0:00:00.546,0:00:02.793
私はハリケーン・サンディの間[br]ニューヨークにいました

0:00:02.793,0:00:05.033
マウイという小さな白い犬が

0:00:05.033,0:00:06.918
私と一緒にいたのです

0:00:06.918,0:00:09.390
街の半分は停電で真っ暗で

0:00:09.390,0:00:11.614
私は真っ暗な側に住んでいました

0:00:11.614,0:00:13.723
マウイは暗闇をこわがっていたので

0:00:13.723,0:00:15.827
階段を上る時は[br]マウイを抱えて上りました

0:00:15.827,0:00:18.915
実際には散歩のために[br]まず下の階に行って

0:00:18.915,0:00:20.803
それから抱えて上ったのです

0:00:20.803,0:00:23.784
それに 毎日７階まで[br]水も何リットルか

0:00:23.784,0:00:25.883
運び上げてもいました

0:00:25.883,0:00:27.456
これらを全て

0:00:27.456,0:00:29.760
懐中電灯を口に[br]くわえてこなしたのです

0:00:29.760,0:00:32.404
近所の店からは懐中電灯も

0:00:32.404,0:00:35.341
電池もパンもなくなりました

0:00:35.341,0:00:38.004
シャワーを浴びるために[br]私は40ブロックも歩いて

0:00:38.004,0:00:39.978
加入しているジムに行きました

0:00:39.978,0:00:43.057
でも これらは最優先事項では[br]ありませんでした

0:00:43.057,0:00:46.358
近所のカフェに[br]延長コードと充電器を持って

0:00:46.358,0:00:49.650
誰よりも早く到着し[br]複数の電子機器を充電するのも

0:00:49.650,0:00:51.499
同じくらい重要だったのです

0:00:51.499,0:00:54.224
私はパン屋のベンチの下や

0:00:54.224,0:00:57.849
お菓子屋さんの入り口の下に[br]電源を探すようになりました

0:00:57.849,0:00:59.418
私だけではありませんでした

0:00:59.418,0:01:03.182
雨の中でも 人々が[br]マディソン・アヴェニューと５番街の間で

0:01:03.182,0:01:05.646
傘を差しながら 道にある電源で

0:01:05.646,0:01:07.683
携帯電話を充電していました

0:01:07.683,0:01:09.940
自然の力は[br]どの科学技術にも勝ると

0:01:09.940,0:01:12.256
思い知らされたばかりなのに

0:01:12.256,0:01:15.525
皆 つながりたいという[br]衝動にかられていたのです

0:01:15.525,0:01:17.401
私は危機的状況ほど[br]何が本当に大切で

0:01:17.401,0:01:20.590
何が大切でないかを[br]教えてくれるものはないと思います

0:01:20.590,0:01:24.152
サンディは 私に電子機器や

0:01:24.152,0:01:26.418
それらのもたらす[br]つながりが

0:01:26.418,0:01:30.936
食料や住まいと同じくらいに[br]重要なのだと気付かせてくれました

0:01:30.936,0:01:34.253
かつて知っていたような[br]自己は もはや存在せず

0:01:34.253,0:01:36.745
抽象的なデジタルの世界が いまや

0:01:36.745,0:01:39.270
私たちのアイデンティティの一部[br]となったのだと思うのですが

0:01:39.270,0:01:43.522
これがどういうことであるかを[br]皆さんにお話ししたいと思います

0:01:43.522,0:01:46.365
私は小説家なので[br]自己に関心があります

0:01:46.365,0:01:48.834
なぜなら自己とフィクションには[br]多くの共通点があるからです

0:01:48.834,0:01:52.151
どちらも物語であり 解釈です

0:01:52.151,0:01:54.604
物語なしに物事を経験することもできます

0:01:54.604,0:01:56.686
階段を早く駆け上がって

0:01:56.686,0:01:58.373
息切れするといったことです

0:01:58.373,0:02:00.903
でも 私たちが人生に対して抱く[br]より大きな感覚は

0:02:00.903,0:02:04.263
もう少し抽象的で間接的なものです

0:02:04.263,0:02:07.383
私たちの人生の物語は[br]直接の経験に基づいていますが

0:02:07.383,0:02:09.277
脚色されてもいます

0:02:09.277,0:02:12.125
小説の構成には 次から次へと[br]場面が必要ですが

0:02:12.125,0:02:15.273
人生の物語もまた[br]全体を包む弧が必要です

0:02:15.273,0:02:17.964
何ヶ月も何年も必要でしょう

0:02:17.964,0:02:20.982
人生における個別の瞬間は[br]人生の物語の各章です

0:02:20.982,0:02:23.572
でも物語は各章が[br]重要なのではありません

0:02:23.572,0:02:25.517
本全体が重要なのです

0:02:25.517,0:02:28.860
失恋や幸せな瞬間―

0:02:28.860,0:02:31.039
勝利や失望といったこと[br]だけが重要なのではなく

0:02:31.039,0:02:33.244
それらゆえに―

0:02:33.244,0:02:36.397
そして 時に[br]それらにもかかわらず

0:02:36.397,0:02:38.492
私たちがいかに世界に[br]居場所を見つけ

0:02:38.492,0:02:41.572
居場所を変え[br]自分自身を変えるかが重要なのです

0:02:41.572,0:02:44.965
ですから 私たちの物語には[br]２つの時間軸が必要です

0:02:44.965,0:02:47.980
私たちの寿命である[br]長い時間の弧

0:02:47.980,0:02:50.483
そして それぞれの瞬間である

0:02:50.483,0:02:51.936
直接の経験の時間です

0:02:51.936,0:02:54.066
直接の経験をする自己は

0:02:54.066,0:02:55.967
その瞬間にしか存在しませんが

0:02:55.967,0:02:58.729
物語を語るには[br]いくつかの瞬間が―

0:02:58.729,0:03:00.843
一連の瞬間が必要です

0:03:00.843,0:03:03.088
それゆえに [br]自己が確立されるには

0:03:03.088,0:03:06.020
没入する経験と

0:03:06.020,0:03:08.465
時の流れの両方が[br]必要なのです

0:03:08.465,0:03:11.614
時の流れはすべてのものに[br]埋め込まれています

0:03:11.614,0:03:14.182
ひと粒の砂の侵食にも

0:03:14.182,0:03:17.974
小さなつぼみがバラの花を[br]咲かせるのにも

0:03:17.974,0:03:20.509
時の流れなしには[br]音楽も存在しないでしょう

0:03:20.509,0:03:22.547
私たちの感情や心の状態は

0:03:22.547,0:03:24.660
しばしば 時を暗号に変えます

0:03:24.660,0:03:27.218
過去への後悔や憧憬―

0:03:27.218,0:03:30.718
将来への希望や不安などに[br]変えるのです

0:03:30.718,0:03:34.663
科学技術は この時の流れを[br]変えてしまったのだと思います

0:03:34.663,0:03:37.186
私たちが物語を語るのに[br]持っている時間全体―

0:03:37.186,0:03:39.360
つまり私たちの寿命は[br]だんだんと延びていますが

0:03:39.360,0:03:42.477
最も小さな単位である[br]瞬間は縮んでいるのです

0:03:42.477,0:03:44.813
道具によって[br]より小さな単位の時間を

0:03:44.813,0:03:48.073
測れるようになったために[br]縮んでいったのです

0:03:48.073,0:03:51.343
その結果[br]物理的世界をより細かく

0:03:51.343,0:03:53.216
解釈するようになり

0:03:53.216,0:03:54.652
この細かい解釈によって

0:03:54.652,0:03:56.955
私たちの脳ではもはや

0:03:56.955,0:03:59.316
理解できないほど[br]たくさんのデータが生み出され

0:03:59.316,0:04:02.751
そのために私たちはより複雑な[br]コンピュータを必要としています

0:04:02.751,0:04:05.025
これら すべては

0:04:05.025,0:04:07.606
私たちが認識できるものと[br]測定できるものとの

0:04:07.606,0:04:09.528
差がさらに開いていく[br]ということを意味しています

0:04:09.528,0:04:12.564
科学によって様々なことが[br]ピコ秒のうちに成し遂げられますが

0:04:12.564,0:04:15.267
私たちは何百万秒分の１を

0:04:15.267,0:04:18.453
内面で経験することはないのです

0:04:18.453,0:04:22.495
私たちは自然のリズムと[br]流れにのみ対応でき

0:04:22.495,0:04:25.434
だからこそ 私たちは

0:04:25.434,0:04:28.174
過去 現在そして未来を含む

0:04:28.174,0:04:30.403
長い時間の弧を必要とするのです

0:04:30.403,0:04:32.167
物事のありのままを見つめるため―

0:04:32.167,0:04:34.010
騒音から信号を聞き分け

0:04:34.010,0:04:36.566
感覚から自己を感じ分けるために

0:04:36.566,0:04:40.175
因果関係の理解には[br]時間の進む方向を示すものも必要です

0:04:40.175,0:04:41.930
物質的な世界において[br]だけでなく

0:04:41.930,0:04:45.220
私たち自身の意図と[br]動機のために必要なのです

0:04:45.220,0:04:49.210
その時間軸が歪んだら[br]どうなるのでしょうか？

0:04:49.210,0:04:52.694
時間がひずんだら[br]どうするのでしょうか？

0:04:52.694,0:04:54.643
こんにち 私たちの多くが

0:04:54.643,0:04:56.887
時間の進みがどこかしこを[br]向いていると共に

0:04:56.887,0:04:59.152
どこにも向いていないような[br]感覚を感じています

0:04:59.152,0:05:01.839
これは時間が[br]デジタルの世界では

0:05:01.839,0:05:05.828
自然の世界と同じように[br]流れないためです

0:05:05.828,0:05:08.528
私たちはみな インターネットにより[br]空間と共に時間が

0:05:08.528,0:05:09.758
縮んでしまったことを知っています

0:05:09.758,0:05:12.071
ずっと向こうの遠い場所が[br]いまやすぐここにあるのです

0:05:12.071,0:05:14.800
ニューヨークにいようが[br]ニューデリーにいようが

0:05:14.800,0:05:17.679
インドからのニュースが[br]スマートフォンに表示されます

0:05:17.679,0:05:19.114
それだけではありません

0:05:19.114,0:05:21.583
前の仕事[br]昨年のディナーの予約

0:05:21.583,0:05:25.186
昔の友達がすべて[br]今の友達と同じ平面に存在します

0:05:25.189,0:05:26.994
なぜなら インターネットは[br]過去を記録し

0:05:26.994,0:05:28.788
過去というものを 歪めてしまうからです

0:05:28.788,0:05:30.938
過去 現在 未来

0:05:30.938,0:05:34.210
そして ここと向こうの間に[br]何の違いも残されていないために

0:05:34.210,0:05:38.026
私たち どこにいても[br]この瞬間と共にあるのです―

0:05:38.026,0:05:40.450
私が「デジタルの今」と呼ぶ[br]この瞬間です

0:05:40.450,0:05:42.618
どうやって「デジタルの今」の中で

0:05:42.618,0:05:44.977
優先順位をつければ良いのでしょうか？

0:05:44.977,0:05:46.882
「デジタルの今」は[br]現在ではありません

0:05:46.882,0:05:48.935
なぜなら 常に[br]数秒先を行っているからです

0:05:48.935,0:05:50.768
常にツイッターは流行を察知し

0:05:50.768,0:05:52.745
時差を超えて[br]ニュースが入ってきます

0:05:52.745,0:05:55.455
これは 自分の足に[br]鋭い痛みを感じる「今」でもなければ

0:05:55.455,0:05:57.943
菓子パンをほおばる[br]瞬間でもなく

0:05:57.943,0:06:01.280
素晴らしい本に没頭して[br]過ぎ去った３時間でもありません

0:06:01.280,0:06:03.132
この「今」は 私たちの物理的―

0:06:03.132,0:06:06.073
または心理的な状態を[br]反映することは滅多にありません

0:06:06.073,0:06:08.333
それどころか 事あるごとに

0:06:08.333,0:06:10.283
我われの気をそらそうと[br]するのです

0:06:10.283,0:06:12.454
デジタルの目印は

0:06:12.454,0:06:14.869
今やっていることから逃れて[br]別のところで

0:06:14.869,0:06:16.488
別のことをするための[br]招待状なのです

0:06:16.488,0:06:18.481
作家によるインタビューを[br]読んでいるのですか？

0:06:18.481,0:06:21.121
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0:06:23.850,0:06:26.718
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0:06:26.718,0:06:28.762
旅行は開放的になりえますが

0:06:28.762,0:06:30.523
間断なく続けば

0:06:30.523,0:06:32.750
常に 永遠の国外追放に[br]あっているようなものです

0:06:32.750,0:06:35.494
選択は自由ですが[br]常に選択のための選択であるなら

0:06:35.494,0:06:37.541
自由ではありません

0:06:37.541,0:06:40.129
「デジタルの今」は現在と[br]かけ離れているだけでなく

0:06:40.129,0:06:42.791
現在と対決をしているのです

0:06:42.791,0:06:45.173
私がそこに関与していないからだけでなく

0:06:45.173,0:06:46.266
あなた方もです

0:06:46.266,0:06:49.057
私たちだけでなく[br]誰もがそこにいないのです

0:06:49.057,0:06:52.747
そこにこそ 大きな利便性と[br]恐怖があります

0:06:52.747,0:06:55.575
真夜中に外国語の本を[br]注文することができますし

0:06:55.575,0:06:57.374
パリのマカロンを買うこともできます

0:06:57.374,0:06:59.831
後で相手が見るであろう[br]ビデオの伝言を残すこともできます

0:06:59.831,0:07:01.806
いつでも 私は

0:07:01.806,0:07:04.042
あなたとは違うリズムとペースで[br]物事を行うことができ

0:07:04.042,0:07:05.959
しかも 私があなたの現実の時間に

0:07:05.959,0:07:09.487
関わることができるという[br]幻想を維持することができます

0:07:09.487,0:07:11.096
サンディは そんな幻想が

0:07:11.096,0:07:13.201
いかに壊れるかを[br]思い出させてくれました

0:07:13.201,0:07:15.065
電力と水を持っている者と

0:07:15.065,0:07:16.561
そうでない者がいました

0:07:16.561,0:07:18.894
元の生活に戻った者と

0:07:18.894,0:07:20.931
何ヶ月も経っても なお

0:07:20.931,0:07:23.286
いまだに戻れないままの者

0:07:23.286,0:07:25.988
どういうわけか 科学技術は

0:07:25.988,0:07:29.434
みながそれを持っているという[br]幻想を浸透させ

0:07:29.434,0:07:32.062
その上で 皮肉なほほへの[br]一撃よろしく

0:07:32.062,0:07:34.180
それを本当にしてしまうのです

0:07:34.180,0:07:35.857
たとえば インドには[br]トイレよりも

0:07:35.857,0:07:38.991
携帯電話を持っている人の方が[br]多いと言われています

0:07:38.991,0:07:41.413
すでに世界の至る所で[br]あまりにも大きくなりつつある

0:07:41.413,0:07:44.623
このインフラの欠如と

0:07:44.623,0:07:46.230
科学技術の広がりの間の裂け目が

0:07:46.230,0:07:47.812
どうにかして 橋渡しされなければ

0:07:47.812,0:07:49.220
デジタルの世界と

0:07:49.220,0:07:50.628
現実の世界の間に

0:07:50.628,0:07:52.038
裂け目が生じてしまうでしょう

0:07:52.038,0:07:55.676
「デジタルの今」を生き[br]目が覚めている ほとんどの時間を

0:07:55.676,0:07:58.155
その中で過ごす 私たちにとって

0:07:58.155,0:08:00.332
難しいのは 並行しており

0:08:00.332,0:08:03.276
ほぼ同時に起こる[br]２つの時間軸を生きることです

0:08:03.276,0:08:07.376
気が散る中で どうやって[br]生きればいいのでしょう？

0:08:07.376,0:08:09.326
私たちより若い人たち―

0:08:09.326,0:08:12.940
この時代に生まれた者は より自然に[br]順応すると考えるかもしれません

0:08:12.940,0:08:16.078
そうかもしれませんが[br]私は自分の子供時代を思い出します

0:08:16.078,0:08:17.782
祖父が 世界の首都を

0:08:17.782,0:08:20.044
私と一緒に[br]復習していたときのことです

0:08:20.044,0:08:22.794
ブダとペストはドナウ川で分けられ

0:08:22.794,0:08:25.569
ウィーンにはスペインの[br]騎馬学校がありました

0:08:25.569,0:08:28.468
私が今 子供であったら[br]この情報を簡単に

0:08:28.468,0:08:30.633
アプリとハイパーリンクで[br]見つけ出せたでしょうが

0:08:30.633,0:08:32.544
同じ経験ではありえません

0:08:32.544,0:08:34.824
なぜなら ずっと後になって[br]ウィーンを訪れ

0:08:34.824,0:08:36.792
スペインの騎馬学校に行ったとき

0:08:36.792,0:08:40.157
私は祖父がすぐそばに[br]いるように感じたのです

0:08:40.157,0:08:42.727
来る晩も来る晩も[br]祖父は私をベランダへ

0:08:42.727,0:08:45.505
肩車で連れて行き[br]木星と

0:08:45.505,0:08:48.733
土星 おおぐま座を[br]教えてくれました

0:08:48.733,0:08:51.428
ここでさえ おおぐま座を見ると

0:08:51.428,0:08:54.184
私は祖父の頭につかまって

0:08:54.184,0:08:56.562
肩の上でバランスを[br]とろうとしている

0:08:56.562,0:08:58.782
子供に返ったような気分になり

0:08:58.782,0:09:01.982
また子供に戻ったように思うのです

0:09:01.982,0:09:04.449
祖父との思い出は たいてい

0:09:04.449,0:09:07.691
情報や知識[br]様々な事実に包まれていましたが

0:09:07.691,0:09:09.715
それは情報や知識[br]

0:09:09.715,0:09:13.505
そして 事実以上のものでした

0:09:13.505,0:09:15.629
時間を歪める科学技術は

0:09:15.629,0:09:17.581
私たちの最も深い核の部分に[br]難問を突きつけます

0:09:17.581,0:09:21.348
というのも 私たちは[br]過去を記録することができ

0:09:21.348,0:09:24.589
そのうちのいくらかは[br]忘れるのが困難になり

0:09:24.589,0:09:27.193
その一方で現在の瞬間が

0:09:27.193,0:09:29.812
だんだんと記憶に残らなくなるのです

0:09:29.812,0:09:32.552
つかみたいと望んでも[br]一連の静的な瞬間を

0:09:32.552,0:09:35.015
つかむにとどまります

0:09:35.015,0:09:37.721
触れると消えてしまう[br]シャボン玉のようなものです

0:09:37.721,0:09:40.514
すべてを記録することによって[br]保存できるような気になりますが

0:09:40.514,0:09:42.479
時間はデータではありません

0:09:42.479,0:09:44.612
時間は保存できないのです

0:09:44.612,0:09:46.628
その瞬間に生きるということが

0:09:46.628,0:09:48.532
どんなことか[br]私たちはよく知っています

0:09:48.532,0:09:49.749
楽器を弾いているときや

0:09:49.749,0:09:51.508
長い間知っている誰かの

0:09:51.508,0:09:53.356
目をのぞき込んでいるときに

0:09:53.356,0:09:55.540
起こるかもしれません

0:09:55.540,0:09:58.571
そんなとき 私たちの自己は[br]完全なものになるのです

0:09:58.571,0:10:00.639
長い時間の弧のなかで[br]生きる自己と

0:10:00.639,0:10:02.722
その瞬間を経験する自己とが

0:10:02.722,0:10:04.114
ひとつになるのです

0:10:04.114,0:10:06.056
現在は過去を包み込み

0:10:06.056,0:10:08.487
未来を約束してくれます

0:10:08.487,0:10:10.455
現在が それ以前と以後の

0:10:10.455,0:10:12.698
時間の流れを結びつけるのです

0:10:12.698,0:10:16.255
私がこうした感情を初めて経験した[br]のは祖母といるときでした

0:10:16.255,0:10:18.594
私がスキップを覚えたいとき[br]祖母は古いロープを見つけて

0:10:18.594,0:10:19.946
サリーの裾をたくしあげて

0:10:19.946,0:10:21.674
ロープを飛び越えたのです

0:10:21.674,0:10:24.328
私が料理を覚えたいときには[br]祖母は私に台所で

0:10:24.328,0:10:28.436
一ヶ月間も切ったり[br]角切りやみじん切りをさせました

0:10:28.436,0:10:30.843
祖母は 物事には[br]時間がかかるのだと―

0:10:30.843,0:10:34.564
時間にはあらがうことが[br]できないのだと教えてくれました

0:10:34.564,0:10:36.397
時間は 過ぎ去り 動くものですから

0:10:36.397,0:10:39.511
いま現在に最大限[br]集中しなければならないのです

0:10:39.511,0:10:42.155
注意を払うことこそが時間です

0:10:42.155,0:10:44.338
私のヨガの先生の１人が 以前

0:10:44.338,0:10:46.581
愛とは注意を払うことであると[br]言っていましたが

0:10:46.581,0:10:48.415
祖母のことを[br]考えると 確かに

0:10:48.415,0:10:52.008
愛情と注意は[br]同じひとつのことでした

0:10:53.021,0:10:55.324
デジタルの世界は[br]時間を組み替えてしまいます

0:10:55.324,0:10:58.704
そうすることで 私たちから

0:10:58.704,0:11:00.378
何かが欠けてしまうと思うのです

0:11:00.378,0:11:02.808
何かが欠けてしまうと思うのです

0:11:02.808,0:11:05.166
愛情の流れを脅かしているのです

0:11:05.166,0:11:07.187
でも そうさせる必要はありません

0:11:07.187,0:11:08.655
他の道を選べるのです

0:11:08.655,0:11:10.732
何度も何度も 私たちは

0:11:10.732,0:11:12.962
科学技術がいかに創造的で[br]ありえるかを見てきました

0:11:12.962,0:11:15.202
生活や行動において

0:11:15.202,0:11:19.191
私たちは 時間の流れを[br]断片化するのでなく

0:11:19.191,0:11:22.299
修復してくれるような

0:11:22.299,0:11:25.920
解決策や革新[br]そして瞬間を選ぶことができます

0:11:25.920,0:11:28.500
歩みをゆっくりにし

0:11:28.500,0:11:31.172
時間のよせては返す波に[br]耳を傾けることができます

0:11:31.172,0:11:35.120
時間を取り戻すことができるのです

0:11:35.120,0:11:37.320
ありがとうございました

0:11:37.320,0:11:41.320
(拍手)