0:00:02.246,0:00:07.193 私は 2人の可愛い子供たちが自慢の父親です 0:00:07.217,0:00:11.535 15歳のイライジャと[br]12歳のオクタビアです 0:00:12.313,0:00:15.630 イライジャが4年生だった時 0:00:15.630,0:00:17.242 学校から戻るなり 私のもとに来て 0:00:17.242,0:00:21.956 その日学んだことについて[br]興奮気味に話してくれました 0:00:21.956,0:00:25.046 アフリカ系アメリカ人の[br]歴史についてでした 0:00:25.070,0:00:29.502 さて 私はアフリカ系アメリカ人で[br]文化研究の教授ですので 0:00:29.526,0:00:31.667 想像に難くないでしょうが 0:00:31.691,0:00:34.682 アフリカ系アメリカ人文化を[br]我が家では真面目に受け止めています 0:00:34.682,0:00:38.888 ですので その日学校で習ったことが[br]息子の興味をそそったことを 0:00:38.912,0:00:40.063 私は誇らしく思いました 0:00:40.087,0:00:42.027 そこで聞きました[br]「何を学んだんだい?」 0:00:42.051,0:00:45.529 息子は答えました[br]「ローザ・パークスについて習ったよ」 0:00:45.907,0:00:48.959 「そうか ローザ・パークスの[br]何を学んだのかな?」と聞くと 0:00:48.983,0:00:54.497 こう言いました[br]「ローザ・パークスは1950年代 0:00:54.521,0:00:56.371 アラバマ州モンゴメリーで活動した 0:00:56.395,0:00:58.829 か弱い年老いた黒人女性なんだ 0:00:58.853,0:01:01.103 そして 足が疲れていたから 0:01:01.127,0:01:03.095 バスの座席に座って 0:01:03.119,0:01:08.052 運転手から白人の乗客に[br]席を譲るように言われた時 0:01:08.076,0:01:10.752 足の疲れを理由に拒否したんだ 0:01:10.776,0:01:12.305 その日は1日中働き詰めだったし 0:01:12.305,0:01:13.883 抑圧されるのに疲れていたから 0:01:13.907,0:01:15.776 席を譲るのを拒否したんだ 0:01:15.776,0:01:18.263 マーチン・ルーサー・キング牧師と[br]デモ行進して 0:01:18.263,0:01:19.965 非暴力を信じていたんだ」 0:01:19.989,0:01:23.153 息子はおそらく[br]私の顔を見て察したようです 0:01:23.177,0:01:27.707 彼が話してくれた—[br]その 何と言いましょうか— 0:01:27.731,0:01:29.141 「歴史の授業」に 0:01:29.484,0:01:30.704 私があまり 0:01:30.754,0:01:32.084 感心していないことを 0:01:32.134,0:01:36.788 そこで息子は話をやめて こう聞きました[br]「お父さん 僕何か悪いこと言った?」 0:01:36.812,0:01:38.901 私は言いました[br]「お前は何も悪くないんだよ 0:01:38.925,0:01:41.685 先生が言ったことが[br]何から何まで間違っているんだ」 0:01:41.709,0:01:42.719 (笑) 0:01:42.743,0:01:44.415 「どういうこと?」と聞くので 0:01:44.439,0:01:47.679 こう答えました[br]「ローザ・パークスは疲れていなかったし 0:01:48.780,0:01:51.329 年老いてもいなかったんだ 0:01:51.353,0:01:54.409 足も疲れていなかったんだよ」 0:01:54.409,0:01:55.411 「そうなの?」 0:01:55.411,0:01:56.513 「そうだよ」 0:01:56.513,0:01:59.128 「ローザ・パークスは[br]当時まだ42歳だったんだよ 0:02:00.261,0:02:02.605 驚いたろう?[br]初めて聞く事だよね 0:02:02.629,0:02:04.586 ローザ・パークスはまだ42歳で 0:02:04.610,0:02:09.354 職業は裁縫婦で[br]その日は6時間働いただけだったから 0:02:09.378,0:02:11.746 足も元気だったんだ 0:02:11.770,0:02:12.901 (笑) 0:02:12.925,0:02:15.624 唯一疲れていたことがあったのならば 0:02:15.648,0:02:18.071 人種不平等に対してだね 0:02:18.095,0:02:20.161 抑圧されることに疲れ切っていたんだよ」 0:02:20.185,0:02:21.473 すると息子が言いました 0:02:21.497,0:02:25.455 「どうして先生は[br]あんなことを言ったのかな 0:02:25.479,0:02:27.353 頭が混乱してきたよ」 0:02:27.377,0:02:30.779 良い先生で 息子は先生が大好きでした 0:02:30.803,0:02:33.746 見た目20代の 若めの白人女性で 0:02:33.770,0:02:37.481 非常に聡明で 息子の成長を後押ししてくれ[br]私も好意的に思っていました 0:02:37.505,0:02:40.498 でも 息子は困惑しました[br]「なぜ先生はあんなことを言ったの?」 0:02:40.522,0:02:44.033 「父さん ローザ・パークスのこと[br]もっともっと教えてよ」とせがむので 0:02:44.057,0:02:46.310 こう言いました[br]「それより良い方法があるよ」 0:02:46.884,0:02:48.037 「何?」と聞くので 0:02:48.061,0:02:50.121 「彼女の自伝を買ってあげるから 0:02:50.145,0:02:52.183 それを自分で読んでみなさい」[br]と答えました 0:02:52.207,0:02:54.899 (笑) 0:02:55.787,0:02:57.434 ご想像の通り 0:02:58.453,0:03:03.090 イライジャは 父から新たに課された[br]時間のかかる宿題に 0:03:03.114,0:03:06.892 あまり嬉しくなさそうでしたが[br]着々とこなし 0:03:07.451,0:03:11.097 読み終えたあと 私の元へ来て 0:03:11.121,0:03:15.039 学びとったことを[br]嬉々として話してくれました 0:03:15.063,0:03:22.062 「お父さん ローザ・パークスは[br]元から非暴力主義だったわけではないし 0:03:22.086,0:03:26.622 むしろ 育ててくれた お祖父さんは 0:03:26.646,0:03:28.806 白人で通るほど肌の色が薄くて 0:03:28.830,0:03:33.470 ホルスターに銃を入れて[br]街を歩き回っていたから 0:03:33.494,0:03:38.449 周囲からは パークスさんちの[br]子供たちに手出しをしたら 0:03:38.473,0:03:42.684 命はないって恐れられていたんだ[br]◯◯の穴から銃を突っ込まれるって 0:03:42.708,0:03:43.910 (笑) 0:03:43.934,0:03:45.094 可笑しいですよね 0:03:45.118,0:03:47.437 お祖父さんは[br]怒らせちゃいけない人だったのです 0:03:47.922,0:03:52.713 息子は続けます[br]「ローザ・パークスの旦那さんは 0:03:52.713,0:03:57.207 レイモンドという名の[br]お祖父さんに似たタイプの人だったんだ 0:03:57.884,0:03:59.329 抵抗組織を結成したり 0:03:59.353,0:04:01.669 公民権運動の活動家だったから 0:04:01.693,0:04:05.308 集会を開いたりしてたんだって 0:04:05.332,0:04:10.271 時には ローザ・パークスと暮らす家でも[br]開催してたんだ 0:04:10.295,0:04:12.315 ある時 ローザが言ったんだ 0:04:12.339,0:04:14.654 誰かが家に襲撃してきたり 0:04:14.654,0:04:17.362 何かが破壊されたりした時に[br]備えられるように 0:04:17.362,0:04:20.292 テーブルの上に置いてある[br]拳銃の数があまりに多かったから 0:04:20.312,0:04:22.752 こう言ったんだ[br]『テーブルに銃が沢山ありすぎて 0:04:22.752,0:04:26.430 コーヒーや食べ物を[br]出し忘れたじゃないの』」 0:04:26.972,0:04:29.403 これがローザ・パークスの素顔です 0:04:29.427,0:04:33.964 実のところ ローザ・パークスが[br]あの日バスの座席に座って 0:04:33.984,0:04:37.835 その後 何が起きるかもわからない状態で[br]警察官の到着を待つ間 0:04:37.859,0:04:39.746 ローザの脳裏にあったのは 0:04:39.746,0:04:43.407 当時 ほとんど知らなかった[br]キング牧師のことではなく 0:04:43.431,0:04:46.271 非暴力やガンジーのことでもなく 0:04:46.295,0:04:48.226 お祖父さんのことでした 0:04:48.250,0:04:51.596 あの 銃を持ち歩き[br]怒らせてはいけないと皆が恐れた 0:04:51.618,0:04:55.838 あのお祖父さんこそが [br]その時のローザの心中にあった人です 0:04:55.862,0:04:59.536 息子はローザ・パークスに夢中になり 0:04:59.560,0:05:02.507 私は その興奮ぶりを誇らしく感じました 0:05:03.125,0:05:05.183 でも 問題は依然残っていました 0:05:05.207,0:05:07.762 息子の学校へ行き 0:05:07.786,0:05:09.793 先生に話をしなきゃならなかったのです 0:05:09.817,0:05:13.116 明らかに史実に反する内容を[br]この先も生徒たちに 0:05:13.140,0:05:15.512 教え続けてほしくなかったからです 0:05:15.885,0:05:17.316 これには とても悩みました 0:05:17.340,0:05:20.800 その大きな理由は[br]アフリカ系アメリカ人が 0:05:20.824,0:05:23.168 人種差別や[br]人種に関するデリケートな内容を 0:05:23.192,0:05:25.197 白人相手に話すときは 0:05:25.221,0:05:27.179 概して困難を伴うものだからです 0:05:27.203,0:05:33.263 白人の社会学者ロビン・ディアンジェロが[br]「白人の脆さ」と呼ぶものです 0:05:33.287,0:05:35.084 ディアンジェロ女史が言うには 0:05:35.108,0:05:39.147 白人は実に 既得の白人特権について[br]異議を唱えられる経験を 0:05:39.171,0:05:40.644 ほとんどしたことがないために 0:05:40.668,0:05:44.163 目の前に異議を突きつけられると[br]どんなに些細なことであっても 0:05:44.187,0:05:46.010 大抵は 泣き出したり 0:05:46.034,0:05:47.185 怒り出したり 0:05:47.209,0:05:48.360 逃げ出したりするのです 0:05:48.384,0:05:49.389 (笑) 0:05:49.413,0:05:52.400 私は すべて経験済みです 0:05:52.424,0:05:58.236 ですから 先生と対峙しようかと[br]思いあぐねている時 0:05:58.260,0:05:59.833 あまりいい気はしませんでしたが 0:05:59.857,0:06:01.920 それでも 黒人の親として 0:06:01.944,0:06:06.246 黒人の子供が自己実現を果たせるように[br]育てる上での 必要悪と割り切りました 0:06:06.270,0:06:07.947 そこで 息子を呼び 言いました 0:06:07.971,0:06:12.744 「イライジャ 父さんは[br]先生に面談を申し込もうと思う 0:06:12.768,0:06:13.976 多分校長先生も交えて 0:06:14.000,0:06:15.237 間違えを正したいんだ 0:06:15.261,0:06:16.662 どう思う?」 0:06:16.686,0:06:17.837 するとイライジャは 0:06:17.861,0:06:19.997 「もっといい考えがあるよ」[br]と言いました 0:06:21.021,0:06:23.098 「本当かい? どんなことかな?」[br]と聞くと 0:06:23.108,0:06:24.139 息子は言います 0:06:24.159,0:06:27.748 「パブリック・スピーキングの[br]課題があるから 0:06:27.768,0:06:33.804 そのテーマをローザ・パークの真実を暴く[br]というのにしたらどうかな」 0:06:34.756,0:06:35.913 それを聞いた私は 0:06:36.435,0:06:38.262 「いいじゃないか」と言いました 0:06:39.850,0:06:43.083 そんなわけで イライジャは学校に行き 0:06:43.107,0:06:44.886 発表を行いました 0:06:44.910,0:06:46.404 学校から帰ってきた時 0:06:46.428,0:06:48.801 何かいい事があったのだと分かりました 0:06:48.825,0:06:50.736 「何があったんだい」と聞くと 0:06:51.231,0:06:53.411 息子は「授業が終わった後 0:06:53.435,0:06:55.379 先生が『ちょっと来て』って 0:06:55.403,0:06:59.999 そして 間違った内容を教えたことを[br]謝ってくれたんだ」と言いました 0:07:00.771,0:07:04.299 翌日 奇跡のようなことがもう一つありました 0:07:04.323,0:07:08.032 先生は ローザ・パークスについて[br]改めて授業を行い 0:07:08.056,0:07:12.370 前回触れなかったことを追加し[br]誤って教えたことを訂正してくれました 0:07:12.394,0:07:16.988 そんなわけで[br]息子を心から誇らしく思いました 0:07:17.956,0:07:20.644 けれど よくよく考えるにつれ 0:07:21.875,0:07:23.090 腹が立ってきました 0:07:23.565,0:07:25.121 心から怒りを覚えました 0:07:26.344,0:07:28.062 一体なぜ腹が立ったのでしょう 0:07:28.878,0:07:33.852 それは 私の9歳の息子が 先生に対し[br]自分たち黒人の歴史について 0:07:33.876,0:07:35.367 また 黒人という人種について 0:07:35.391,0:07:38.441 教育を施さねばならなかった事に[br]腹が立ったのです 0:07:38.465,0:07:40.134 息子はまだ9歳です 0:07:40.784,0:07:44.001 バスケットボールやサッカー[br]最近の映画のことだけを 0:07:44.025,0:07:46.496 考えていれば良い年頃です 0:07:46.520,0:07:50.687 先生やクラスメートに対し 0:07:50.711,0:07:53.074 自分の人種のことや その歴史について 0:07:53.098,0:07:56.161 レッスンをする責任があるというような 0:07:56.185,0:07:58.652 心配はしなくて良いはずなのです 0:07:58.676,0:08:00.303 それは私自身や私の両親 0:08:00.327,0:08:02.350 そしてそれ以前の世代の人間が 0:08:02.374,0:08:04.104 抱えていた重荷です 0:08:04.128,0:08:08.945 今 その重荷が 私の息子にまでも[br]引き継がれるのを目の当たりにしました 0:08:09.513,0:08:14.443 それこそ ローザ・パークスが[br]自伝を執筆した理由なのです 0:08:14.467,0:08:16.205 想像してみてください 0:08:16.229,0:08:17.745 彼女は その生涯を通じ 0:08:17.769,0:08:22.384 素晴らしい功績を残しました 0:08:22.408,0:08:26.327 精力的で 公民権運動に力を注ぎ[br]それでもなお 0:08:26.351,0:08:28.284 いざ話が伝えられはじめると 0:08:28.308,0:08:31.199 そこでは内容がすり替えられ 0:08:31.223,0:08:33.863 年老いて足の疲れた女性が 0:08:33.887,0:08:36.208 偶然 活動家になったなどと語られ 0:08:36.232,0:08:40.093 彼女が バス・ボイコット事件に関わった[br]20年前もから活動家であった事 0:08:40.117,0:08:43.491 ボイコットは何ヶ月もかけて[br]計画されていた事 0:08:43.515,0:08:47.986 ボイコットを行い 逮捕された女性は[br]ローザ以前にも1人や2人ならずいた事 0:08:48.010,0:08:49.867 どれも語られません 0:08:51.160,0:08:55.992 ローザは その生存中にさえ[br]偶然の活動家に仕立て上げられたのです 0:08:56.016,0:08:59.146 だから 彼女は記録を是正するべく[br]自伝を執筆しました 0:08:59.170,0:09:02.438 人々に知ってもらいたかったらです 0:09:03.468,0:09:05.567 これこそが 0:09:05.591,0:09:06.782 当時 0:09:07.813,0:09:10.984 1950年代のアメリカで 0:09:11.008,0:09:13.725 黒人が権利を求めて戦うということなのだと 0:09:13.749,0:09:16.087 伝えたかったのです 0:09:16.561,0:09:20.068 バス・ボイコットが続いた1年強の間に 0:09:21.298,0:09:23.927 教会爆破テロが4件以上おきました 0:09:23.951,0:09:26.955 キング牧師の家も2度にわたり[br]爆弾テロ攻撃を受けました 0:09:27.392,0:09:30.865 バーミンガムの他の公民権活動主導者たちも[br]家が爆弾テロに遭いました 0:09:31.587,0:09:36.855 ローザ・パークスの夫は毎晩[br]ショットガンを抱えて眠りにつきました 0:09:36.879,0:09:39.146 ひっきりなしに殺人予告を受けていたからです 0:09:39.170,0:09:41.676 実際 同居していた[br]ローザ・パークスの母親は 0:09:41.700,0:09:44.176 時に 何時間も電話を切らず[br]話し続けたほどです 0:09:44.200,0:09:47.360 執拗にかかってくる殺人予告の電話を 0:09:47.384,0:09:49.609 ブロックするためでした 0:09:49.633,0:09:52.260 それどころか あまりの緊迫感 0:09:52.284,0:09:54.941 あまりの重圧[br]あまりに多発するテロ攻撃のせいで 0:09:54.965,0:09:57.492 ローザ・パークスと夫は職を失い 0:09:57.516,0:09:59.580 再就職もままならず 0:09:59.604,0:10:03.636 しまいには 南部を離れることを[br]余儀なくされました 0:10:05.558,0:10:10.342 これが ローザ・パークスが人々に[br]理解してもらおうとした 0:10:10.486,0:10:13.154 公民権運動の現実です 0:10:13.981,0:10:19.552 皆さんは「で それが[br]私とどう関係あると言うのですか 0:10:19.576,0:10:21.506 私は善意の人で 0:10:21.530,0:10:23.064 奴隷は所有していませんでしたし 0:10:23.088,0:10:24.843 史実をごまかすつもりもありません 0:10:24.867,0:10:27.155 私は善良な人間です」 [br]と言われるかもしれません 0:10:28.263,0:10:30.446 これが皆さんにどう関係するか[br]お話しします 0:10:30.470,0:10:32.934 私の教授の話を例にしましょう 0:10:32.958,0:10:36.485 大学院在学中に師事した白人の教授で 0:10:36.509,0:10:40.874 本当に素晴らしい人物でした 0:10:40.898,0:10:42.176 「フレッド」と呼びましょう 0:10:43.061,0:10:47.710 フレッドは 公民権運動の歴史の本を[br]執筆していましたが 0:10:47.734,0:10:50.215 特に 自身の[br]ノースカロライナでの経験 — 0:10:50.239,0:10:52.151 ある白人男性が見通しの良い場所で 0:10:52.175,0:10:56.438 黒人男性を無残に銃殺し[br]なおも有罪判決を受けなかった出来事に 0:10:56.462,0:10:57.995 焦点を当てて書いていました 0:10:58.769,0:11:00.537 そして この素晴らしい本が出来ました 0:11:00.561,0:11:04.273 フレッドは 最終稿提出前に[br]原稿を読んでもらおうと 0:11:04.297,0:11:08.878 何人かの教授仲間を招待し[br]そこに私も呼ばれました 0:11:08.902,0:11:10.744 呼ばれたことを光栄に思いました 0:11:10.768,0:11:12.488 当時私は 一介の大学院生でしたから 0:11:12.512,0:11:16.420 「おお すごいぞ」みたいな[br]少し得意な気持ちになりました 0:11:16.444,0:11:19.014 知的階級に囲まれて座った私は 0:11:19.038,0:11:23.540 本の原稿を読みました 0:11:23.564,0:11:25.559 すると ある場面が引っかかり 0:11:25.583,0:11:28.226 これは深刻な問題だと思ったのです 0:11:28.250,0:11:29.415 そこで 0:11:29.439,0:11:33.015 皆で座り 原稿について話していた時[br]私は言いました 0:11:33.039,0:11:37.726 「先生のお宅のメイドについて[br]語っている部分が 0:11:37.750,0:11:40.968 非常に引っかかるんです」 0:11:40.992,0:11:47.685 フレッドの少し硬直する様子が[br]見て取れました 0:11:47.709,0:11:51.472 「どういうことかな?[br]素晴らしいエピソードと思うのだけど 0:11:51.496,0:11:53.347 書かれた通りの事実だよ」 0:11:53.371,0:11:56.351 そこで言いました[br]「私の解釈を聞いていただけませんか」 0:11:56.900,0:11:58.303 さて どんな話だったかって? 0:11:58.303,0:11:59.920 1968年の事でした 0:12:00.649,0:12:03.785 ちょうど キング牧師が暗殺された[br]直後のことです 0:12:04.443,0:12:08.580 教授のメイド というか「家政婦」ですが[br]ここでは「メイベル」と呼びます 0:12:08.604,0:12:09.929 彼女はキッチンにいました 0:12:10.706,0:12:12.312 幼いフレッドは8歳でした 0:12:12.336,0:12:14.177 幼いフレッドがキッチンに行くと 0:12:14.968,0:12:21.119 いつもは笑顔を絶やさず[br]働き者で楽しげにしか見えなかったメイベルが 0:12:21.143,0:12:23.425 流し台に上半身を屈めて 0:12:23.449,0:12:24.859 泣いていました 0:12:25.896,0:12:27.311 慰めようのないほど 0:12:28.479,0:12:29.684 すすり泣いていたのです 0:12:30.604,0:12:34.781 幼いフレッドは彼女の元に行き[br]「メイベル 何かあったの?」と聞きました 0:12:35.941,0:12:37.980 メイベルは 振り向きざまに言いました 0:12:38.004,0:12:42.550 「私たちの主導者が殺されたのよ[br]マーチン・ルーサー・キング牧師が殺されたの 0:12:42.574,0:12:45.916 死んでしまったの 酷い人たちだわ」 0:12:47.054,0:12:48.873 幼いフレッドは言います 0:12:48.897,0:12:52.222 「大丈夫だよメイベル[br]きっと大丈夫だからね」 0:12:52.246,0:12:55.345 メイベルはフレッドを見て言います[br]「いいえ 大丈夫じゃない 0:12:55.369,0:12:57.311 今言ったことを聞いていなかったの? 0:12:57.335,0:12:59.614 マーチン・ルーサー・キング牧師が[br]殺されたの」 0:13:01.106,0:13:03.087 フレッドは 0:13:03.111,0:13:04.484 牧師の息子だったので 0:13:05.882,0:13:08.344 メイベルを見上げ こう言いました 0:13:08.368,0:13:13.369 「でもねメイベル キリスト様は[br]僕たちの罪を背負って磔になり 0:13:13.784,0:13:15.326 それが良い結果をもたらしたよね 0:13:15.350,0:13:18.742 今回のことも同じかもしれない 0:13:18.766,0:13:23.399 キング牧師が亡くなったことも[br]良い結果をもたらすかもしれないよ」 0:13:24.100,0:13:26.374 フレッドの語りでは 0:13:26.398,0:13:30.250 それを聞いたメイベルは[br]手を口元に当て 0:13:31.417,0:13:34.116 フレッドに向かって屈み込み [br]ハグしてくれて 0:13:35.002,0:13:37.579 そのあと 冷蔵庫に手を伸ばし 0:13:37.603,0:13:39.879 ペプシを2本取り出し 0:13:39.903,0:13:41.359 フレッドに渡して 0:13:41.383,0:13:44.228 きょうだいと遊んでくるよう[br]促したとのことです 0:13:44.948,0:13:46.511 続いて フレッドは 0:13:46.535,0:13:52.169 「この話は 最も痛々しい人種間の軋轢が[br]起こっている時期においてなお 0:13:52.193,0:13:55.445 2人の人が 人種の壁を超え一つになり[br]愛情と好意を通じて 0:13:55.469,0:13:57.665 人としての共通点を[br]見出すことができることを 0:13:57.689,0:14:00.359 証明するものとなった」と[br]締めくくっていました 0:14:00.383,0:14:04.228 私は言いました「フレッド先生[br]かなりデタラメな話ですね」 0:14:04.252,0:14:06.252 (笑) 0:14:06.803,0:14:08.179 (拍手) 0:14:08.203,0:14:11.155 フレッドの反応は 0:14:11.179,0:14:14.752 「言っている事がわからないな[br]この通りの話だったんだよ」 0:14:14.776,0:14:16.930 「ならお伺いしますが 0:14:17.732,0:14:23.951 これは1968年[br]ノースカロライナでの話ですよね 0:14:23.975,0:14:26.960 先生は8歳の子供だったわけですが 0:14:26.984,0:14:29.455 メイベルが住んでいた近所の[br]8歳の黒人の子供たちは 0:14:29.455,0:14:30.806 彼女を何と呼んだでしょう? 0:14:30.806,0:14:32.364 ファーストネームですか? 0:14:33.163,0:14:35.195 いいえ 『メイベルさん』か 0:14:35.195,0:14:38.148 『ジョンソンさん』か [br]『ジョンソン叔母さん』だったでしょう 0:14:38.168,0:14:41.291 ファーストネームで呼ぶような真似は[br]決してしなかったはずです 0:14:41.315,0:14:43.747 なぜなら それは[br]失礼極まりないことだったからです 0:14:43.781,0:14:46.125 それなのに あなたは[br]彼女が家に仕えていた間 0:14:46.149,0:14:47.453 何の疑問もなく 毎日毎日 0:14:47.467,0:14:49.685 ファーストネームで呼んでいましたよね」 0:14:49.709,0:14:52.892 続けて「伺いますが[br]彼女をどれだけ知っていましたか 0:14:53.108,0:14:54.938 結婚していたのか 子供は 0:14:54.958,0:14:56.421 どこの教会に通っていたのか 0:14:56.445,0:14:58.907 好きなデザートは何かなど[br]どうですか?」 0:15:00.754,0:15:04.797 フレッドはどれ一つ[br]答える事ができませんでした 0:15:05.337,0:15:08.828 「フレッド先生 この話の主人公は[br]メイベルではなく 0:15:08.852,0:15:10.317 あなた自身なんですよ」 0:15:10.883,0:15:13.770 「先生にとっては[br]良い気持ちのする話かもしれませんが 0:15:13.790,0:15:16.033 メイベルは主人公ではないのです 0:15:16.057,0:15:17.651 多分 現実に起きたのは 0:15:17.675,0:15:20.229 おそらく メイベルは泣いていて 0:15:20.253,0:15:22.176 普段はないことだったので 0:15:22.196,0:15:24.218 ガードが甘くなっていたのでしょう 0:15:24.567,0:15:26.269 そこへ あなたがキッチンに来て 0:15:26.293,0:15:29.790 彼女が弱って ガードが甘くなった[br]瞬間を捉えた 0:15:30.138,0:15:33.644 あなたは 自分のことを[br]彼女の子供の1人のように思っていて 0:15:33.668,0:15:38.590 自分が 彼女の雇い主の子である[br]と言う立場を理解していなかった 0:15:38.859,0:15:41.263 そんな状況の中[br]彼女はあなたに対し声を荒げた 0:15:41.287,0:15:42.661 我に返った彼女はこう考えた 0:15:42.685,0:15:45.057 「私がこの子に対し声を荒げ 0:15:45.081,0:15:47.230 この子が父親か母親にそれを話したら 0:15:47.240,0:15:50.162 私は失業しかねない」 0:15:50.934,0:15:53.223 そして 彼女は正気を取り戻し[br]しまいにはー 0:15:53.247,0:15:57.845 慰めて欲しいのは自分の方なのに[br]代わりにあなたを慰めて 0:15:57.869,0:15:59.498 あなたを送り出したのです 0:15:59.522,0:16:03.275 おそらく 1人で静かに[br]故人を追悼したかったのでしょう」 0:16:04.033,0:16:05.328 フレッドは言葉を失いました 0:16:05.782,0:16:09.986 空気を読めていなかったことを[br]実感したのです 0:16:10.230,0:16:13.590 わかりますか[br]ローザ・パークスも同じことをされたのです 0:16:13.614,0:16:19.040 なぜなら 足の疲れた年老いたお婆さんが 0:16:19.064,0:16:22.485 1日働き通した後 痛む足腰を理由に[br]座席を立つのを拒否した話の方が 0:16:22.509,0:16:24.800 人種不平等に抵抗して[br]立つことを拒否した話より 0:16:24.824,0:16:26.462 ずっと受け入れられやすいからです 0:16:27.269,0:16:30.074 年老いたお婆さんは怖くないけれど 0:16:30.098,0:16:32.250 若く過激な黒人女性は 0:16:32.274,0:16:34.415 人から物を奪うような人でなくても 0:16:34.439,0:16:35.943 非常に恐れられる存在なのです 0:16:35.967,0:16:37.853 権力に立ち向かい 0:16:37.877,0:16:39.941 死をも恐れない 0:16:39.965,0:16:42.240 そんなタイプの人間は 0:16:42.264,0:16:45.144 私たちを居心地悪くさせるのです 0:16:47.270,0:16:49.042 皆さんはこう仰るかもしれない 0:16:49.058,0:16:51.322 「じゃあ私にどうしろと? 0:16:51.322,0:16:54.296 何をすればいいのかわからないよ」 0:16:55.159,0:16:57.656 私に言える事があるとすれば 0:16:57.680,0:16:59.725 その昔 ユダヤ人は白人と思われず 0:16:59.749,0:17:01.965 イタリア人も アイルランド人も 0:17:01.989,0:17:03.997 白人と見なされない 0:17:04.021,0:17:05.919 そんな時代が 0:17:05.943,0:17:07.105 わが国にはありました 0:17:07.129,0:17:12.137 アイルランド人 ユダヤ人 イタリア人が[br]白人と認められるまで 時を要しました 0:17:12.843,0:17:14.014 そうでしょう? 0:17:14.038,0:17:16.189 皆さんが「他の人種」だった時代 0:17:16.213,0:17:19.443 「外の」人々とされていた時代が[br]かつてあったのです 0:17:21.736,0:17:23.040 トニ・モリスンは言いました 0:17:23.040,0:17:26.685 「あなたの背を高く見せるために[br]私が跪かなければならないのなら 0:17:26.709,0:17:28.163 あなたにかなり問題がある」 0:17:28.187,0:17:31.305 「アメリカの白人至上主義は[br]とても深刻な問題です」と 0:17:32.583,0:17:37.596 正直なところ この国の人種関係が[br]今後良くなるか 私にはわかりません 0:17:38.127,0:17:39.922 でも もし良くなって行くとしたら 0:17:39.946,0:17:43.904 このような課題に[br]真っ向から取り組まねばなりません 0:17:44.619,0:17:46.613 私の子供たちの将来がかかっています 0:17:46.637,0:17:49.209 子供たちの そのまた子供たちの[br]将来もかかっています 0:17:49.651,0:17:51.622 皆さんがお気づきかは わかりませんが 0:17:51.646,0:17:55.812 皆さんの子供たちと[br]そのまた子供たちの将来さえも 0:17:55.836,0:17:57.119 そこにかかっているのです 0:17:57.632,0:17:58.786 ありがとうございました 0:17:58.810,0:18:00.205 (拍手)