1 00:00:15,010 --> 00:00:18,266 今日は 「数学とは何か」について 2 00:00:18,266 --> 00:00:20,452 皆さんと考えたいと思います 3 00:00:20,922 --> 00:00:26,496 小学校、中学、高校では すべての生徒が数学を学びますし 4 00:00:26,832 --> 00:00:30,940 もちろん皆さんも 数学を学ばれたと思いますが 5 00:00:31,590 --> 00:00:35,976 「数学とは何か」について 考えられたことはあるでしょうか? 6 00:00:37,388 --> 00:00:40,500 「数学は苦手」と言われる方が多い一方 7 00:00:41,521 --> 00:00:44,585 「公式をたくさん覚えて計算するのが数学」 8 00:00:44,585 --> 00:00:47,533 といった印象をお持ちの方も少なくありません 9 00:00:48,053 --> 00:00:49,823 皆さんはどうでしょうか? 10 00:00:51,069 --> 00:00:53,875 「数学とは何か」という問いに対して 11 00:00:53,875 --> 00:00:57,684 すべての数学者が 一様に答えるわけではありません 12 00:00:58,784 --> 00:01:00,114 しかし 13 00:01:00,114 --> 00:01:05,309 「公式をたくさん覚えて計算するのが数学」 だと考える数学者はまず いません 14 00:01:06,209 --> 00:01:08,260 このように考える人にとって 15 00:01:08,260 --> 00:01:12,763 数学をすることは かなり苦痛なのではないかと思います 16 00:01:13,740 --> 00:01:19,030 やはり 数学の本質とかけ離れたものを 数学だと思い込むのは 17 00:01:19,349 --> 00:01:22,929 数学を学ぶ上で 大きな弊害となります 18 00:01:23,699 --> 00:01:24,960 そういった意味でも 19 00:01:24,960 --> 00:01:29,576 数学の本質について考え 理解することには 意義があると思います 20 00:01:31,370 --> 00:01:35,572 今日は 数学に関する アインシュタインとハーディーの言葉 21 00:01:36,142 --> 00:01:41,924 また 私たちは数学において 何を探求するのかについて吟味し 22 00:01:42,690 --> 00:01:45,268 「数学とは何か」を考えたいと思います 23 00:01:47,943 --> 00:01:49,523 アインシュタインは 24 00:01:49,523 --> 00:01:54,323 「数学は論理的概念の詩である」 と言いました 25 00:01:54,923 --> 00:01:56,870 私はこの表現が好きで 26 00:01:57,230 --> 00:02:00,988 皆さんにも この意味を 考えていただきたいと思います 27 00:02:02,490 --> 00:02:05,990 まず 「論理的概念」という言葉が示すように 28 00:02:06,795 --> 00:02:10,567 数学は 論理的に厳密なものです 29 00:02:11,700 --> 00:02:15,557 一方 数学のもう一つの重要な要素が 30 00:02:16,167 --> 00:02:19,940 「数学は詩である」 という表現に示されています 31 00:02:20,986 --> 00:02:24,706 これは 数学が創造性(想像性)に溢れるものであり 32 00:02:25,527 --> 00:02:28,037 芸術的でもあることを意味しています 33 00:02:29,097 --> 00:02:30,577 皆さんには 34 00:02:30,577 --> 00:02:33,918 「論理的に厳密である」ということと 35 00:02:34,388 --> 00:02:37,678 「想像性に溢れるものである」 ということは 36 00:02:38,420 --> 00:02:40,872 相反するものに映るかもしれません 37 00:02:41,635 --> 00:02:45,109 しかし数学においては この二つの要素が 38 00:02:45,109 --> 00:02:48,839 高度に 互いに補い合い 高め合います 39 00:02:50,301 --> 00:02:52,148 残りの時間 皆さんも 40 00:02:52,526 --> 00:02:57,230 このアインシュタインの素晴らしい言葉を 実感されるのではないかと思います 41 00:02:59,836 --> 00:03:04,695 では 私達は数学において何を探究するのか について考えます 42 00:03:06,481 --> 00:03:11,102 「数学は数字を探究するもの」 と思われるかもしれませんが 43 00:03:11,652 --> 00:03:14,732 数学には 数字を扱わない分野もあります 44 00:03:15,992 --> 00:03:21,532 もう少し普遍的なものを考えることが 数学の本質を理解する上で重要です 45 00:03:23,614 --> 00:03:25,405 数学者ハーディーは 46 00:03:26,139 --> 00:03:32,839 「数学者とは 画家や詩人のように 構造を作り出す者である」と述べ 47 00:03:33,261 --> 00:03:36,981 「数学は構造を探究するものである」 と言いました 48 00:03:37,445 --> 00:03:39,175 この言葉が示すように 49 00:03:39,465 --> 00:03:43,936 様々な構造を作ったり 見出したり 使ったりするのは 50 00:03:44,586 --> 00:03:46,420 数学の根幹となリます 51 00:03:48,780 --> 00:03:49,831 皆さんにとって 52 00:03:49,831 --> 00:03:54,783 数学でどのような構造を探究するのか よく分からないところもあるかと思います 53 00:03:55,540 --> 00:03:58,725 ここに示されている パスカルの三角形を使って 54 00:03:58,725 --> 00:04:01,495 数学で扱う構造について考え 55 00:04:01,495 --> 00:04:05,507 その過程で 数学の重要な特徴を 見出したいと思います 56 00:04:06,926 --> 00:04:09,339 この三角形は 様々な所に現れます 57 00:04:10,489 --> 00:04:12,175 例えば 皆さんは学校で 58 00:04:12,685 --> 00:04:19,155 (x+y) ² =x² + 2xy + y² と学ばれたと思いますが 59 00:04:19,863 --> 00:04:23,638 その係数もこの三角形の3行目に現れます 60 00:04:24,643 --> 00:04:25,675 まあ今日は 61 00:04:25,675 --> 00:04:27,536 こういうことを話すのはやめましょう 62 00:04:29,225 --> 00:04:33,540 驚くほど多くの構造が この三角形には含まれており 63 00:04:33,540 --> 00:04:36,620 多くの重要な数学の概念を 学ぶことができます 64 00:04:37,520 --> 00:04:40,490 1つ かなり分かりやすい 構造があるのですが 65 00:04:40,665 --> 00:04:42,607 皆さん見つけられますか? 66 00:04:43,287 --> 00:04:47,740 おそらく 最も分かりやすいのは 「左右対称である」ということでしょう 67 00:04:48,250 --> 00:04:52,853 左半分に現れる数字が 右半分に同じように現れます 68 00:04:53,459 --> 00:04:57,489 後でもまた触れますが 対称性は重要な構造です 69 00:04:59,532 --> 00:05:03,808 各位置で 数字がどのように 決定されているか分かりますか? 70 00:05:05,150 --> 00:05:09,450 まず [三角形の]左辺と右辺上の 数字は全て1です 71 00:05:10,148 --> 00:05:13,924 その他の数字は その上の 2つの数字の和になっています 72 00:05:14,508 --> 00:05:16,413 例えば 2=1+1 73 00:05:17,068 --> 00:05:18,714 3 = 1 + 2 74 00:05:18,714 --> 00:05:20,379 6=3 + 3 です 75 00:05:21,165 --> 00:05:24,698 この三角形は 限りなく続くものですが 76 00:05:24,970 --> 00:05:28,816 このように構造を理解すると 数字を覚える必要がなく 77 00:05:29,292 --> 00:05:34,437 頭の中でごく簡単な計算をしながら この三角形を作ることができます 78 00:05:35,379 --> 00:05:40,286 構造を理解し 使うことの 重要性がわかる簡単な例です 79 00:05:42,484 --> 00:05:47,363 では この三角形に現れる 奇数が作る構造について考えます 80 00:05:48,158 --> 00:05:51,618 最初の9行に現れる奇数 81 00:05:51,618 --> 00:05:53,598 1、3、5、7等ですね — 82 00:05:53,598 --> 00:05:56,315 の位置がここに白色で示されています 83 00:05:57,252 --> 00:06:01,746 このように 奇数が現れる位置に着目すると 84 00:06:02,082 --> 00:06:04,545 面白い構造を見つけることができます 85 00:06:04,967 --> 00:06:07,593 皆さん 想像力を働かせて 86 00:06:08,277 --> 00:06:14,600 128行からなる 巨大なパスカルの三角形を 頭に描いてみてください 87 00:06:15,440 --> 00:06:17,100 これが9行ですから 88 00:06:17,100 --> 00:06:20,656 128行もあると かなり大きなものになるはずです 89 00:06:22,152 --> 00:06:26,215 その128行に現れる奇数の位置が 90 00:06:26,215 --> 00:06:28,631 ここに白で示されています 91 00:06:29,698 --> 00:06:32,384 この図には 明らかに構造がありますが 92 00:06:32,582 --> 00:06:36,192 皆さんはその構造を 言い表すことができますか? 93 00:06:37,176 --> 00:06:39,694 まず 大きな三角形がありますが 94 00:06:40,004 --> 00:06:41,231 よく見ると 95 00:06:41,231 --> 00:06:46,269 その三角形が 3つの少し小さな 三角形から成り立っており 96 00:06:46,769 --> 00:06:50,105 さらによく見ると その小さな三角形の1つ1つ 97 00:06:50,774 --> 00:06:52,887 例えばこの三角形が 98 00:06:52,887 --> 00:06:56,227 3つの より小さい三角形から 成り立っています 99 00:06:56,951 --> 00:06:59,170 これが 続いて行きますね 100 00:07:02,370 --> 00:07:06,164 専門的には この構造は 「フラクタル」の一種で 101 00:07:06,474 --> 00:07:11,784 全体の構造が その構成部分の 構造と同じになっており 102 00:07:11,784 --> 00:07:13,910 これを「自己相似」といいます 103 00:07:14,717 --> 00:07:16,378 フラクタル構造は 104 00:07:16,528 --> 00:07:17,774 海岸線 105 00:07:17,774 --> 00:07:18,822 植物 106 00:07:18,822 --> 00:07:19,962 結晶 107 00:07:19,962 --> 00:07:21,494 内臓の内壁など 108 00:07:21,684 --> 00:07:24,984 自然のあらゆる所で観察できます 109 00:07:25,684 --> 00:07:28,203 この「フラクタル構造」を 覚えておいてください 110 00:07:28,593 --> 00:07:31,570 終わり近くに 意外なところで出てきます 111 00:07:33,486 --> 00:07:36,363 きりがないのですが 数学者としては 112 00:07:36,363 --> 00:07:39,523 皆さんにお見せしないと バチが当たるような構造が 113 00:07:39,573 --> 00:07:41,753 ここにありますので 紹介します 114 00:07:42,040 --> 00:07:44,662 このように 三角形に斜線を引き 115 00:07:44,662 --> 00:07:48,470 それぞれの斜線上にある 数字の和を求めます 116 00:07:49,358 --> 00:07:51,339 最初の斜線の和は1 117 00:07:52,115 --> 00:07:53,856 次の斜線の和も1 118 00:07:54,386 --> 00:07:56,356 その次の斜線の和は2ですね 119 00:07:57,256 --> 00:07:58,915 これを続けていくと 120 00:07:58,915 --> 00:08:01,755 ここに示されている数列が現れます 121 00:08:02,695 --> 00:08:05,409 これは「フィボナッチ数列」と呼ばれ 122 00:08:05,409 --> 00:08:10,310 多くの数学的分析に現れる 重要な数列です 123 00:08:11,250 --> 00:08:15,089 先ほどのフラクタルと同様 この数列も 124 00:08:15,210 --> 00:08:19,736 自然に存在する構造を 記述するのにとても有効です 125 00:08:20,539 --> 00:08:25,408 例えば このフィボナッチ数を 一辺の長さに持つ正方形を 126 00:08:25,808 --> 00:08:28,179 このように並べます 127 00:08:29,275 --> 00:08:31,624 とても綺麗に並びますね 128 00:08:32,821 --> 00:08:36,660 なぜ このように綺麗に 正方形を並べることができるのか? 129 00:08:37,390 --> 00:08:39,822 家に帰って 是非考えてみてください 130 00:08:40,835 --> 00:08:46,626 これを使ってできる螺旋は 自然に存在する様々な構造 131 00:08:48,248 --> 00:08:50,566 例えば 貝殻 132 00:08:51,336 --> 00:08:52,509 銀河 133 00:08:52,509 --> 00:08:53,643 台風などを 134 00:08:53,643 --> 00:08:56,009 効果的に表すことができます 135 00:08:58,127 --> 00:09:03,257 このように パスカルの三角形を 少し数学的に考察するだけでも 136 00:09:03,257 --> 00:09:05,917 多くの構造を見つけることができます 137 00:09:06,264 --> 00:09:10,304 もちろん 数学には 多種多様な研究対象がありますが 138 00:09:10,782 --> 00:09:13,012 どの数学の分野においても 139 00:09:13,079 --> 00:09:18,219 何らかの形で構造を作る 見いだす あるいは使うことによって 140 00:09:18,219 --> 00:09:21,920 物事を理解し 数学的真理を確立していきます 141 00:09:22,792 --> 00:09:24,802 このことを理解することは 142 00:09:24,802 --> 00:09:27,361 数学の本質を理解する上で重要です 143 00:09:29,593 --> 00:09:34,137 またここで 数学の重要な特徴の 幾つかを見いだすことができます 144 00:09:35,402 --> 00:09:38,762 私達は パスカルの三角形を考察していて 145 00:09:39,114 --> 00:09:43,622 フラクタル、フィボナッチ数列 螺旋を見つけました 146 00:09:44,541 --> 00:09:47,451 他にも 多くの構造を 見つけることができます 147 00:09:48,201 --> 00:09:49,426 このように 148 00:09:49,766 --> 00:09:54,746 一見何の関わりもないような 様々な概念・構造が 149 00:09:55,313 --> 00:09:59,679 深い所で結びついていることが 数学においてはよくあります 150 00:10:00,911 --> 00:10:07,869 そして これらの多種多様な概念・構造と その関連性を真に理解するためには 151 00:10:08,598 --> 00:10:13,864 厳密な論理的思考と 豊かな想像力の両方が必要です 152 00:10:15,294 --> 00:10:17,613 いくら想像力が豊かな人でも 153 00:10:17,663 --> 00:10:19,673 単に想像することによって 154 00:10:19,983 --> 00:10:24,013 これらの概念が結びついていることを 認識するのは不可能でしょう 155 00:10:24,926 --> 00:10:27,836 また 論理的思考だけでは 156 00:10:28,230 --> 00:10:31,431 これらの概念を 発想することはできません 157 00:10:31,956 --> 00:10:36,499 アインシュタインが言う 「数学は論理的概念の詩である」 158 00:10:36,499 --> 00:10:39,615 ということを 実感できるの ではないでしょうか? 159 00:10:41,521 --> 00:10:46,699 またここで 数学の不思議な特徴を 見いだすことができます 160 00:10:47,356 --> 00:10:48,998 それは 数学が 161 00:10:49,508 --> 00:10:56,060 自然に存在する構造を記述するのに 驚くほど有効であるということです 162 00:10:57,202 --> 00:10:58,523 ガリレオは 163 00:10:58,523 --> 00:11:02,605 「自然という書物は 数学で書かれている」と述べ 164 00:11:03,230 --> 00:11:06,593 ファインマンは 「数学を理解しないと 165 00:11:07,103 --> 00:11:12,517 最も深遠な宇宙の美しさを 理解することは難しい」と述べ 166 00:11:13,147 --> 00:11:14,627 またウィグナーは 167 00:11:14,627 --> 00:11:20,650 「自然科学において数学は 理不尽なまでに有効である」と述べました 168 00:11:21,456 --> 00:11:25,497 自然科学・工学において 数学が不可欠である所以です 169 00:11:25,996 --> 00:11:30,628 では最後に 数学と美について考えます 170 00:11:31,489 --> 00:11:34,057 先ほど紹介した数学者ハーディーは 171 00:11:35,016 --> 00:11:40,749 「数学の概念を評価する際に 最初に吟味するべき点は 172 00:11:41,158 --> 00:11:45,246 その概念が美しいかどうかである」とも述べ 173 00:11:46,051 --> 00:11:49,965 「醜い数学が存在する余地はない」 とも述べました 174 00:11:50,586 --> 00:11:54,617 ここに 数学の本質において 不可欠な要素である 175 00:11:54,647 --> 00:11:57,526 「美の探究」が言い表されています 176 00:11:58,473 --> 00:12:00,393 このことについて考えます 177 00:12:01,833 --> 00:12:06,303 まず 「美」自体について 考えることが必要です 178 00:12:07,023 --> 00:12:12,008 皆さんは どういったものを 「美しい」と思われますか? 179 00:12:13,249 --> 00:12:16,521 美しいと思うものを想像してみてください 180 00:12:17,969 --> 00:12:22,090 富士山は 日本人にとって 特別な存在だと思いますが 181 00:12:22,636 --> 00:12:27,976 あの山を見て なぜ私達は 「美しい」と思うのでしょうか? 182 00:12:29,967 --> 00:12:31,969 美しいですよね? 183 00:12:33,341 --> 00:12:35,229 明らかな特徴として 184 00:12:35,229 --> 00:12:38,929 この山は どの角度から見ても ほぼ 左右対称です 185 00:12:39,756 --> 00:12:41,062 数学的にはこれは 186 00:12:41,062 --> 00:12:45,372 中心軸に関する「回転対称性」 として表すことができます 187 00:12:46,117 --> 00:12:49,445 また山の輪郭がとても滑らかですが 188 00:12:49,494 --> 00:12:51,624 これは数学的には 189 00:12:51,624 --> 00:12:56,391 曲線を表す関数とその微分可能性に よって表すことができます 190 00:12:57,377 --> 00:13:00,739 少し難しい専門用語が並びましたが 191 00:13:01,009 --> 00:13:07,719 これらは 先ほど考察した 数学において探究する構造です 192 00:13:08,612 --> 00:13:14,517 これらの特徴・概念は 美と結びついているのでしょうか? 193 00:13:16,780 --> 00:13:23,407 近年 我々の審美眼に関する 様々な科学的研究が行われており 194 00:13:23,982 --> 00:13:27,326 数学と美の関わりも 解明されつつあります 195 00:13:28,331 --> 00:13:29,757 ある研究では 196 00:13:30,621 --> 00:13:33,254 同程度のデータ量を持つ画像の中で 197 00:13:33,394 --> 00:13:38,654 「美しい」と認識された画像の データ圧縮性が高いことが示されました 198 00:13:39,486 --> 00:13:41,333 このことについて考えます 199 00:13:42,353 --> 00:13:47,687 まず データが圧縮できるということは データを小さくできるということです 200 00:13:48,561 --> 00:13:52,046 先ほど考察した パスカルの三角形は 左右対称で 201 00:13:52,482 --> 00:13:57,078 左半分に現れる数字が 右半分に同じように現れます 202 00:13:57,610 --> 00:14:03,156 したがって この三角形を作るのに すべての数字・データが必要ではなく 203 00:14:03,669 --> 00:14:07,332 左半分にあるものだけで十分です 204 00:14:07,676 --> 00:14:12,649 左半分を写して それを反転させて 右に写せば作れるからです 205 00:14:13,304 --> 00:14:18,504 この場合 元のデータが 約半分に圧縮できることになり 206 00:14:19,291 --> 00:14:22,949 パスカルの三角形は 高いデータ圧縮性を持つことになります 207 00:14:24,570 --> 00:14:28,016 これは 富士山の画像にも 当てはまることです 208 00:14:28,538 --> 00:14:33,359 富士山の左半分を写して それを反転させて右に写せば 209 00:14:33,891 --> 00:14:37,393 本物とほぼ変わらない 富士山の写真を作ることができます 210 00:14:37,983 --> 00:14:41,704 よって 富士山の画像の データ圧縮性も高いと言え 211 00:14:42,126 --> 00:14:47,305 このような画像が「美しい」と 認識されることが研究で示されました 212 00:14:48,911 --> 00:14:50,973 この写真で面白いのは 213 00:14:50,973 --> 00:14:56,623 富士山が湖に写っていて 上下対称にもなっていますね 214 00:14:57,953 --> 00:15:01,167 美しさが増していると思いませんか? 215 00:15:03,277 --> 00:15:09,925 では 「美しい」と認識される画像の データ圧縮性が高いことが示されたのですが 216 00:15:10,349 --> 00:15:15,339 一般に どのような画像が 高いデータ圧縮性を持つのでしょうか? 217 00:15:16,687 --> 00:15:19,192 先ほどの簡単な例からもわかるように 218 00:15:19,548 --> 00:15:25,191 画像に数学的構造がある場合 そのデータ圧縮性は高くなります 219 00:15:26,779 --> 00:15:32,463 これは 先ほど述べた研究において 「美しい」と認識された画像の例です 220 00:15:33,566 --> 00:15:35,191 この顔は 221 00:15:35,191 --> 00:15:40,376 ある数学的構造を用いて 非常に効率よく描かれており 222 00:15:40,696 --> 00:15:43,326 データ圧縮性がとても高いのですが 223 00:15:44,057 --> 00:15:48,097 どのような数学的構造が 使われていると思いますか? 224 00:15:49,599 --> 00:15:51,161 どうでしょう? 225 00:15:52,211 --> 00:15:55,667 実は先ほど この構造を見ていたのですけどね 226 00:15:56,615 --> 00:16:00,502 ここでは フラクタルが使われています 227 00:16:02,060 --> 00:16:04,454 このことを考えると 228 00:16:04,454 --> 00:16:08,668 私達が数学において 探究するもの 「構造」は 229 00:16:09,290 --> 00:16:14,991 「私達にが『美しい』と思うもの またはそれに貢献するものである」 230 00:16:15,410 --> 00:16:17,141 と言うこともできます 231 00:16:19,212 --> 00:16:23,898 近年行われた脳研究も このことを示唆します 232 00:16:24,978 --> 00:16:30,168 この図に緑で示されている脳の部位 「内側眼窩前頭皮質」は 233 00:16:30,794 --> 00:16:36,841 「美しい」と認識される 風景・絵画・音楽などに 234 00:16:36,841 --> 00:16:39,421 反応することで知られていたのですが 235 00:16:39,912 --> 00:16:45,901 数学的概念・構造に対しても 同様に活性化することが分かりました 236 00:16:46,954 --> 00:16:50,993 我々の脳にとって 数学で探究する「美」は 237 00:16:51,448 --> 00:16:56,863 自然や芸術における 「美」と共通するところがあります 238 00:16:59,342 --> 00:17:00,998 時間となりましたが 239 00:17:01,950 --> 00:17:05,095 「数学は 論理的概念の詩である」 240 00:17:06,422 --> 00:17:10,759 「数学者は 構造を作り出す者である」 241 00:17:11,942 --> 00:17:16,630 「私達は数学において 『美しい』ものを探究する」 242 00:17:16,750 --> 00:17:19,891 といった数学の本質的な特徴は 243 00:17:20,140 --> 00:17:24,005 おそらく皆さんにとって 意外だったのではないでしょうか? 244 00:17:25,554 --> 00:17:31,040 また私達が 何を「美しい」 と思うのかについて 245 00:17:31,040 --> 00:17:35,043 新たな側面を 見出して いただけたのではないでしょうか? 246 00:17:36,581 --> 00:17:39,751 これから 何か美しいものを見た時 247 00:17:39,801 --> 00:17:43,596 皆さんは数学のことを 考えられるかもしれません 248 00:17:44,414 --> 00:17:45,804 もしかしたら 249 00:17:46,417 --> 00:17:49,546 それは 大きな変化ではないでしょうか? 250 00:17:50,047 --> 00:17:52,344 ご静聴ありがとうございました 251 00:17:52,627 --> 00:17:54,615 (拍手)