1 00:00:24,228 --> 00:00:27,623 こんにちは 東京大学の鳴海拓志と申します 2 00:00:28,208 --> 00:00:30,626 私はバーチャルリアリティの 研究をしています 3 00:00:31,046 --> 00:00:34,753 バーチャルリアリティというとですね こういうイメージかなと思います 4 00:00:35,293 --> 00:00:39,188 「ヘッドマウントディスプレイ」と呼ばれる 頭につけるようなディスプレイを装着して 5 00:00:39,496 --> 00:00:43,830 全然この現実とは違う世界に行って 何か楽しんで帰ってくると 6 00:00:44,914 --> 00:00:48,413 エンターテインメントとか そういうイメージがありますよね 7 00:00:49,053 --> 00:00:50,386 で 実際にですね 8 00:00:50,386 --> 00:00:54,946 こういう家庭用のゲーム機で使える ヘッドマウントディスプレイが売り出されたり 9 00:00:55,402 --> 00:00:58,144 1,000円で買えるダンボールの ヘッドマウントディスプレイが 10 00:00:58,144 --> 00:00:59,516 売り出されたりとか 11 00:00:59,676 --> 00:01:03,475 かなり そろそろ普及してきているのかな と思っています 12 00:01:03,705 --> 00:01:04,998 2016年ぐらいには 13 00:01:04,998 --> 00:01:07,738 バーチャルリアリティ元年みたいなことが 14 00:01:07,738 --> 00:01:09,963 結構ニュースなんかでも 話題になったと思います 15 00:01:10,201 --> 00:01:13,177 この中でバーチャルリアリティ 聞いたことある方 16 00:01:13,177 --> 00:01:14,793 どれくらいいらっしゃいますか? 17 00:01:14,933 --> 00:01:18,564 まあ ほとんどもう みなさん 馴染みのものになってきていると思います 18 00:01:19,049 --> 00:01:20,726 「こんなに馴染んでいたら 19 00:01:20,726 --> 00:01:23,656 もう研究者って何にも やることないんじゃないの?」って 20 00:01:23,656 --> 00:01:25,713 たまに意地悪なことを言われます 21 00:01:25,958 --> 00:01:28,614 で じゃあ 僕らが何をやっているか っていうところから 22 00:01:28,614 --> 00:01:30,334 ちょっと話していきたいんですが 23 00:01:30,580 --> 00:01:34,854 僕らはVRを通じて自分の内面を知って 24 00:01:34,964 --> 00:01:37,930 さらにそれを変えていくというような 研究をしています 25 00:01:38,584 --> 00:01:41,898 で その前にですね その基盤的な技術として 26 00:01:42,285 --> 00:01:46,145 「どうやって今のバーチャルリアリティの 限界を突破することができるか」 27 00:01:46,145 --> 00:01:47,498 ということを考えています 28 00:01:47,598 --> 00:01:51,385 たとえば ゲームをプレイする時 こういうふうに座ってプレイして 29 00:01:51,521 --> 00:01:53,497 自分の身体で動き回ることができません 30 00:01:54,070 --> 00:01:57,378 で この限界を突破したい時に どういうことができるかということを 31 00:01:57,378 --> 00:01:59,202 一つ紹介したいと思います 32 00:02:00,532 --> 00:02:02,305 なぜ歩けないかというとですね 33 00:02:02,325 --> 00:02:05,939 たとえば 歩いた時に 人の身体を追いかける装置があれば 34 00:02:06,497 --> 00:02:08,628 バーチャルリアリティの中で 動けるんですけれど 35 00:02:08,834 --> 00:02:10,527 実際にそれをやろうとすると 36 00:02:11,883 --> 00:02:15,907 体験したい空間と同じ大きさの部屋が 必要になってきます 37 00:02:16,353 --> 00:02:17,945 もしみなさんのご家庭で 38 00:02:17,945 --> 00:02:21,965 すごく広い街 たとえば神戸の街を VRで再現しました というのを 39 00:02:21,965 --> 00:02:24,079 歩いて体験できるようにしようとしても 40 00:02:24,759 --> 00:02:27,795 おそらく皆さんの家庭だと 壁にぶつかってしまいます 41 00:02:27,825 --> 00:02:29,958 もしかしたら 皆さん 大富豪かもしれないので 42 00:02:29,958 --> 00:02:32,408 とても広いお家を お持ちかもしれないですが 43 00:02:32,741 --> 00:02:33,944 一般家庭ではやっぱり 44 00:02:33,944 --> 00:02:36,484 3メートル×3メートルぐらいしか 動けなくて 45 00:02:36,484 --> 00:02:38,773 それ以上行こうとすると 壁に当たってしまう 46 00:02:39,365 --> 00:02:41,386 そこで考えたのがこういうシステムです 47 00:02:42,272 --> 00:02:44,876 図にあるように壁が曲がっています 48 00:02:45,356 --> 00:02:50,071 でも ヘッドマウントディスプレイを 掛けた人には真っ直ぐな壁が見えている 49 00:02:50,471 --> 00:02:55,014 で この壁を触ろうとすると 実際に曲がった壁があるので 50 00:02:55,350 --> 00:02:56,956 触れることができるわけです 51 00:02:57,186 --> 00:03:00,757 そうすると「あれ?ここに 真っ直ぐな壁があるぞ?」と思う 52 00:03:01,297 --> 00:03:02,516 こういう状況です 53 00:03:03,236 --> 00:03:05,817 で 真っ直ぐな壁に触れながら 54 00:03:06,027 --> 00:03:08,329 真っ直ぐに見える壁に触れながら 55 00:03:08,628 --> 00:03:12,421 実際には曲がった壁の周りを ぐるぐる回っているんですが 56 00:03:12,441 --> 00:03:16,837 この人は 真っ直ぐな壁を見て 触ったらそこに(壁が)あるから 57 00:03:17,040 --> 00:03:18,969 「絶対真っ直ぐな壁だ」と信じていて 58 00:03:18,969 --> 00:03:21,301 歩くと真っ直ぐ歩いているように 感じてしまう 59 00:03:21,351 --> 00:03:22,729 ということが分かります 60 00:03:23,755 --> 00:03:27,526 で 実はこれ 直径6メートルのところを ぐるぐるしているだけなんですが 61 00:03:27,526 --> 00:03:29,827 この人は無限に真っ直ぐ 歩いているような感覚を 62 00:03:29,827 --> 00:03:31,377 得ることができるわけです 63 00:03:31,658 --> 00:03:33,791 我々が現実を感じる時に 64 00:03:34,230 --> 00:03:36,980 空間っていうのがどういうふうに 構成されているかっていうと 65 00:03:37,017 --> 00:03:39,595 実際に体を使って歩いた感覚よりも 66 00:03:39,853 --> 00:03:43,436 目で見て信じているとか 触って信じていることがすごく強いので 67 00:03:43,436 --> 00:03:46,474 こういうことが起こるのだ ということが分かってきました 68 00:03:47,891 --> 00:03:49,812 もう一つ 例を挙げてみましょう 69 00:03:49,932 --> 00:03:51,719 これは味を変える装置です 70 00:03:51,919 --> 00:03:54,324 と言っても 食べ物は変わらないんですね 71 00:03:54,554 --> 00:03:55,884 どういう装置かというと 72 00:03:56,161 --> 00:03:58,967 このゴーグルを通して見ると 普通のクッキーがですね 73 00:03:58,980 --> 00:04:00,725 いきなりチョコレートのクッキーに変わる 74 00:04:00,985 --> 00:04:02,569 見た目が変わるだけじゃなくて 75 00:04:02,569 --> 00:04:05,056 ちょっとこれ ごつい装置になっていますが 76 00:04:05,056 --> 00:04:06,846 香りを出す装置が付いています 77 00:04:07,344 --> 00:04:11,062 チョコレートの見た目で チョコレートの香りを感じながら食べると 78 00:04:11,062 --> 00:04:14,196 この人は味がチョコレートに 感じてしまう訳です 79 00:04:14,196 --> 00:04:18,536 大体8割とか8割5分ぐらいの人が そういうふうに感じてしまいます 80 00:04:19,116 --> 00:04:23,075 もちろん 匂いと見た目の組合せは 好きに変えられるので 81 00:04:23,075 --> 00:04:26,789 全く同じものを食べているのに 急にアーモンドクッキーになったり 82 00:04:26,789 --> 00:04:29,428 ストロベリークッキーになったり そういうことができます 83 00:04:29,428 --> 00:04:32,277 そうすると たとえば 病院食がおいしくなったり 84 00:04:32,857 --> 00:04:37,056 塩分を抑えて塩気が強いとか そういうこともできるようになりますよね 85 00:04:37,768 --> 00:04:40,829 で こういうふうに 実は 味っていうのは 86 00:04:41,582 --> 00:04:45,442 舌で感じているものだけではなくて 鼻や目で感じている 87 00:04:45,442 --> 00:04:48,788 もちろん盛付けみたいなのも すごく料理に大事ですけれど 88 00:04:48,788 --> 00:04:50,281 そういうところを考えてみると 89 00:04:50,771 --> 00:04:54,105 味を簡単に出すことができる ということが分かってきます 90 00:04:54,375 --> 00:04:56,908 こういうことができるのは なぜかというと 91 00:04:56,908 --> 00:04:58,908 五感って 教科書レベルでは 92 00:04:59,247 --> 00:05:02,702 セパレートして 独立したものだと 習っていると思うのですが 93 00:05:02,896 --> 00:05:05,328 実際には 感覚の垣根を越えて 94 00:05:05,358 --> 00:05:07,588 お互いに影響し合っている からなんですね 95 00:05:08,509 --> 00:05:11,735 最近の脳科学とか 認知科学の研究のおかげで 96 00:05:11,735 --> 00:05:15,055 こういう影響が結構強いんだ ということが分かってきました 97 00:05:15,498 --> 00:05:19,239 こういう感覚の垣根を越えて お互いに影響し合っていることを 98 00:05:19,239 --> 00:05:21,126 「クロスモーダル知覚」といいます 99 00:05:21,406 --> 00:05:26,107 特によく起こる組合せ同士の 感覚っていうのは 100 00:05:26,267 --> 00:05:28,277 すごく結びつきが深くなっていく 101 00:05:28,277 --> 00:05:32,786 なので「見た目がチョコレートで 香りがチョコレートだよね」ってなったら 102 00:05:33,175 --> 00:05:37,110 もう脳がそこで複雑な処理をするよりも 103 00:05:37,270 --> 00:05:40,320 「もう味がチョコレートが来るに 決まってるよね」って想像をして 104 00:05:40,320 --> 00:05:42,817 それで補ってしまう ということが起こります 105 00:05:42,997 --> 00:05:45,488 なので こういう現象を 使ってあげるとですね 106 00:05:45,488 --> 00:05:49,258 出すのが難しい感覚でも 意外と簡単に出せたりする 107 00:05:49,258 --> 00:05:50,592 ということが分かってきます 108 00:05:50,592 --> 00:05:53,904 なので 我々の感覚って 結構あやふやなんですけれど 109 00:05:53,904 --> 00:05:57,166 そこを突いてあげると VRで色々なことができるというわけです 110 00:05:57,687 --> 00:05:59,594 もう1個 例を紹介してみましょう 111 00:05:59,594 --> 00:06:02,871 これはですね 「拡張満腹感」と 呼んでいるんですけれど 112 00:06:03,091 --> 00:06:04,380 どういうものかっていうと 113 00:06:04,380 --> 00:06:07,129 物を食べようとすると 食べ物が大きく見えます 114 00:06:07,891 --> 00:06:11,334 大きく見える状態で食べると お腹いっぱいにすぐなる 115 00:06:11,528 --> 00:06:13,411 まあ すごい安直な研究ですよね 116 00:06:13,411 --> 00:06:16,221 これがですね 実際にどれぐらい効くか 117 00:06:16,504 --> 00:06:19,590 学生さんに「おやつ食べ放題の実験が あるんだけど来る?」って言ったら 118 00:06:19,590 --> 00:06:21,201 みんな喜んで来てくれるんですね 119 00:06:21,201 --> 00:06:23,285 「そんな夢みたいな実験 あるんですか?」って 120 00:06:23,365 --> 00:06:27,918 まあ実際にはですね 3日間できるだけ コンディションを整えてもらって 121 00:06:27,918 --> 00:06:30,156 同じような状態で食べて貰うんですけれど 122 00:06:30,156 --> 00:06:32,240 この時に たとえばこの子は 123 00:06:32,370 --> 00:06:38,350 「小さいと13枚 普通の時11枚で 大きいと もう7枚でお腹一杯になっちゃう」 124 00:06:38,350 --> 00:06:40,110 ということが分かりました 125 00:06:40,730 --> 00:06:44,609 なので この子は結構効きやすい子 だったんですけれど 126 00:06:44,609 --> 00:06:47,258 いっぱい被験者を取ってみると 127 00:06:47,258 --> 00:06:51,704 アベレージでプラスマイナス10%ぐらい 食べる量を変えることができます 128 00:06:51,994 --> 00:06:56,240 で 被験者の人に「どれぐらい 食べる量を変えましたか?」って聞くと 129 00:06:56,240 --> 00:06:57,782 「いや 変えてないですよ?」と 130 00:06:57,782 --> 00:07:01,671 「だって 実験では 同じだけ 満足感が得られるまで 131 00:07:01,711 --> 00:07:05,612 同じぐらい満腹になるまで食べて下さいと 指示されてるじゃないですか?」 132 00:07:05,612 --> 00:07:09,016 と言っているわけで 本人は無意識に 食べる量を変えているわけです 133 00:07:09,376 --> 00:07:12,613 なので ある意味ではこれは 無意識にダイエットする方法なわけですね 134 00:07:13,092 --> 00:07:15,737 で なぜこういう事が起こるかというと 135 00:07:16,120 --> 00:07:19,559 我々はお腹にバネ秤が 付いているわけじゃないので 136 00:07:19,559 --> 00:07:21,795 何グラム食べましたとか分からないんで 137 00:07:22,105 --> 00:07:24,675 その手掛りを見た目から得ているわけです 138 00:07:24,695 --> 00:07:28,465 なので 見た目を変えるだけで 我々はどれくらいお腹いっぱいになるとか 139 00:07:28,465 --> 00:07:32,723 どれくらい食べるっていう感覚とか 行動が変わってしまうというわけですね 140 00:07:33,164 --> 00:07:35,975 なので こういう感覚の影響を 使ってあげると 141 00:07:35,975 --> 00:07:38,251 我々は 実際に振る舞いを変えて 142 00:07:38,251 --> 00:07:41,147 食生活を改めることが できるようになるかもしれない 143 00:07:42,168 --> 00:07:46,016 もうちょっと 考えてみると そういう感覚の影響っていうのが 144 00:07:46,016 --> 00:07:48,710 だんだん自分にも返ってくる ということが分かってきます 145 00:07:49,407 --> 00:07:52,267 で たとえば さっきまでの話っていうのは 146 00:07:52,267 --> 00:07:55,400 自分の外にある物の見え方を変えていました 147 00:07:55,400 --> 00:07:58,327 じゃあ 次は 自分の見え方を 変えたらどうなるでしょう 148 00:07:58,327 --> 00:08:02,569 そういう研究をちょっとやってみた例が この「扇情的な鏡」という研究です 149 00:08:02,770 --> 00:08:06,616 どういう研究かというと 鏡のように見えるんですけれど 150 00:08:06,616 --> 00:08:09,452 実際には そこに映し出されているのは 151 00:08:09,452 --> 00:08:13,125 自分の今の顔と ちょっと違う顔が 映っているんです 152 00:08:13,474 --> 00:08:16,223 少しだけ口角が上がって笑顔になっていたり 153 00:08:16,333 --> 00:08:18,913 少しだけ眉が下がって悲しい顔に見える 154 00:08:19,043 --> 00:08:20,882 その時にどうなるかというと 155 00:08:20,882 --> 00:08:24,406 鏡に映った顔に引きずられて 感情が変わっていくんです 156 00:08:24,546 --> 00:08:27,516 鏡の中の自分が笑っていると それに引きずられて 157 00:08:27,516 --> 00:08:29,339 自分もどんどん楽しくなっていく 158 00:08:29,478 --> 00:08:33,276 逆にちょっと悲しい顔を見ていると ちょっと悲しい気分になったりする 159 00:08:33,637 --> 00:08:35,311 で こういうふうにですね 160 00:08:35,311 --> 00:08:38,658 実は 自分がどう見えているか ということを利用してあげると 161 00:08:38,658 --> 00:08:41,720 自分の感情をコントロールすることができる 162 00:08:41,720 --> 00:08:44,053 もちろん使い方を誤ると怖いですけれど 163 00:08:44,053 --> 00:08:48,013 もしかすると上手く自分の感情と付き合って いくことができるようになるかもしれない 164 00:08:48,028 --> 00:08:50,845 たとえば 「ちょっと落ち込んだ時に 明るい気分にしてあげる」 165 00:08:50,845 --> 00:08:53,701 というようなことのために こういうものが使えると思っています 166 00:08:53,951 --> 00:08:56,458 で なぜこの文脈でこれを紹介したかというと 167 00:08:56,518 --> 00:09:01,114 実は これをビデオチャットで使う ということを考えてみました 168 00:09:01,114 --> 00:09:05,591 皆さん もしかしたら 遠隔地の人とお仕事をされる時に 169 00:09:05,591 --> 00:09:08,662 ビデオチャットみたいなものを 使うことがあるかもしれません 170 00:09:09,086 --> 00:09:11,924 で 大体ですね ビデオチャットで話しても 171 00:09:11,924 --> 00:09:14,964 「なんかリアルで会った方が良かったな」 ってなるわけですけれど 172 00:09:14,964 --> 00:09:16,827 ここではちょっと変なことをやります 173 00:09:17,368 --> 00:09:20,977 お互い2人でアイデアを出す ブレインストーミングをやるんですが 174 00:09:21,297 --> 00:09:24,123 普通にアイデアを出すと 東大生を呼びつけて 175 00:09:24,123 --> 00:09:27,747 「5分でいっぱいアイデアを出してね」 って言うと大体8つくらい出るんですね 176 00:09:27,942 --> 00:09:30,387 で その後にですね 177 00:09:30,672 --> 00:09:34,302 お互いが笑顔に見えるように さっきの技術を使ってあげます 178 00:09:34,302 --> 00:09:36,000 そうすると それだけで 179 00:09:36,180 --> 00:09:40,281 なんとアイデアが出る数が 12個なので1.5倍になったんです 180 00:09:40,921 --> 00:09:43,900 つまり なんかポジティブな状況で 人と接するだけで 181 00:09:43,951 --> 00:09:45,921 我々はクリエイティブになるわけですね 182 00:09:45,921 --> 00:09:49,362 「勉強しなくてもいい 我々のパワーが出せる」 183 00:09:49,362 --> 00:09:51,268 ということが分かってきました 184 00:09:51,468 --> 00:09:53,646 なので こういうふうに コミュニケーションの中で 185 00:09:53,646 --> 00:09:55,315 「自分がどう見えるか?」とか 186 00:09:55,425 --> 00:09:59,239 「相手からどう受け取られているか?」 っていう印象を変えてあげるってことを 187 00:09:59,239 --> 00:10:02,265 VRの技術みたいなものを 応用してあげることによって 188 00:10:02,265 --> 00:10:06,243 我々はもっと能力が引き出せる環境を 作れるということを確かめています 189 00:10:06,525 --> 00:10:08,485 [分身で同調圧力を低減する] 190 00:10:08,538 --> 00:10:12,467 ちょっと こういう研究について もう1個事例を紹介してみましょう 191 00:10:12,647 --> 00:10:14,861 さっきのは自分の見た目を 変えるということで 192 00:10:14,861 --> 00:10:17,142 ある意味では変身を扱った研究ですが 193 00:10:17,142 --> 00:10:19,309 今度は分身を扱った研究です 194 00:10:19,309 --> 00:10:21,564 たとえば みんなで話し合いをして 195 00:10:22,254 --> 00:10:25,154 何か答えを出さないといけない シチュエーションというのがあります 196 00:10:25,204 --> 00:10:29,128 たとえば ここに書いてあるのは 「砂漠遭難課題」と呼ばれているんですけど 197 00:10:29,128 --> 00:10:31,253 砂漠で飛行機が落ちました と 198 00:10:31,594 --> 00:10:36,106 「あなたたち もう手にいっぱい 荷物があるので1個しか持っていけません 199 00:10:36,286 --> 00:10:40,892 ヘルメットか サングラスか マスク どれか1個選んで下さい 200 00:10:40,892 --> 00:10:44,112 皆さんで話し合って1個決めて下さい」 って言った時に 201 00:10:44,112 --> 00:10:46,965 2人が最初に「サングラス」って言った後に 202 00:10:46,965 --> 00:10:50,356 「ヘルメット」って なかなか切り出しにくいですよね 203 00:10:50,427 --> 00:10:51,985 もしくは 切り出した時に 204 00:10:52,245 --> 00:10:55,855 「みんなサングラスって言ってるんだから ちゃんとサングラスって言えよ」みたいな 205 00:10:55,855 --> 00:10:57,673 圧力が掛かってしまうわけです 206 00:10:57,673 --> 00:11:00,145 こういうのを同調圧力と呼んでいて 207 00:11:00,145 --> 00:11:03,545 日本だと結構強いというふうに 言われていますよね 208 00:11:03,545 --> 00:11:06,486 でも 本当は冷静に議論して欲しい 209 00:11:06,486 --> 00:11:08,620 ヘルメットもいいところが あるかもしれないので 210 00:11:08,620 --> 00:11:11,241 ちゃんとそれをみんなが 納得した上で決めたい 211 00:11:11,241 --> 00:11:15,170 なので こういう同調圧力を なんとか低減できないかなと思いました 212 00:11:15,650 --> 00:11:17,282 そこで さっきの影分身です 213 00:11:17,858 --> 00:11:20,549 これは人数が2対1だから いけないんですよね 214 00:11:21,403 --> 00:11:23,552 この1人の人が2人に なっちゃえば良いんです 215 00:11:25,277 --> 00:11:27,953 かなり安直な方法ですけれど こういうのを作りました 216 00:11:27,953 --> 00:11:31,426 「こちらは擬似同調効果生成システムの 動作のデモ動画です」 217 00:11:31,426 --> 00:11:37,100 「このように発言と発言の間の無音に従って 発言音声を2つに分割します」 218 00:11:37,100 --> 00:11:40,100 「それを2体のアバターに 交互に喋らせることで 219 00:11:40,100 --> 00:11:42,030 1人の話者を2人に見せかけます」 220 00:11:42,520 --> 00:11:45,305 「こうすることで擬似同調効果の 生成を図ります」 221 00:11:45,595 --> 00:11:46,553 こういうふうにですね 222 00:11:46,553 --> 00:11:50,415 1人が喋ってる話の切れ目を 自動的に検出して 223 00:11:51,511 --> 00:11:55,944 画面の中では2体のアバターに 割り当ててあげるということをやります 224 00:11:56,004 --> 00:11:59,904 そうすると この人は意識して努力して 何かするんじゃなくて 225 00:12:00,154 --> 00:12:02,531 無意識に 普通に ディスカッションしてるつもりで 226 00:12:02,531 --> 00:12:06,938 2人の身体を使いこなして ディスカッションしていることになります 227 00:12:07,693 --> 00:12:13,765 これをですね 先程の 弱い意見の人に使ってもらう訳です 228 00:12:13,765 --> 00:12:15,508 そうすると どうなるかというと 229 00:12:17,146 --> 00:12:21,694 こちら側に見えているのが弱い意見の人に 見えている画面なんですけれども 230 00:12:21,694 --> 00:12:26,052 「自分と違う意見の人が2人いるな」 と思って一生懸命説明する訳ですね 231 00:12:26,402 --> 00:12:29,133 多数派だった人たちには どう見えているかというと 232 00:12:29,293 --> 00:12:31,236 自分と同じ意見の人が1人いて 233 00:12:31,236 --> 00:12:34,114 自分と意見の違う人が 2人いるように見えます 234 00:12:34,114 --> 00:12:37,217 この状態でディスカッションをすると どうなるかというと 235 00:12:37,217 --> 00:12:40,098 なんと合意が形成された後に 236 00:12:40,588 --> 00:12:44,525 みんなが納得しているという度合いが 高まるということが分かりました 237 00:12:45,078 --> 00:12:49,551 で 人数の影響とかって すごい些細なことのように見えるんですが 238 00:12:49,551 --> 00:12:52,874 こういうふうに 結構冷静な議論を 妨げたりする訳です 239 00:12:53,022 --> 00:12:56,568 で「そういうような影響が 人の考え方の癖がいっぱいあるよ」 240 00:12:56,568 --> 00:12:57,987 っていうことを分かったら 241 00:12:57,987 --> 00:13:00,881 それを打ち消す方向に働きかけたり 242 00:13:00,881 --> 00:13:04,411 それをもっとポジティブに使う方向に 働きかけることができるでしょう 243 00:13:04,865 --> 00:13:09,166 こういうことをVRの力をもってすれば 色々なことに使っていけるのではないか 244 00:13:09,166 --> 00:13:10,498 ということを考えています 245 00:13:10,595 --> 00:13:14,970 なので 人をもっと賢くするために 人をもっと人に優しくするために 246 00:13:14,970 --> 00:13:17,009 こういうことを使いたいと思っています 247 00:13:18,171 --> 00:13:19,654 で ここで見てきたように 248 00:13:19,912 --> 00:13:23,670 VRってのは 人の感覚とか 認知の仕組みというのを 249 00:13:23,670 --> 00:13:29,281 普段と違う環境を与えることによって 白日のもとに晒し出してしまう訳です 250 00:13:29,571 --> 00:13:34,412 なので 冒頭で 「皆さん VRって何か違う世界に行って 251 00:13:34,412 --> 00:13:37,497 ”あぁ 楽しかった!”と言って 帰ってくるだけのものだと 252 00:13:37,497 --> 00:13:40,375 思ってるんじゃないでしょうか?」 という話をしたんですが 253 00:13:40,375 --> 00:13:41,773 実はそうではない 254 00:13:42,753 --> 00:13:46,875 VRの中で体験したことっていうのは 我々の心を変えていて 255 00:13:46,875 --> 00:13:49,458 我々はそれを現実に 持って帰ってきているので 256 00:13:49,458 --> 00:13:53,775 VRで体験したことは 現実の世界を変えていっている訳ですね 257 00:13:54,647 --> 00:13:56,762 なので 我々が食べた物から できてるように 258 00:13:56,762 --> 00:14:01,863 我々は 情報として 頭の中で処理したものをもってして 259 00:14:01,863 --> 00:14:04,268 我々の心を作り出しているので 260 00:14:04,268 --> 00:14:09,378 我々は 実はVRで体験したことを かなり現実に持ってきている訳です 261 00:14:09,585 --> 00:14:10,800 ということは 262 00:14:10,800 --> 00:14:14,579 「VRってのは現実を変えている」 と言える訳ですね 263 00:14:16,976 --> 00:14:19,998 それで 今日最後の質問にしたいと思います 264 00:14:19,998 --> 00:14:23,994 皆さん どんなふうに 今 自分や現実を 変えたいと思っているでしょうか? 265 00:14:24,153 --> 00:14:27,186 おそらく まあ皆さん 色々なことをお考えだと思います 266 00:14:27,556 --> 00:14:31,957 身の回りの現実とか 自分のことを変えたいなと思う瞬間が 267 00:14:31,957 --> 00:14:33,517 結構あるんじゃないかと思うんですけれど 268 00:14:33,517 --> 00:14:39,090 おそらくVRは それを手助け出来る未来が すぐにやってくると思います 269 00:14:39,621 --> 00:14:44,797 でも VRで自分を変えてしまうって 結構怖い技術ですよね 270 00:14:45,677 --> 00:14:48,589 「じゃあ 何に使って良くて 何に使っちゃいけないのか?」 271 00:14:48,589 --> 00:14:51,704 っていうことを研究者だけでは 考えることができません 272 00:14:52,414 --> 00:14:55,212 なので「皆さんにVRの技術で 何が出来るのか?」 273 00:14:55,212 --> 00:14:56,672 っていうのを知ってもらって 274 00:14:56,672 --> 00:15:01,661 そこから色んな日常に 関係するところで想像してもらって 275 00:15:01,661 --> 00:15:05,109 「あ こういう使い方は私は許せるけど こういう使い方は許せないな」 276 00:15:05,109 --> 00:15:06,583 というのを想像して頂く 277 00:15:06,583 --> 00:15:09,103 それを我々にフィードバックして頂けると 278 00:15:09,373 --> 00:15:12,916 「こういう研究はしていいとか こういう研究はしてはいけない」っていうのが 279 00:15:12,916 --> 00:15:14,322 だんだん分かってきます 280 00:15:14,652 --> 00:15:17,631 薬は「用法 用量」ってのがありますよね 281 00:15:18,313 --> 00:15:20,567 で あれはやっぱり長い蓄積のもとで 282 00:15:20,601 --> 00:15:25,034 ここまで使ったら体にいいけれど これ以上使うと体に悪くなる っていうのが 283 00:15:25,034 --> 00:15:26,204 分かってきている 284 00:15:26,204 --> 00:15:30,563 おそらくVRにも用法とか用量 っていうものが必要だと思っています 285 00:15:30,635 --> 00:15:35,195 そういうものを決めていくためにも やっぱり皆さんの意見が大事なので 286 00:15:35,195 --> 00:15:39,752 ぜひ皆さんもVRと社会のいい関係を どうやったら作れるかっていうところを 287 00:15:39,847 --> 00:15:45,165 ちょっと身近な体験から出発して 一緒に考えて頂けると今日は嬉しいです 288 00:15:45,285 --> 00:15:46,685 ありがとうございました 289 00:15:46,685 --> 00:15:49,699 (拍手)