WEBVTT 00:00:00.810 --> 00:00:05.119 麻薬を注射している人を 初めて目にしたときの事が目に浮かびます 00:00:06.090 --> 00:00:09.616 私はある研究プロジェクトを率いるために バンクーバーに着いたばかりでした 00:00:09.640 --> 00:00:14.472 悪名高いダウンタウン東地区での HIV予防プロジェクトです 00:00:15.100 --> 00:00:17.626 それはポートランドホテルの ロビーでした 00:00:17.650 --> 00:00:20.536 その街で最も 社会から取り残された人々に 00:00:20.560 --> 00:00:22.936 部屋を提供する取り組みを している施設です 00:00:22.960 --> 00:00:25.706 住むのは「住居困窮者」と呼ばれる人々です 00:00:26.800 --> 00:00:30.190 私はあの光景を忘れないでしょう 階段に立っている若い女性が 00:00:30.214 --> 00:00:34.269 注射針を何度も自分に 突き刺しながら叫んでいました 00:00:34.293 --> 00:00:35.746 「血管が見つからないのよ」 00:00:35.770 --> 00:00:38.404 鮮血が壁に飛び散っていました NOTE Paragraph 00:00:40.140 --> 00:00:44.076 絶望的な状況にある問題— 具体的には 薬物乱用や 00:00:44.100 --> 00:00:48.756 貧困や暴力 HIV感染者の急増に 対処するため 00:00:48.780 --> 00:00:53.406 バンクーバ―市は1997年に 公衆衛生上の緊急事態宣言を出しました 00:00:53.430 --> 00:00:56.826 それによりさまざまなハーム・リダクションの 実施が可能になりました 00:00:56.850 --> 00:00:58.506 例えば 注射針の配布や 00:00:58.530 --> 00:01:00.300 メサドンの入手を容易にする事 00:01:00.324 --> 00:01:04.056 さらには管理された 薬物使用室の設置など 00:01:04.080 --> 00:01:07.841 薬物使用時の危険を軽減する 施策を広げたのです 00:01:08.910 --> 00:01:11.449 しかしながら 20年たった今日でさえ 00:01:11.473 --> 00:01:15.786 ハーム・リダクションはかなり 急進的な考えだと思われています 00:01:15.810 --> 00:01:19.716 ある地域では 清潔な注射針の所持さえ いまだに犯罪となります 00:01:19.740 --> 00:01:22.477 薬物使用者はメサドン療法を 提供されるよりも 00:01:22.501 --> 00:01:24.889 逮捕されてしまう事のほうが はるかに多いでしょう 00:01:25.440 --> 00:01:28.236 最近では 薬物使用室の設置が 00:01:28.260 --> 00:01:31.656 シアトル、ボルチモア、ニューヨーク などで提案されましたが 00:01:31.680 --> 00:01:34.013 強硬な反対にあっています 00:01:34.800 --> 00:01:39.633 薬物依存について私たちが知っている すべての事への反対です NOTE Paragraph 00:01:40.149 --> 00:01:41.609 なぜでしょうか? 00:01:41.633 --> 00:01:44.228 なぜ私たちは こう思い込むのでしょうか? 00:01:44.252 --> 00:01:50.132 「薬物使用を止める事が唯一の方法だ どんな薬物使用も許容すべきでない」 00:01:51.060 --> 00:01:54.756 なぜ一人ひとりの個人的な事情や 00:01:54.780 --> 00:01:57.276 ハーム・リダクションの有効性を示す 00:01:57.300 --> 00:01:59.303 優れた科学的根拠を 無視するのでしょうか? 00:02:00.980 --> 00:02:06.439 ハーム・リダクションでは違法薬物の使用は なくならないという批判があります 00:02:07.034 --> 00:02:09.746 まさにそこがポイントです 00:02:09.770 --> 00:02:13.975 これまでどんな刑罰や 社会的な制裁を与えても 00:02:14.396 --> 00:02:17.911 薬物使用はなくなりませんでしたし たくさんの人が亡くなってきました 00:02:19.100 --> 00:02:21.896 私たちが彼らを見限っている という批判もあります 00:02:21.920 --> 00:02:26.316 依存の治療や回復に 注力していないというのです 00:02:26.951 --> 00:02:28.716 実際には 全く逆です 00:02:28.740 --> 00:02:30.217 私たちは彼らを見捨てていません 00:02:30.241 --> 00:02:32.516 依存から回復させようとするなら 00:02:32.540 --> 00:02:34.706 まず彼らの命を守らなければなりません 00:02:34.730 --> 00:02:38.306 清潔な注射針を提供したり 安全な薬物使用室を用意するのは 00:02:38.330 --> 00:02:40.899 治療や回復の第一歩なのです 00:02:42.950 --> 00:02:45.386 こういう批判もあります 00:02:45.410 --> 00:02:48.864 ハーム・リダクションは子供たちに 誤ったメッセージを送るというものです 00:02:49.864 --> 00:02:54.244 しかし私が最近会った 薬物依存者は子供でした 00:02:54.268 --> 00:02:58.316 ハーム・リダクションの送るメッセージは 薬物には害があるとしたうえで 00:02:58.340 --> 00:03:01.226 薬物依存者には救いの手を 差し伸べる必要があるという事です 00:03:01.250 --> 00:03:05.726 注射針の提供は 薬物使用を 宣伝するものではありません 00:03:05.750 --> 00:03:09.746 メサドン療法も薬物使用室も同様です 00:03:09.770 --> 00:03:12.670 気にかけるべきは 人々が病み傷ついている事なのです 00:03:13.160 --> 00:03:16.043 断じて薬物使用を 是認している訳ではありません NOTE Paragraph 00:03:16.876 --> 00:03:19.896 薬物使用室を例に お話ししましょう 00:03:19.920 --> 00:03:23.546 おそらく今まででもっとも誤解を 受けている医療的介入です 00:03:23.570 --> 00:03:26.246 私たちが主張しているのは 00:03:26.270 --> 00:03:30.107 清潔で乾いた場所で 未使用の注射針を使い 00:03:30.131 --> 00:03:32.329 見守る人がいる状態で注射させる方が 00:03:32.726 --> 00:03:35.868 薄汚い路地で注射するより ずっとマシだという事です 00:03:35.892 --> 00:03:39.153 汚染された注射針を使い回し 警官から隠れながら注射するより 00:03:39.470 --> 00:03:41.217 誰にとってもマシなのです 00:03:42.810 --> 00:03:48.278 バンクーバーで最初の薬物使用室は キャロル通り327にありました 00:03:48.794 --> 00:03:54.126 コンクリート床の狭い部屋には 数脚のイスと清潔な注射針が1箱ありました 00:03:54.150 --> 00:03:56.436 しばしば警官に封鎖されましたが 00:03:56.460 --> 00:04:00.190 どういうわけか いつも不思議と再開していました 00:04:00.493 --> 00:04:02.594 バールでこじ開けられたりしてです 00:04:03.720 --> 00:04:05.466 私は時々 夜にそこを訪ね 00:04:05.490 --> 00:04:08.725 薬物使用者の診療を行いました 00:04:08.749 --> 00:04:11.916 そこの運営者や利用者の人たちの 責任感や情の深さに 00:04:11.940 --> 00:04:14.796 いつも感銘を受けていました 00:04:15.240 --> 00:04:18.426 批判なく 嫌がらせもなく なんの心配もなく 00:04:18.450 --> 00:04:20.431 多くの深遠な会話が 交わされていました 00:04:20.455 --> 00:04:23.796 想像もつかないトラウマや 肉体的な痛み 00:04:23.820 --> 00:04:26.899 そして精神的な病にもかかわらず 00:04:26.923 --> 00:04:30.034 そこにいた全員が 状況が良くなると 考えている事を知りました 00:04:30.630 --> 00:04:36.574 ほとんどの人が いつかはみんな一緒に 薬物をやめるだろうと確信を持っていたのです 00:04:38.580 --> 00:04:41.946 その部屋は 北アメリカで 最初に政府に承認された 00:04:41.970 --> 00:04:46.506 先駆けとなる薬物使用室で 「INSITE」と名付けられました 00:04:46.530 --> 00:04:51.456 3年間の研究プロジェクトとして 2003年9月に開設されました 00:04:51.480 --> 00:04:56.043 保守的な政府は 研究終了後 そこを閉じるつもりでした 00:04:56.580 --> 00:05:00.426 8年の後 INSITEの閉鎖を めぐるせめぎ合いは 00:05:00.450 --> 00:05:02.946 カナダ最高裁で争われるまでに いたりました 00:05:02.970 --> 00:05:04.746 カナダ政府と争ったのは 00:05:04.770 --> 00:05:08.106 長年にわたり 薬物を使用した過去があり 00:05:08.130 --> 00:05:10.593 INSITEの利点を 身をもって知る2人 00:05:10.982 --> 00:05:13.140 ディーン・ウィルソンと シェリー・トミックです 00:05:14.370 --> 00:05:19.506 裁判所は9対0の評決をもって INSITEの存続を言い渡しました 00:05:19.530 --> 00:05:24.347 判事たちは この政府相手の裁判で 辛辣な反応を示しました 00:05:24.720 --> 00:05:26.005 紹介します 00:05:26.029 --> 00:05:30.664 「INSITEが利用者へ提供する サービスを否定して 00:05:30.689 --> 00:05:33.895 結果的に薬物使用者の死亡や 疾患のリスクが増えてしまうのは 00:05:33.920 --> 00:05:38.878 カナダ政府が薬物所持に対し 一様な姿勢をとる事から生じうる 00:05:38.902 --> 00:05:41.004 いかなる利益と比較しても 00:05:41.028 --> 00:05:45.497 全く割に合わない」 NOTE Paragraph 00:05:47.540 --> 00:05:49.913 ハーム・リダクションにとって 希望の瞬間でした 00:05:50.390 --> 00:05:53.802 しかしながら この最高裁からの 力強いメッセージをもってしても 00:05:54.290 --> 00:05:57.005 ほんのつい最近まで 00:05:57.029 --> 00:06:00.209 カナダにおいて新しい施設を 開設する事はできませんでした 00:06:00.800 --> 00:06:05.855 2016年12月に 興味深い事が起こりました 00:06:05.879 --> 00:06:08.935 薬物の過剰摂取による 死亡者が増加していたため 00:06:08.960 --> 00:06:14.213 ブリティシュ・コロンビア州政府が 過剰摂取対策施設の開設を認めたのです 00:06:15.117 --> 00:06:18.506 実質的には カナダ連邦の 認可プロセスを無視して 00:06:18.530 --> 00:06:22.901 地域団体は 事実上不法の薬物使用室を 00:06:22.925 --> 00:06:25.694 州内の22カ所に開設しました 00:06:26.600 --> 00:06:27.989 ほとんど一夜にして 00:06:28.013 --> 00:06:31.136 何千人もが管理下で薬物を 使用できるようになりました 00:06:31.160 --> 00:06:36.025 何百もの過剰摂取者がナロキソン投与で回復し 誰も死ぬ事はありませんでした 00:06:36.530 --> 00:06:40.847 まさにこれこそが この14年間 INSITEで起こってきた事なのです 00:06:41.363 --> 00:06:46.316 INSITEで違法薬物を注射した人は 7万5千人にのぼり 00:06:46.340 --> 00:06:49.556 回数は 延べにして350万回を超えます 00:06:49.580 --> 00:06:52.133 そして 亡くなった人は誰もいません 00:06:52.157 --> 00:06:56.061 誰一人として いまだかつて INSITEで亡くなっていないのです NOTE Paragraph 00:06:58.950 --> 00:07:00.126 もうお判りでしょう 00:07:00.150 --> 00:07:05.768 私たちには 注射針の提供や メサドンや薬物使用室による 00:07:05.792 --> 00:07:08.826 科学的な根拠があり 成功も収めました 00:07:08.850 --> 00:07:13.143 これらは皆の共通の認識です 薬物使用に寄り添う事によって 00:07:13.167 --> 00:07:15.779 健康状態を改善し 結びつきを強め 00:07:15.803 --> 00:07:18.834 そして苦悩や死を 大幅に減らせるのです 00:07:20.540 --> 00:07:23.606 では なぜハーム・リダクションは 普及しないのでしょう? 00:07:23.630 --> 00:07:28.883 なぜ 私たちはいまだに薬物使用を 刑罰の対象として考えるのでしょう? 00:07:30.720 --> 00:07:34.362 私たちの薬物や薬物使用者に対する 侮蔑には根深いものがあります 00:07:34.386 --> 00:07:37.786 私たちは 薬物の恐ろしさに関するイメージや 00:07:37.810 --> 00:07:40.254 メディアの記事にさらされています 00:07:40.600 --> 00:07:43.936 薬物に関わる人すべてに 汚名を着せているのです 00:07:43.960 --> 00:07:49.785 軍が行う麻薬業者の撲滅活動を称賛し 00:07:49.809 --> 00:07:53.146 薬物使用だけの罪で 捕らわれた人を収容するための 00:07:53.170 --> 00:07:58.566 刑務所の増設を当然のように受け止めます NOTE Paragraph 00:07:58.960 --> 00:08:01.881 何百万人にもおよぶ人が 収監、暴力、貧困といった 00:08:01.905 --> 00:08:06.039 救いようのないサイクルから 抜け出せずにいます 00:08:06.063 --> 00:08:11.857 それは薬物そのものではなく 薬物の法律によって引き起こされてきたのです 00:08:12.900 --> 00:08:17.027 どうしたら薬物使用者にも 気配りや 支援を受け 人生を謳歌する権利があると 00:08:17.051 --> 00:08:18.726 人々に納得してもらえるでしょうか? 00:08:18.750 --> 00:08:24.289 世間は薬物について 銃や手錠や牢獄を 思い浮かべるばかりなのに 00:08:25.710 --> 00:08:27.101 はっきりさせましょう 00:08:27.736 --> 00:08:32.212 刑罰化は 汚名を制度化する手段にすぎません 00:08:33.000 --> 00:08:38.420 薬物を非合法化しても 薬物の使用を防ぐ事はできないのです 00:08:41.888 --> 00:08:45.256 私たちが思考停止に陥るのは 00:08:45.280 --> 00:08:49.816 薬物に関する全く誤った 認識のせいでもあります 00:08:49.840 --> 00:08:52.087 私たちは信じさせられてきました 00:08:52.111 --> 00:08:55.889 薬物使用者は責任感がなく ただハイになりたいだけで 00:08:55.913 --> 00:08:58.428 自分のしでかした失敗のせいで 00:08:58.452 --> 00:09:02.116 犯罪や貧困に陥ってしまい 00:09:02.140 --> 00:09:06.076 仕事も家族も失い 最後には自分の命まで 失ってしまうような人間だと 00:09:07.190 --> 00:09:10.721 現実には ほとんどの薬物使用者には 物語があります 00:09:10.745 --> 00:09:15.146 子供のときのトラウマや 性的虐待や精神疾患 00:09:15.170 --> 00:09:16.616 もしくは個人的な悲劇など 00:09:16.640 --> 00:09:19.455 薬物は痛みを感じなくするために 使われるのです 00:09:22.130 --> 00:09:28.241 強いトラウマを抱える人々と接する場合は それを理解していなければなりません NOTE Paragraph 00:09:29.167 --> 00:09:34.186 大事なのは 私たちの薬物対策は 社会的正義の問題だという事です 00:09:34.210 --> 00:09:39.297 メディアは過剰摂取事故に注目します プリンスやマイケル・ジャクソンのときのように 00:09:39.900 --> 00:09:41.399 しかし苦しんでいる人の大半は 00:09:41.423 --> 00:09:44.971 社会から取り残されそうな生活を送る人々 00:09:44.995 --> 00:09:47.121 貧乏だったり より所のない人々です 00:09:47.570 --> 00:09:50.479 彼らは選挙に行きません しばしば孤独です 00:09:50.920 --> 00:09:53.812 社会的に打ち捨てられた存在なのです 00:09:55.040 --> 00:09:59.946 医療を受けるにしても 薬物使用は強い偏見に見舞われます 00:09:59.970 --> 00:10:03.056 薬物使用者は医療を受ける事を避けます 00:10:03.080 --> 00:10:05.646 医療を受けるために医者に行ったり 入院したりすると 00:10:05.670 --> 00:10:08.780 ぞんざいに扱われると 分かっているからです 00:10:08.804 --> 00:10:12.327 また ヘロイン、コカイン、覚せい剤が 00:10:12.351 --> 00:10:13.866 入手できなくなるからです 00:10:14.700 --> 00:10:18.136 そのうえ 彼らは容赦ない 質問の嵐にさらされるわけですが 00:10:18.160 --> 00:10:22.326 それは彼らの失ったものや屈辱を 明らかにするだけです 00:10:22.350 --> 00:10:23.733 「使っている薬物は?」 00:10:23.757 --> 00:10:25.924 「ホームレスになってどのくらい?」 00:10:25.948 --> 00:10:27.638 「子供はどこにいる?」 00:10:28.320 --> 00:10:30.066 「前回はいつ刑務所に?」 00:10:30.580 --> 00:10:34.865 要するに こう言いたいのです 「一体なぜ薬物をやめないんだ?」 NOTE Paragraph 00:10:35.826 --> 00:10:40.866 実際のところ 現在の薬物使用に対する 医療的アプローチは全く間違っています 00:10:40.890 --> 00:10:42.041 どういうわけか 00:10:42.065 --> 00:10:47.318 人々は薬物依存を治療するには薬物を断つ事が 一番良い方法だと決めつけています 00:10:47.970 --> 00:10:51.396 運が良ければ薬物離脱プログラムを 受けられるでしょう 00:10:51.420 --> 00:10:54.486 サボキソンやメサドンが 入手しやすい環境に住んでいれば 00:10:54.510 --> 00:10:56.914 薬物代替プログラムを 受けられるかもしれません 00:10:57.480 --> 00:11:01.448 しかし彼らが生き延びるのに どうしても必要な 00:11:01.472 --> 00:11:04.892 安全なオピオイドの処方は めったに得られません 00:11:06.040 --> 00:11:10.873 いきなり薬物を断たせようとするのは 糖尿病になったばかりの患者に砂糖を断たせたり 00:11:10.897 --> 00:11:14.128 ひどい喘息の患者にマラソンを走らせたり 00:11:14.152 --> 00:11:16.456 鬱の人にただ幸せになれと 指示するようなものです 00:11:16.480 --> 00:11:18.043 他の病気の治療なら 00:11:18.067 --> 00:11:21.090 一番極端な方法から 始めはしないでしょう 00:11:21.400 --> 00:11:23.686 それなのに なぜ依存症のような複雑な疾患に 00:11:23.710 --> 00:11:27.257 その極端な方法が効果的だと 考えてしまうのでしょうか? NOTE Paragraph 00:11:28.570 --> 00:11:31.006 意図しない過剰摂取の問題は 昔からありますが 00:11:31.030 --> 00:11:34.126 現在の危機的状況はこれまでとは 比べものになりません 00:11:34.150 --> 00:11:36.944 疾病管理センター(CDC)の推計によると 00:11:36.968 --> 00:11:42.111 2016年には 6万4千人のアメリカ人が 薬物の過剰摂取で亡くなっています 00:11:42.135 --> 00:11:44.817 自動車事故や殺人で亡くなった人より はるかに多いのです 00:11:45.700 --> 00:11:49.771 いまや薬物は 北アメリカにおいて 00:11:49.795 --> 00:11:54.310 20歳から50歳の男女の 最大の死因なのです 00:11:55.199 --> 00:11:56.382 考えてみてください 00:11:57.133 --> 00:12:01.617 どうして そしてなぜ今 こんな状況に陥ってしまったのでしょう? 00:12:02.290 --> 00:12:04.936 実はこれはオピオイドが 引き起こした災いなのです 00:12:04.960 --> 00:12:08.716 オキシコンチン、パーコセット、 ディラウディッド等の薬物が 00:12:08.740 --> 00:12:14.073 あらゆる種類の痛みを抑えるため 数十年にわたり野放しに流通されてきました 00:12:14.890 --> 00:12:18.763 推定200万人のアメリカ人が オピオイドを日常的に使用しており 00:12:19.159 --> 00:12:21.676 昨年1年間で 6千万人以上のアメリカ人が 00:12:21.700 --> 00:12:25.446 オピオイドを少なくとも1回は 処方されています 00:12:26.140 --> 00:12:29.727 街に大量に出回る処方薬は 00:12:29.751 --> 00:12:34.314 医者にかからずに薬が欲しい人々の 確実な供給源となってきました 00:12:35.160 --> 00:12:38.092 このような形での オピオイドの蔓延に対処するため 00:12:38.490 --> 00:12:42.982 処方は制限されるようになり オピオイドの路上取引は大幅に減少しました NOTE Paragraph 00:12:43.860 --> 00:12:48.336 そして非意図的ながらも予測しえた結果が 薬物過剰摂取の蔓延です 00:12:48.360 --> 00:12:52.685 確実に手に入る処方薬の供給に 頼り切っていた多くの人は 00:12:53.010 --> 00:12:54.161 ヘロインに走りました 00:12:54.185 --> 00:12:57.717 その後 悲劇的にも非合法薬物の中心は 00:12:57.741 --> 00:13:00.167 フェンタニルのような合成薬物に変わりました 00:13:01.140 --> 00:13:06.034 これらの新しい薬物は安価で 強力であり そして扱いづらいものです 00:13:06.450 --> 00:13:09.172 人々は文字通り毒殺されているのです 00:13:11.470 --> 00:13:15.676 他の種類の毒の場合を考えてみましょう 00:13:15.700 --> 00:13:18.033 もし何千もの人が毒入りの肉や 00:13:18.057 --> 00:13:21.691 粉ミルクやコーヒーで死亡し始めたら どうなるでしょうか? 00:13:22.041 --> 00:13:24.316 間違いなく緊急事態として扱うでしょう 00:13:24.340 --> 00:13:27.976 そして直ちに安全な 代替物を提供するでしょう 00:13:28.000 --> 00:13:29.996 また 法律を改正して 00:13:30.020 --> 00:13:33.266 犠牲者やその家族を支援するでしょう 00:13:34.356 --> 00:13:36.366 しかし 薬物過剰摂取の問題に対しては 00:13:36.390 --> 00:13:37.742 何もなされていません 00:13:38.430 --> 00:13:42.659 それどころか私たちは薬物や その使用者を忌み嫌い続け 00:13:42.683 --> 00:13:48.492 法的な取り締まりのために 資源をやみくもに費やしているのです NOTE Paragraph 00:13:50.890 --> 00:13:52.818 では これからどうするべきでしょうか? 00:13:53.763 --> 00:13:57.897 まずハーム・リダクションを 完全に採用し 出資して規模を拡大し 00:13:57.921 --> 00:14:00.466 北アメリカ全土で 広く取り入れるべきです 00:14:00.490 --> 00:14:03.386 私はバンクーバーのような場所で ハーム・リダクションが 00:14:03.410 --> 00:14:06.942 ケアと治療の命綱となってきた事を 知っています 00:14:07.426 --> 00:14:09.796 薬物の過剰摂取による死者は 00:14:09.820 --> 00:14:12.796 ハーム・リダクションなしでは もっとずっと多くなる事もです 00:14:13.180 --> 00:14:18.013 そして ハーム・リダクションのお陰で 今も生き続ける人々を 00:14:18.810 --> 00:14:20.656 個人的に何百人も知っています 00:14:21.810 --> 00:14:23.726 しかし これはほんの手始めなのです 00:14:23.750 --> 00:14:28.046 もし私たちが本気で薬物の問題を なんとかしたいと考えるなら 00:14:28.070 --> 00:14:31.916 薬物禁止と刑罰について真剣に 00:14:31.940 --> 00:14:33.486 話し合う事が必要なのです 00:14:34.454 --> 00:14:40.271 薬物使用は何よりもまず 公衆衛生の問題だと認識し 00:14:41.358 --> 00:14:47.715 社会面・健康面における 包括的な解決策を見い出す必要があります NOTE Paragraph 00:14:48.900 --> 00:14:51.051 これを達成するためのモデルが すでにあります 00:14:51.075 --> 00:14:54.366 2001年 ポルトガルで 薬物危機がありました 00:14:54.390 --> 00:14:57.576 多くの人が薬物を使用しており 犯罪率は高く 00:14:57.600 --> 00:14:59.466 過剰摂取が蔓延していました 00:14:59.490 --> 00:15:04.274 そこでポルトガルは国際条約に逆らって 薬物の所持を非犯罪化しました 00:15:04.830 --> 00:15:07.266 薬物取り締まりに使われていた資金は 00:15:07.290 --> 00:15:10.583 治療とリハビリ・プログラムのために 使われるようになりました 00:15:11.060 --> 00:15:12.369 結果は良好です 00:15:13.050 --> 00:15:16.280 全般的な薬物使用は劇的に少なくなり 00:15:17.240 --> 00:15:19.812 過剰摂取は稀な事になりました 00:15:19.836 --> 00:15:22.542 治療を受けられる人の数も増えました 00:15:24.115 --> 00:15:26.782 そして彼らは人生を取り戻しているのです 00:15:29.330 --> 00:15:35.131 私たちはずっと薬物に対して禁止や刑罰 そして偏見を持って対応してきたので 00:15:35.155 --> 00:15:37.744 社会で一番弱い立場の人々に 負わせてきた苦しみに 00:15:37.768 --> 00:15:41.926 無頓着になっているのです NOTE Paragraph 00:15:42.320 --> 00:15:45.896 今年もさらに多くの人々が 違法薬物の取引で 00:15:45.920 --> 00:15:47.542 捕らえられる事でしょう 00:15:48.620 --> 00:15:52.916 何千もの子供たちが 自分の親は薬物使用の罪で 00:15:52.940 --> 00:15:56.318 監獄に送られたと 知るでしょう 00:15:57.840 --> 00:16:00.876 そして あまりにも多くの親たちが 我が子は 00:16:00.900 --> 00:16:05.542 薬物の過剰摂取で亡くなったと 知らされるでしょう 00:16:06.454 --> 00:16:08.550 でもそれは必然ではないのです NOTE Paragraph 00:16:10.444 --> 00:16:11.594 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:16:11.618 --> 00:16:16.912 (拍手)