WEBVTT 00:00:01.575 --> 00:00:04.682 まずはシンプルな問いかけから始めます 00:00:06.000 --> 00:00:09.940 どうしてお金のない人は 思慮のない選択ばかりするのでしょう? 00:00:11.852 --> 00:00:13.403 酷な問いですよね 00:00:13.427 --> 00:00:15.112 でも データに表れています 00:00:15.216 --> 00:00:17.259 貧乏な人ほど 借金が多く 貯金は少なく 00:00:17.283 --> 00:00:19.942 喫煙者が多く 運動する人は少なく 酒飲みは多く 00:00:19.966 --> 00:00:21.516 食習慣も不健康です 00:00:22.322 --> 00:00:23.533 なぜでしょうか? NOTE Paragraph 00:00:24.401 --> 00:00:26.098 世間一般が考える答えを 00:00:26.128 --> 00:00:29.462 サッチャー元イギリス首相が 端的に表現しました 00:00:29.492 --> 00:00:32.831 「貧困は性格上の欠陥だ」と言ったのです NOTE Paragraph 00:00:32.851 --> 00:00:34.655 (笑) NOTE Paragraph 00:00:34.679 --> 00:00:36.585 つまり 人格の欠如であるのだと NOTE Paragraph 00:00:37.465 --> 00:00:41.496 皆さんはまず ここまで あからさまな物言いはしないでしょう 00:00:42.497 --> 00:00:46.347 しかし 貧困者には何か おかしいところがあると考えるのは 00:00:46.371 --> 00:00:48.454 サッチャーだけではありません 00:00:49.285 --> 00:00:52.402 貧乏なのは自業自得だという 意見を持つ人もいるでしょう 00:00:52.422 --> 00:00:53.805 自ら招いた結果だと 00:00:54.289 --> 00:00:58.186 他には 選択を間違えないように 助けてやるべきだと言う人もいるでしょう 00:00:58.854 --> 00:01:02.083 どっちの考え方も 根底にある仮説は同じです 00:01:02.650 --> 00:01:05.313 「本人に何か おかしいところがあるのだ」 00:01:06.057 --> 00:01:07.915 「変えてやることさえできれば」 00:01:07.939 --> 00:01:09.895 「生き方を教えてさえやれたら」 00:01:09.895 --> 00:01:12.278 「本人に聞く耳さえあれば」 00:01:13.183 --> 00:01:14.930 正直に言うと 00:01:14.954 --> 00:01:18.292 私自身 ずっとそう考えていたのです 00:01:19.078 --> 00:01:21.266 それは違うと気づいたのは ほんの数年前です 00:01:21.296 --> 00:01:24.863 貧困についての私の考えは すべて間違いだったのだと NOTE Paragraph 00:01:26.286 --> 00:01:27.731 事の始まりは たまたま 00:01:27.741 --> 00:01:30.640 アメリカの心理学者数人による 論文を発見したことでした 00:01:30.640 --> 00:01:33.170 約1万3千キロも旅して インドで実施した— 00:01:33.170 --> 00:01:35.055 非常に興味深い調査についてのものです 00:01:35.170 --> 00:01:38.208 調査対象は サトウキビ農家でした 00:01:38.838 --> 00:01:42.186 なんと実は サトウキビ農家では 1年の収入の60%を 00:01:42.210 --> 00:01:44.343 一回で一度に回収するのです 00:01:44.367 --> 00:01:45.905 収穫の直後にです 00:01:46.099 --> 00:01:49.639 つまり 一年の中で 比較的 貧乏な時期と 00:01:49.663 --> 00:01:51.407 裕福な時期とがあるのです 00:01:52.565 --> 00:01:56.651 研究チームは農家の人々に知能テストを 収穫の前と後に受けてもらいました 00:01:57.902 --> 00:02:01.982 そうして明らかになった事実に 私は度肝を抜かれました 00:02:03.159 --> 00:02:07.688 収穫前の成績は収穫後よりも ずっと低かったのです 00:02:08.457 --> 00:02:10.571 貧困生活の影響は 00:02:10.580 --> 00:02:14.149 知能指数が14下がるのと 同じことであると判明しました 00:02:14.173 --> 00:02:16.042 分かりやすく言えば 00:02:16.066 --> 00:02:18.507 一晩徹夜した後の状態や 00:02:18.531 --> 00:02:20.854 アルコール依存のようなものです NOTE Paragraph 00:02:22.685 --> 00:02:25.014 数ヶ月後 私は エルダー・シャフィアという 00:02:25.024 --> 00:02:28.359 この研究の著者の一人である プリンストン大学の教授が 00:02:28.379 --> 00:02:30.858 私の住むオランダに来訪すると聞き 00:02:30.882 --> 00:02:32.284 アムステルダムで会って 00:02:32.308 --> 00:02:35.879 貧困について教授が提唱する 革新的な説について話を聞きました 00:02:36.390 --> 00:02:38.303 一言で言えば 貧困とは 00:02:39.415 --> 00:02:41.562 「欠乏の心理」なのです 00:02:42.647 --> 00:02:44.801 なんと 人は不足を認識したとき 00:02:44.825 --> 00:02:47.311 行動が変わるのだそうです 00:02:47.335 --> 00:02:49.424 何が不足しているかは 関係ありません 00:02:49.434 --> 00:02:52.437 時間 お金 食べ物など どれでも同じです NOTE Paragraph 00:02:53.080 --> 00:02:54.738 皆さん誰もが経験しているはず 00:02:54.762 --> 00:02:56.725 やることが多すぎるとか 00:02:56.749 --> 00:02:58.379 昼休みを遅らせたせいで 00:02:58.399 --> 00:03:00.296 血糖値がガクッと落ちたときとか 00:03:00.316 --> 00:03:03.304 目の前の不足以外のものは 見えなくなってしまいます 00:03:03.328 --> 00:03:05.338 例えば 今すぐ食べたいサンドイッチ 00:03:05.362 --> 00:03:07.518 5分後に迫る会議 00:03:07.528 --> 00:03:10.547 明日払わなければいけない 請求書などです 00:03:10.978 --> 00:03:14.264 こうなると 先を見て考える力が 麻痺してしまいます 00:03:15.835 --> 00:03:18.366 新しいパソコンで重いプログラムを 00:03:18.390 --> 00:03:20.647 同時に10個 作動させるようなものです 00:03:21.201 --> 00:03:23.974 動作がどんどん遅くなり エラーを連発し 00:03:23.998 --> 00:03:25.820 最後には固まります 00:03:25.844 --> 00:03:27.950 パソコン自体がダメなのではなく 00:03:27.974 --> 00:03:30.684 同時にやることが多すぎるのです 00:03:31.459 --> 00:03:34.327 貧乏な人は同じ問題を抱えています 00:03:34.834 --> 00:03:37.624 その人が愚かだから 愚かな選択をしているのではなく 00:03:37.648 --> 00:03:38.844 どんな人であっても 00:03:38.854 --> 00:03:41.938 愚かな選択をしてしまうような 状況に置かれているからです NOTE Paragraph 00:03:42.522 --> 00:03:45.414 私は急に腑に落ちました 00:03:45.434 --> 00:03:49.530 貧困対策プログラムが うまくいかない理由はこれだったのです 00:03:50.647 --> 00:03:55.171 例えば 教育に資金を投入しても 全く効果がないというケースはザラです 00:03:55.195 --> 00:03:58.097 貧困とは 知識の欠如ではないのです 00:03:58.720 --> 00:03:59.819 金銭管理講座の 00:03:59.825 --> 00:04:03.565 有効性を調べた近年の研究 201件を検討したところ 00:04:03.585 --> 00:04:07.424 有効性は ほぼゼロであるという 結論が出ました 00:04:07.438 --> 00:04:08.893 ただし 誤解しないでください 00:04:08.907 --> 00:04:11.272 貧乏な人は何も学ばないという 意味ではありません 00:04:11.282 --> 00:04:13.482 苦労することで賢くなるのは 間違いありません 00:04:13.972 --> 00:04:15.650 しかし それでは不十分なのです 00:04:15.674 --> 00:04:18.676 シャフィア教授には こう言われました 00:04:18.700 --> 00:04:20.684 「誰かに水泳を教えようとして 00:04:20.708 --> 00:04:23.834 最初から荒海に放り込むようなものだ」 NOTE Paragraph 00:04:24.688 --> 00:04:26.283 私自身 それを聞いて 00:04:27.203 --> 00:04:28.458 困惑しました 00:04:29.291 --> 00:04:30.448 何十年にも前に 00:04:30.472 --> 00:04:32.399 出せていた結論じゃないかと思いました 00:04:32.419 --> 00:04:35.674 農家の研究をした心理学者たちは 複雑な脳スキャンなんか必要とせず 00:04:35.684 --> 00:04:37.537 労働者の知能指数を測っただけです 00:04:37.557 --> 00:04:40.645 知能テストが発明されたのは 百年以上も前の話です 00:04:41.219 --> 00:04:45.038 実は 貧困者の心理学について 前にも読んだことがあったのでした 00:04:45.547 --> 00:04:49.221 世界最高の作家の一人である ジョージ・オーウェルは 00:04:49.245 --> 00:04:52.238 1920年代に自ら 貧困を経験しました 00:04:52.856 --> 00:04:55.034 オーウェルは 「貧困の本質とは 00:04:55.058 --> 00:04:58.122 未来を握りつぶすものである」 と書きました 00:04:59.147 --> 00:05:01.494 自身の驚きから このようにも書いています 00:05:01.926 --> 00:05:05.322 「収入が一定水準以下の人を見るやいなや 説教だの祈りだのを 00:05:05.322 --> 00:05:08.163 当然の権利のように始める人が いかに多いことか」 NOTE Paragraph 00:05:08.707 --> 00:05:12.812 現代にも非常に よく当てはまる言葉です 00:05:15.145 --> 00:05:17.126 もちろん 誰もが同じことを思うはず 00:05:17.150 --> 00:05:18.490 「何をすればいいのか?」 00:05:18.514 --> 00:05:21.309 現代の経済学者たちは いくつか対策を提唱しています 00:05:21.333 --> 00:05:23.196 事務処理を支援したり 00:05:23.216 --> 00:05:26.062 公共料金を払い忘れないよう 携帯にメールしたりなどです 00:05:26.072 --> 00:05:30.349 現代の政治家が 非常に好む解決策です 00:05:31.153 --> 00:05:32.856 たいていの理由は 00:05:32.880 --> 00:05:35.120 非常に安上がりだからです 00:05:36.135 --> 00:05:40.145 このような解決策は まさに 現代を象徴していると思います 00:05:40.169 --> 00:05:42.346 対症療法ばかりで 00:05:42.370 --> 00:05:44.213 根本の原因には目を向けません NOTE Paragraph 00:05:45.674 --> 00:05:46.928 そこで こう思いました 00:05:47.786 --> 00:05:51.133 貧困者の境遇自体を 変えてしまえばいいのでは? 00:05:51.725 --> 00:05:53.850 またパソコンの例えになりますが 00:05:53.874 --> 00:05:56.011 ソフトウェアをいじるのはやめて 00:05:56.035 --> 00:06:00.100 メモリを増設すれば 簡単に解決できるのではないか? 00:06:00.124 --> 00:06:03.702 すると シャフィア教授は ポカンとした顔になり 00:06:04.292 --> 00:06:06.029 数秒して こう言いました 00:06:06.842 --> 00:06:09.047 「ああ 分かった 00:06:09.660 --> 00:06:13.511 単純に 貧困者にお金を配れば 貧困を撲滅できると 00:06:14.144 --> 00:06:15.995 そう言いたいわけだね 00:06:16.019 --> 00:06:18.900 まあ…そうなれば最高だけど 00:06:19.914 --> 00:06:22.215 そういう いかにも左翼的な政策は 00:06:22.239 --> 00:06:24.083 アムスルダムでは通用しても 00:06:24.107 --> 00:06:25.790 アメリカには存在しないんだ」 NOTE Paragraph 00:06:26.522 --> 00:06:30.497 でも これって本当に 社会主義的な古臭い考えなのでしょうか? 00:06:31.394 --> 00:06:32.945 ここで私が思い出したのは 00:06:32.983 --> 00:06:35.983 歴史を代表する思想家たちが 提唱してきた案でした 00:06:36.913 --> 00:06:40.673 哲学者トマス・モアの『ユートピア』に この考え方の兆候が見られます 00:06:40.683 --> 00:06:42.752 5百年以上も前の本です 00:06:43.205 --> 00:06:46.755 モアの理論の支持者は 左派から右派まで幅広く 00:06:46.779 --> 00:06:49.549 市民権運動家 マーティン・ルーサー・キングも 00:06:49.573 --> 00:06:52.424 経済学者 ミルトン・フリードマンもそうです 00:06:53.273 --> 00:06:56.093 それは とてつもなく単純な考えで 00:06:57.243 --> 00:07:00.028 「基礎所得保障」というものです NOTE Paragraph 00:07:01.465 --> 00:07:02.513 その内容は 00:07:03.004 --> 00:07:04.166 まぁ 簡単です 00:07:04.727 --> 00:07:07.022 食料 寝る場所 教育など 最低限度の生活に 00:07:07.022 --> 00:07:09.210 必要な所得を毎月給付します 00:07:09.683 --> 00:07:11.504 完全な無条件給付なので 00:07:11.528 --> 00:07:13.692 受給するために 何をしなければならないとか 00:07:13.712 --> 00:07:16.484 その金で何をしなければならないなど 誰にも言われません 00:07:16.484 --> 00:07:19.464 基礎所得保障とは 恩ではなく 権利なのです 00:07:19.488 --> 00:07:21.601 また 不名誉なことでも 何でもありません 00:07:22.372 --> 00:07:25.002 貧困の本質について 知っていくうちに 00:07:25.026 --> 00:07:26.946 こんな疑問が頭を離れなくなりました 00:07:27.208 --> 00:07:30.078 「これが人類が待望していた 解決策なのだろうか 00:07:30.698 --> 00:07:32.879 本当に そんな 単純なことなのだろうか」 00:07:34.348 --> 00:07:35.652 それからの3年間 00:07:35.652 --> 00:07:38.710 基礎所得保障について あらゆる文献を読みました 00:07:38.734 --> 00:07:42.270 世界中で行われた 何十もの実験について調べ 00:07:42.270 --> 00:07:45.908 まもなく ある街での事例に 行き当たりました 00:07:45.932 --> 00:07:48.404 そこでは実際に 貧困ゼロを達成しました 00:07:48.428 --> 00:07:49.748 しかし その後 00:07:50.478 --> 00:07:52.238 ほぼ完全に忘れられていました NOTE Paragraph 00:07:53.586 --> 00:07:56.235 発端はカナダの ドーファンという街です 00:07:57.051 --> 00:08:02.631 1974年 この小さな街では 誰もが基礎所得を保障されていました 00:08:02.655 --> 00:08:05.390 貧困線以下で生活する人を なくすという目的です 00:08:05.414 --> 00:08:07.010 この実験が始まった当初 00:08:07.034 --> 00:08:10.507 多くの研究者が押しかけました 00:08:11.367 --> 00:08:13.898 4年間は 全てが順調でした 00:08:14.511 --> 00:08:17.943 しかし その後 カナダに新政権が誕生して 00:08:17.967 --> 00:08:21.477 新内閣は この金のかかる実験には ほぼ意味がないと考えました 00:08:21.501 --> 00:08:25.754 そして 結果を分析する予算は 残されていないことが明らかになり 00:08:25.778 --> 00:08:30.580 研究資料は2千以上の箱に分けて しまい込まれました 00:08:32.174 --> 00:08:34.965 それから25年が経ち 00:08:34.989 --> 00:08:37.677 エヴリン・フォジェイという カナダ人教授が 00:08:37.701 --> 00:08:38.917 記録を掘り起こしました 00:08:38.941 --> 00:08:42.908 3年かけて 教授はデータを あらゆる種類の統計分析にかけましたが 00:08:42.932 --> 00:08:44.518 どんなやり方をしても 00:08:44.542 --> 00:08:47.278 毎回 出てくる結論は同じでした 00:08:47.968 --> 00:08:51.826 実験は大成功だった というものです NOTE Paragraph 00:08:53.311 --> 00:08:54.135 教授の調べにより ドーファンの住民は 00:08:54.145 --> 00:08:58.418 富のみならず賢さと 健康も得たことが判明しました 00:08:58.418 --> 00:09:02.164 子どもたちの学校での成績は 大幅に向上しました 00:09:03.156 --> 00:09:07.384 入院する人の数は8.5%も減りました 00:09:08.122 --> 00:09:09.932 家庭内暴力は減り 00:09:09.956 --> 00:09:11.747 精神的な問題を訴える人も減りました 00:09:12.153 --> 00:09:14.209 住民は仕事を辞めたりも しませんでした 00:09:14.509 --> 00:09:18.243 仕事をする量が やや減ったのは 出産したばかりの女性と学生だけでした 00:09:18.267 --> 00:09:19.952 教育を受ける年数が延びたためです 00:09:20.888 --> 00:09:21.827 他にも 世界中 00:09:21.847 --> 00:09:25.183 あちこちで実験が数限りなく行われ 同じような結果が出ています 00:09:25.207 --> 00:09:27.454 場所はアメリカから インドまで様々です NOTE Paragraph 00:09:29.613 --> 00:09:30.833 というわけで私は 00:09:31.680 --> 00:09:33.114 次のような考えに至りました 00:09:33.995 --> 00:09:36.151 貧困に関して言えば 00:09:36.175 --> 00:09:41.291 お金のある私たちは 知ったかぶりを止めるべきです 00:09:42.211 --> 00:09:44.965 会ったこともない人々に 靴や ぬいぐるみを送るのは 00:09:44.989 --> 00:09:46.510 やめるべきです 00:09:46.534 --> 00:09:50.067 保護者的統制主義の役人が動かす 巨大な業界を撤廃して 00:09:50.091 --> 00:09:51.866 支援の対象である貧困者たちに 00:09:51.866 --> 00:09:53.682 その分の給料を渡せばいいのです NOTE Paragraph 00:09:53.706 --> 00:09:55.902 (拍手) NOTE Paragraph 00:09:56.446 --> 00:09:59.319 だって お金の素晴らしいところは 00:09:59.343 --> 00:10:01.694 頼まれもしない専門家たちが 考えたものではなく 00:10:01.718 --> 00:10:04.871 自分で必要だと思ったものを 買えるという点なのですから 00:10:05.882 --> 00:10:09.810 想像してもみてください どれだけの優秀な科学者や起業家や文筆家が— 00:10:09.830 --> 00:10:11.165 オーウェルがいい例です— 00:10:11.175 --> 00:10:14.275 今この瞬間にも 貧しさの中で 弱り果てていることか 00:10:14.299 --> 00:10:16.559 ついに貧困を根絶できたとしたら 00:10:16.579 --> 00:10:19.048 どれだけの力と才能を 世に解き放つことができるか 00:10:19.542 --> 00:10:23.724 基礎所得保障にはベンチャーキャピタル のような効果を人々にもたらすはずです 00:10:25.093 --> 00:10:26.951 実施しなければ大損です 00:10:26.961 --> 00:10:30.006 貧困とは非常に 金のかかるものだからです 00:10:30.546 --> 00:10:33.938 例えば アメリカで子どもの貧困対策に かかっている費用を考えてみれば 00:10:33.962 --> 00:10:38.194 年間5千億ドルにも上ると 言われています 00:10:38.218 --> 00:10:41.166 医療費に 学校教育からの脱落率に 犯罪率の増加を考慮すると 00:10:41.190 --> 00:10:42.573 そういう計算になります 00:10:42.597 --> 00:10:46.477 これは 人間の潜在能力の とてつもない浪費です NOTE Paragraph 00:10:48.365 --> 00:10:50.706 しかし 誰もが目をそらす 肝心の難題に入りましょう 00:10:51.326 --> 00:10:54.338 基礎所得を保障する金なんて 一体どうやって捻出できるというのか 00:10:55.052 --> 00:10:58.151 実は皆さんが考えるよりも ずっと安上がりなのです 00:10:58.175 --> 00:11:01.739 ドーファンではどうしたかというと 「負の所得税」を導入しました 00:11:01.763 --> 00:11:03.475 貧困線以下に陥った人には 00:11:03.485 --> 00:11:06.207 追加所得が支給されるという仕組みです 00:11:06.231 --> 00:11:07.593 このシナリオでは 00:11:07.617 --> 00:11:10.131 現代の経済学者が考える 最善の予想では 00:11:10.155 --> 00:11:13.180 1750億ドルの実費— 00:11:13.204 --> 00:11:18.111 アメリカの軍事費の4分の1 GDP1%に当たる金額で 00:11:18.135 --> 00:11:21.689 アメリカの貧困者全員が 貧困線から抜け出せます 00:11:22.566 --> 00:11:25.707 貧困の撲滅が実現するのです 00:11:26.142 --> 00:11:27.944 これを目標にすべきでしょう NOTE Paragraph 00:11:28.666 --> 00:11:29.404 (拍手) NOTE Paragraph 00:11:29.414 --> 00:11:32.756 ちょっとした寄付や後押しをしよう という時代は終わりです 00:11:32.780 --> 00:11:36.088 急進的で斬新なアイデアを 打ち出す時が来ています 00:11:36.112 --> 00:11:39.312 基礎所得保障は単なる政策よりも ずっと意味があります 00:11:39.336 --> 00:11:43.974 仕事とは何かという概念を 根本から覆すものでもあります 00:11:43.998 --> 00:11:45.668 そういった意味では 00:11:45.692 --> 00:11:47.764 貧困者を解放するだけでなく 00:11:48.532 --> 00:11:50.000 私たち皆 自由になれるのです NOTE Paragraph 00:11:51.261 --> 00:11:53.507 このところ 仕事に意味や意義を 00:11:53.531 --> 00:11:55.741 見いだせないという人が 何百万人もいます 00:11:55.741 --> 00:12:00.808 142ヶ国 23万人の会社員を 対象とした最近の調査によると 00:12:00.832 --> 00:12:05.497 実際に仕事が好きだという人は たったの13%でした 00:12:06.600 --> 00:12:10.267 もう1つの調査では イギリスの会社員の37%が 00:12:10.291 --> 00:12:13.251 自分の仕事の存在意義さえ 疑っているという結果が出ました 00:12:14.387 --> 00:12:16.681 『ファイトクラブ』の ブラッド・ピットの言葉 00:12:16.705 --> 00:12:20.361 「要りもしないガラクタを買うために 嫌いな仕事をしてるヤツが多すぎる」 NOTE Paragraph 00:12:20.385 --> 00:12:21.863 (笑) NOTE Paragraph 00:12:21.887 --> 00:12:23.344 誤解のないように言っておくと 00:12:23.358 --> 00:12:25.862 教師とか ゴミ収集業者とか 介護職の話を 00:12:25.886 --> 00:12:27.368 しているわけではありません 00:12:27.392 --> 00:12:30.347 そういう人たちがいなくなったら大変です 00:12:30.990 --> 00:12:34.615 私の言う不要な仕事とは 立派な経歴を持つ 高給取りのビジネスマンが 00:12:34.639 --> 00:12:36.664 「ピア・ツー・ピア」の 「業務戦略会議」で 00:12:36.674 --> 00:12:39.224 「インターネット社会における 付加価値の創造」だの 00:12:39.224 --> 00:12:41.100 「革新的な価値共創」だのを 「ブレインストーミング」する— 00:12:41.100 --> 00:12:42.141 「革新的な価値共創」だのを 「ブレインストーミング」する— NOTE Paragraph 00:12:42.141 --> 00:12:43.038 (笑) NOTE Paragraph 00:12:43.038 --> 00:12:44.090 (拍手) NOTE Paragraph 00:12:44.090 --> 00:12:45.372 そういう系の仕事です 00:12:45.966 --> 00:12:49.020 だって おかしいでしょう どれだけの才能を浪費していることか 00:12:49.044 --> 00:12:52.884 そもそも私たちが 子どもたちに 「生きるために働け」と教えるからです 00:12:53.638 --> 00:12:57.380 Facebookで働く数学の天才が 何年か前に嘆いていましたね 00:12:57.404 --> 00:12:59.266 「私の世代最高の頭脳が考えることが よりにもよって 00:12:59.290 --> 00:13:02.523 ウェブ広告のクリックを どうやって増やすか だなんて」 NOTE Paragraph 00:13:04.699 --> 00:13:05.944 私は歴史家です 00:13:06.992 --> 00:13:09.061 歴史から何か学べることがあるとすれば 00:13:09.085 --> 00:13:11.877 世の中は変えられるということです 00:13:11.901 --> 00:13:13.772 人が作った社会や経済の構造に 00:13:13.782 --> 00:13:16.027 不可抗力なんて1つもないんです 00:13:16.057 --> 00:13:18.653 アイデアは世界を変えられるし 実際 変えるんです 00:13:18.677 --> 00:13:21.188 特に この数年で 00:13:21.212 --> 00:13:22.721 痛烈に明らかになったのは 00:13:22.731 --> 00:13:24.618 もう現状にしがみついてはいられないし 00:13:24.642 --> 00:13:26.297 新しいアイデアが必要だということです NOTE Paragraph 00:13:28.399 --> 00:13:31.712 広がり続ける格差や 外国人排斥傾向や 00:13:31.736 --> 00:13:33.799 気候変動などの行方について 00:13:33.823 --> 00:13:35.100 悲観的に思っている方も 00:13:35.124 --> 00:13:36.320 多いでしょう 00:13:36.986 --> 00:13:39.204 でも 何に対して 反対なのかだけじゃなく 00:13:39.228 --> 00:13:40.840 何に賛成なのかも考えるべきです 00:13:40.864 --> 00:13:43.558 キング牧師は「私には悪夢がある」 とは言いませんでした NOTE Paragraph 00:13:43.588 --> 00:13:45.295 (笑) NOTE Paragraph 00:13:45.319 --> 00:13:46.478 彼には夢があったのです NOTE Paragraph 00:13:46.502 --> 00:13:47.581 (拍手) NOTE Paragraph 00:13:47.605 --> 00:13:48.757 ですから 00:13:49.835 --> 00:13:51.060 これが私の夢です 00:13:52.303 --> 00:13:53.941 私が信じる未来では 00:13:53.965 --> 00:13:56.318 人の仕事の価値を決めるのは 00:13:56.342 --> 00:13:57.819 給料の額ではなく 00:13:57.843 --> 00:13:59.875 周りに広げる幸せや 00:13:59.899 --> 00:14:01.876 周りに与える意義です 00:14:01.900 --> 00:14:03.132 私の信じる未来では 00:14:03.156 --> 00:14:06.816 教育は ありふれた不用な仕事の 準備段階ではなく 00:14:06.840 --> 00:14:08.490 いい人生の準備段階です 00:14:09.204 --> 00:14:10.483 私が信じる未来では 00:14:10.507 --> 00:14:13.601 貧困と無縁の生活が 特権ではなく 00:14:13.625 --> 00:14:15.638 誰にとっても当然なのです 00:14:15.662 --> 00:14:17.127 さて 肝心なのは 00:14:17.151 --> 00:14:17.856 ここからです 00:14:17.876 --> 00:14:20.140 研究結果も証拠も揃っていますし 00:14:20.150 --> 00:14:21.377 実行手段も明らかです NOTE Paragraph 00:14:21.397 --> 00:14:25.400 そして トマス・モアが基礎所得保障を 提唱してから5百年以上になり 00:14:25.410 --> 00:14:29.644 ジョージ・オーウェルが貧困の本質を 突き止めてから百年以上になります 00:14:29.674 --> 00:14:32.124 私たち 誰もが 世界観を改めねばなりません 00:14:32.144 --> 00:14:35.253 貧困とは 人格の欠如ではありません 00:14:35.832 --> 00:14:38.500 貧困とは 金銭の欠乏なのです NOTE Paragraph 00:14:39.281 --> 00:14:40.645 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:14:40.529 --> 00:14:44.952 (拍手)