1 00:00:00,000 --> 00:00:04,000 アウシュビッツ強制収容所のようなイメージが 2 00:00:04,000 --> 00:00:09,000 20世紀を通して 我々の意識に焼きついて 3 00:00:09,000 --> 00:00:14,000 我々という人間の正体や 我々のたどった道 我々が生きる時代の 4 00:00:14,000 --> 00:00:17,000 新しい解釈をもたらしました 5 00:00:17,000 --> 00:00:21,000 20世紀には数々の残虐行為が見られました 6 00:00:21,000 --> 00:00:26,000 スターリン ヒトラー 毛沢東 ポルポト ルワンダやその他の集団虐殺 7 00:00:26,000 --> 00:00:30,000 21世紀に突入して まだ7年しか経過していませんが 8 00:00:30,000 --> 00:00:34,000 既に ダルフール紛争やイラクの日常となった 9 00:00:34,000 --> 00:00:36,000 酷い状況を目にしてきました 10 00:00:37,000 --> 00:00:40,000 こうしてある共通の理解に至りました 11 00:00:40,000 --> 00:00:44,000 現代社会は 暴力にあふれ 12 00:00:44,000 --> 00:00:47,000 調和のとれた原始の時代から離れてしまったから今の危難があるのです 13 00:00:47,000 --> 00:00:52,000 例えば 数年前の感謝祭のときの 14 00:00:52,000 --> 00:00:55,000 ボストングローブ紙の論評です 15 00:00:55,000 --> 00:00:58,000 “インディアンの生活は苦しいものであったが 16 00:00:59,000 --> 00:01:02,000 雇用問題は無く 仲間意識が強く 17 00:01:02,000 --> 00:01:04,000 薬物乱用など存在せず 18 00:01:05,000 --> 00:01:08,000 犯罪は ほぼ皆無で 部族間の争いは 19 00:01:09,000 --> 00:01:12,000 主に儀式的で 無差別虐殺や 20 00:01:12,000 --> 00:01:16,000 大量虐殺につながることは滅多になかった” よく聞くお話です 21 00:01:17,000 --> 00:01:20,000 子どもに教え テレビや絵本でも耳にします 22 00:01:20,000 --> 00:01:25,000 このセッションのテーマは“常識を疑う” ですが 23 00:01:25,000 --> 00:01:28,000 今述べた常識的な理解の誤りについて 24 00:01:28,000 --> 00:01:31,000 論証したいと思います 25 00:01:31,000 --> 00:01:35,000 実際に我々の祖先は非常に残虐で 26 00:01:35,000 --> 00:01:38,000 暴力は長い事 減少してきており 27 00:01:39,000 --> 00:01:42,000 我々は おそらく人類史上 もっとも平和な時を生きています 28 00:01:42,000 --> 00:01:46,000 ダルフールやイラクでの紛争が起きている時代に 29 00:01:47,000 --> 00:01:50,000 このような陳述は 幻覚か不当にすら感じますが 30 00:01:50,000 --> 00:01:53,000 これが正しい理解であると説明していきます 31 00:01:53,000 --> 00:01:59,000 暴力の減少はフラクタル現象です 32 00:01:59,000 --> 00:02:02,000 これは数千年 数百年 数十年 33 00:02:02,000 --> 00:02:05,000 そして数年のスケールで観測できます 34 00:02:06,000 --> 00:02:08,000 16世紀の理性の時代の始まりが 35 00:02:08,000 --> 00:02:12,000 転換点だったようです 36 00:02:12,000 --> 00:02:15,000 一様ではなくとも世界中に見られます 37 00:02:16,000 --> 00:02:18,000 啓蒙運動の時代 英国やオランダで始まり 38 00:02:19,000 --> 00:02:21,000 特に西洋では顕著です 39 00:02:22,000 --> 00:02:25,000 では数千年から数年のスケールで 40 00:02:26,000 --> 00:02:28,000 説明していきましょう 41 00:02:28,000 --> 00:02:32,000 一万年前まで人間は狩猟採集型の生活をして 42 00:02:32,000 --> 00:02:35,000 永住地や政府はありませんでした 43 00:02:35,000 --> 00:02:38,000 これは一般に原始的な調和の一つとして 44 00:02:38,000 --> 00:02:43,000 考えられる状態ですが 45 00:02:44,000 --> 00:02:48,000 考古学者のローレンス キーリーは 46 00:02:48,000 --> 00:02:51,000 現代の狩猟採取者の死亡率を参考にして 47 00:02:52,000 --> 00:02:58,000 狩猟採取社会の新しい姿を描きました 48 00:02:58,000 --> 00:03:00,000 キーリーはこんなグラフに 49 00:03:00,000 --> 00:03:03,000 数々の狩猟採取社会での 50 00:03:03,000 --> 00:03:07,000 争いによる男性死者の割合をまとめました 51 00:03:08,000 --> 00:03:14,000 赤い棒線は 自然死ではなくて 52 00:03:14,000 --> 00:03:17,000 誰かに殺される確率を示しています 53 00:03:17,000 --> 00:03:21,000 ニューギニア高地やアマゾン熱帯雨林の 54 00:03:21,000 --> 00:03:24,000 様々な原住民社会におけるものです 55 00:03:25,000 --> 00:03:28,000 殺される確率が60%の場所もあれば 56 00:03:28,000 --> 00:03:31,000 わずか15%の場所もあります 57 00:03:32,000 --> 00:03:36,000 左下に見られる短い青い棒線は 58 00:03:36,000 --> 00:03:39,000 20世紀の欧米の統計を表わしたもので 59 00:03:40,000 --> 00:03:44,000 2度の世界大戦の犠牲者を含んでいます 60 00:03:44,000 --> 00:03:49,000 もし同じ死亡率のまま20世紀を迎えていたら 61 00:03:49,000 --> 00:03:55,000 1億人どころか20億人が死んでいたでしょう 62 00:03:55,000 --> 00:03:58,000 千年スケールの話の続きですが 聖書から 63 00:03:58,000 --> 00:04:03,000 古代文明における社会の風習を見ることができます 64 00:04:03,000 --> 00:04:08,000 道徳的価値の源泉と考えられる聖書の中に 65 00:04:08,000 --> 00:04:12,000 戦争に対する見方がわかる記述があります 66 00:04:12,000 --> 00:04:15,000 例えば 31章には“わが主がモーゼに命令すると 67 00:04:15,000 --> 00:04:18,000 彼らはミデヤン人と戦い 彼らは 68 00:04:18,000 --> 00:04:21,000 すべての男どもを殺した そしてモーゼは言った 69 00:04:21,000 --> 00:04:25,000 女は生かしておいたか? 直ちに 男の子たちを皆 殺せ 70 00:04:25,000 --> 00:04:28,000 男と寝て男を知っている女も皆殺せ 71 00:04:28,000 --> 00:04:32,000 ただし 男を知らない娘は あなたたちのために 72 00:04:32,000 --> 00:04:35,000 生かしておくがよい” と書かれています 73 00:04:35,000 --> 00:04:40,000 これは男や子どもは殺し 処女を見つけた時は生かしておいて 74 00:04:40,000 --> 00:04:42,000 強姦してもよい という意味です 75 00:04:43,000 --> 00:04:47,000 聖書には このような記述が4~5か所に見られます 76 00:04:47,000 --> 00:04:50,000 また聖書によると 死刑が容認される罪は 77 00:04:50,000 --> 00:04:55,000 同性愛 姦通 冒涜 78 00:04:55,000 --> 00:04:59,000 偶像崇拝 親への口答え 79 00:04:59,000 --> 00:05:03,000 安息日に枝を拾うことなどが含まれます 80 00:05:03,000 --> 00:05:06,000 では一桁分ズームインして 81 00:05:06,000 --> 00:05:09,000 世紀のスケールで見てみましょう 82 00:05:09,000 --> 00:05:13,000 中世から現代に至る期間の 戦争の統計はありませんが 83 00:05:14,000 --> 00:05:15,000 歴史をたどれば 社会的に 84 00:05:15,000 --> 00:05:18,000 容認された暴力が減少してきたのは 85 00:05:18,000 --> 00:05:22,000 はっきりとしています 86 00:05:22,000 --> 00:05:25,000 例えば どんな社会でも 手足の切断や拷問は 87 00:05:25,000 --> 00:05:29,000 刑罰として規定された形式でした 88 00:05:29,000 --> 00:05:32,000 現在 違反行為に課せられるのは罰金ですが 89 00:05:32,000 --> 00:05:36,000 当時は舌や耳を切られたり 目をつぶされたり 90 00:05:36,000 --> 00:05:40,000 手を切断されたりしたのです 91 00:05:40,000 --> 00:05:42,000 死刑も火あぶりや解体刑 車裂きの刑 92 00:05:42,000 --> 00:05:46,000 八つ裂きの刑など 93 00:05:47,000 --> 00:05:49,000 残酷なものは多々ありました 94 00:05:50,000 --> 00:05:52,000 王様の批判や パン泥棒など 暴力とは関係のない罪にも 95 00:05:53,000 --> 00:05:57,000 死刑は適用され 労働力を確保するために 96 00:05:57,000 --> 00:06:01,000 奴隷制が多用されていました 97 00:06:02,000 --> 00:06:05,000 娯楽も残酷で 一番強烈なのは 98 00:06:06,000 --> 00:06:09,000 猫の火あぶりです 吊るされた猫が 99 00:06:09,000 --> 00:06:12,000 火の中に入れられ 痛みで鳴き声を上げ 100 00:06:12,000 --> 00:06:15,000 焼死する姿を見て 観客はギャーッと声をあげながら 101 00:06:15,000 --> 00:06:20,000 笑っていたのです 102 00:06:21,000 --> 00:06:23,000 殺人に関しては 多くの行政機関が 103 00:06:23,000 --> 00:06:26,000 死因を記録しているので 統計データが出されています 104 00:06:26,000 --> 00:06:32,000 犯罪学者のマヌエル アイズナーは 105 00:06:32,000 --> 00:06:36,000 ヨーロッパ全域で見つけた 106 00:06:37,000 --> 00:06:39,000 殺人の全記録を研究し そのデータを 107 00:06:39,000 --> 00:06:44,000 国家の統計と 108 00:06:44,000 --> 00:06:46,000 継ぎ合わせました 109 00:06:46,000 --> 00:06:49,000 対数スケールでプロットすると 年間に10万人あたり100件の殺人という 110 00:06:50,000 --> 00:06:57,000 中世の代表的な値から始まりますが 111 00:06:57,000 --> 00:07:03,000 その数字はどんどん低下して 112 00:07:03,000 --> 00:07:08,000 ヨーロッパ諸国では 年間に 10万人あたり1件以下まで減ります 113 00:07:08,000 --> 00:07:12,000 そして 1960年に少し上昇が見られます 114 00:07:13,000 --> 00:07:17,000 ロックンロールが道徳的価値観を下げるという指摘は 115 00:07:17,000 --> 00:07:21,000 あながち間違いとも言えないようです 116 00:07:21,000 --> 00:07:24,000 ともかく 殺人件数は現代に至るまで 117 00:07:25,000 --> 00:07:28,000 16世紀初頭を境に 118 00:07:29,000 --> 00:07:31,000 少なくとも二桁の減少を遂げました 119 00:07:32,000 --> 00:07:35,000 10年単位で見てみましょう 120 00:07:37,000 --> 00:07:39,000 非政府組織の統計によれば 121 00:07:39,000 --> 00:07:41,000 ヨーロッパと南北アメリカでは1945年以来 122 00:07:42,000 --> 00:07:46,000 戦争や犠牲者を出す民族暴動 123 00:07:46,000 --> 00:07:49,000 虐殺や軍事クーデターは減少しています 124 00:07:50,000 --> 00:07:54,000 世界的にも 戦争による犠牲者は激減しています 125 00:07:54,000 --> 00:07:58,000 黄色の棒線は1950年から現在に至るまでの 126 00:07:58,000 --> 00:08:03,000 一つの戦争の年間犠牲者を示しています 127 00:08:04,000 --> 00:08:08,000 50年代には一つの戦争の年間犠牲者数が 6万5千人でしたが 128 00:08:09,000 --> 00:08:13,000 2000年以降は酷い状況とは言え 129 00:08:13,000 --> 00:08:17,000 年間犠牲者数は2千人以下まで減少しています 130 00:08:17,000 --> 00:08:21,000 一年スケールで見ても 暴力の減少がわかります 131 00:08:21,000 --> 00:08:24,000 冷戦終結の後 内戦や集団虐殺は減りました 132 00:08:25,000 --> 00:08:28,000 第二次世界大戦後 90%の減少です 133 00:08:28,000 --> 00:08:34,000 殺人や暴力犯罪における60年代の上昇分も取り返しました 134 00:08:34,000 --> 00:08:40,000 これは FBI がまとめた他殺の統計です 135 00:08:40,000 --> 00:08:44,000 50年代と60年代は暴力が抑えられていましたが 136 00:08:44,000 --> 00:08:47,000 その後 何十年か高めの数字を経て 137 00:08:48,000 --> 00:08:52,000 1990年代に激減し始め 138 00:08:52,000 --> 00:08:56,000 ほぼ60年代のレベルへと戻りました 139 00:08:56,000 --> 00:09:00,000 クリントン大統領 ありがとう 140 00:09:00,000 --> 00:09:02,000 (笑) 141 00:09:02,000 --> 00:09:04,000 さて これだけ大切な事実に対し 142 00:09:04,000 --> 00:09:07,000 誤解が生じる理由は多々あると思います 143 00:09:07,000 --> 00:09:11,000 報道が充実したということも理由の一つです 144 00:09:11,000 --> 00:09:14,000 AP通信は16世紀の修道士よりも 145 00:09:14,000 --> 00:09:18,000 戦争に関して上をいく年代史家です 146 00:09:18,000 --> 00:09:22,000 認知的錯覚によって ある具体的な事例を思い出すのが簡単になるほど 147 00:09:22,000 --> 00:09:27,000 先入観が強くなるというのが 148 00:09:27,000 --> 00:09:30,000 認知心理学の知見です 149 00:09:30,000 --> 00:09:33,000 新聞で目にする残虐な写真やニュースは 150 00:09:33,000 --> 00:09:36,000 老衰で亡くなるお年寄りよりも 記憶に焼きつきやすいのです 151 00:09:37,000 --> 00:09:41,000 世論や政策提言における力学の問題として 152 00:09:41,000 --> 00:09:46,000 状況は改善し続けていると訴え 注目をあびて 153 00:09:47,000 --> 00:09:52,000 支持や支援を集めることはできません 154 00:09:52,000 --> 00:09:53,000 (笑) 155 00:09:54,000 --> 00:09:56,000 先住民に対して罪悪感があるため 156 00:09:56,000 --> 00:09:57,000 現代の知識人たちは西洋文化の特長を 157 00:09:57,000 --> 00:09:59,000 素直に認めようとはしません 158 00:10:00,000 --> 00:10:03,000 道徳の変化が行動の変化を追い抜くこともあるでしょう 159 00:10:03,000 --> 00:10:05,000 暴力が減少した理由の一つは 160 00:10:06,000 --> 00:10:10,000 人々が当時の大虐殺や残酷な行為に嫌気がさしたからです 161 00:10:11,000 --> 00:10:13,000 今もそうですが 道徳が行動を追い越して 162 00:10:14,000 --> 00:10:17,000 変化してしまうと 当時の歴史的な基準に照らした場合以上に 163 00:10:17,000 --> 00:10:20,000 野蛮であったと見なされます 164 00:10:20,000 --> 00:10:24,000 よって 15年の司法手続を経た殺人犯たちが 165 00:10:24,000 --> 00:10:27,000 薬殺刑で死刑になることが 気にかかるのも無理はありません 166 00:10:27,000 --> 00:10:31,000 数百年前であれば王様を批判したことで 167 00:10:31,000 --> 00:10:37,000 10分程度の裁判にかけられ 168 00:10:37,000 --> 00:10:41,000 火あぶりの刑に処せられたかもしれません 169 00:10:42,000 --> 00:10:45,000 むしろ 幾度となく繰り返されたことだったでしょう 170 00:10:45,000 --> 00:10:48,000 今日 死刑制度は野蛮な行為として 171 00:10:48,000 --> 00:10:51,000 捉えられています 172 00:10:51,000 --> 00:10:55,000 基準の向上とは見なされません 173 00:10:56,000 --> 00:10:59,000 なぜ暴力が減少したのか 誰もわかりませんが 174 00:10:59,000 --> 00:11:01,000 私が知っている4つの説明は どれも 175 00:11:03,000 --> 00:11:06,000 ある程度うなずけるものです 176 00:11:06,000 --> 00:11:10,000 一つ目はトマスホッブズが正しいというものです 177 00:11:11,000 --> 00:11:14,000 ホッブズによると 人間の自然状態とは “孤独で貧しく 178 00:11:14,000 --> 00:11:17,000 不機嫌で残酷 しかも短命” 179 00:11:17,000 --> 00:11:22,000 血の渇望や 攻撃的な本能や 180 00:11:22,000 --> 00:11:26,000 縄張り争いが原因なのではなく 181 00:11:26,000 --> 00:11:29,000 無政府状態のロジックが原因だと言っています 182 00:11:29,000 --> 00:11:32,000 無政府状態では やられる前にやらなければおしまいです 183 00:11:33,000 --> 00:11:36,000 トーマス シェリングがこれについて 184 00:11:36,000 --> 00:11:40,000 自宅の地下で物音がした状況で例示しています 185 00:11:40,000 --> 00:11:43,000 アメリカ人の常として 186 00:11:43,000 --> 00:11:45,000 ベッド脇から銃を掴み 階下へ降ります 187 00:11:46,000 --> 00:11:48,000 目に飛び込んだのは 銃を持った侵入者 188 00:11:48,000 --> 00:11:51,000 お互いに考えるのは 189 00:11:52,000 --> 00:11:54,000 “人殺しはいやだが 撃たれるぐらいなら 190 00:11:55,000 --> 00:11:56,000 その前に撃った方がよさそうだ 191 00:11:56,000 --> 00:12:00,000 奴も殺す気はないかもしれないが 192 00:12:00,000 --> 00:12:04,000 殺される可能性があることを 193 00:12:04,000 --> 00:12:06,000 恐れているだろう” 194 00:12:06,000 --> 00:12:09,000 狩猟採集の部族はこの一連の考えをたどり 195 00:12:09,000 --> 00:12:11,000 襲われる恐怖から 相手を襲うのです 196 00:12:12,000 --> 00:12:16,000 さて 抑止力がこの問題の解決策の一つです 197 00:12:17,000 --> 00:12:20,000 先制攻撃はしませんが もしも侵略されたら 198 00:12:22,000 --> 00:12:25,000 はげしく報復するという方針を公言しておくのです 199 00:12:25,000 --> 00:12:30,000 このポリシーは 虚勢と見なされがちですが 200 00:12:30,000 --> 00:12:33,000 本気だと思われたときにだけ効力を発揮します 201 00:12:33,000 --> 00:12:35,000 本気と知らせるためには 全ての侵入に復讐を果たし 202 00:12:35,000 --> 00:12:39,000 借りは必ず返して やがて血の復讐に至るのです 203 00:12:40,000 --> 00:12:44,000 ギャング映画の世界です ホッブスの解決策である「リヴァイアサン」では 204 00:12:45,000 --> 00:12:49,000 暴力の公使における正統性を 205 00:12:49,000 --> 00:12:54,000 リヴァイアサンという民主的機関だけに帰属させた状態なら 206 00:12:54,000 --> 00:12:58,000 攻撃の企てが減るというものでした 207 00:12:58,000 --> 00:13:03,000 なぜなら いかなる攻撃も罰せられ 208 00:13:04,000 --> 00:13:07,000 そこから得られるものは無いので 自分が襲われる恐怖からの 209 00:13:07,000 --> 00:13:10,000 先制攻撃を抑止するのです 210 00:13:10,000 --> 00:13:15,000 抑止力では 本気だと示すために一触即発で復讐する必要があったのが 211 00:13:15,000 --> 00:13:19,000 不要となり こうして平和へと至るのです 212 00:13:19,000 --> 00:13:23,000 先ほどお見せ出来なかった 殺人件数の割合を 213 00:13:23,000 --> 00:13:26,000 グラフにしたアイズナーは 214 00:13:26,000 --> 00:13:32,000 ヨーロッパで殺人が減少した時期は 215 00:13:32,000 --> 00:13:34,000 中央集権国家の勃興と期を同じくすると指摘しています 216 00:13:35,000 --> 00:13:38,000 リヴァイアサン理論のちょっとした裏付けです 217 00:13:39,000 --> 00:13:43,000 今日 無政府状態の地域で暴力が吹き荒れることも 218 00:13:43,000 --> 00:13:46,000 理論を裏付けます 破たん国家や崩壊した帝国 219 00:13:46,000 --> 00:13:50,000 辺境地帯 マフィアやストリートギャング等です 220 00:13:50,000 --> 00:13:54,000 二つ目の説明は 人生は取るに足らないものと 221 00:13:54,000 --> 00:13:58,000 見られていた時代と場所が多かったことです 222 00:14:00,000 --> 00:14:03,000 苦しみや若死にが普通であった昔 223 00:14:03,000 --> 00:14:06,000 他人に危害を加えることに抵抗は感じませんでした 224 00:14:07,000 --> 00:14:11,000 テクノロジーや経済効率が人生をより長く楽しくさせるにつれて 225 00:14:11,000 --> 00:14:15,000 人間は一般的に人生への価値を高めるようになります 226 00:14:15,000 --> 00:14:19,000 これは政治学者のジェームズ ペインの議論です 227 00:14:19,000 --> 00:14:23,000 三つ目の説明は“非ゼロ和” の概念を連想させます 228 00:14:23,000 --> 00:14:26,000 ジャーナリストであるロバート ライトは 229 00:14:27,000 --> 00:14:31,000 ある種の状況下で 非暴力を含む協力は 230 00:14:31,000 --> 00:14:35,000 双方に利益があると指摘しています 231 00:14:35,000 --> 00:14:38,000 過剰な物資の貿易を行い 両者が争いをしないこと 又は 232 00:14:39,000 --> 00:14:42,000 戦時編制を解き いわゆる平和の配当を分配することで 233 00:14:42,000 --> 00:14:48,000 いかなる時でも 戦う必要がなくなることに 234 00:14:48,000 --> 00:14:52,000 つながると言っています 235 00:14:52,000 --> 00:14:55,000 ライトは 人が関わる 236 00:14:55,000 --> 00:14:58,000 ポジティブサムゲームの件数が増えたと言います 237 00:14:59,000 --> 00:15:01,000 テクノロジーが 物資やサービスやアイデアの交換を 238 00:15:01,000 --> 00:15:05,000 より遠方と より大人数で行えるようにしたからです 239 00:15:06,000 --> 00:15:09,000 その結果 死者よりも生きている他者の価値が高まり 240 00:15:09,000 --> 00:15:12,000 自己中心的な理由での暴力は減るのです ライトに言わせると 241 00:15:13,000 --> 00:15:16,000 “日本への爆弾投下はいけない 242 00:15:16,000 --> 00:15:21,000 彼らは私のミニバンを作ってくれたのだ” 243 00:15:22,000 --> 00:15:24,000 (笑) 244 00:15:24,000 --> 00:15:27,000 四つ目の説明は哲学者であるピーター シンガーが書いた 245 00:15:27,000 --> 00:15:29,000 本のタイトルに示されています 246 00:15:29,000 --> 00:15:33,000 彼は 進化によって人間は共感できるようになったと論じています 247 00:15:33,000 --> 00:15:36,000 他人の利害を自らのものとして考える力です 248 00:15:37,000 --> 00:15:40,000 残念ながら 我々がそうするのは基本的に 249 00:15:40,000 --> 00:15:45,000 非常に限られた仲間や身内だけです 250 00:15:45,000 --> 00:15:49,000 それ以外の人は人間以下の扱いを受け 251 00:15:49,000 --> 00:15:53,000 当然のことのように食い物にされるのです しかし時間が経つうちに 252 00:15:53,000 --> 00:15:56,000 その範囲は広がり 歴史上の記録には 253 00:15:56,000 --> 00:16:00,000 村から一族へ 部族へ 254 00:16:00,000 --> 00:16:04,000 国家へ 他の人種へ 男女へと広がり 255 00:16:04,000 --> 00:16:07,000 シンガー自身の議論では 感覚をもつ他の種にも 256 00:16:08,000 --> 00:16:11,000 広げるべきものだとしています 257 00:16:11,000 --> 00:16:13,000 そこで この広がりの原動力は何かという問いが生じます 258 00:16:13,000 --> 00:16:18,000 可能性はたくさんあります 259 00:16:18,000 --> 00:16:21,000 ロバート ライトが論じる相互依存の輪の増加や黄金律などです 260 00:16:21,000 --> 00:16:24,000 つまり他者のことを考え影響しあうほどに 261 00:16:24,000 --> 00:16:28,000 相手に耳を傾けてほしい場合には 262 00:16:29,000 --> 00:16:33,000 自分の利益を優先するのは 263 00:16:33,000 --> 00:16:37,000 良くないことがわかります 264 00:16:37,000 --> 00:16:41,000 自己中心的な態度は不適切です 265 00:16:41,000 --> 00:16:44,000 自分が今いる場所が 266 00:16:44,000 --> 00:16:47,000 宇宙の中で特別な場所だと言えないのと 267 00:16:47,000 --> 00:16:49,000 同じことです 268 00:16:50,000 --> 00:16:52,000 世界主義も理由かもしれません 269 00:16:53,000 --> 00:16:55,000 歴史 報道 記憶 リアルな小説 旅行記 識字― 270 00:16:56,000 --> 00:17:00,000 こうして かつて人間以下に見ていた他人の姿に 271 00:17:00,000 --> 00:17:04,000 自分の姿を重ね合わせることを可能にして 272 00:17:04,000 --> 00:17:08,000 自分の人生の立場が偶然の結果と気づかせます 273 00:17:08,000 --> 00:17:12,000 誰にでも起こり得るということです 274 00:17:12,000 --> 00:17:16,000 原因は何にせよ 暴力の減少には 275 00:17:16,000 --> 00:17:19,000 深い意味があるため “なぜ戦争をするのか” と問わずに 276 00:17:21,000 --> 00:17:24,000 “なぜ平和があるのか” と問うべきです 277 00:17:24,000 --> 00:17:28,000 “我々の過ち” だけではなく “我々の正しい行い”も問うべきです 278 00:17:28,000 --> 00:17:32,000 そこを追究するのは 279 00:17:33,000 --> 00:17:36,000 価値あることだと思います 280 00:17:37,000 --> 00:17:38,000 どうもありがとう 281 00:17:39,000 --> 00:17:41,000 (拍手) 282 00:17:41,000 --> 00:17:42,000 素晴らしい内容でした ピーターシンガーが書いた内容ですが 283 00:17:42,000 --> 00:17:53,000 あの広がりとは テクノロジーや 284 00:17:53,000 --> 00:17:57,000 目に見える他者の増加が 引き起こしたと 285 00:17:57,000 --> 00:18:00,000 感じる人も多いと思います そして それゆえに世界が 286 00:18:00,000 --> 00:18:03,000 小さくなっているという感覚 これも真実なのでしょうか? 287 00:18:03,000 --> 00:18:07,000 はい どちらもライト氏の理論にあてはまります 288 00:18:07,000 --> 00:18:10,000 ずっと大きな輪の中での協力はメリットが大きいのです 289 00:18:11,000 --> 00:18:14,000 また 他人の立場に思いを馳せることの 290 00:18:15,000 --> 00:18:18,000 手助けにもなっています 291 00:18:19,000 --> 00:18:22,000 中世の恐ろしい拷問の話を読んだら 292 00:18:24,000 --> 00:18:27,000 なぜ そんなことが出来たのか 293 00:18:27,000 --> 00:18:30,000 犠牲者をかわいそうだと思わなかったのかと 294 00:18:30,000 --> 00:18:32,000 思うでしょうが 彼らにとっては 295 00:18:32,000 --> 00:18:34,000 自分と似た存在だとは思いようもない― 296 00:18:35,000 --> 00:18:37,000 ただのよそ者に過ぎなかったのです 297 00:18:38,000 --> 00:18:41,000 他人と立場を入れ替える想像を 298 00:18:41,000 --> 00:18:44,000 容易にするものは何でも 他人への配慮を 299 00:18:44,000 --> 00:18:46,000 高めるのです 300 00:18:47,000 --> 00:18:50,000 大切なことなので 近いうちに報道機関にも聴いてもらいたいですね 301 00:18:50,000 --> 00:18:51,000 どうもありがとう 302 00:18:51,000 --> 00:18:55,000 どういたしまして