私たちは地球のことよりも
他の惑星についてよく知っています
だから今日は 地球のことを
もっと知るために作られた
新しいタイプのロボットを紹介します
海洋学の分野では
無人水上艇 またはUSVと呼ばれる
カテゴリーに属します
このロボットは燃料を必要としません
代わりに風力で進みます
それにもかかわらず
世界中を一度に何か月も航行できるのです
何故 このロボットを作ったのか
どんな意味があるのかを
ご説明しようと思います
数年前 サンフランシスコからハワイまで
ヨットで横断していました
それまでの10年間
何億というユーザーのために
休まずに働き
ビデオゲームを開発してきました
それで 現場から離れて
広く世界を知り
考える時間が欲しくなったのです
私は航海士でした
気象データを分析して航路を定めるという
骨の折れる仕事を終えた ある夕方に
甲板に出ると この美しい夕日を見たのです
すると ある考えが浮かびました
私たちは海のことを
実際にはどれくらい知っているのか?
太平洋は私の周りに見渡す限り広がっていて
船は波によって大きく揺らされていました
海のはかり知れない力を
常に思い知らせるかのようでした
海について どの程度のことを
実際は知っているのだろうか?
私は調べて見ようと決心しました
すぐに分かったことは
私たちは海をよく知らないということです
第一の理由は正に海の大きさによるものです
地球の70%をも覆う広さです
ただ 地球規模の複雑な現象が
海によるものだということはわかっています
例えば 誰もに毎日影響を与え
時には 劇的な影響及ぼす
地球全体の気象などです
それなのに そういった現象について
私たちはほとんど知りません
海の情報はどう考えても少ないのです
陸について考えてみれば
多くのセンサーがあります
実際に何十億もです
しかし海の場合は
現場データが不足し それに高価です
何故でしょう?
数少ない船やブイに頼っているからです
その少なさには本当に驚きます
NOAAとして知られている
アメリカ海洋大気庁によれば
船はたったの16隻です
ブイは世界中の沖に
200基未満しかありません
理由は簡単です
海の環境は非常に厳しいからです
現場データを収集するには
大量の燃料を運べて
多くの船員が乗れる
巨大な船が必要です
一隻につき何億ドルもかかります
海底へとつながる大きなブイは
4マイルの長さのケーブルを付けられ
重りとして列車の車輪が
いくつか使われています
配備するのは危険ですし
維持するには多くのお金がかかります
衛星はどうなのかと思うかもしれません
衛星は素晴らしいです
数十年に渡って地球の全体像を
衛星によって把握してきました
しかし衛星からでは
海面から1ミクロンまでの深さしか
観測できない項目もあります
衛星は時間的・空間的に
解像度が比較的低いです
また 雲に覆われた部分や
陸の影響 その他の要素を
補正することが必要です
それでは海で何が起きているのでしょう?
何を計測したいのか?
ロボットは何の役に立つのでしょう?
海の中の小さな一区画に着目します
私たちが知りたい
重要なものの一つは海面です
考えてみれば 海面には
空と海との相互作用が
全て集まっているのですから
全てのエネルギーや気体が
通り抜ける境界面です
太陽はエネルギーを放射します
それは海に熱として吸収されます
その一部は大気に放出されます
大気中のCO2のような気体は海に溶解します
実際に 世界中の約30%のCO2が
吸収されます
プランクトンや微生物は
酸素を大気中に大量に放出するので
呼吸する酸素の半分は
海からくるほどです
海の熱は蒸気を生み
それは雲になり
やがてそれは降雨へとなります
気圧の勾配が地球表面の風を生み出し
大気中で水を移動させます
熱の一部は深海にまで届いて
異なる層に蓄積されます
海はまるで惑星規模のボイラーのように作用し
全ての熱エネルギーをため込み
短期的にはハリケーンや
長期的にはエルニーニョのような
気象現象を通じて放出されます
垂直上昇流または水平流によって
これらの層は混合され
熱帯地帯から
北極・南極に熱を運ぶのに
重要な役割をします
そしてもちろん 微生物や魚から
アシカやイルカやクジラのような
海洋哺乳類に至るまでの
地球の最も大きな生態系を成す
海の生物がいます
海の生物のほとんどは
私たちには見えません
そういった海を表す変数を
大規模に研究する際の課題の一つは
エネルギーの問題です
つまり 深海までセンサーを
配備するために使うエネルギーです
もちろん様々な解決策が試されました
波を利用した装置から
海面を漂う装置や
太陽光発電を利用した電気装置ー
其々に妥協点があります
私たちのチームのブレイクスルーは
予期せぬ場所から生まれました―
風力で動くランドヨットでの
スピード世界記録を目指すチャレンジです
10年間に及ぶ研究開発により
限りなく自立性がありながら
制御するのにたった3ワットしか使わないのに
乗り物で世界中巡れるような
新しいコンセプトの翼形状を
考え出しました
その翼のコンセプトを
海上の移動手段に適用することで
海上ドローンは始まりました
ドローンは見た目よりも大きく
およそ 高さは4.5メートル
縦横は7×2メートルです
海面にある衛星と思ってください
ドローンは海と大気に関する
主要な変数を全て計測する
精度の高いセンサー群を積んでいます
そして 衛星通信により高解像度のデータを
リアルタイムで陸地に送ります
私たちのチームは数年間に渡って
地球で最も厳しい海洋環境の中で
この取り組みを熱心に行ってきました
北極圏から熱帯太平洋に至るまでです
はるばる極地の棚氷にまで行きました
大西洋のハリケーンの中にも行きました
ホーン岬を回りました
メキシコ湾の石油掘削装置の間を
すり抜けてきました
タフなロボットですね
最近 プリビロフ諸島のあたりで行った
私たちの仕事を紹介します
プリビロフ諸島は
アメリカとロシアの間のベーリング海にある
小さな島の集まりです
ベーリング海はスケトウダラの故郷です
スケトウダラは白身魚で
ご存じないかもしれませんが
もし魚のスティックやカニ風味かまぼこが
好きなら 食べたことがあるでしょう
カニ肉のように見えますが
本当はスケトウダラです
スケトウダラ漁は
国内で最大規模の漁業です
金額と量の両方の意味においてです―
毎年 31億ポンドの水揚げ量があります
この数年間 何台かのドローンで
ベーリング海で
スケトウダラの漁業資源の
規模を調査しています
この調査は漁場を管理して
漁業資源の枯渇を防ぐための
クオータ制を改良するのに役立ち
損なわれやすい生態系を保護します
現在 ドローンは音響機器を使って
漁場の調査をしています
すなわちソナーです
ソナーは音波を下方に発信します
そして 海底または魚群からの
音波の反響によって
海面下で何が起きているのかを
把握することができます
私たちの海洋ドローンは
この反復調査にとても適しています
ドローンは夜を日に継ぎ
ベーリング海を調査しているのです
そして プリビロフ諸島は
オットセイの群棲地でもあります
1950年 2百万頭のオットセイが
群棲地に暮らしていました
悲しいことに昨今
急激にその数は減少しています
元の数の50%未満しか
生き残っていません
さらに 急激に減り続けています
その原因を知るために
国立海洋哺乳類研究所の
研究パートナーが
GPS機能のあるタグを
母オットセイの
身体に糊付けしました
このタグにより位置と深さがわかります
そして 急激な加速時に自動的に作動する
小さなカメラを搭載しています
これは北極の深い海の中での
狩りの様子を知ることのできる―
芸術的な狩りの動きをするオットセイと
餌となるスケトウダラの映像です
これは捕食される瞬間のほんの数秒前です
ロボットとはいえ
北極圏での作業は厳しいです
8月にも 吹雪を耐え忍んだり
思わぬ訪問者による妨害を
我慢したりしなければいけません―
小さなゴマフアザラシが
乗っかって遊んでいます
(笑)
オットセイのタグはシーズンを通して
20万回以上の潜水の映像を撮影しています
よく観察してみると
オットセイの行動経路と
繰り返しの潜水がわかりました
私たちは狩り場で実際に何が起きているのかを
解明しようとしています
見事なものですよ
ドローンによって集められた
音響データを重ね合わせてみると
その実像がわかりはじめます
オットセイが島から離れて
縦横無尽に泳ぎ回るときに
深さ20メートルくらいの比較的浅い場所で
泳いでいることが観察されています
ドローンの調査によれば
カロリーの低い 小さなスケトウダラが
多くいる場所です
そしてオットセイは
もっと遠くて深いところまで潜ります
そこはドローンの調査によれば
より栄養価の高い魚である
大きなスケトウダラがいる場所です
残念ながら より遠くまで泳ぐために
母親のオットセイは
カロリーを使ってしまうので
陸に戻ってから子供に乳を与えるのに
十分なエネルギーは残されていません
そのために群れの頭数は
減少してしまうのです
さらに ドローンは島の周りの水温が
著しく上昇していることを
発見しました
その水温の上昇によってスケトウダラは
さらに温度の低い場所を求めて
北方に追いやられているのかもしれません
データは解析中ですが
次第にオットセイの神秘のパズルが
解けてきていることは
すでに分かっています
しかし 大きな視点から見直してみれば
私たちも哺乳類なのです
そして実際に 海は人間一人あたり
毎年20kgの魚を供給しています
漁業資源が激減する中で
私たちはオットセイの物語から
何を学ぶことができるのでしょう?
魚の問題だけではありません
世界の穀物生産量に影響を与え
生命や財産に甚大な被害をもたらしうる
ハリケーンや猛暑 それに洪水を引き起こす―
世界の気象系を海は動かしているので
私たち全員に毎日影響を及ぼすのです
海は未開の場所で
調査がほとんどされていません
今日 私たちは未だに他の惑星のことを
地球よりもよく知っているのです
しかし もしこの広大な海を
一辺が経度緯度6度の正方形で分割すれば
だいたい各辺が640kmになります
1000くらいの正方形ができるでしょう
だから少しづつパートナーと協力して
私たちはその四角一つに対して一つの
海上ドローンを配備しています
そうやって地球全体を
カバーすることによって
人類に影響を与える地球のシステムを
理解する手掛かりが
得られると期待します
今までしばらくの間 太陽系の離れた世界を
ロボットを使って調査してきました
今こそ 地球を計測するときなのです
なぜなら私たちは計測できないものを
修理することはできませんし
知らないことに対して
準備することはできないのですから
以上です
(拍手)