 00:04:37.887 --> 00:04:40.751 糖質は 00:04:40.775 --> 00:04:45.772 細胞が がんを発症するとき 変化するということです 00:04:46.823 --> 00:04:51.806 細胞表面の糖質とがんとの関係は 繰り返し検証されて来ましたが 00:04:52.497 --> 00:04:56.963 この分野には その理由を知るという 大きな課題があります 00:04:56.987 --> 00:05:01.231 なぜ がんは細胞の糖質は違うのか その重要性とは? 00:05:01.255 --> 00:05:04.616 なぜ そんなことが 起きているのでしょう? 00:05:04.640 --> 00:05:08.395 それが がんの病的過程に関連すると 分かっているなら何ができるのでしょう? NOTE Paragraph 00:05:09.783 --> 00:05:12.994 我々が研究している変化の1つは 00:05:13.018 --> 00:05:18.563 シアル酸と呼ばれる 特定の糖質の密度が 00:05:18.587 --> 00:05:20.916 上昇する現象です 00:05:21.617 --> 00:05:25.541 シアル酸は 現代の最も大切な 糖質の1つになるだろうと 00:05:25.565 --> 00:05:26.723 思われるので 00:05:26.747 --> 00:05:30.822 この言葉を覚えていると良いでしょう 00:05:31.502 --> 00:05:34.467 シアル酸は 私達が食べる砂糖とは 00:05:34.491 --> 00:05:36.047 異なる糖質です 00:05:36.602 --> 00:05:39.566 人体の全細胞に存在しており 00:05:39.590 --> 00:05:42.718 それぞれ特定の密度で 発見されている糖質です 00:05:42.742 --> 00:05:45.610 実際 私達の体の細胞には 非常に一般的なものですが 00:05:46.393 --> 00:05:47.704 なぜか 00:05:48.451 --> 00:05:53.939 がん細胞には 少なくとも進行性がん細胞には 00:05:53.963 --> 00:05:57.072 シアル酸が 00:05:57.096 --> 00:05:59.443 正常細胞より多く 含まれる傾向があります 00:05:59.467 --> 00:06:00.909 どうしてでしょう? 00:06:00.933 --> 00:06:02.179 その意味は? 00:06:03.276 --> 00:06:04.728 分かっていることは 00:06:04.752 --> 00:06:08.227 それは免疫系と関わりがある ということです NOTE Paragraph 00:06:08.935 --> 00:06:12.501 がんにおける 免疫系の重要性について 00:06:12.525 --> 00:06:13.689 少しお話しさせて下さい 00:06:13.713 --> 00:06:17.231 最近ニュースで よく取り上げられ 00:06:17.255 --> 00:06:20.161 人々に馴染みのある言葉に 00:06:20.185 --> 00:06:22.947 「がん免疫療法」というのがありますね 00:06:22.971 --> 00:06:24.782 この非常に新しいがん治療法に 00:06:24.806 --> 00:06:28.713 助けられている人々を 知っている方もこの中にいるでしょう 00:06:29.848 --> 00:06:33.089 現在知られていることは 00:06:33.113 --> 00:06:37.047 血流の中を巡る白血球は 00:06:37.071 --> 00:06:41.727 がんを含む体内で起きる問題から 私達を日常的に 00:06:41.751 --> 00:06:43.092 守っています 00:06:43.951 --> 00:06:45.942 この絵では 00:06:45.966 --> 00:06:48.687 緑色のボールが免疫細胞で 00:06:48.711 --> 00:06:51.659 大きなピンク色の細胞が がん細胞です 00:06:52.250 --> 00:06:57.015 これら免疫細胞が 体中の細胞を点検します 00:06:57.039 --> 00:06:58.334 それが免疫細胞の仕事です 00:06:58.913 --> 00:07:01.668 ほとんどの場合 問題はないのですが NOTE Paragraph 00:07:01.692 --> 00:07:04.196 時には正常でない細胞があり 00:07:04.744 --> 00:07:06.555 それが がんなら 願わくは 00:07:06.579 --> 00:07:08.962 免疫細胞がそれを検知して 00:07:08.986 --> 00:07:11.795 全面攻撃を起こし がん細胞を死滅させると 00:07:12.630 --> 00:07:13.783 私達は知っていますが 00:07:13.807 --> 00:07:18.223 また免疫細胞の点検を強化させたり 00:07:18.247 --> 00:07:23.342 がん細胞を 攻撃させることが出来れば 00:07:23.366 --> 00:07:26.957 がん予防が うまくできるようになり 00:07:26.981 --> 00:07:28.713 がんを完治さえ 出来るかも知れません 00:07:29.509 --> 00:07:32.355 今や市場には この仕組みで作用する がん患者の治療薬が 00:07:32.379 --> 00:07:37.215 数種類出回っています 00:07:37.726 --> 00:07:39.355 これらの薬は免疫系を活性化し 00:07:39.379 --> 00:07:41.200 がんから私達を守るために 00:07:41.200 --> 00:07:43.902 免疫系をもっと活発に することができます NOTE Paragraph 00:07:43.926 --> 00:07:45.969 現に その薬の1つは 00:07:45.993 --> 00:07:48.983 カーター元大統領の命を救った と言ってもいいでしょう 00:07:49.516 --> 00:07:53.996 カーター元大統領は メラノーマを発症し 00:07:54.020 --> 00:07:56.878 それが脳まで転移していました 00:07:56.902 --> 00:08:00.256 その診断が— 通常 数字が伴うのですが— 00:08:00.280 --> 00:08:02.125 「余命3ヶ月」というものでした 00:08:03.093 --> 00:08:07.488 しかし 彼は新しい免疫系を 活性化する新薬の1つの治療を受け 00:08:07.512 --> 00:08:10.871 彼のメラノーマは今 寛解に入っているようです 00:08:10.895 --> 00:08:12.536 すごいですね 00:08:12.560 --> 00:08:16.001 ほんの数年前の状況では 考えられないことでした 00:08:16.025 --> 00:08:17.845 事実 このすごさに 00:08:17.869 --> 00:08:20.669 新しい免疫治療薬は 刺激的な表現を用いて 00:08:20.693 --> 00:08:26.253 「がんに対するペニシリンの到来」 などと称されています 00:08:26.277 --> 00:08:29.635 今まで私達がずっと闘い続けてきて ほとんど勝ち目のなかった病気について 00:08:29.635 --> 00:08:31.742 こんなことが言えるなんて 00:08:31.742 --> 00:08:34.252 信じられない程大胆な言葉です 00:08:34.305 --> 00:08:36.527 免疫療法は とても期待されています NOTE Paragraph 00:08:36.527 --> 00:08:39.319 しかし これが糖質と どういう関係があるのでしょう? 00:08:39.343 --> 00:08:42.063 分っていることをお話しします 00:08:42.944 --> 00:08:49.280 免疫細胞が がん細胞に くっ付いて点検するとき 00:08:49.304 --> 00:08:51.953 病気のサインを探しています 00:08:51.977 --> 00:08:53.896 そのサインが見つかったなら 00:08:53.920 --> 00:08:58.166 免疫細胞は活性化され がん細胞を攻撃し死滅させます 00:08:59.269 --> 00:09:05.079 しかし がん細胞の シアル酸の密度が高い場合 00:09:05.731 --> 00:09:08.699 それは免疫細胞にとって かなり魅惑的となり 00:09:09.507 --> 00:09:14.151 免疫細胞にはシアル酸と結合する タンパク質があるのですが 00:09:14.175 --> 00:09:16.320 そのタンパク質が 00:09:16.320 --> 00:09:20.424 免疫細胞とがん細胞の間の免疫シナプスで 留まってしまったなら 00:09:20.691 --> 00:09:23.156 免疫細胞は活動を停止してしまいます 00:09:23.809 --> 00:09:26.805 シアル酸は免疫細胞に こう言うのです 00:09:26.805 --> 00:09:30.336 「この細胞は大丈夫 ここには何もないから 00:09:30.360 --> 00:09:31.854 他を探して」と 00:09:32.741 --> 00:09:33.963 言い換えると 00:09:33.987 --> 00:09:38.731 私達の細胞がシアル酸で 厚くおおわれていると 00:09:39.399 --> 00:09:41.417 免疫細胞には魅惑的に見えるのですね 00:09:42.036 --> 00:09:43.388 驚きです 00:09:44.524 --> 00:09:46.962 そのおおいを剥ぎ取り 00:09:46.962 --> 00:09:50.000 シアル酸を取り除ける としたらどうでしょう 00:09:51.044 --> 00:09:52.803 そうしたら免疫細胞は 00:09:52.803 --> 00:09:57.412 がん細胞の真の姿に気づき 破壊すべきものとして 00:09:57.412 --> 00:09:59.496 見えるかもしれません NOTE Paragraph 00:10:00.875 --> 00:10:03.186 我々はこれを研究して 00:10:03.704 --> 00:10:06.026 新薬を開発しています 00:10:06.050 --> 00:10:09.107 それは基本的に 「細胞表面の芝刈り機」なるものです 00:10:09.861 --> 00:10:13.514 分子が がん細胞の表面まで行き 00:10:13.538 --> 00:10:16.403 シアル酸を刈り取るだけです 00:10:16.427 --> 00:10:20.732 それで免疫系が持つ能力が 最大限に発揮され 00:10:20.756 --> 00:10:23.413 免疫細胞が がん細胞を 駆除するというものです NOTE Paragraph 00:10:24.983 --> 00:10:27.114 締めくくりに 00:10:27.819 --> 00:10:29.972 もう一度繰り返します 00:10:29.996 --> 00:10:32.263 私達の体の細胞は 糖質でおおわれていて 00:10:32.972 --> 00:10:37.667 その糖質は免疫細胞に 点検される細胞が 00:10:37.691 --> 00:10:39.611 正常かどうかを教えます 00:10:40.682 --> 00:10:41.847 これが大事なのは 00:10:41.871 --> 00:10:44.927 免疫系は正常細胞だけは 手を付けないでおく必要があるからです 00:10:44.951 --> 00:10:47.421 そうでなければ私達は 自己免疫疾患に罹ってしまいます 00:10:48.315 --> 00:10:50.387 しかし 時には 00:10:50.387 --> 00:10:53.043 がんは これらの糖質を発現させ 00:10:53.067 --> 00:10:54.399 免疫系を NOTE Paragraph 00:10:54.423 --> 00:10:57.583 不活性化させることが出来る とも分かっています 00:10:57.607 --> 00:11:01.792 その対応には我々は免疫細胞を 目覚めさせる新薬を開発し 00:11:01.816 --> 00:11:05.043 「その糖質は無視して がんという美味しいおやつを食べなさい」と 00:11:05.067 --> 00:11:07.650 免疫細胞に指図できるのです NOTE Paragraph 00:11:08.574 --> 00:11:09.737 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:11:10.073 --> 00:11:12.441 (拍手)