WEBVTT 00:00:14.768 --> 00:00:17.152 文学評論家ノースロップ・フライは かつて次のように述べました 00:00:17.152 --> 00:00:22.368 文学作品に登場するヒーローは かつては神々に近く 00:00:22.368 --> 00:00:26.519 文明が発達するに従い 彼らは神々の山から下り 00:00:26.519 --> 00:00:32.636 より人間らしく 欠点を持ち 英雄的でなくなりました 00:00:32.636 --> 00:00:35.101 ヘラクレスのように神に近いヒーローから 00:00:35.101 --> 00:00:40.120 少し山を下りると ベオウルフのように 奇跡的であるが死を免れないヒーロー 00:00:40.120 --> 00:00:42.487 アーサー王のような偉大なリーダー 00:00:42.487 --> 00:00:47.186 マクベスやオセロのように偉大だが 欠点のあるヒーローがいます 00:00:47.186 --> 00:00:51.987 さらに下にはハリー・ポッター ルーク・スカイウォーカーやヒックのように 00:00:51.987 --> 00:00:54.919 思いがけずになってしまったヒーロー 00:00:54.919 --> 00:00:59.252 そして底まで辿り着くと アンチヒーローに出会えます 00:00:59.252 --> 00:01:04.087 言葉とは裏腹に アンチヒーローは 悪者でも敵対者でもありません 00:01:04.087 --> 00:01:08.451 実際 アンチヒーローは いくつかの現代文学では主人公です 00:01:08.451 --> 00:01:13.470 『華氏451度』のガイ・モンタグ 『1984』のウィンストン・スミス 00:01:13.470 --> 00:01:16.871 彼らは知らず知らず 最後には権力者たち― 00:01:16.917 --> 00:01:24.769 つまり権力を乱用し 社会の悪は排除されたと 民衆を洗脳する者に立ち向かいます 00:01:24.769 --> 00:01:30.501 理想的には 体制に刃向かう彼らは 賢く 自信に満ち 勇敢で 00:01:30.501 --> 00:01:34.802 力が強く 追従者を鼓舞するような カリスマ性を持っているべきです 00:01:34.802 --> 00:01:40.018 しかし アンチヒーローは 良くても 持っている特性は完璧でなく 00:01:40.018 --> 00:01:42.569 最悪の場合 完全に不器用です 00:01:42.569 --> 00:01:48.552 アンチヒーローの物語は 普通次のように展開します 00:01:48.552 --> 00:01:52.837 最初は従順で 無知ゆえに 既成の概念を受け入れ 00:01:52.837 --> 00:01:57.886 疑うことを知らない 洗脳された 典型的な共同体の一員です 00:01:57.886 --> 00:02:01.786 アンチヒーローは従うことにもがき 異議を唱え始め 00:02:01.786 --> 00:02:05.537 ときに共に疑問を発する部外者を見つけ 00:02:05.537 --> 00:02:12.651 無邪気かつ愚かなことに 疑問を権力者と共有します 00:02:12.651 --> 00:02:15.069 アンチヒーローは社会に公然と挑戦し 00:02:15.069 --> 00:02:19.269 民衆を服従させるために使われている 嘘と策略に戦いを挑みます 00:02:19.269 --> 00:02:26.102 この段階が勇敢で賢く英雄的な抵抗と なることは滅多にありません 00:02:26.102 --> 00:02:30.653 アンチヒーローが戦い 抑圧的な政府を壊滅するにしても 00:02:30.653 --> 00:02:33.386 あり得ない幸運に恵まれたおかげです 00:02:33.386 --> 00:02:38.185 また別の日に戦うべく 逃げるかも知れません 00:02:38.185 --> 00:02:43.319 しばしば アンチヒーローは殺されるか 洗脳されて 00:02:43.319 --> 00:02:45.969 集団へ再度服従させられます 00:02:45.969 --> 00:02:52.451 英雄的な勝利や現代社会の 非人間的な制度に対する勇敢な抵抗もなければ 00:02:52.451 --> 00:03:01.786 戦うよう他者を奮起させたり 悪の帝国を 賢く出し抜いて負かすこともありません 00:03:01.786 --> 00:03:05.552 私たちの祖先の物語では 無力さに対する恐れを静めるため 00:03:05.552 --> 00:03:10.618 焚火の向こうの闇に潜んでいるであろう 悪魔や怪物を倒すのに十分な力を持つ 00:03:10.618 --> 00:03:14.935 ヘラクレスや他のヒーローを登場させました 00:03:14.935 --> 00:03:19.152 しかし最終的に 怪物は外にいるのではなく 00:03:19.152 --> 00:03:22.685 自らの中にあることを私たちは悟りました 00:03:22.685 --> 00:03:25.951 ベオウルフの最大の敵は死でした 00:03:25.951 --> 00:03:28.136 オセロの敵は嫉妬 00:03:28.136 --> 00:03:30.636 ヒックの敵は自信喪失でした 00:03:30.636 --> 00:03:36.168 そして無力なアンチヒーローの物語である ガイ・モンタグとウィンストン・スミスの話には 00:03:36.168 --> 00:03:41.518 原始的な恐怖に訴えかける 現代作家による警告が潜んでいます 00:03:41.518 --> 00:03:45.719 つまり私たちは 怪物を倒すほど強くないのです 00:03:45.719 --> 00:03:50.169 今回に限っては 焚火が怪物を追い払ったのではなく 00:03:50.169 --> 00:03:54.686 そもそも当の怪物が火を焚いたのでした