WEBVTT

00:00:07.031 --> 00:00:09.903
悲しみは 人なら誰もが経験することです

00:00:09.903 --> 00:00:12.511
けれども それはつまるところ
何であるのか そして

00:00:12.511 --> 00:00:17.377
どう対処すべきかは何世紀にもわたり 
激しい論争となってきました

00:00:17.377 --> 00:00:19.085
簡単に言うと

00:00:19.085 --> 00:00:20.723
悲しみは逆境に対する

00:00:20.723 --> 00:00:23.966
自然な反応だと一般に考えられています

00:00:23.966 --> 00:00:27.843
友人が離れていったり ペットが
死んでしまったりすると悲しくなるでしょう

00:00:27.843 --> 00:00:29.683
友人が「悲しい」といえば

00:00:29.683 --> 00:00:32.503
あなたは「どうしたの？」と尋ねるでしょう

00:00:32.503 --> 00:00:37.064
けれど 悲しみの原因は外にあるという
あなたの推測は

00:00:37.064 --> 00:00:39.711
比較的新しい考え方なのです

00:00:39.711 --> 00:00:42.478
古代ギリシャの医者達は
まったく違う見方をしていました

00:00:42.478 --> 00:00:46.256
彼らは体の中を流れる黒い液体が
悲しみの原因であると考えていました

00:00:46.256 --> 00:00:48.576
彼らの四体液説によると

00:00:48.576 --> 00:00:53.383
人間の体と魂は いわゆる「四体液」として
知られる４つの体液でコントロールされ

00:00:53.383 --> 00:00:58.155
それらのバランスは人間の健康と気質に
直接影響を与えるとされていました

00:00:58.155 --> 00:01:00.985
メランコリア（鬱病）は「黒い胆液」を意味する

00:01:00.985 --> 00:01:05.644
「メライナ コレ」という言葉からきており
悲しみの原因となる体液と信じられていました

00:01:05.644 --> 00:01:08.270
食習慣を変え 医療行為を施せば

00:01:08.270 --> 00:01:10.606
体液のバランスがとれるとされていたのです

00:01:10.606 --> 00:01:13.628
今日では人間の体を支配するシステムについて
もっとよく

00:01:13.628 --> 00:01:15.351
わかっているにもかかわらず

00:01:15.351 --> 00:01:17.210
悲しみに関する ギリシャの考え方は

00:01:17.210 --> 00:01:18.817
現在の見方と通じるものがあります

00:01:18.817 --> 00:01:21.506
通常 私たちが感じる悲しみではなく

00:01:21.506 --> 00:01:23.750
病的な鬱に関してです

00:01:23.750 --> 00:01:26.086
ある種の長期にわたる

00:01:26.086 --> 00:01:32.211
原因不明の精神状態には脳内の化学成分－
脳に存在する様々な化学物質のバランスが

00:01:32.211 --> 00:01:35.948
少なくとも部分的には関連していると
医師たちは信じています

00:01:35.948 --> 00:01:37.238
ギリシャの理論のように

00:01:37.238 --> 00:01:39.932
これらの化学物質のバランスを変化させると

00:01:39.932 --> 00:01:44.148
非常に困難な状況に対する私たちの
反応ですら劇的に変えてしまえるのです

00:01:44.148 --> 00:01:46.921
また 悲しみに価値を見出そうと

00:01:46.921 --> 00:01:48.911
試みる長い伝統もあり

00:01:48.911 --> 00:01:50.175
その議論の中で

00:01:50.175 --> 00:01:52.752
悲しみは人生にとって不可避なだけではなく

00:01:52.752 --> 00:01:56.438
不可欠でもあるという
強い意見があることに気がつくでしょう

00:01:56.438 --> 00:01:58.237
憂鬱を感じたことがない人がいたら

00:01:58.237 --> 00:02:01.795
その人は人間であることの意味を
学びそこなっているのです

00:02:01.795 --> 00:02:06.245
多くの思想家が知恵を得るためには
鬱が必要だと主張しています

00:02:06.245 --> 00:02:08.798
1577年生まれのロバート・バートンは

00:02:08.798 --> 00:02:13.176
悲しみの原因と体験についての研究に
生涯を費やしました

00:02:13.176 --> 00:02:16.171
バートンの名著『憂鬱の解剖』の中で彼は

00:02:16.171 --> 00:02:20.909
「知を増すものは憂いを増す」と述べました

00:02:20.909 --> 00:02:23.758
19世紀初頭のロマン派の詩人たちは

00:02:23.758 --> 00:02:29.016
憂鬱があるから私たちは美しさや喜びなどの
深い感情を より理解できるのだと

00:02:29.016 --> 00:02:30.603
信じていました

00:02:30.603 --> 00:02:34.643
秋に木々が葉を落とす悲しみを知ることで

00:02:34.643 --> 00:02:40.150
春には花が咲くという生命のサイクルに
対する理解が深まるのです

00:02:40.150 --> 00:02:45.501
けれども知恵と心の知能は「要求の階層」の
かなり高い位置にありそうです

00:02:45.501 --> 00:02:48.646
もっと基本的で具体的な
恐らく進化レベルですらある

00:02:48.646 --> 00:02:51.252
価値が悲しみにはあるのでしょうか

00:02:51.252 --> 00:02:54.065
科学者たちは 泣いてひきこもることは

00:02:54.065 --> 00:02:58.437
もともと私たちの祖先が社会的なつながりを保ち

00:02:58.437 --> 00:03:01.073
必要な援助を得るのに役に立ったと考えています

00:03:01.073 --> 00:03:05.335
怒りや暴力とは対照的に
悲しみは苦しむ人と

00:03:05.335 --> 00:03:09.188
人々の距離を速やかに縮める
苦悩の表現であり

00:03:09.188 --> 00:03:13.545
それで個人とそのコミュニティが
前進するのを助けていたのです

00:03:13.545 --> 00:03:16.606
おそらく悲しみは 人が生き残るのに
必要な結束を強めるのに

00:03:16.606 --> 00:03:20.320
一役買いましたが 他人が感じる
苦しみは自分が経験した苦しみと

00:03:20.320 --> 00:03:24.067
同質なのかどうか知りたいと
多くの人が思ってきました

00:03:24.067 --> 00:03:25.864
詩人エミリー・ディキンソンは

00:03:25.864 --> 00:03:30.396
「私は出会った嘆きすべてを秤にかける
目を細めて窺いながら－

00:03:30.396 --> 00:03:35.487
私の嘆きと同じくらいの重さだろうか
それとももっと軽いのだろうか」と書きました

00:03:35.487 --> 00:03:36.998
そして20世紀には

00:03:36.998 --> 00:03:39.609
アーサー・クラインマンのような医療人類学者が

00:03:39.609 --> 00:03:42.853
人々が苦痛について
話す時の様子から証拠を集め

00:03:42.853 --> 00:03:47.035
感情は万人に共通なものではなく

00:03:47.035 --> 00:03:50.460
文化－特に言葉の使い方が
私たちの感受性に影響を与える

00:03:50.460 --> 00:03:52.841
可能性があることを示したのです

00:03:52.841 --> 00:03:54.303
私たちが傷心について話す時

00:03:54.303 --> 00:03:58.146
傷ついたという感覚は私たちの体験の一部となり

00:03:58.146 --> 00:04:00.882
傷ついた心を話題にする文化では

00:04:00.882 --> 00:04:05.044
実際は異質な主観的体験になるようです

00:04:05.044 --> 00:04:07.221
現代の思想家たちの中には

00:04:07.221 --> 00:04:10.426
悲しみが主観的か普遍的かについては
興味を示さず

00:04:10.426 --> 00:04:14.981
むしろ 技術を駆使して あらゆる形の
苦悩を消去しようとする人もいます

00:04:14.981 --> 00:04:18.267
デービッド・ピアースは遺伝子工学や

00:04:18.267 --> 00:04:20.680
その他の現代的手法を使えば

00:04:20.680 --> 00:04:24.847
感情的 物理的な痛みに対する
人間の受け止め方を変えるだけではなく

00:04:24.847 --> 00:04:28.202
野生動物たちが苦しまないように
世界の生態系を

00:04:28.202 --> 00:04:30.817
作り変えることすらできると提唱しています

00:04:30.817 --> 00:04:34.133
彼は自分のプロジェクトを
「パラダイス工学」と呼んでいます

00:04:34.133 --> 00:04:37.337
けれど悲しみのない世界に 
なにか悲しいことはないのでしょうか

00:04:37.337 --> 00:04:40.120
洞窟に住んでいた私たちの祖先や
お気に入りの詩人たちは

00:04:40.120 --> 00:04:42.919
このような楽園など欲しくないかもしれません

00:04:42.919 --> 00:04:48.136
実際 悲しみについて
広く受け入れられている唯一のことは

00:04:48.136 --> 00:04:51.409
人間のほとんどは常に悲しみを感じてきたということと

00:04:51.409 --> 00:04:53.334
何千年もの間 この辛い感情と折り合う

00:04:53.334 --> 00:04:56.576
最良の方法の１つは
それを口に出してみて

00:04:56.576 --> 00:05:01.452
言葉にできない思いを表現するということです

00:05:01.452 --> 00:05:03.344
エミリー・ディキンソンの言葉を借りれば

00:05:03.344 --> 00:05:08.281
「希望は羽の生えた生き物 止まるところは魂の中

00:05:08.281 --> 00:05:12.850
言葉のない調べを歌い 決してやめることがない」