1 00:00:08,020 --> 00:00:10,870 「Every Frame a Painting」の トニーです 2 00:00:10,940 --> 00:00:13,720 今日は過去20年で 最も偉大な人物の話です 3 00:00:13,850 --> 00:00:16,060 日本の映像制作者 今敏(こん さとし)です 4 00:00:16,140 --> 00:00:19,350 彼の作品は知らなくとも これらのイメージは見たことがあるでしょう 5 00:00:19,430 --> 00:00:23,240 アロノフスキーやノーランに 影響を与えた人物なのです 6 00:00:23,320 --> 00:00:26,540 アニメ好きな人はみな 彼のファンと言えるでしょう 7 00:00:26,690 --> 00:00:29,580 彼は10年で長編映画4本 TVアニメ1本を制作 8 00:00:29,690 --> 00:00:34,560 いずれも首尾一貫して 現代人の生の多重性を扱っています 9 00:00:34,810 --> 00:00:36,040 公と私 10 00:00:36,140 --> 00:00:37,740 画面の中と外 11 00:00:37,860 --> 00:00:39,400 覚醒と夢 12 00:00:39,510 --> 00:00:44,350 いずれの作品にも 現実と空想の境界のぼやけが見られます 13 00:00:48,780 --> 00:00:51,790 今日は今敏監督の 編集技法にだけ注目しましょう 14 00:00:51,910 --> 00:00:54,490 私も編集者として いろいろなカットを試しています 15 00:00:54,610 --> 00:00:57,090 特に実写ではできないことを 考えています 16 00:00:57,200 --> 00:00:58,940 今敏監督の手法は魅惑的です 17 00:00:59,040 --> 00:01:02,700 よく使われるのはまず 似たシーンをつないだ転換 18 00:01:11,210 --> 00:01:14,700 エドガー・ライトが ビジュアル・コメディで用いています 19 00:01:15,830 --> 00:01:18,210 「シンプソンズ」もそうですね 20 00:01:19,210 --> 00:01:20,822 バスター・キートンでも よく現れます 21 00:01:21,010 --> 00:01:22,050 今監督の手法は微妙に違います 22 00:01:22,140 --> 00:01:26,686 彼の原点は 劇場版「スローターハウス5」にあります 23 00:01:27,090 --> 00:01:30,180 あなたがタイムトリップをすれば分かるのよ 24 00:01:30,290 --> 00:01:34,570 ディックやギリアムなど SFの伝統でもあります 25 00:01:40,460 --> 00:01:43,110 今監督はこの手法を さらに突き詰めました 26 00:01:43,290 --> 00:01:46,190 「スローターハウス5」には 3タイプの場面転換があります 27 00:01:46,290 --> 00:01:48,150 似たような見た目のマッチ 28 00:01:50,620 --> 00:01:52,770 まったく同じ場所でのマッチ 29 00:01:55,720 --> 00:01:59,390 2つの時間軸から 似た構図を取り出すマッチ 30 00:02:02,910 --> 00:02:04,750 今監督はこれらすべてを用いており 31 00:02:04,870 --> 00:02:06,540 さらには巻き戻したり 32 00:02:06,670 --> 00:02:08,510 ラインをクロスさせたり 33 00:02:08,949 --> 00:02:10,663 TVからズームアウトしたり 34 00:02:10,910 --> 00:02:12,680 空白フレームを入れて 転換させたり 35 00:02:12,760 --> 00:02:14,620 レンズの前に何かを横切らせたり 36 00:02:14,710 --> 00:02:16,970 これはなんて呼べばいいか分かりませんが…… 37 00:02:20,270 --> 00:02:22,390 この転換の回数はすごいものがあります 38 00:02:22,520 --> 00:02:25,230 「パプリカ」のオープニングでは 4分で5つの夢を通り過ぎます 39 00:02:25,340 --> 00:02:28,390 そしてそれら全てがマッチカットで 転換していきます 40 00:02:31,790 --> 00:02:34,020 第6シーンは マッチカットには見えませんが 41 00:02:34,120 --> 00:02:36,420 似た構図のシーンどうしでつないでいます 42 00:02:37,650 --> 00:02:42,640 ちなみに「インセプション」では 最初の15分で4つの夢をつないでいます 43 00:02:42,730 --> 00:02:45,041 マッチカットの数? 1個だけです 44 00:02:45,230 --> 00:02:47,950 最も強力な寄生虫は? 45 00:02:48,510 --> 00:02:53,170 このようなカットは非凡ではありますが これを常用している人はいないでしょう 46 00:02:53,280 --> 00:02:55,220 「ハズシ」の効果で使われることが 多いのではないでしょうか 47 00:02:55,330 --> 00:02:57,540 最も有名な例はこれらですね 48 00:03:00,820 --> 00:03:03,250 これもそうですね 素晴らしかった 49 00:03:04,310 --> 00:03:08,520 今監督の作品では夢・記憶・悪夢・映画・人生が 相互に影響しあいます 50 00:03:08,660 --> 00:03:11,390 これらの違う世界を マッチカットでつないでいきます 51 00:03:11,730 --> 00:03:14,000 時にはこうして場面転換を密接させ 52 00:03:14,100 --> 00:03:17,545 あるシーンを認識すると 即次のシーンに移っていきます 53 00:03:21,830 --> 00:03:23,690 これらの場面転換は まさに驚くべきですね 54 00:03:23,790 --> 00:03:26,910 まばたきをすると あるシーンを見逃してしまうかもしれません 55 00:03:36,930 --> 00:03:39,790 これらを別にしても 今監督の編集は異才を放っています 56 00:03:39,910 --> 00:03:43,594 省略を多用するのも特徴です 57 00:03:45,720 --> 00:03:47,590 例えばこのキャラは鍵を見ていて 58 00:03:47,690 --> 00:03:51,750 鍵を手に取りそうなのですが それは写さず次のシーンに移ります 59 00:03:51,870 --> 00:03:53,540 その後他のシーンで…… 60 00:03:57,300 --> 00:03:59,920 男が窓から飛び出して フェードアウトします 61 00:04:00,070 --> 00:04:03,270 そして意味不明なシーンにつながり 夢であることが分かります 62 00:04:03,380 --> 00:04:06,075 そのまま後ろに下がって 先のカットの結果が出ます 63 00:04:08,710 --> 00:04:12,044 殺人シーンでもビルドアップして カットアウェイします 64 00:04:13,030 --> 00:04:15,210 血みどろの結果を見せるのも ためらいません 65 00:04:17,980 --> 00:04:20,930 人物の死を描く方法が 特にいいですね 66 00:04:21,030 --> 00:04:24,240 ここでは老人が死に 風車が止まります 67 00:04:24,590 --> 00:04:26,870 しかし実は死んでおらず 風車も回り出します 68 00:04:27,010 --> 00:04:32,260 そしてシーンの最後 風車が止まっているので彼の死が描かれます 69 00:04:32,870 --> 00:04:35,280 ズームアウトからシーンを始める手法も よく使われています 70 00:04:35,370 --> 00:04:38,498 観客はまず 何が起こっているのかを 理解しなければいけません 71 00:04:38,600 --> 00:04:41,210 このような状況全体を見せる 構図もよく使いますが 72 00:04:41,320 --> 00:04:43,570 じつはこれが人物の視点だったりします 73 00:04:43,670 --> 00:04:46,970 観客は気づかれないうちに 登場人物の世界に入り込んでいるのです 74 00:04:47,330 --> 00:04:51,610 あるイメージを見せて想像させた後 実はまったく違うものを写していることを見せたり 75 00:04:51,730 --> 00:04:54,975 こうして観客の時間・空間の感覚が 主観的なものになっていくのです 76 00:04:56,910 --> 00:05:00,500 また実写では不可能な編集も行います 77 00:05:00,680 --> 00:05:03,370 彼はインタビューで「実写はやらない」と 言っていました 78 00:05:03,470 --> 00:05:05,570 1カットが短すぎるからです 79 00:05:05,770 --> 00:05:06,750 例えば…… 80 00:05:09,810 --> 00:05:11,970 このバッグのショットは わずか6フレームです 81 00:05:12,100 --> 00:05:13,980 比較してみましょう 82 00:05:15,540 --> 00:05:16,700 これが10フレームです 83 00:05:16,780 --> 00:05:18,570 ノートをポケットに入れる仕草は…… 84 00:05:19,000 --> 00:05:20,290 10フレームです 85 00:05:20,380 --> 00:05:21,871 実写では…… 86 00:05:24,100 --> 00:05:25,430 49フレームです 87 00:05:25,620 --> 00:05:31,190 今監督はまた 場面の情報量を減らし 読み取りやすくしています 88 00:05:31,300 --> 00:05:34,700 ウェス・アンダーソンのような 製作者も同じようなことをしています 89 00:05:34,810 --> 00:05:38,594 視覚的インプットを減らして 読むのを速くするのです 90 00:05:40,940 --> 00:05:43,750 もちろんこれよりも ずっと速くカットすることはできます 91 00:05:43,860 --> 00:05:46,030 しかしこれではサブリミナルになります 92 00:05:46,130 --> 00:05:48,313 1フレームのカットも出るでしょう 93 00:05:48,450 --> 00:05:49,930 これらはもちろんチープな エフェクトではありません 94 00:05:50,050 --> 00:05:57,730 人は個人として そして集団として 時間、空間、現実、空想を感じると今監督はいいます 95 00:05:57,880 --> 00:06:01,090 彼のスタイルは これをイメージと音で表現するものです 96 00:06:01,270 --> 00:06:05,570 この10年間の彼のスタイルを 実写で実現することはできるのでしょうか 97 00:06:05,690 --> 00:06:11,220 イメージからイメージ シーンからシーンへの 変化を再現できるでしょうか 98 00:06:11,370 --> 00:06:15,730 彼はマッドハウスとともにこの旅を歩みました 99 00:06:15,840 --> 00:06:18,850 彼の代表作として 最後の作品を推したいと思います 100 00:06:18,955 --> 00:06:22,225 1分で人々の朝を描いている 101 00:06:22,340 --> 00:06:24,020 「オハヨウ」 102 00:07:21,550 --> 00:07:23,822 さようなら 今敏