WEBVTT

00:00:06.624 --> 00:00:08.344
「火を燃やすことは 楽しかった

00:00:08.344 --> 00:00:11.144
物が飲み込まれ
黒く変化するのを見るのは

00:00:11.144 --> 00:00:13.944
格別な喜びだった」

00:00:13.944 --> 00:00:18.844
『華氏451度』は炎を見て
恍惚感に浸るシーンで幕開けしますが

00:00:18.844 --> 00:00:21.894
やがて何が燃えているのかが
明らかになります

NOTE Paragraph

00:00:21.894 --> 00:00:24.394
レイ・ブラッドベリの小説では

00:00:24.394 --> 00:00:28.304
あらゆる生活シーンで書物が禁止され

00:00:28.304 --> 00:00:32.184
蔵書や読書すら禁じられた世界を
想像しました

00:00:32.184 --> 00:00:37.504
主人公モンターグの仕事は
本を焼き尽くしてしまうことです

00:00:37.504 --> 00:00:39.794
しかし 彼が自分の仕事に
疑問を抱くようになると

00:00:39.794 --> 00:00:44.684
この物語は 自由意志や自己表現
好奇心が非難を受ける社会で

00:00:44.684 --> 00:00:49.884
どのように人の心を保つのかという
重要な問題を提起していきます

NOTE Paragraph

00:00:49.884 --> 00:00:54.054
モンターグの世界では
マスメディアが情報を独占しており

00:00:54.054 --> 00:00:57.734
独自に思考する力を
ほぼ完全に奪ってしまいます

00:00:57.734 --> 00:01:01.174
地下鉄では 壁の広告がわめきたて

00:01:01.174 --> 00:01:05.854
家では 妻のミルドレッドが
一日中ずっとラジオや

00:01:05.854 --> 00:01:10.054
三方の壁にはめ込まれた画面を
視聴し続けています

00:01:10.054 --> 00:01:14.244
職場では
灯油の匂いが染みついた同僚たちが

00:01:14.244 --> 00:01:19.234
タバコをくゆらし ロボット犬に
ネズミ狩りをさせて遊んでいます

NOTE Paragraph

00:01:19.234 --> 00:01:23.474
アラームが鳴れば
火トカゲ型の車両で出動し

00:01:23.474 --> 00:01:27.054
図書館を丸ごと焼き尽くしてしまう
こともあります

00:01:27.054 --> 00:01:31.404
しかし 日々 本に火を放ち
「黒い蝶」のように火の粉にしているうちに

00:01:31.404 --> 00:01:37.274
モンターグは 家に隠した禁制品のせいで
時折 気もそぞろになり

00:01:37.274 --> 00:01:40.414
そして 次第に自分の仕事に
疑問を抱くようになります

00:01:40.414 --> 00:01:43.634
モンターグは 自分が常に
不安を抱いていることに気付きますが

00:01:43.634 --> 00:01:48.034
「昔々」と口にするだけでも
命取りになる世界では

00:01:48.034 --> 00:01:52.584
自分の気持ちを表現する
方法がないのです

NOTE Paragraph

00:01:52.584 --> 00:01:55.314
『華氏451度』は監視やロボット工学

00:01:55.314 --> 00:01:59.094
VR（仮想現実）で管理された
世界を描いていますが

00:01:59.094 --> 00:02:04.394
この視点は 先見の明の現れであるだけでなく
当時の世相も反映していました

00:02:04.394 --> 00:02:09.354
この小説は 1953年
まさに冷戦時代に発表されています

00:02:09.354 --> 00:02:12.844
この時代は ブラッドベリの母国である米国で

00:02:12.844 --> 00:02:16.154
言論統制と国家による厳しい追及で
膨れ上がった

00:02:16.154 --> 00:02:21.254
パラノイアや恐怖が
野火のように広がった時でした

00:02:21.254 --> 00:02:23.904
この魔女狩りのような考え方は特に

00:02:23.904 --> 00:02:28.734
共産主義者の疑いをかけられた芸術家や
作家を精神的に追い詰めました

NOTE Paragraph

00:02:28.734 --> 00:02:31.934
ブラッドベリは この文化弾圧に
危機感を抱きました

00:02:31.934 --> 00:02:35.554
彼は これを検閲が広がる
危険な前触れだと信じており

00:02:35.554 --> 00:02:38.924
アレクサンドリア図書館の破壊や

00:02:38.924 --> 00:02:41.994
ファシスト政権での焚書を
思い起こしたのです

00:02:41.994 --> 00:02:45.914
彼は このぞっとするような関係を
紙が燃える温度を書名にした―

00:02:45.914 --> 00:02:49.224
『華氏451度』で追求しました

00:02:49.224 --> 00:02:52.684
この温度の正確性については
疑問が呈されているものの

00:02:52.684 --> 00:02:55.014
そのことにより この作品の

00:02:55.014 --> 00:02:57.764
ディストピア小説としての名声が
揺らぐことはありません

00:02:57.764 --> 00:03:03.064
ディストピア小説とは 社会にある
諸問題を切り取り 誇張して

00:03:03.064 --> 00:03:07.144
それを極限的な設定にした時の
結末を想像するというものです

NOTE Paragraph

00:03:07.144 --> 00:03:08.854
ディストピア小説の多くでは

00:03:08.854 --> 00:03:12.804
政府が いやがる国民を無理やり
締め付けていますが

00:03:12.804 --> 00:03:14.974
『華氏451度』では

00:03:14.974 --> 00:03:17.934
モンターグは 人々の無関心こそが

00:03:17.934 --> 00:03:20.344
現在の体制を生み出したと知るのです

00:03:20.344 --> 00:03:23.284
政府は 人々の飽きっぽさや

00:03:23.284 --> 00:03:25.834
くだらない娯楽への渇望を利用し

00:03:25.834 --> 00:03:29.364
思想が流布することなく
忘れ去られるようにしただけなのです

NOTE Paragraph

00:03:29.364 --> 00:03:33.714
まず文化が消え その後を想像力や
自己表現が続いていきます

00:03:33.714 --> 00:03:36.404
人々の話し方まで
短絡的になっていきます

00:03:36.404 --> 00:03:42.294
それは 上司のビーティが
大衆文化の広がりを話す時のようです

00:03:42.294 --> 00:03:47.234
「フィルムを早送りだ 急げ
カチッ？写真？見ろ 注目 今だ 弾け ここだ

00:03:47.234 --> 00:03:52.774
そこ 急げ ゆっくり 上 下 イン アウト
なぜ どう 誰 何 どこ えっ？ああ！

00:03:52.774 --> 00:03:58.484
バン！バシ！ブン！ビン！ボン！バン！
ダイジェストの要約 要約のそのまた要約版

00:03:58.484 --> 00:04:03.634
政治問題？１段２行の見出しで十分！
どのみち 忘れ去られるさ！」

00:04:03.634 --> 00:04:08.254
支えとなるものが何も残っていない
この荒廃した世界では

00:04:08.254 --> 00:04:10.704
抗うことが難しいことを
モンターグは 悟るのです

00:04:10.704 --> 00:04:15.014
総じて『華氏451度』は
風前の灯火状態の

00:04:15.014 --> 00:04:16.434
独自の思想の描写であり

00:04:16.434 --> 00:04:19.824
社会自体が燃やされてしまうことに
加担してしまうような

00:04:19.824 --> 00:04:21.984
社会のたとえ話でもあるのです