日本語版字幕担当:
ミシガン大学所属 − 瀬川恵、矢嶋彩香
ボランティア − 東梅ひろみ, M.D.
股関節の筋骨格系検査法(完全版)
ミシガン大学
家庭医療学科
タラ・マスターハンター, M.D.
マイケル・マクカートニー, M.D.
完全な評価を確実に行うために、 股関節の筋骨格系検査は系統立った方法で行うのが最善です。
次のビデオは股関節の損傷を評価する際に用いられる一般的な検査法を多数取り入れている推奨された診察手順です。
股関節の診察はまず視診から始めます。
患者が近づいたり遠ざかったりするときの歩行を観察し、有痛性歩行、トレンデレンブルク歩行、
骨盤が過剰に傾いたタイプの歩行などがないか調べてください。
前方から患者を観察し、肩 、腸骨稜、そして膝の左右の並び具合を評価します。
体形を観察し、下肢の委縮や皮膚の変化を調べてください。
後方からも同じ様に左右の非対称性、萎縮、
あるいは皮膚の変化について観察してください。
脊柱前弯症、脊椎湾曲症、傍脊椎筋痙攣などについて詳しく観察します。
股関節の関連痛の原因となる腰椎の異常を評価するため、背中の可動域を評価してください。
屈曲、
伸展、
左右の側屈、
回転。
トレンデレンブルクテストは
股関節の安定性を評価する検査です。
検査者が患者の後ろに座って、左右それぞれ、親指を上後腸骨棘にあて、手を腸骨稜に当てて、
高さが水平かどうかを確認します。
次に患者は片足で立ち、
持ち上げた方の脚の膝と股関節を曲げた状態にします。
通常に機能している場合、持ち上げた脚の側の骨盤が少し上に移動します。
これは中臀筋が反対側の股関節を適切に外転させていることを意味します。
持ち上げた脚の側の骨盤が下がったり位置が変わらない場合は、トレンデレンブルク兆候が陽性であると考えられます。
これは中臀筋が弱いか、股関節に関節内病変があることを意味します。
起立屈曲テストで腰仙部、仙腸関節、
または骨盤の機能不全を評価します。
検査者が患者の後ろに立って、両側それぞれ、
手を腸骨稜に当て、親指を上後腸骨棘の下切痕に当てます。
患者はゆっくり前屈します。
もし、一側の上後腸骨棘がもう片方より頭側に動くようであれば、結果は陽性で機能不全を示唆します。
同じ操作を患者が座った状態でも行ってください。
これが着座屈曲テストです。
着座テストでは患者は脚を肩幅に広げ、
両足を床にしっかりとつけた状態にします。
再び上後腸骨棘に注意しながら
患者に前屈するよう指示します。
上後腸骨棘の片方が反対側に比べより患者の頭の方に
向かって動く場合、結果は陽性で機能不全を示唆します。
ストークテストは腰椎の関節突起間部の疲労骨折を評価する検査です。
患者は腰に手を当てて片脚で立って
脊椎を過度に伸ばします。
腰椎付近に痛みがあれば検査は陽性です。
次に、座った状態で股関節を調べます。
内旋時と外旋時の可動域を観察します。
Fulcrumテストで大腿骨の疲労骨折の評価をします。
検査者は片手を患者の大腿骨の下に差し込みます。
その後、大腿遠位付近をもう一方の手で押さえ
下向きに力をかけます。
痛みがあれば大腿骨の疲労骨折の疑いがあります。
患者が仰向けの状態で、 大腿骨を内側と外側に回旋させる大腿骨ログロールテストや、
踵をたたいて大腿骨に軸向きに負荷をかけるヒールストライクテストで大腿骨骨折の可能性を調べる事ができます。
次に脚の長さに差がないか調べます。
骨盤回転が原因で脚の長さが短くなる事がないように、
一度骨盤を診察台から浮かせてまた下ろし
体勢を整えてから脚を最大限に伸ばす様に
指示してください。
上前腸骨棘(ASIS)と内果の間の距離を測定し、
両脚で差があるか調べます。
次に能動的可動域を調べます。
痛みや可動域に制限がある場合は
他動的に同じ動きを繰り返してください。
脚を伸ばした状態での股関節の屈曲 で
大腿直筋を評価します。
さらに膝を曲げた状態での屈曲で腸腰筋を評価します。
また負荷に対する抵抗力も検査します。
次にこれらを評価します:内旋、
外旋、
外転、
抵抗に対する内転。
次に解剖学的ランドマークを触診し圧痛がないか評価します。
腹部を触診し腹部筋膜ヘルニアなどを調べます。
さらに上前腸骨棘、
下前腸骨棘、
腸骨稜、
そして恥骨結合も触診します。
他動的にSLRテストを行って
腰椎の神経根障害の評価をします。
もし股関節の屈曲が70度以内の状態で患者に神経根障害の症状が現れた場合は検査の結果が陽性であるとみなします。
ハムストリング筋の柔軟性は股関節と膝を90に曲げた状態で他動的に膝を伸ばしながら調べる事もできます。
完全な伸展が望ましいですが、
そうでなければ完全な伸展までの角度を記録します。
トーマステストで股関節の屈曲拘縮を評価します。
患者の片方の膝を胸に近づけ股関節を完全に屈曲させ 、
腰椎を平らにします。
もし反対側の膝が曲がり、脚が診察台から浮き上がれば
検査は陽性です。
パトリックテスト (フェーバーテスト)を行って
仙腸関節障害を評価します。
片足をまげ、外転してさらに外旋させ、
もう一方の膝に足をのせる様にします。
もし脚が診察台と平行な状態に下がらなければ、
股関節屈曲拘縮か防御腸腰筋攣縮の可能性があります。
上げた脚の膝と反対側の骨盤の上縁を同等の力で押さえると股関節か仙腸関節に痛みが生じるかもしれません。
横向きの状態で、能動的可動域と抵抗に対する
股関節の外転および内転の強度を調べます。
大腿骨大転子、
腸脛靭帯、
大腿筋膜張筋を触診します。
オーベルテストで腸脛靭帯症候群の評価をします。
患者が横向きの状態で、膝を支え90度に曲げ、
股関節をやや伸展し外転させた状態にします。
検査者が膝の支えをはなした時に膝が内転しない場合は
陽性の結果とみなします。
最後に患者がうつぶせの状態で脚を伸ばして
能動的可動域の検査を行います。
解剖学的ランドマークを触診し圧痛がないか確認します。
腰椎、
仙腸関節、
仙骨、
大臀筋、
梨状筋、
坐骨切痕、
坐骨結節、
大腿骨近位の内転筋結節。
梨状筋テストは梨状筋が原因で生じる
坐骨神経の炎症からの痛みの評価に使います。
患者がうつぶせの状態で両膝を90に曲げて
股関節を内旋させます。
外旋に対して抵抗を与えます。
痛みが生じた場合、検査は陽性です。
エリーテストで大腿直筋の痙直を評価します。
患者をうつぶせの状態にし、
検査者が患者の膝の屈曲に抵抗します。
臀部が浮き上がるかまたは骨盤に傾きが生じれば
検査は陽性です。
股関節の検査を終える前に神経血管系の
検査について記録しておく事が重要です。
ここでは足背動脈、後脛骨動脈、
そして毛細血管再充満を調べています。
患者の既往歴に応じて更に神経血管系の検査が
必要になる場合もあります。
謝辞:本ビデオの翻訳は、静岡県の支援の下、地域医療再生基金を用いた「静岡-ミシガン大学家庭医療後期研修、教育及び研究」(SMARTER FM)プロジェクトの一部として行われました。