カットシーンの無い『Bioshock』を 想像してみてくれ アンドリュー・ライアンによる 潜水球のプレゼンも削除する アトラスのやかましい台詞も削除する そして好奇心をそそる音声日記も 削除する プレイヤーはそれでもまだ、この作品の内容を 理解してるだろうか? まぁ、プレイヤーは かなり分かってると思う 何故なら、プレイヤーは 周囲を見るだけでいいのだから このゲームの舞台は 海底にある巨大都市だ 1つは明らかに上流階級のために 作られている 高級バー、集合住宅郡、劇場地区の存在から それが分かる そこは高尚な哲学的理想の上に 築かれている しかし同時に 荒廃と絶望の場所でもある 明らかに破綻した瞬間があった 暴力的な派閥に分かれた人もいれば 正気を失った人もいる そして全ての破滅は 1959年の元日に起きたのだった 『Bioshock』という 素晴らしい事例は― ゲームの「環境」が、物語を伝えるための 効果的な手法になれることを示している プレイヤーが訪れる「空間や場所」に 物語の要素を埋め込むことで― 従来の物語形式と同じくらい雄弁に 物語を伝えることができるのだ そして、それこそが今回の Game Maker's Toolkit のテーマだ この動画では、環境を物語に利用する 3つの方法に焦点を当てて― 場面設計がプレイヤーの理解、感情、一体感を どのように促進するのか話していく まずは「理解」から始めよう 『Bioshock』の 看板、遺体、落書きは 「環境型物語」の実例だ これは舞台装飾を利用して、小さな、任意の 自己完結型の一場面を作ることだ 例えば、血で書かれた警告や 『Fallout 4』に登場する大量のガイコツは 誰かが死んでしまったことを面白く または物悲しく暗示するために― 開発者が意図的に用意しているのだ 僕の知るかぎりでは、元ディズニーランドの デザイナー Don Carson がこの用語を生み出した 彼は 2000年に、ゲーム開発者がテーマパークから 学べることに関する影響力のある記事を書いた この用語はその後、Harvey Smith と Matthias Worch の GDC 講演でさらに一般的になり 彼らはこの技法をこう表現した 「意味のある総体として解釈できる環境特性で プレイヤー空間を演出し―」 「ゲームの物語を促進すること」 環境型物語のクールなところは 詳細をつなぎ合わせて全体的な話を作るために ある程度の演繹的推論が 必要になる点だ プレイヤーは調査や考古学の 技能を駆使して― 関係性や、原因と結果 過去の出来事を見極める プレイヤーはただの受動的な傍観者ではなく 物語る行為に積極的に参加するようになる さらに、プレイヤーが銃撃戦だけに 集中したい場合は― 物語に邪魔されることなく 戦えるようになる 環境型物語の大部分は 静的なオブジェクトに関するものだが それ以外にも拡張できる 例えば、盗み聞きした会話や その場面で発生したアニメーションや そしてもちろん… 文章だ 本や、アイテムの説明欄 解析結果、ノート、電子メールなどだ 一般的には、自分が来る前にその場所で かつて起きたことを説明するために使われるが そこへ来てからの行動が、環境にどう影響したのかを 強調するためにも使われる 例えば『Deus Ex: Mankind Divided』で 店主を殺害した場合― ゲームの後半で、その店は警察の事件現場になって 永久に立ち入り禁止になる また環境型物語は、ただの物語だけではなく 遊び方の説明に利用できることも注目に値する ノコギリの刃が真っ二つになった ゾンビに刺さっている光景は ノコギリと重力銃で 敵を倒せることを示唆している フェンスで丸焦げになった敵は 「触れたら危険」を警告している 地図や看板は、複雑な空間を 移動するのに役立つ 小道具は、さり気ない方法でヒントを提示できる 「注意:エレベーターから落ちるな」 だが本題はここからだ 環境型物語という用語は… 特にこの用語を、小さな挿話の描写という 意味で使っている場合― これは環境を利用して物語を暗示するという 大きな構造の一部に過ぎない それは高層設定のものだ それからその下には、ゲーム内の 個々の場所がある つまり、農家の直売所、酒場 医療機関、劇場地区などだ さらに、これらの場所の中に 個々の部屋がある これが中層設定のもので、最も正確に言うならば ステージ設計のことだ これは物語にも使用できる というのも 建築、配置、素材、規模といった要素が― その場所を使う人々について 多くのことを教えてくれるからだ 例えば『Dishonored 2』の砂塵地区では Arkane の開発者が垂直性を活用することで 労働者階級が文字通り、権力者の 下にいる(隷属している)ことを示している 『Prey』の宇宙基地 Talos I の 華やかさは― 『Alien Isolation』の実用的なセヴァストポリ基地とは 全く異なる物語を伝えている またこれは遊びのヒントにもなる 例えば『Thief』のバフォード卿の屋敷では 全ての金塊は、当然 主人の寝室に置いてあるのだが 召使いの宿舎にある物は ほとんど価値がない 真実味のある場所にすることで プレイヤーは現実世界の知識を利用して― その空間に順応することができる もちろん、暮らしが営まれている空間を 制作する上で、大きな課題となるのが 論理的に存在するような場所の中に 寝室、風呂、台所などの全てを置くことで 何百人もの住人の 生活感をつくることだ 僕が『Hitman 2』の動画を作ったとき、これを IO Interactive の開発者に尋ねたところ 彼らは「信じられる」ステージに 焦点を当てていると言った つまりそのステージは、空間の仕組みについての 基本的な期待に応えているのだが 完璧に理屈が通っている必要はないという ピラミッドの最後には低層設定が必要だ これが世界全体を設定する これは世界観を構築することであり 開発者や物語制作者が― 派閥や、歴史上の転機や 物語の主人公を設定するところだ この構造の 3つの部分が 全て協調して機能する必要があり 理想的には、アイデアは 上下の階層にも影響するべきだ ここではその実践例を紹介しよう 『Deus Ex: Mankind Divided』の 低層設定は、近未来のプラハで― 改造人間たちが、普通の人々によって 抑圧されている これは中層設定で表現される 駅では 自然人間と、改造人間の 2つの専用車両があり スラム化した都市で、改造人間たちが 悲惨な状態のまま隔離されている そして高層設定の小さな物語では 抑圧や人種差別のことも語られる 反改造の落書きや、首都から 追い出されたという内容のメールなどだ 全ての階層が同じテーマを語っている 低層設定における壮大で体系的な話から― 高層設定の個人的、具体的な話まで (高 = 庶民の分断、中 = プラハの分断、低 = 人類の分断) もちろん、隠し要素やお笑いを入れても構わないが こういった物語の伝え方は― 全ての側面が、同じテーマの目標へ向かって 進んでいるときに最高の効果を発揮するのだ これは実践してみると かなり難しくなるだろう 多くの大作ゲームでは、各ステージは 別々の人が担当しているからだ そのため、チームが一丸となって― 作品の構想をゲーム全体で共有することが 生死を分けるほど重要になる 開発者は、世界観の構築、ステージ設計 環境型物語を用いて 世界とその住人について、具体的かつ 実際的な情報を伝えることができる しかしゲーム世界の設計は、想像力をかき立て 感動させるためにも使われる 開発者は、規模、形状、色彩などを使って 「特定の感情」を呼び起こすことができる Naughty Dog のステージ制作者 Emilia Schatz が 『アンチャーテッド 4』でこれをどうやったか語っている 「序盤に恐怖感を与え、最後に達成感を 感じさせたい場合―」 「私は環境を使って、プレイヤーに大きな 圧力を与えるかもしれません」 「天井をかなり低くしたり、壁が迫ってきたりして 窮屈感を与えます」 「そして最終的にステージの終わりに 到達すると―」 「プレイヤーを広い場所へ連れ出して この巨大な展望を与えるのです」 洞窟の形状から『アンチャーテッド』の 過去の出来事を理解することはできない 結局のところ これはただの洞窟だ その代わりに 感情を生み出してくれる これによってプレイヤーは 操作キャラの気持ちをより深く理解できる その好例が『God of War』の最新作にある アトレウス(息子)がどっかへ行って 危ないかもしれないので― クレイトスが 慌て始める場面だ ここでは開発者が 環境を自在に扱って― この緊張感をプレイヤーにも 体感できるようにしている つまり、空間は窮屈になり 狭い通路が続いている 行き止まりだらけで 引き返さざるを得なくなる 灰色の濃霧のせいで 視界が悪くなっている そして最後、岩の隙間で クレイトスは完全に遅れをとる ここを通り抜けて初めて、空間が広がり 霧が晴れ、色彩が戻ってきて アトレウスが安全であることが分かり この謎の人物が― 息子を傷付けるために そこにいるわけじゃないことを知る あるいは初代『Portal』の例だ ゲームの前半は テストの実験室で行われるが 後半では、邪悪な AI から逃亡し 裏側の整備エリアを駆け抜ける 物語におけるこの劇的な変化は 環境のあらゆる側面によって強調されている テスト部屋は、白く、無菌で 細部が欠けている 整備エリアは暖色の オレンジ色に染まっていて 生活感や使用感が 感じられる 2017年の講演で、Crystal Dynamics の アートデザイナーを務めた Brian Horton は― 『トゥームレイダー』復活作品の この部分について語っている 序盤、ララは低い位置にいて 地形環境が上から圧迫している 全てが不吉な深緑色に 染まっている 地形環境と同じ高さまで来ると 色彩が明るくなり始める そして塔を登っていくと ステージより高い場所へ到達し ララは暖かいオレンジ色の 日差しに包まれていく 絶望の場所から、希望の場所まで移動した 彼女の生存の旅路は― ステージ設計を通じて 強調されているのだ これを達成する 実践的な手法として― 元 BioWare のステージ制作者 Dave Feltham の GDC 講演を紹介したい 彼は『Mass Effect 3』のステージを制作する際の 2つのツールについて語っている 感情図表と、強度図表だ 問題のステージは 惑星トゥチャンカが舞台設定で ジェノファージの治療法を 提供するという内容だ クローガン族を不妊化させた ウイルス兵器のことだ このステージでは、窪地に着陸し シュラウドタワーに向かって運転し 護送車隊が爆発した後、地下遺跡に潜入して 都市を出て、最初のリーパーを倒し そして… いや、これ以上は ネタバレになるから止めておこう そこで開発者たちはステージを いくつかの場面に分けた それから、各場面で 表現すべきテーマを決めた そして、その場面でプレイヤーが 感じるべき感情を決定した 最後に、環境設計を使って それらの感情を呼び起こした 例えば護送車隊が壊滅する前、プレイヤーは リーパーの討伐に希望や自信を感じるべきだ そこで、護送車の軍団を見せて 強くなった気分にさせたり クローガン族が楽しそうにくつろいで 無頓着なことを提案したりする 車隊が爆発した後は 混乱を感じるべきだ そこで、火災や爆発 壊滅した護送車隊を見せる 地下遺跡では、神秘性を感じるべきだ そこで、古代クローガン族の 生活を表現した彫像や壁画を見せる その後、地上の都市が 誇らしげに登場する ジェノファージ感染前のクローガン帝国の発展に 畏敬の念を抱かせる そしてクローガン族を裏切るつもりであれば 罪悪感を感じさせる 暗い地下遺跡から開放的な都市への対比が この場面を強調しているのだ 感情を必然的に伝えるために、適切な 環境的手法を見つけるのはキツイだろうが― 他のゲームの事例を 紹介しよう 『Half Life 2』では、抑圧感を 生み出すために― 窮屈な廊下、高層ビル、刑務所 監視カメラなどを用意している 『P.T.』では、恐怖感を生み出すために 同じ角を何度も曲がるように求められるが― 向こう側に何があるのか 絶対に分からない ただしこうした環境を選ぶときは ゲーム仕様との相性に注意してほしい 例えばホラーゲームでは、暗闇は明らかに 恐怖をかき立てることを意図している だがステルスゲームの暗闇は、実際には 力強さと安全性を感じさせるかもしれない 環境の詳細を選んだ後 BioWare は強度図表を使う 基本的に、開発者には 希望する強度があり 物語のための穏やかな瞬間と 戦闘のための激しい瞬間を望んでいる しかし各エリアの強度の感じ方は 試遊した人の意見と比較する必要がある 強度がズレていたら 変更しなければならない 例えば、地下遺跡には当初 敵がいたのだが 懐中電灯でモンスターと戦うのは極めて厳しく 意図した感情からは遠いことが分かったので 強度の水準を一致させるために モンスターは削除された また、味方の爆撃機のカットシーンを リーパーに向かう途中に追加したのだが これは勝てるかもしれないという希望を 少しだけ与えるためだった BioWare の最終的な目標は、典型的な三幕構成に 合致するミッションを制作することだった 問題を解決するために動き、絶望の瞬間を経て 最後は勝利へ向かって登っていく この三幕構成は、2D アクション『Celeste』で 見事に活用されている 実際の登山の形状が 図表に反映されているのだ ステージを進むごとに、山を登りながら 小さな挫折や後退に直面するが 最終的にはひたすら上へ 進んでいく これはステージ「もうひとりの自分」まで続く ここで山の麓まで真っ逆さまに落ちてしまう 物語のドン底は 環境のドン底でもあるのだ だが環境を本当に活用して 物語を伝えるゲームがあるとすれば― それは『風ノ旅ビト』だ 登っている場面で、強さや進む感覚を呼び起こし 落下する場面で 喪失感や絶望感を生み出している そして thatgamecompany(開発会社)が色彩を活用して 様々な感覚を表現している点は注目だ オレンジ色が砂漠の穏やかな神秘を表し 深緑が不気味な地下墓地を表現する 白色が刺すような寒さを 鮮明な青が再生の瞬間を表現する このゲームには何かを感じさせるための 言葉は必要ない 環境が全てを 物語っているからだ 最後に、環境がプレイヤーの「一体感」に 与える影響について触れたいと思う ビデオゲームでは一般的に 登場人物の立場になりきって― その人物のように行動することが 求められる プレイヤーは 常に手がかりを探している 自分はどんな人物になるのか、どんな行動が期待され 許され、罰せられるのか知りたいのだ 当然この困難な作業は、利用できる仕様や システムが選択に反応する方法や― 販売戦略と様式基準からなる プレイヤーの先入観によって行われている だが環境も大きな役割を 果たしている 例えば初代『Bioshock』では 人を殺したり― レジや金庫から盗んだりするのは 簡単だった 一方『Bioshock Infinite』でこれをやると かなり居心地が悪いことが分かった その大部分は『Bioshock』のラプチャーが 廃墟化していることが要因だ 周りにいるのは狂気の 血に飢えたスプライサーだけだ こいつらの頭蓋骨を殴って、ポケットに入るかぎり 全てを略奪するのは理にかなっている 一方『Infinite』のコロンビアでは、到着した時 社会の半分はまだ機能していて 営業中の店や 罪のない市民がいる だから暴力や強盗は、こうした環境では あまり意味がない 現実的な世界観に話を戻すと 『Hitman』の開発者はこの手法を使って 世界がプレイヤーの存在にどう反応するのかを さり気なく説明している 気軽に散策できるエリアが 明確に分かる理由は― プレイヤーが現実世界の社会規範を 理解しているからなのだ これは IO の開発者 Mette Andersen の GDC 講演の言葉だ 「これらの空間を設計するとき、私たちは 行動のルールを設計し―」 「 "この空間で自分はどうあるべきか?" という プレイヤーの自覚を活用するものを設計します」 Mette は世界を分割する 「公共の空間」は序盤から利用可能で― どんな服装でも探索できる 「私有の空間」では、侵入するための工夫や 隠れるための衣装が必要だ 彼女はこれをさらに細分化する 曖昧から厳格まで、社会規範を分けるのだ 『Hitman』最高のステージは Matte によると こうしたエリアの種類が豊富に混在しているらしい だからビデオゲームの環境は、物語の媒体として 驚くほど効果的なものになり得るのだ プレイヤーが到着する前に起こった 出来事について伝えたり そこで暮らす人々について 手がかりを与えたり 構造を通じて 感情を喚起したり あるいはプレイヤーの一体感のために 文脈を用意したり こうした空間は 多くを物語ることができるのだ 以下のコメント欄で、環境を使った物語の お気に入りの例を教えてほしい (字幕翻訳:Nekofloor) やぁ、ご視聴ありがとう 気付いたかもしれないが これは以前の動画の再投稿版だ 残念ながら、以前のやつは動画内で挙げた 一部の事例が原因で年齢に不適切だと判断されたため 視聴前に大きな恐ろしい警告が 表示されてしまった 最終的には、できるだけ大勢が 自分のチャンネルを視聴できるようにしたいので 今後は一般的な視聴者に適した動画内容に するように努力していくつもりだ 僕はそれでも人を撃つことを話題にするつもりだ だって…ほら、これはビデオゲームの動画だからね しかしそれでも、今後は暴力やその他の厄介なものに 引っかからないように注意していく もし元の動画が不快な気分にさせたなら 僕は謝罪する