十年近くTEDで
演奏してきましたが
今まで滅多に
自分の新曲は
演りませんでした
まあ単に新曲が
なかっただけなんですが
(笑)
最近私は プロジェクトで
忙しくしてました
その中の一つが
ナツメグ号です
1930年代の救命艇を
英国にある
私の海辺の家の庭に
復元したものです
だから万が一
北極の冠氷が
解けたとしても
私のスタジオは
方舟のように浮き上がり
沈み行く世界から
船出することができます
JGバラードの
小説のようにね
日中に
ナツメグ号はエネルギーを
操舵室の屋根の
ソーラーパネルや
マストにある
450ワットの
風車で集めます
暗くなる頃には
電力が沢山貯まるので
ナツメグ号を 灯台のように
ライトアップできます
なので 私は明け方まで
そこに篭り
新曲に取り組んでいます
では 演奏しましょう
この曲を聞くのは
皆さんが最初です
(拍手)
ビリー・ホリディを
歌った曲です
あれはそう
1947年のある夜
彼女は物理的な空間を
抜け出して
一晩中戻りませんでした
再び現れたのは翌朝
どこにいたのか
私は知っています
彼女は この船に
私といたのです
とてもセクシーでした
(音楽)
ビリーがそっと
眠れない僕の腕に潜り込む
一口のサワー・マッシュのように暖かく
奇妙な果実のように
可愛いろくでなし
カーネギーホールの
舞台裏では大騒ぎ
「有名ジャズ歌手 ドタキャン」
建物から姿を消した模様
身も心も
ギシギシする
ピアノ椅子の上で今夜
だって月だけが
目撃者だから
彼女の息が
耳にかかる
「今回は愛のため」
だが愛は弾を込めたピストル
夜明け前に彼女は去っていく
凍った河を渡り 家へ
僕はジョニーウォーカーと
新しい時代を見る
ただ一人
今夜もまた
僕といてほしい
ビリー 時は
時はしたたかな手品師
心の中で
まだ木霊する
「今回は愛のため」
(拍手)