WEBVTT 00:00:15.568 --> 00:00:18.867 これは世界を変えた ある発明の物語です 00:00:18.867 --> 00:00:23.418 10時間の労働を1時間に 短縮できる機械を想像してください 00:00:23.418 --> 00:00:27.730 とても効率がいいために 他のことができるようになる機械 00:00:27.730 --> 00:00:29.728 パソコンにも近いようなものです 00:00:29.728 --> 00:00:33.097 しかし これからお話しする機械は そんなことには繋がりませんでした 00:00:33.097 --> 00:00:36.883 実際には まったく逆の結果に なってしまったのです 00:00:37.653 --> 00:00:44.747 18世紀後半 アメリカが 合衆国憲法のもと建国した頃のこと 00:00:44.747 --> 00:00:48.568 奴隷制度は悲劇的なことに アメリカで一般的でした 00:00:48.568 --> 00:00:53.501 ジョージ・ワシントンやトマス・ジェファソンは 奴隷を所有していながら大統領になり 00:00:53.501 --> 00:01:01.051 この奇妙な制度が革命の大義であった 理想と原則に反することも承知していました 00:01:01.051 --> 00:01:06.918 しかし 2人とも19世紀になれば 奴隷制はなくなるだろうと考えていました 00:01:06.918 --> 00:01:10.568 彼らは これまた悲劇的なことに 間違っていたのです 00:01:10.568 --> 00:01:12.819 その理由は ある発明にありました 00:01:12.819 --> 00:01:16.231 小学校でも習うであろう ある機械の発明です 00:01:16.231 --> 00:01:18.983 イーライ・ホイットニーの 綿繰り機です 00:01:18.983 --> 00:01:21.519 イェール大卒の28歳のホイットニーは 00:01:21.519 --> 00:01:25.819 1793年に教師として サウスカロライナに来ました 00:01:25.819 --> 00:01:31.201 彼は地元の農園主に 綿の取り分け作業の難しさを聞かされます 00:01:31.201 --> 00:01:35.763 綿の繊維から種を取り分ける作業は 退屈で時間がかかったのです 00:01:35.763 --> 00:01:40.284 手作業では 奴隷1人につき 1日500グラム程度しか取れません 00:01:40.284 --> 00:01:42.701 しかし 産業革命が起こりつつあり 00:01:42.701 --> 00:01:44.541 需要は増える一方でした 00:01:44.541 --> 00:01:50.818 イギリスやニューイングランドの紡績工場は 布の大量生産のため綿を求めていました 00:01:50.818 --> 00:01:57.568 伝わる話によると ホイットニーは ひらめきを得て 綿繰り機を発明しました 00:01:57.568 --> 00:02:04.101 しかし実際には小規模で非効率な 綿繰り機は何百年も前から存在していました 00:02:04.101 --> 00:02:08.500 単に改良しただけなのに 1794年にホイットニーは 00:02:08.500 --> 00:02:11.700 自らの「発明」として特許を取ったのです 00:02:11.700 --> 00:02:17.617 クランクを回して ドラムを回転させることで 繊維から種を機械的に取り除く― 00:02:17.617 --> 00:02:19.218 小さな機械でした 00:02:19.218 --> 00:02:26.783 これを使えば1人で1日あたり 130~450キロもの綿を取り分けられます 00:02:26.783 --> 00:02:33.300 1790年には毎年3,000ベールもの綿が アメリカで生産されるようになりました 00:02:33.300 --> 00:02:36.500 1ベールは約220キロなので 約700トンです 00:02:36.500 --> 00:02:39.883 1801年までには 綿繰り機の普及に伴い 00:02:39.883 --> 00:02:44.283 綿の生産量は1年当たり 2万トンにまで伸びました 00:02:44.283 --> 00:02:47.319 1812年の戦争を挟んで 00:02:47.319 --> 00:02:51.250 年間生産量は9万トンにまで達しました 00:02:51.250 --> 00:02:57.050 1803年のルイジアナ買収によって アメリカが領土を広げると 00:02:57.050 --> 00:03:03.250 年間生産量は90万トンにのぼり 綿は最重要になりました 00:03:03.250 --> 00:03:07.517 綿は他の生産物をすべての総和よりも 高い価値を有しており 00:03:07.517 --> 00:03:11.783 アメリカの経済生産高の およそ5分の3を占めました 00:03:11.783 --> 00:03:16.684 しかし綿繰り機は労働需要を 減少させるどころか増加させました 00:03:16.684 --> 00:03:20.700 最重要である綿の栽培と収穫に より多くの奴隷が必要になったのです 00:03:20.700 --> 00:03:24.751 綿繰り機とアメリカ北部や イギリスの工場による需要が 00:03:24.751 --> 00:03:27.751 アメリカの奴隷制度の 進路を書き換えたのです 00:03:27.751 --> 00:03:34.574 1790年のアメリカ初の国勢調査では 約70万人の奴隷がいるとされました 00:03:34.574 --> 00:03:39.633 アメリカで奴隷売買が禁止された 2年後の1810年までには 00:03:39.633 --> 00:03:43.117 その数字は百万以上に 跳ね上がりました 00:03:43.117 --> 00:03:49.834 その後50年間 この数字は増え続け 南北戦争前夜の1860年には 00:03:49.834 --> 00:03:52.426 4百万人を数えました 00:03:55.704 --> 00:03:59.800 ホイットニーについて言えば 多くの発明家と同じ末路を辿りました 00:03:59.800 --> 00:04:04.268 特許にもかかわらず 他の農園主は容易に模造品を作ったり 00:04:04.268 --> 00:04:06.368 改良版を作ったりしました 00:04:06.368 --> 00:04:08.801 設計が剽窃されたとも言えます 00:04:08.801 --> 00:04:11.494 ホイットニーはアメリカを一変させた この機械の発明で 00:04:11.494 --> 00:04:13.884 ほとんど財を成しませんでした 00:04:13.884 --> 00:04:16.668 より大きな目で見ると より大きな問いが浮かび上がります 00:04:16.668 --> 00:04:18.913 綿繰り機を どう考えるべきなのでしょう? 00:04:20.000 --> 00:04:24.201 発明が諸刃の剣であることは 歴史は何度も証明しています 00:04:24.201 --> 00:04:27.225 発明は しばしば 予期せぬ結果を生むものです 00:04:27.225 --> 00:04:31.260 産業革命期の工場では 数々の革新が生まれ 00:04:31.260 --> 00:04:34.500 アメリカに大きな経済成長を もたらしました 00:04:34.500 --> 00:04:36.604 しかし この成長は 児童労働に依存しており 00:04:36.604 --> 00:04:39.533 1911年に100人以上の女性が亡くなった― 00:04:39.533 --> 00:04:42.966 トライアングル・シャツウェスト 工場火災のような悲劇を生みました 00:04:44.393 --> 00:04:47.553 使い捨ておむつは 親にとっては便利ですが 00:04:47.553 --> 00:04:50.601 おむつ配達業を 廃業に追い込みました 00:04:50.601 --> 00:04:54.477 汚いおむつで ごみの埋立地が あふれてもいいのでしょうか? 00:04:54.477 --> 00:04:58.033 そしてもちろん アインシュタインの 類まれな方程式によって 00:04:58.033 --> 00:05:00.723 大きな可能性が広がりました 00:05:00.723 --> 00:05:04.235 しかし その結果の一つは 広島の原爆投下だったのです