1
00:00:06,837 --> 00:00:10,044
あなたの脳を ある機械に繋ぎ

2
00:00:10,044 --> 00:00:13,320
これから一生 至上の快楽に浸れる―

3
00:00:13,320 --> 00:00:17,620
そんな選択肢があるなら
経験してみたいですか

4
00:00:17,620 --> 00:00:20,163
これは哲学者ロバート・ノージックが

5
00:00:20,163 --> 00:00:24,115
「経験機械」という思考実験から
立てた問いです

6
00:00:24,115 --> 00:00:26,295
こんな世界について考える実験です

7
00:00:26,295 --> 00:00:30,376
科学者がバーチャルな世界を
産み出す機械を開発しました

8
00:00:30,376 --> 00:00:35,610
その機械は 快楽だけで
苦痛は全くない世界を保証してくれます

9
00:00:35,610 --> 00:00:36,540
問題は―

10
00:00:36,540 --> 00:00:39,012
現実に戻れなくなるんです

11
00:00:39,012 --> 00:00:40,845
でもほとんど違いに気づかないでしょう

12
00:00:40,845 --> 00:00:44,246
機械で体験する事と現実との
見分けがつかなくなるのです

13
00:00:44,246 --> 00:00:45,758
浮き沈みがあるはずの人生が

14
00:00:45,758 --> 00:00:49,835
浮きっぱなしになるでしょう

15
00:00:49,835 --> 00:00:51,401
素晴らしいですね

16
00:00:51,401 --> 00:00:56,097
魅力的に思えます
でも それほど理想的でもないかも

17
00:00:56,097 --> 00:00:59,882
実はこの実験は
快楽主義という哲学的見解に

18
00:00:59,882 --> 00:01:01,580
反論する為のものでした

19
00:01:01,580 --> 00:01:02,997
快楽主義者によると

20
00:01:02,997 --> 00:01:06,940
快楽の総計を最大化する事が
人生で何よりも大切で その理由は

21
00:01:06,940 --> 00:01:10,309
快楽は人生で得られる最高の善だから
というものです

22
00:01:10,309 --> 00:01:13,487
快楽主義者が何よりも望むものは

23
00:01:13,487 --> 00:01:17,122
可能な限り最大の快楽を
自分にもたらしてくれて

24
00:01:17,122 --> 00:01:19,331
苦痛は全くない生活です

25
00:01:19,331 --> 00:01:23,699
限りない快楽から苦痛を差し引いたとき
快楽の総計が最大になります

26
00:01:23,699 --> 00:01:28,424
つまり まさにそれが
「経験機械」から得られるものなんです

27
00:01:28,424 --> 00:01:30,964
もし快楽主義をあなたが選択するなら

28
00:01:30,964 --> 00:01:33,979
この機械に繋がれる事には
なんの躊躇もないでしょうが

29
00:01:33,979 --> 00:01:36,766
もし人生には単なる快楽より
大事なものがあるとしたら？

30
00:01:36,766 --> 00:01:39,047
ノージックは「経験機械」の思考実験で

31
00:01:39,047 --> 00:01:42,194
それを示そうとしたのです

32
00:01:42,194 --> 00:01:45,117
機械が 最大の快楽を
保証するにも拘らず

33
00:01:45,117 --> 00:01:47,591
この命題を考える
他の研究者達の様に

34
00:01:47,591 --> 00:01:51,857
機械に繋がれるべきでない理由を
彼は探し出しました

35
00:01:51,857 --> 00:01:56,670
至上の快楽を約束する未来を
断念させるものとは何なのでしょう？

36
00:01:56,670 --> 00:01:58,156
これを考えて下さい

37
00:01:58,156 --> 00:02:01,073
ベッツィとザンダーは
恋愛関係にあります

38
00:02:01,073 --> 00:02:04,321
ベッツィはザンダーにぞっこんで
至福の気持ちですが

39
00:02:04,321 --> 00:02:06,053
ベッツィに気付かれないところで

40
00:02:06,053 --> 00:02:09,201
ザンダーは彼女の妹アンジェリカとも
恋仲にあります

41
00:02:09,201 --> 00:02:14,403
２人はずっと手紙や密会で
関係を続けてきました

42
00:02:14,403 --> 00:02:15,524
それをベッツィが知れば

43
00:02:15,524 --> 00:02:19,482
ザンダーやアンジェリカと
彼女との関係は崩れてしまい

44
00:02:19,482 --> 00:02:23,488
彼女は 大きな打撃を受け
二度と立ち上がれないかもしれません

45
00:02:23,488 --> 00:02:26,632
ベッツィはザンダーの不実に
全く気付いていないので

46
00:02:26,632 --> 00:02:30,000
快楽主義者なら
彼女は何も知らないまま恋愛を続け

47
00:02:30,000 --> 00:02:33,628
快楽の総計を高く保つ方がいい
と言うでしょう

48
00:02:33,628 --> 00:02:36,485
彼女が 妹と彼との関係を
知らずにいる限り

49
00:02:36,485 --> 00:02:41,204
彼女の人生は今と同じ幸せが
保証されています

50
00:02:41,204 --> 00:02:45,823
彼女が自分の置かれた真の状況を
知ることに価値はあるでしょうか？

51
00:02:45,823 --> 00:02:47,561
あなたがベッツィなら

52
00:02:47,561 --> 00:02:49,909
真実を知りたいと思いますか？

53
00:02:49,909 --> 00:02:51,060
そうすると

54
00:02:51,060 --> 00:02:55,340
快楽の総計は
著しく減少してしまいます

55
00:02:55,340 --> 00:02:57,943
これを選択するあなたはおそらく
人生には快楽よりも

56
00:02:57,943 --> 00:03:00,943
もっと大きな本質的価値を
持つものがあると信じているのです

57
00:03:00,943 --> 00:03:04,807
真実 知識 嘘のない関係などが

58
00:03:04,807 --> 00:03:07,666
それにあたるものです

59
00:03:07,666 --> 00:03:09,066
彼女が真実を知らないままなら

60
00:03:09,066 --> 00:03:13,209
根本的に 自分用の「経験機械」に
繋がれ暮らしているようなものです

61
00:03:13,209 --> 00:03:17,028
それは現実に基づかない幸福の世界です

62
00:03:17,028 --> 00:03:19,341
この三角関係は 極端な例ですが

63
00:03:19,341 --> 00:03:23,646
私たちの日々の選択を映し出しています

64
00:03:23,646 --> 00:03:26,570
誰の為であるにしても
何かを選択する際

65
00:03:26,570 --> 00:03:30,098
何故 現実を見つめなければ
ならないのでしょう？

66
00:03:30,098 --> 00:03:33,115
心地良い経験にしても
苦痛にしても

67
00:03:33,115 --> 00:03:35,518
実経験に 固有の価値が
あるのでしょうか？

68
00:03:35,518 --> 00:03:37,388
あなた自身

69
00:03:37,388 --> 00:03:41,852
快楽や痛みを経験する度
自分の価値が上がりますか？

70
00:03:41,852 --> 00:03:44,358
ノージックの実験は
全てには答えられないでしょうが

71
00:03:44,358 --> 00:03:48,572
私たちの現実は 完璧ではないにしても
機械から得られるような快楽を超える

72
00:03:48,572 --> 00:03:52,895
何か本質的な価値があるのでは
と私たちに考えさせてくれます