1 00:00:01,200 --> 00:00:04,700 子供の頃 自分には 特別な力があると信じていました 2 00:00:06,920 --> 00:00:08,135 笑っちゃいますよね 3 00:00:08,160 --> 00:00:09,256 (笑) 4 00:00:09,280 --> 00:00:11,600 私って本当にすごいんだから と自信満々でした 5 00:00:11,610 --> 00:00:15,556 褐色肌の人たちの気持ちが わかったからです 6 00:00:15,590 --> 00:00:19,020 例えば保守的なムスリムである 祖父のような人です 7 00:00:19,360 --> 00:00:24,316 また アフガニスタン人の母や パキスタン人の父のような 8 00:00:24,330 --> 00:00:28,210 そこまで信仰が深くない リベラル派の人々も理解できました 9 00:00:28,480 --> 00:00:30,096 それから もちろん 10 00:00:30,120 --> 00:00:32,595 白人の気持ちにだって 感情移入できました 11 00:00:32,610 --> 00:00:34,560 私の故郷 ノルウェーの白人です 12 00:00:35,480 --> 00:00:38,156 白人であれ 褐色人種であれ どんな人であっても 13 00:00:38,180 --> 00:00:39,896 みんなが大好きでしたし 14 00:00:39,920 --> 00:00:41,246 みんなを理解していました 15 00:00:41,280 --> 00:00:43,536 その人たち同士は 必ずしも理解し合えなくても 16 00:00:43,560 --> 00:00:44,930 みんな私の仲間でした 17 00:00:45,640 --> 00:00:48,586 それでも 父は いつも私のことを心配して 18 00:00:48,606 --> 00:00:52,066 私にこう言い続けました 最良の教育を受けたって 19 00:00:52,086 --> 00:00:55,216 白人とは平等に扱われないと 20 00:00:55,236 --> 00:00:58,536 賢くなったって 差別は受けるだろうし 21 00:00:58,680 --> 00:01:01,596 認められたいなら 有名になるしかない というのが 22 00:01:01,620 --> 00:01:03,466 父の言い分でした 23 00:01:03,670 --> 00:01:06,884 7歳の時 父との会話で こんなことまで言われたんです 24 00:01:08,440 --> 00:01:11,476 7歳の私に向かって 父は 25 00:01:11,580 --> 00:01:14,816 「認められるにはスポーツか 音楽をやるしかないぞ」と言いました 26 00:01:14,960 --> 00:01:19,336 父は残念ながらスポーツができず 音楽をやる羽目になりました 27 00:01:19,360 --> 00:01:23,696 7歳の時 私のおもちゃと人形は 父が残らず かき集めて 28 00:01:23,730 --> 00:01:25,370 捨ててしまいました 29 00:01:26,160 --> 00:01:30,016 代わりに与えられたのは 安っぽい小さなキーボードと 30 00:01:30,040 --> 00:01:31,446 (笑) 31 00:01:31,600 --> 00:01:33,346 そして 歌の稽古です 32 00:01:33,410 --> 00:01:37,740 何時間も何時間も 毎日欠かさず 練習を強いられました 33 00:01:38,120 --> 00:01:42,436 すぐに 人前で演奏もさせられ お客さんは増えていきました 34 00:01:42,470 --> 00:01:48,390 面白いことに ノルウェーの多様性を 象徴するような存在になりました 35 00:01:48,760 --> 00:01:50,496 もちろん とても誇らしかったです 36 00:01:50,520 --> 00:01:53,886 この頃は 新聞にも 褐色人種の人が 37 00:01:53,910 --> 00:01:56,310 好意的に取り上げられるようになり 38 00:01:56,330 --> 00:01:59,680 自分の特別な力が増しつつあるような 実感がありました 39 00:02:00,990 --> 00:02:03,936 12歳の時 学校からの帰り道に 40 00:02:03,960 --> 00:02:05,176 少し遠回りをして 41 00:02:05,200 --> 00:02:08,735 大好きなsalty feet (しょっぱい足) を買いに行きました 42 00:02:08,928 --> 00:02:10,750 名前はヒドいですが 43 00:02:11,640 --> 00:02:13,206 大好物でした 44 00:02:13,230 --> 00:02:17,690 小さな足の形をした しょっぱいリコリスのキャンディーです 45 00:02:18,120 --> 00:02:23,440 こうやって口に出して説明してみると 気持ちの悪いお菓子ですが 46 00:02:24,320 --> 00:02:26,776 それでも 大好きでした 47 00:02:26,960 --> 00:02:28,896 お店に入る途中で 48 00:02:28,920 --> 00:02:33,506 大きな白人男性が 入り口を塞いでいました 49 00:02:33,520 --> 00:02:39,416 避けて通ろうとしたら 今度は私の前に立ち塞がり 50 00:02:39,440 --> 00:02:41,410 ジロジロ見てきました 51 00:02:42,200 --> 00:02:44,236 そして 私の顔に唾を吐きかけ 52 00:02:44,260 --> 00:02:45,376 「邪魔なんだよ 53 00:02:45,400 --> 00:02:48,656 黒人のクソガキ パキのクソガキ 54 00:02:48,680 --> 00:02:50,680 国に帰りやがれ」 55 00:02:51,600 --> 00:02:54,696 私は完全に恐怖で凍りつき 56 00:02:54,720 --> 00:02:56,156 その男をじっと見たまま 57 00:02:56,166 --> 00:02:59,240 怖さのあまり 顔についた唾を 拭うことさえできずにいました 58 00:02:59,910 --> 00:03:01,976 自分の涙が男の唾に 混じってもです 59 00:03:02,000 --> 00:03:04,630 周りを見渡しながら こう願っていました 60 00:03:04,660 --> 00:03:09,426 今すぐ 誰か大人が駆けつけて来て この男を止めてくれればと 61 00:03:09,450 --> 00:03:13,720 でも 周りの人は見ないフリをして 急ぎ足で通り過ぎて行きました 62 00:03:14,160 --> 00:03:17,830 私は非常に混乱し こんなことを思っていました 63 00:03:18,640 --> 00:03:21,936 「白人の仲間たち どうにかしてよ! どこにいるの? 何が起こってるの? 64 00:03:21,960 --> 00:03:24,210 どうして誰も 助けに来てくれないの?」 65 00:03:24,760 --> 00:03:27,016 当然ですが お菓子は買いませんでした 66 00:03:27,140 --> 00:03:29,310 全速力で家に帰りました 67 00:03:30,040 --> 00:03:32,260 その時は もう大丈夫だと思いましたが 68 00:03:32,960 --> 00:03:35,506 時が経ち 音楽活動が軌道に乗るにつれて 69 00:03:35,940 --> 00:03:40,070 褐色肌の人たちからも 嫌がらせを受けるようになりました 70 00:03:41,520 --> 00:03:44,816 両親と同じコミュニティーの 一部の男性にとっては 71 00:03:44,854 --> 00:03:49,800 女性が音楽活動をしたり メディアでもてはやされるなんて 72 00:03:49,820 --> 00:03:51,790 不名誉だし言語道断だったのです 73 00:03:53,280 --> 00:03:58,726 間もなく 自分のコンサートで 襲撃を受けるようになりました 74 00:03:58,750 --> 00:04:03,766 あるコンサートでの出来事です 舞台から乗り出した私の目に 75 00:04:03,790 --> 00:04:07,076 最後に映ったのは 褐色肌の若者の顔でした 76 00:04:07,090 --> 00:04:11,316 次の瞬間 私の目をめがけて 薬品のようなものが飛んで来て 77 00:04:11,350 --> 00:04:14,526 ほとんど何も見えなくなり 目からは涙が溢れましたが 78 00:04:14,540 --> 00:04:16,240 それでも歌い続けました 79 00:04:16,899 --> 00:04:21,680 オスロの街角で 今度は褐色肌の男性から 顔に唾を吐かれたこともありました 80 00:04:22,360 --> 00:04:25,576 誘拐されそうになったことさえあります 81 00:04:25,700 --> 00:04:27,736 殺しの脅迫は後を絶たず 82 00:04:27,756 --> 00:04:30,976 髭を生やした老人から 街角で呼び止められて 83 00:04:31,000 --> 00:04:33,176 こう言われました 「お前が心底憎らしい 84 00:04:33,200 --> 00:04:35,230 お前のせいで 俺の娘まで 85 00:04:35,260 --> 00:04:37,060 好き勝手できると思ってるんだ」 86 00:04:38,610 --> 00:04:41,426 若い男性から 警告されたこともありました 87 00:04:41,460 --> 00:04:44,446 音楽はイスラームの教えに反するし 売春婦の仕事だ 88 00:04:44,480 --> 00:04:47,296 活動を続けるならば レイプしてやる 89 00:04:47,320 --> 00:04:52,160 そして私のような売春婦が 再び生まれないように腹を切り裂いてやるぞと 90 00:04:53,560 --> 00:04:55,256 私はここでも 非常に戸惑いました 91 00:04:55,270 --> 00:04:56,969 事態が理解できませんでした 92 00:04:56,979 --> 00:05:00,899 褐色肌の仲間にも こんな扱いを 受けるようになるなんて 一体なぜなの? 93 00:05:01,560 --> 00:05:04,656 2つの世界の 橋渡しになるのではなく 94 00:05:04,680 --> 00:05:07,680 2つの世界の間の溝に 落ちていくような感覚でした 95 00:05:07,950 --> 00:05:10,590 唾を吐かれて 私の力は奪われたのでしょう 96 00:05:12,560 --> 00:05:14,606 17歳になっても 97 00:05:14,620 --> 00:05:17,616 殺しの脅迫は後を絶たず 嫌がらせも続いていました 98 00:05:17,640 --> 00:05:20,402 状況があまりにも悪化したので ついに 母が口を開きました 99 00:05:20,426 --> 00:05:24,156 「もうあなたを守りきれないし 安全も保証できないの 100 00:05:24,170 --> 00:05:25,766 逃げるしか道はないのよ」 101 00:05:25,786 --> 00:05:31,200 私はロンドンへの片道切符を手にし 荷物をまとめて国を去りました 102 00:05:32,230 --> 00:05:35,856 あの頃 1番辛かったのは 誰も何も言ってくれなかったことです 103 00:05:35,880 --> 00:05:38,500 私のノルウェー脱出は 大きく報じられました 104 00:05:39,120 --> 00:05:42,656 褐色肌の仲間も 白人の仲間も 誰も何も言いませんでした 105 00:05:42,800 --> 00:05:44,980 「待って おかしいよ 106 00:05:46,010 --> 00:05:49,706 この子を応援しようよ 守ろうよ 私たちの仲間なんだから」だなんて 107 00:05:49,720 --> 00:05:51,296 誰も言いませんでした 108 00:05:51,320 --> 00:05:54,810 それどころか こんな気持ちでした 空港の手荷物引取所で 109 00:05:55,120 --> 00:05:57,976 ベルトコンベアーの上を 様々なスーツケースが 110 00:05:58,000 --> 00:05:59,256 回り続けていますが 111 00:05:59,280 --> 00:06:01,730 必ず ポツンと1つ残る スーツケースがあります 112 00:06:01,750 --> 00:06:04,856 誰も持って行こうとしないし 所有者も現れません 113 00:06:04,880 --> 00:06:06,730 そんな荷物になったような気分でした 114 00:06:07,110 --> 00:06:10,550 あれほどまでの孤独や喪失感は 感じたことがありませんでした 115 00:06:12,430 --> 00:06:16,360 ロンドンに移住してから 結局また音楽活動を再開しました 116 00:06:17,000 --> 00:06:20,200 国が変わっても 残念ながら 同じような状況でした 117 00:06:20,840 --> 00:06:23,320 ある時 届いた脅迫文は こんな感じでした 118 00:06:23,350 --> 00:06:27,836 お前を殺して 川ができるほどの血を流させてやると 119 00:06:27,860 --> 00:06:31,256 そして死ぬ前には 何度もレイプしてやると 120 00:06:31,300 --> 00:06:32,696 この頃にもなると 121 00:06:32,720 --> 00:06:35,176 こんな言葉にはもう 慣れっこになっていましたが 122 00:06:35,200 --> 00:06:39,480 今度は 私の家族までもが 脅され始めたのです 123 00:06:40,760 --> 00:06:46,000 そこで再び 荷物をまとめて 音楽を辞め アメリカに移り住みました 124 00:06:46,520 --> 00:06:47,776 もう うんざりでした 125 00:06:47,800 --> 00:06:50,416 こんな思いをするのは もう嫌でした 126 00:06:50,440 --> 00:06:53,096 音楽を選んだのは 私ではなく 父なのに 127 00:06:53,120 --> 00:06:55,930 そのせいで殺されるのは 絶対に嫌でした 128 00:06:58,200 --> 00:07:01,396 なんだか 自分を見失い 129 00:07:01,430 --> 00:07:03,056 全てを失った気分でした 130 00:07:03,080 --> 00:07:05,296 でも次にやりたいことは決まりました 131 00:07:05,320 --> 00:07:08,656 これからの人生 どれだけ時間がかかってもいいから 132 00:07:08,680 --> 00:07:10,336 若者を支援すること 133 00:07:10,360 --> 00:07:13,256 どんな方法でもいいから 少しでも 134 00:07:13,280 --> 00:07:14,976 寄り添ってあげることでした 135 00:07:15,000 --> 00:07:18,326 様々な団体で ボランティアを始めて 136 00:07:18,340 --> 00:07:22,920 ヨーロッパに住む ムスリムの若者を支援しました 137 00:07:24,080 --> 00:07:26,130 すると 驚いたことに 138 00:07:26,150 --> 00:07:31,750 あまりにも多くの若者が 苦しみや葛藤を抱えていたのです 139 00:07:32,440 --> 00:07:35,976 家族やコミュニティーに関する問題を 本当にたくさん抱えていました 140 00:07:36,000 --> 00:07:39,616 そういった環境では 子供にとっての幸せや人生は 141 00:07:39,640 --> 00:07:42,400 大人の名誉や評判に比べて 軽視されているようでした 142 00:07:43,760 --> 00:07:47,800 もしかしたら自分はそこまで孤独でも 変でもないのかなと 思い始めました 143 00:07:48,280 --> 00:07:50,680 私みたいな人は もっといるんじゃないかと 144 00:07:51,280 --> 00:07:53,496 実は 世間にはあまり 理解されていないのですが 145 00:07:53,520 --> 00:07:57,876 ヨーロッパで育った 私のような子供に本当によくあるのが 146 00:07:57,910 --> 00:08:00,326 自分らしくいられる自由がないことです 147 00:08:00,340 --> 00:08:02,410 自分らしく 生きさせてもらえないのです 148 00:08:03,310 --> 00:08:06,550 自分が選んだ人と 149 00:08:06,790 --> 00:08:10,376 結婚したり交際することは 許されません 150 00:08:10,400 --> 00:08:12,256 人生の進路も 自分で選べません 151 00:08:12,266 --> 00:08:15,856 ヨーロッパに住むムスリムにとっては これが当たり前なのです 152 00:08:15,880 --> 00:08:19,200 世界で一番自由な社会にいても 束縛を受けています 153 00:08:19,640 --> 00:08:23,566 人生 夢 将来 どれも私たちのものではありません 154 00:08:23,590 --> 00:08:26,836 親やムスリムコミュニティーの 所有物なのです 155 00:08:26,850 --> 00:08:30,080 若者から数え切れないほどの 話を聞きました 156 00:08:30,880 --> 00:08:33,775 社会で行き場を失い 157 00:08:33,789 --> 00:08:35,594 周囲の目にはつきませんが 158 00:08:35,607 --> 00:08:38,510 苦しみを抱えているのです それもたった1人で 159 00:08:39,520 --> 00:08:43,960 子供たちは強制結婚をさせられ 名誉の名の下に暴力や虐待を受けます 160 00:08:45,280 --> 00:08:48,976 このような若者を支援する仕事を始めて 何年か経ってから 161 00:08:49,000 --> 00:08:51,146 もう逃げるわけにはいかないと悟り 162 00:08:51,170 --> 00:08:55,766 怖がったり 身を隠しながら 残りの人生を過ごすわけにはいかないし 163 00:08:55,786 --> 00:08:58,420 実際に行動を 起こさないといけないと思いました 164 00:08:59,640 --> 00:09:02,736 私だけでなく 似たような境遇の人々が 口を閉ざしたままでは 165 00:09:02,760 --> 00:09:05,150 こんな悪習が続くだけだとも悟りました 166 00:09:06,000 --> 00:09:10,496 それで 決めたんです 子供の頃の特別な力を呼び起こして 167 00:09:10,520 --> 00:09:15,216 こういった問題に別の側面から関わる 当事者の大人たちに 168 00:09:15,240 --> 00:09:20,380 家族と生まれた国の間で板挟みになる 若者の気持ちを理解してもらおうと 169 00:09:21,010 --> 00:09:24,480 そこで私は映画を作り始め 若者に聞いた話を語り始めました 170 00:09:24,880 --> 00:09:29,296 もう一つ 理解してもらいたかったのは このような問題に真剣に向き合わないと 171 00:09:29,320 --> 00:09:31,440 恐ろしい事態に陥ることです 172 00:09:32,000 --> 00:09:34,620 一作目で題材にしたのは バナズという少女です 173 00:09:35,440 --> 00:09:38,700 バナズはロンドンに住む クルド系の17歳で 174 00:09:39,520 --> 00:09:42,320 聞き分けが良く 両親の言うことは何でもしました 175 00:09:42,840 --> 00:09:45,256 何もかもを正しくこなそうとしたのです 176 00:09:45,330 --> 00:09:47,956 両親が選んだ男性と 結婚もしましたが 177 00:09:47,970 --> 00:09:51,120 夫には日常的に殴られ レイプされました 178 00:09:51,880 --> 00:09:54,350 家族に助けを求めると こう言われました 179 00:09:54,380 --> 00:09:56,976 「家に帰って 旦那さんにもっと尽くしなさい」 180 00:09:57,010 --> 00:09:59,856 娘が離婚して出戻るなんて もってのほかだったのです 181 00:09:59,870 --> 00:10:02,800 当然 家名に泥を塗ることに なりますからね 182 00:10:03,680 --> 00:10:06,280 夫の暴力はひどく 耳から流血するほどでした 183 00:10:07,200 --> 00:10:12,296 そんな夫の元からやっと逃げ出し 自分が選んだ若い男性と 184 00:10:12,320 --> 00:10:14,136 恋に落ちましたが 185 00:10:14,160 --> 00:10:16,416 コミュニティーや家族に知れ渡ると 186 00:10:16,440 --> 00:10:18,060 バナズは行方不明になりました 187 00:10:18,440 --> 00:10:20,340 発見されたのは3ヵ月後 188 00:10:21,200 --> 00:10:25,380 自宅の下に埋められていた スーツケースの中から発見されました 189 00:10:28,040 --> 00:10:31,650 首を絞められ 死ぬまで殴られたのです 190 00:10:32,760 --> 00:10:37,370 実の父親と叔父の命令を受けた 3人の従兄弟による犯行でした 191 00:10:37,960 --> 00:10:40,206 これだけでも酷い事件ですが 192 00:10:40,220 --> 00:10:46,056 さらに バナズは地元の警察に 5回も足を運んで 助けを求め 193 00:10:46,080 --> 00:10:49,136 家族に殺されそうだと 相談に行っていたそうです 194 00:10:49,160 --> 00:10:52,040 警察は真面目に取り合わず 何の対処もしませんでした 195 00:10:53,080 --> 00:10:54,366 この事件から言えるのは 196 00:10:54,380 --> 00:10:58,736 あまりにも多くの若者が 家族や周囲のコミュニティーの中で 197 00:10:58,760 --> 00:11:01,906 こうした問題を抱えているにとどまらず 198 00:11:01,920 --> 00:11:05,520 自分が生まれ育った国でも 199 00:11:06,640 --> 00:11:10,160 誤解や無関心の憂き目に 遭ったりしていることです 200 00:11:11,760 --> 00:11:16,336 自分の家族に裏切られた若者は 社会に拠り所を求めます 201 00:11:16,440 --> 00:11:18,496 社会が理解してあげないと 202 00:11:18,500 --> 00:11:19,770 若者は行き場を失います 203 00:11:21,120 --> 00:11:24,296 この映画の製作中 何人かに こう言われました 204 00:11:24,320 --> 00:11:26,856 「ディーヤ これって 単に そういう文化なんだよ 205 00:11:26,880 --> 00:11:29,111 単に この種の人たちが 自分の子供にすることだ 206 00:11:29,135 --> 00:11:30,785 部外者には何もできないよ」 207 00:11:31,880 --> 00:11:35,150 殺人は決して私の文化ではありません 208 00:11:36,280 --> 00:11:37,270 そうですよね? 209 00:11:37,290 --> 00:11:39,216 私のような見た目で 210 00:11:39,240 --> 00:11:41,736 似たような生い立ちの 若い女性だって 211 00:11:41,760 --> 00:11:45,896 住んでいる国で 誰もが与えられる権利を持ち 212 00:11:45,896 --> 00:11:48,990 同じ保護を受けられるべきじゃありませんか? 213 00:11:50,360 --> 00:11:55,096 次に作った映画では イスラム過激派と暴力に 214 00:11:55,120 --> 00:11:57,976 ヨーロッパに住む ムスリムの若者の一部が 215 00:11:58,000 --> 00:12:00,220 引き寄せられる理由を 理解したかったのですが 216 00:12:00,880 --> 00:12:02,136 このテーマでは 217 00:12:02,160 --> 00:12:05,430 自分が一番恐れていたものと 向き合うことになりました 218 00:12:07,040 --> 00:12:08,690 褐色肌で髭の生えた男性です 219 00:12:10,970 --> 00:12:13,696 人生の大半にわたって 220 00:12:13,720 --> 00:12:16,690 私を追い詰めてきたのが このような容貌の男性でした 221 00:12:17,560 --> 00:12:20,316 人生の大半にわたって 恐れてきたタイプの男性で 222 00:12:20,340 --> 00:12:23,136 心底嫌いだと ずっと思っていました 223 00:12:23,160 --> 00:12:24,600 それも ずっと長い間です 224 00:12:25,210 --> 00:12:29,136 それから2年間にわたり 犯罪を犯したテロリストや戦闘員 225 00:12:29,160 --> 00:12:31,736 元過激派に取材をしました 226 00:12:31,760 --> 00:12:35,196 私も元々知っていた 歴然たる事実としては 227 00:12:35,200 --> 00:12:40,276 宗教や政治問題や 植民地時代の爪痕や 228 00:12:40,290 --> 00:12:44,496 近年に見られる ヨーロッパの外交政策の失敗なども 229 00:12:44,520 --> 00:12:46,570 全て 背景の一部だということでしたが 230 00:12:46,590 --> 00:12:49,916 それ以上に興味を持って探ったのは 当事者である人間についてで 231 00:12:49,940 --> 00:12:51,526 人によってどんな事情があり 232 00:12:51,546 --> 00:12:55,800 若者の一部がなぜ こうした組織に 巻き込まれるのかということでした 233 00:12:57,000 --> 00:13:01,790 本当に驚いたのが 心に傷を負った 人間の姿を見いだしたことです 234 00:13:03,760 --> 00:13:06,216 私が探し求め 見つけようとしていたような 235 00:13:06,240 --> 00:13:07,616 極悪人は見当たらず— 236 00:13:07,640 --> 00:13:10,836 はっきり言ってその方が スッキリしたでしょうが 237 00:13:10,850 --> 00:13:12,670 出てきたのは傷ついた人々でした 238 00:13:13,520 --> 00:13:15,086 バナズと同じように 239 00:13:15,110 --> 00:13:18,356 過激派に転じた若者も 苦しんでいたのです 240 00:13:18,390 --> 00:13:20,856 家族と生まれた国の違いを 241 00:13:20,880 --> 00:13:24,400 乗り越えようとして 心に傷を負ったのです 242 00:13:25,720 --> 00:13:29,096 それから 過激派組織やテロ組織は 243 00:13:29,120 --> 00:13:32,576 こうした若者の感情を 巧く利用して 244 00:13:32,600 --> 00:13:36,456 皮肉にも その感情を 暴力に向かわせているのです 245 00:13:36,480 --> 00:13:38,216 「仲間においで」と誘います 246 00:13:38,230 --> 00:13:41,126 「家族も生まれた国も どちらも捨てなさい 247 00:13:41,140 --> 00:13:42,786 どちらも受け入れてくれないよ 248 00:13:42,810 --> 00:13:45,886 家族にとっては お前よりも名誉が大切なんだ 249 00:13:45,906 --> 00:13:47,136 国にしてみれば 250 00:13:47,160 --> 00:13:53,140 本物のノルウェー人 イギリス人 フランス人は白人だけだ」 251 00:13:54,040 --> 00:13:57,576 そして若者が欲しくて仕方がないものを 与えてやると約束するのです 252 00:13:57,586 --> 00:14:01,856 重要感 英雄感 連帯感や目的だけでなく 253 00:14:01,880 --> 00:14:04,380 自分たちを愛し 認めてくれる コミュニティーです 254 00:14:05,200 --> 00:14:08,136 無力に感じている若者も 力を持ったような気分になります 255 00:14:08,260 --> 00:14:13,040 周囲の目につかず 口を閉ざしていた若者が やっと注目され 思いを聞いてもらえるのです 256 00:14:15,120 --> 00:14:17,716 若者が望むような扱いをしてくれるのは 257 00:14:17,730 --> 00:14:21,690 私たちではなく こういう組織なのです なぜこうなってしまったのでしょうか 258 00:14:22,760 --> 00:14:24,336 つまり 259 00:14:24,360 --> 00:14:27,696 暴力を正当化したり 260 00:14:27,720 --> 00:14:31,456 容認するつもりはありませんが 261 00:14:31,480 --> 00:14:35,056 一部の若者が なぜ こうした組織に惹かれるのか 262 00:14:35,080 --> 00:14:38,240 理解しなければならない と言いたいのです 263 00:14:39,680 --> 00:14:42,076 こちらをご覧ください 264 00:14:42,096 --> 00:14:45,450 私の映画に出てきた男性たちの 幼少期の写真です 265 00:14:47,320 --> 00:14:50,300 非常に興味深いことに 彼らの多くには共通点があり— 266 00:14:50,960 --> 00:14:52,706 考えもしなかったことでした— 267 00:14:52,730 --> 00:14:56,130 父親がいない人や 父親に虐待を受けていた人ばかりでした 268 00:14:56,800 --> 00:14:58,736 そんな若者の中には 269 00:14:58,760 --> 00:15:02,896 過激派組織内に 優しく愛情深い父親的な存在を 270 00:15:02,920 --> 00:15:04,690 見いだしている者もいたのです 271 00:15:05,920 --> 00:15:09,200 人種差別的な暴力により 残忍になってしまった男性もいました 272 00:15:09,800 --> 00:15:12,056 その人は 被害者意識から逃れるために 273 00:15:12,080 --> 00:15:13,596 暴力を振るう側になったのでした 274 00:15:13,606 --> 00:15:18,896 また 恐ろしいことに 自分にも覚えのあるものを発見しました 275 00:15:18,990 --> 00:15:25,240 17歳でノルウェーを去った時の 私が抱いていたのと同じ感情です 276 00:15:26,160 --> 00:15:29,586 同じような混乱 同じような深い悲しみ 277 00:15:29,600 --> 00:15:33,170 同じように 周りに裏切られ 278 00:15:34,760 --> 00:15:36,530 孤立しているという感覚です 279 00:15:38,560 --> 00:15:41,750 2つの文化に引き裂かれ 行き場を失ったような気持ちです 280 00:15:42,760 --> 00:15:45,296 そうは言っても 私は暴力を選ばず 281 00:15:45,320 --> 00:15:48,226 銃の代わりに カメラを選びました 282 00:15:48,250 --> 00:15:51,416 例の特別な力のおかげです 283 00:15:51,500 --> 00:15:56,336 暴力ではなく 理解することが答えだとわかったのです 284 00:15:56,360 --> 00:15:58,056 その人を人間として見て 285 00:15:58,080 --> 00:16:01,816 長所も全て 短所も全て 認めることです 286 00:16:01,890 --> 00:16:03,746 皮肉な現状に終止符を打つこと 287 00:16:03,770 --> 00:16:06,436 悪者と被害者という二極的な 考え方はやめることです 288 00:16:06,450 --> 00:16:08,566 私自身 ようやく受け入れられた 事実があります 289 00:16:08,570 --> 00:16:12,196 2つの文化は 衝突し合うものではなく 290 00:16:12,220 --> 00:16:15,490 むしろ2つの文化のおかげで 自分自身の声を見つけられたことです 291 00:16:15,840 --> 00:16:18,686 片方だけを選ばなければなんて 思わなくなりましたが 292 00:16:18,700 --> 00:16:21,080 非常に長い時間がかかりました 293 00:16:21,640 --> 00:16:23,656 今でも 本当に多くの若者が 294 00:16:23,680 --> 00:16:25,696 同じ問題による葛藤を抱え 295 00:16:25,720 --> 00:16:27,840 たった一人で苦しんでいます 296 00:16:29,440 --> 00:16:32,130 そんな状況では まるで生の傷口のように 297 00:16:32,560 --> 00:16:35,676 人によっては イスラム過激派による世界観が 298 00:16:35,690 --> 00:16:39,060 傷ついた心に入り込んで さらに蝕んでしまうのです 299 00:16:41,160 --> 00:16:44,300 アフリカに伝わることわざがあります 300 00:16:45,960 --> 00:16:49,016 「若者が村の一員として 迎えられなければ 301 00:16:49,040 --> 00:16:51,910 村を焼き払って 暖かみを感じようとするだろう」 302 00:16:53,240 --> 00:16:54,830 お願いがあります 303 00:16:55,760 --> 00:16:58,226 ムスリムの親やコミュニティーの皆さん 304 00:16:58,240 --> 00:17:00,736 子供に期待を押し付けることなく 305 00:17:00,760 --> 00:17:03,416 愛情を注ぎ 思いやってあげてください 306 00:17:03,440 --> 00:17:06,030 自分の名誉ではなく 子供を選んであげてください 307 00:17:06,400 --> 00:17:09,444 子供の幸せよりも 自分の名誉を優先すると なぜ 308 00:17:09,464 --> 00:17:12,450 子供の中に怒りや疎外感が 生まれてしまうのか理解してください 309 00:17:12,520 --> 00:17:15,096 子供にとって友達のような 存在になってください 310 00:17:15,117 --> 00:17:16,944 信頼が得られるばかりでなく 311 00:17:16,950 --> 00:17:19,214 日々の出来事も 気軽に話してもらえるようになり 312 00:17:19,240 --> 00:17:22,280 子供が こうした関係を家族以外に 求めたりしないでよくなります 313 00:17:22,358 --> 00:17:25,710 過激派に惹かれている 若者にも言いたいことがあります 314 00:17:26,680 --> 00:17:30,450 あなたの怒りを駆り立てているのは 苦しみだと気づいてください 315 00:17:31,640 --> 00:17:35,146 あなたの血を私欲のために 利用しようとする偏狭な大人たちに 316 00:17:35,170 --> 00:17:38,280 抵抗できるような 強さを見つけてください 317 00:17:39,040 --> 00:17:41,070 生きていく術を見つけてください 318 00:17:41,880 --> 00:17:44,136 あなたにできる最高の復讐は 319 00:17:44,160 --> 00:17:47,616 幸せで自由な人生を 全うすることだと気づいてください 320 00:17:47,640 --> 00:17:50,280 他の誰でもない自分が決めた人生です 321 00:17:50,560 --> 00:17:54,490 なぜ ムスリムの若者として 自分も死に急ごうとするのですか? 322 00:17:55,080 --> 00:17:59,490 その他大勢の私たちに問います いつ若者の声に耳を傾けるのでしょうか? 323 00:18:00,520 --> 00:18:01,776 若者の苦しみを 324 00:18:01,800 --> 00:18:05,760 もっと前向きな感情に変えられるよう どうすれば支えてあげられるでしょうか? 325 00:18:06,760 --> 00:18:08,216 自分は世間から嫌われている— 326 00:18:08,240 --> 00:18:11,016 自分の身に何があっても 誰も気にしないし 327 00:18:11,040 --> 00:18:12,866 誰も認めてくれないという思いとは 328 00:18:12,880 --> 00:18:15,880 違う感情を抱かせてあげる方法を 見つけてあげてください 329 00:18:17,280 --> 00:18:20,216 ムスリムの若者が死傷したり 暴力を振るう側になる前に 330 00:18:20,240 --> 00:18:25,176 どうにかして 彼らの存在に目を向け 認識してあげてください 331 00:18:25,176 --> 00:18:28,822 このような若者を気にかけ 自分たちの同胞として扱ってください 332 00:18:28,840 --> 00:18:33,656 同じ人種の人が被害を受けた時だけ 憤るのはやめてください 333 00:18:33,680 --> 00:18:38,696 憎しみを寄せ付けず 亀裂を埋める方法を見つけてください 334 00:18:38,720 --> 00:18:42,696 お互い そして若者たちを 見限るわけにはいきません 335 00:18:42,720 --> 00:18:44,856 向こうがこちらに 愛想を尽かしたとしてもです 336 00:18:44,880 --> 00:18:47,106 私たち誰もがこの問題の一部です 337 00:18:47,140 --> 00:18:52,750 長期的に考えても 復讐や暴力では過激派に立ち向かえません 338 00:18:53,480 --> 00:18:57,256 テロリストの望みは 私たちが恐怖のあまり家に閉じこもり 339 00:18:57,280 --> 00:18:59,456 玄関だけでなく心も閉ざすことです 340 00:18:59,480 --> 00:19:03,296 そうやって社会に 傷を負った若者がさらに増えればいい 341 00:19:03,320 --> 00:19:06,856 そこから過激派の思想を さらに広めてやろうという目論見なのです 342 00:19:06,880 --> 00:19:09,576 テロリストの望みは 私たちも彼らのように 343 00:19:09,600 --> 00:19:12,200 憎しみに溢れ 偏狭で残酷になることです 344 00:19:14,200 --> 00:19:16,656 パリでのテロ事件の翌日 345 00:19:16,680 --> 00:19:20,110 友人の1人が 娘さんの写真を送ってくれました 346 00:19:20,800 --> 00:19:23,256 白人とアラブ系の2人の少女です 347 00:19:23,280 --> 00:19:24,640 2人は親友同士です 348 00:19:25,120 --> 00:19:28,630 こんな光景が 過激派の力を奪うのです 349 00:19:31,240 --> 00:19:34,296 この2人の少女たちに 備わった特別な力から 350 00:19:34,320 --> 00:19:35,906 進むべき道が見えてきます 351 00:19:35,920 --> 00:19:39,240 私たちが力を合わせて 作る必要のある社会です 352 00:19:40,120 --> 00:19:43,590 若者を受け入れない社会ではなく 353 00:19:44,480 --> 00:19:46,760 若者を受け入れ 支援する社会です 354 00:19:47,960 --> 00:19:49,296 ありがとうございました 355 00:19:49,320 --> 00:19:52,002 (拍手)