1
00:00:00,464 --> 00:00:03,081
「意識」についてお話しします

2
00:00:03,081 --> 00:00:04,561
なぜ意識を取り上げるのか？

3
00:00:04,561 --> 00:00:07,387
それは「意識」が
科学や哲学の世界で

4
00:00:07,387 --> 00:00:10,951
奇妙と言っていい位
軽視されたテーマだからです

5
00:00:10,951 --> 00:00:12,223
奇妙だと思うのは

6
00:00:12,223 --> 00:00:15,733
意識は私達が生きる上で
最も重要なものだからです

7
00:00:15,733 --> 00:00:17,691
これは論理的に考えれば当然です

8
00:00:17,691 --> 00:00:20,088
意識は 生きる上で大切な

9
00:00:20,088 --> 00:00:22,565
あらゆるものの必要条件なのです

10
00:00:22,565 --> 00:00:25,724
科学や哲学 音楽や
芸術などに関心があっても

11
00:00:25,724 --> 00:00:29,202
ゾンビや昏睡状態の人には
意味がありません

12
00:00:29,202 --> 00:00:31,546
だから意識が一番大事なのです

13
00:00:31,546 --> 00:00:34,014
２つ目の理由は 人々が意識に ―

14
00:00:34,014 --> 00:00:36,330
関心を持ったとしても

15
00:00:36,330 --> 00:00:39,181
おかしなことを
主張しがちだからです

16
00:00:39,181 --> 00:00:41,340
たとえ そんなことは言わず

17
00:00:41,340 --> 00:00:43,469
真剣に取り組んだとしても

18
00:00:43,469 --> 00:00:47,324
研究は進んでいません

19
00:00:47,324 --> 00:00:50,464
私が初めて関心を持ったとき
意識とは 紛れもなく

20
00:00:50,464 --> 00:00:52,670
生物学上の問題だと考えました

21
00:00:52,670 --> 00:00:55,167
だから機械を使って
脳内部の機能を知ろうとしました

22
00:00:55,167 --> 00:00:56,051
だから機械を使って
脳内部の機能を知ろうとしました

23
00:00:56,051 --> 00:00:57,953
そこでカリフォルニア大学
サンフランシスコ校に行って

24
00:00:57,953 --> 00:00:59,868
一流の神経生物学者達と話したのですが

25
00:00:59,868 --> 00:01:01,444
煩わしそうにされました

26
00:01:01,444 --> 00:01:04,827
厄介な質問を受けた
科学者にはありがちなことです

27
00:01:04,827 --> 00:01:08,585
中でも強く印象に残ったのは
ある高名な神経生物学者が

28
00:01:08,585 --> 00:01:10,600
憤慨して口にした言葉です

29
00:01:10,600 --> 00:01:14,175
「我々の分野では
意識に関心を持ってもいいが

30
00:01:14,175 --> 00:01:17,742
教授になって
終身在職権を得るのが先だ」

31
00:01:17,742 --> 00:01:20,460
私は長い間
このテーマに取り組んでいます

32
00:01:20,460 --> 00:01:22,438
今なら意識の研究で
終身在職権を得られるかもしれません

33
00:01:22,438 --> 00:01:23,729
今なら意識の研究で
終身在職権を得られるかもしれません

34
00:01:23,729 --> 00:01:26,342
だとしたらこの分野も
進歩したものです

35
00:01:26,342 --> 00:01:29,247
では なぜ意識の研究に
奇妙な抵抗感や敵意を持つのか？

36
00:01:29,247 --> 00:01:31,145
では なぜ意識の研究に
奇妙な抵抗感や敵意を持つのか？

37
00:01:31,145 --> 00:01:33,875
私は知的文化における２つの特徴が

38
00:01:33,875 --> 00:01:35,780
原因になっていると考えます

39
00:01:35,780 --> 00:01:38,306
両者は相反する立場をとっていますが

40
00:01:38,306 --> 00:01:41,929
実際は共通する前提に立っています

41
00:01:41,929 --> 00:01:45,891
一つ目の特徴は
宗教的な二元論の伝統です

42
00:01:45,891 --> 00:01:49,216
つまり意識は物質世界に属さず ―

43
00:01:49,216 --> 00:01:51,143
心的世界の一部だという考え方です

44
00:01:51,143 --> 00:01:52,679
意識は魂に宿り 魂は物質世界に
属さないという考え方です

45
00:01:52,679 --> 00:01:55,975
意識は魂に宿り 魂は物質世界に
属さないという考え方です

46
00:01:55,975 --> 00:01:59,006
これが神の教え
魂と不死の伝統です

47
00:01:59,006 --> 00:02:01,111
一方 自らこれに
対立するとしながら ―

48
00:02:01,111 --> 00:02:03,215
最悪の前提は容認する
伝統があります

49
00:02:03,215 --> 00:02:07,293
強硬な科学的唯物論者の伝統です

50
00:02:07,293 --> 00:02:10,758
意識は物質世界に属さず
そもそも存在しないか ―

51
00:02:10,758 --> 00:02:13,404
コンピュータ・プログラムとか

52
00:02:13,404 --> 00:02:16,054
何か下らないものの一種で

53
00:02:16,054 --> 00:02:19,249
どちらにせよ科学の
対象ではないという見方です

54
00:02:19,249 --> 00:02:21,457
よく胃が痛むような
議論になりました

55
00:02:21,457 --> 00:02:23,076
こんな調子です

56
00:02:23,076 --> 00:02:27,108
「科学は客観的で
意識は主観的である ―

57
00:02:27,108 --> 00:02:30,435
したがって意識の科学は
存在しえない」

58
00:02:30,435 --> 00:02:36,939
私達はこの２つの伝統に縛られ
身動きができません

59
00:02:36,939 --> 00:02:39,807
２つの伝統から逃れるのは
とても難しいことです

60
00:02:39,807 --> 00:02:42,825
今回 本当に伝えたい事は
ただひとつ ―

61
00:02:42,825 --> 00:02:46,209
意識が生物学的な
現象だということです

62
00:02:46,209 --> 00:02:49,098
光合成や消化や
細胞分裂と同じです

63
00:02:49,098 --> 00:02:53,433
これらの生物学的現象を
みなさんもご存じでしょう

64
00:02:53,433 --> 00:02:56,072
こう考えれば
意識に関する厄介な問題は

65
00:02:56,072 --> 00:02:58,347
全てではないにせよ
ほとんど解消します

66
00:02:58,347 --> 00:03:00,400
そんな問題を
いくつか見ていきます

67
00:03:00,400 --> 00:03:02,733
さて 意識に関するおかしな主張を

68
00:03:02,733 --> 00:03:05,472
いくつか紹介しましょう

69
00:03:05,472 --> 00:03:09,072
１「意識は存在しない」

70
00:03:09,072 --> 00:03:11,302
意識は夕日と同じで錯覚に過ぎない

71
00:03:11,302 --> 00:03:16,367
科学的に言えば
夕日も虹も錯覚だ

72
00:03:16,367 --> 00:03:18,290
だから意識も錯覚である

73
00:03:18,290 --> 00:03:21,545
２「意識は在るかもしれないが
何か別のものである ―

74
00:03:21,545 --> 00:03:25,326
意識は脳の中で動く
コンピュータ・プログラムだ」

75
00:03:25,326 --> 00:03:29,140
３「唯一存在するのは行動だけ」

76
00:03:29,140 --> 00:03:32,748
行動主義のかつての影響力を思うと
恥ずかしくなりますが

77
00:03:32,748 --> 00:03:34,103
その話は後にしましょう

78
00:03:34,103 --> 00:03:36,837
４「意識は存在するかもしれないが

79
00:03:36,837 --> 00:03:38,980
物質世界に影響は与えない」

80
00:03:38,980 --> 00:03:41,772
「心的なものが
何か動かせるとでも？」

81
00:03:41,772 --> 00:03:43,567
誰かがこう言うたびに
「見せようか？」と聞きたくなります

82
00:03:43,567 --> 00:03:45,857
誰かがこう言うたびに
「見せようか？」と聞きたくなります

83
00:03:45,857 --> 00:03:49,129
見てください
私が意識的に手を上げようとすれば

84
00:03:49,129 --> 00:03:51,738
こいつは上がるんです　（笑）

85
00:03:51,738 --> 00:03:55,509
それに考えてください

86
00:03:55,509 --> 00:03:59,504
私達はこうは言いません
「腕はジュネーブの天気みたいだ ―

87
00:03:59,504 --> 00:04:02,152
上がる日もあれば
上がらない日もある」

88
00:04:02,152 --> 00:04:04,807
そうではなく
上げたい時には 上がるのです

89
00:04:04,807 --> 00:04:06,845
仕組みを説明しましょう

90
00:04:06,845 --> 00:04:10,616
ああ 定義がまだでしたね

91
00:04:10,616 --> 00:04:12,868
定義がなければ説明はできません

92
00:04:12,868 --> 00:04:15,960
意識の定義は
難しいと言われます

93
00:04:15,960 --> 00:04:17,843
でも科学的な定義でなければ

94
00:04:17,843 --> 00:04:20,052
むしろ容易だと私は考えています

95
00:04:20,052 --> 00:04:22,332
科学的な定義は まだできませんが

96
00:04:22,332 --> 00:04:24,071
常識的な定義なら こうです

97
00:04:24,071 --> 00:04:26,920
意識とは 感情 感覚 認識の
あらゆる状態から成るものです

98
00:04:26,920 --> 00:04:28,988
意識とは 感情 感覚 認識の
あらゆる状態から成るものです

99
00:04:28,988 --> 00:04:32,546
意識は 夢を見なかった場合
朝 目覚めた時に始まり ―

100
00:04:32,546 --> 00:04:35,015
１日中ずっと続きます

101
00:04:35,015 --> 00:04:38,213
終わるのは 眠るか
死ぬか 意識がなくなる時です

102
00:04:38,213 --> 00:04:41,333
夢は この定義では
意識の一種です

103
00:04:41,333 --> 00:04:44,235
これが常識的定義です
検討するのは この定義です

104
00:04:44,235 --> 00:04:47,720
当てはまらないものは
意識ではないと考えます

105
00:04:47,720 --> 00:04:51,220
こう考える人もいるでしょう
「仮にその通りだとしても ―

106
00:04:51,220 --> 00:04:55,178
そんなものがどうやって
現実世界に存在できるのか？」

107
00:04:55,178 --> 00:04:57,068
哲学を学んだ方なら
ご存じでしょう

108
00:04:57,068 --> 00:05:00,287
これが かの有名な心身問題です

109
00:05:00,287 --> 00:05:03,132
この問題の単純な
解決策はこうです

110
00:05:03,132 --> 00:05:07,552
私達の意識状態は
例外なくすべて ―

111
00:05:07,552 --> 00:05:13,077
脳の低次の神経生物学的
プロセスから生じ

112
00:05:13,077 --> 00:05:15,258
より高次の機能 または ―

113
00:05:15,258 --> 00:05:17,592
システムの性質として現れます

114
00:05:17,592 --> 00:05:20,748
意識にまつわる謎は
水の流動性に似ています

115
00:05:20,748 --> 00:05:24,223
そうでしょう？
流動性は水分子が液体を ―

116
00:05:24,223 --> 00:05:25,913
放出しているわけではなく

117
00:05:25,913 --> 00:05:28,791
システムの状態です

118
00:05:28,791 --> 00:05:33,953
ちょうど容器いっぱいの水が
分子の挙動に従って

119
00:05:33,953 --> 00:05:35,906
液体から固体に変化するように

120
00:05:35,906 --> 00:05:38,902
脳も分子の動きによって

121
00:05:38,902 --> 00:05:40,542
意識がある状態から
無意識の状態へと変化します

122
00:05:40,542 --> 00:05:43,528
意識がある状態から
無意識の状態へと変化します

123
00:05:43,528 --> 00:05:47,913
有名な心身問題も
こんなに単純なのです

124
00:05:47,913 --> 00:05:51,090
次に もっと難しい問題に
取りかかりましょう

125
00:05:51,090 --> 00:05:54,534
意識の様々な特徴
そのものを特定することで

126
00:05:54,534 --> 00:05:57,006
先ほどあげた４つの意見に
反論していきましょう

127
00:05:57,006 --> 00:05:58,293
先ほどあげた４つの意見に
反論していきましょう

128
00:05:58,293 --> 00:06:02,560
意識の第一の特徴は 実在していて
他のものに還元できない点です

129
00:06:02,560 --> 00:06:04,614
意識の存在は無視できません

130
00:06:04,614 --> 00:06:08,785
現実と錯覚の違いとは

131
00:06:08,785 --> 00:06:11,454
意識の中での事物の見え方と

132
00:06:11,454 --> 00:06:15,328
事物の実際の在り方の違いです

133
00:06:15,328 --> 00:06:17,204
フランス語で "arc-en-ciel"（虹）
と言うように 意識の中では

134
00:06:17,204 --> 00:06:18,872
フランス語で "arc-en-ciel"（虹）
と言うように 意識の中では

135
00:06:18,872 --> 00:06:21,070
虹は 空にかかるアーチのように見え

136
00:06:21,070 --> 00:06:24,850
太陽は 山の向こうに
沈んでいくように見えます

137
00:06:24,850 --> 00:06:27,947
意識の中では そう見えても
実際に起きている事とは違います

138
00:06:27,947 --> 00:06:29,874
でも事物の見た目と

139
00:06:29,874 --> 00:06:32,339
実際の在り方が違うことを理由にして

140
00:06:32,339 --> 00:06:36,430
同様の区別を意識の存在に対して
当てはめることはできません

141
00:06:36,430 --> 00:06:40,281
なぜなら意識の存在自体を
問題にする場合 ―

142
00:06:40,281 --> 00:06:43,261
自分に意識があると思えるのは

143
00:06:43,261 --> 00:06:45,146
そこに意識があるからです

144
00:06:45,146 --> 00:06:48,500
専門家が次々にやってきて
私にこう言ったとします

145
00:06:48,500 --> 00:06:50,786
「我々は一級の神経生物学者で

146
00:06:50,786 --> 00:06:53,941
研究の結果 君には
意識がないという結論に至った

147
00:06:53,941 --> 00:06:55,969
君は精巧なロボットだ」

148
00:06:55,969 --> 00:06:59,282
でも「そうかも知れない」
などとは考えません

149
00:06:59,282 --> 00:07:01,845
そんなことを
少しも考えないのは

150
00:07:01,845 --> 00:07:04,755
この件に限っては デカルトが正しく ―

151
00:07:04,755 --> 00:07:07,710
自分の意識の存在は
自分では疑えないからです

152
00:07:07,710 --> 00:07:09,883
これが意識の第一の特徴です

153
00:07:09,883 --> 00:07:11,824
実在していて排除できません

154
00:07:11,824 --> 00:07:15,055
意識は錯覚であると
指摘したところで

155
00:07:15,055 --> 00:07:18,284
普通の錯覚のように
無視することはできません

156
00:07:18,284 --> 00:07:20,816
意識の第二の特徴は

157
00:07:20,816 --> 00:07:23,281
私達にとって厄介な
問題の種になっています

158
00:07:23,281 --> 00:07:25,463
すなわち私達の意識状態は

159
00:07:25,463 --> 00:07:28,427
それぞれ固有の質感を
備えているという点です

160
00:07:28,427 --> 00:07:30,823
ビールを飲むときの感覚には

161
00:07:30,823 --> 00:07:33,777
所得税を計算するときの感覚や

162
00:07:33,777 --> 00:07:36,845
音楽を聴くときの感覚とは
違った何かがあります

163
00:07:36,845 --> 00:07:39,406
この性質が第三の特徴につながります

164
00:07:39,406 --> 00:07:43,200
すなわち意識状態とは
人間や動物といった主体 ―

165
00:07:43,200 --> 00:07:46,155
つまり意識状態を経験する
何らかの自己の

166
00:07:46,155 --> 00:07:48,350
経験として存在するしかないため

167
00:07:48,350 --> 00:07:50,223
当然 主観的なものです

168
00:07:50,223 --> 00:07:52,606
意識を持つ機械が
できる可能性はあっても

169
00:07:52,606 --> 00:07:54,759
人間の脳が意識を持つ
仕組みが不明なので

170
00:07:54,759 --> 00:07:58,894
今のところ そんな機械を
作れる状況ではありません

171
00:07:58,894 --> 00:08:01,669
もう一つの意識の特徴は

172
00:08:01,669 --> 00:08:05,820
統合された意識の場として
現れることです

173
00:08:05,820 --> 00:08:08,176
私は単に
目の前にいる人々の映像と

174
00:08:08,176 --> 00:08:10,890
自分の声と
床を踏む自分の靴の重さとを

175
00:08:10,890 --> 00:08:13,065
知覚するだけではありません

176
00:08:13,065 --> 00:08:16,547
これらの知覚は前後に広がる
１つの大きな意識の場の

177
00:08:16,547 --> 00:08:18,563
一部として捉えられます

178
00:08:18,563 --> 00:08:20,332
これが意識の大きな力を

179
00:08:20,332 --> 00:08:22,771
理解するカギとなります

180
00:08:22,771 --> 00:08:25,715
まだロボットで
実現するのは不可能なことです

181
00:08:25,715 --> 00:08:28,103
残念ながら
ロボット工学の分野で

182
00:08:28,103 --> 00:08:30,115
意識を与える方法が
発見されるまで

183
00:08:30,115 --> 00:08:33,623
意識の場を持つ機械は
手に入らないのです

184
00:08:33,623 --> 00:08:36,132
この統合した意識の場という ―

185
00:08:36,132 --> 00:08:39,247
すごい特徴に続くのは
意識が 私達の行動の

186
00:08:39,247 --> 00:08:42,039
原因として機能するという特徴です

187
00:08:42,039 --> 00:08:45,242
先ほど私は手を上げることで
科学的に示しましたが

188
00:08:45,242 --> 00:08:46,992
どんな仕組みなんでしょう？

189
00:08:46,992 --> 00:08:50,756
脳の中で考えたことが
どういう仕組みで

190
00:08:50,756 --> 00:08:52,956
物体を動かすのでしょう？

191
00:08:52,956 --> 00:08:54,322
答えをお教えしましょう

192
00:08:54,322 --> 00:08:56,093
細部はまだわかりませんが

193
00:08:56,093 --> 00:08:59,183
基本的な部分はわかっています

194
00:08:59,183 --> 00:09:01,476
一連のニューロンの発火が起こり

195
00:09:01,476 --> 00:09:04,563
運動ニューロンの軸索末端に
信号が到達すると

196
00:09:04,563 --> 00:09:07,384
アセチルコリンが分泌されます

197
00:09:07,384 --> 00:09:09,459
「哲学用語」を使ってしまいましたが

198
00:09:09,459 --> 00:09:13,475
運動ニューロンの軸索末端で
アセチルコリンが分泌されると

199
00:09:13,475 --> 00:09:16,073
イオンチャンネルで
すごいことが次々起こって

200
00:09:16,073 --> 00:09:18,167
この腕が上がるのです

201
00:09:18,167 --> 00:09:20,291
ここまでの話を
考えてみてください

202
00:09:20,291 --> 00:09:22,033
手を上げるという意識的な決定と

203
00:09:22,033 --> 00:09:25,068
まったく同一の事象なのに

204
00:09:25,068 --> 00:09:27,863
別のレベルでは
感覚的で心的な性質があると

205
00:09:27,863 --> 00:09:30,009
説明されるのです

206
00:09:30,009 --> 00:09:32,410
意識的な決定とは
脳内の思考であると同時に

207
00:09:32,410 --> 00:09:34,396
アセチルコリンを
せっせと分泌することや

208
00:09:34,396 --> 00:09:35,931
脳の運動野から

209
00:09:35,931 --> 00:09:38,719
腕の神経線維までの間に生じる ―

210
00:09:38,719 --> 00:09:41,416
その他の様々な
現象でもあるのです

211
00:09:41,416 --> 00:09:45,232
ここからわかるのは
私達が意識の問題を

212
00:09:45,232 --> 00:09:48,616
語る時の表現は
時代遅れだということです

213
00:09:48,616 --> 00:09:51,873
同一の事象を
神経生物学的にも

214
00:09:51,873 --> 00:09:54,839
心的にも説明できますが
それでも事象は一つです

215
00:09:54,839 --> 00:09:57,030
それが自然の在り方なのです

216
00:09:57,030 --> 00:09:59,140
こうして意識は

217
00:09:59,140 --> 00:10:02,171
原因として機能できるのです

218
00:10:02,171 --> 00:10:05,030
このことを念頭に

219
00:10:05,030 --> 00:10:08,097
意識の様々な特徴を踏まえて

220
00:10:08,097 --> 00:10:11,269
先ほどの反論の
いくつかに答えていきましょう

221
00:10:11,269 --> 00:10:14,878
最初の反論は
「意識は錯覚で存在しない」です

222
00:10:14,878 --> 00:10:16,712
これにはもう答えたので
気にしなくていいでしょう

223
00:10:16,712 --> 00:10:18,228
これにはもう答えたので
気にしなくていいでしょう

224
00:10:18,228 --> 00:10:22,092
２つ目は驚くほど影響力があって
今でも耳にするかも知れません

225
00:10:22,092 --> 00:10:23,936
２つ目は驚くほど影響力があって
今でも耳にするかも知れません

226
00:10:23,936 --> 00:10:27,127
「意識が存在するとしても
本当は何か別のものである

227
00:10:27,127 --> 00:10:30,890
それは脳の中で動く
コンピュータ・プログラムで

228
00:10:30,890 --> 00:10:33,395
意識を作るには
適切なプログラムを手に入れればいい

229
00:10:33,395 --> 00:10:34,891
意識を作るには
適切なプログラムを手に入れればいい

230
00:10:34,891 --> 00:10:37,130
ハードウェアは気にするな
プログラムを持てる位 ―

231
00:10:37,130 --> 00:10:40,090
豊かで 安定していれば
どんなものでもいい」

232
00:10:40,090 --> 00:10:43,164
これが誤りなのは
はっきりしています

233
00:10:43,164 --> 00:10:46,173
コンピュータについて
少しでも考えたことがある人なら

234
00:10:46,173 --> 00:10:48,637
間違いに気づくはずです

235
00:10:48,637 --> 00:10:51,052
情報処理の定義は
記号を操作することだからです

236
00:10:51,052 --> 00:10:53,936
普通は０ と １ ですが
どんな記号でも使えます

237
00:10:53,936 --> 00:10:57,103
あるアルゴリズムを
２進コードでプログラムできることが

238
00:10:57,103 --> 00:11:00,210
コンピュータ・プログラムを
定義する特徴です

239
00:11:00,210 --> 00:11:02,261
コンピュータ・プログラムを
定義する特徴です

240
00:11:02,261 --> 00:11:06,144
でもこれは純粋に文法的
記号的なものです

241
00:11:06,144 --> 00:11:10,159
実際の人間の意識には
それ以上のものがあります

242
00:11:10,159 --> 00:11:13,352
意識は文法に加えて
内容も持っています

243
00:11:13,352 --> 00:11:14,849
つまり意味を持つのです

244
00:11:14,849 --> 00:11:17,338
私がこの議論をしたのは ―

245
00:11:17,338 --> 00:11:18,629
考えるのもイヤになりますが
30年以上前のことです

246
00:11:18,629 --> 00:11:19,971
考えるのもイヤになりますが
30年以上前のことです

247
00:11:19,971 --> 00:11:22,461
ただ私の話の背後には

248
00:11:22,461 --> 00:11:25,504
重大な論点があるので
簡単にお話しします

249
00:11:25,504 --> 00:11:30,093
意識が作る現実は
観察者から独立しているという考えです

250
00:11:30,093 --> 00:11:33,581
意識は お金とか資産とか政府 ―

251
00:11:33,581 --> 00:11:37,553
結婚 CERNでの会合
カクテル・パーティーや ―

252
00:11:37,553 --> 00:11:40,172
夏休みといった現実を作ります

253
00:11:40,172 --> 00:11:42,921
これらはすべて
意識が作り出すものです

254
00:11:42,921 --> 00:11:45,756
その存在は観察者の
捉え方に依存します

255
00:11:45,756 --> 00:11:49,259
意識を持つ行為者の捉え方次第で

256
00:11:49,259 --> 00:11:52,106
紙切れが お金になったり
建物群が大学になるのです

257
00:11:52,106 --> 00:11:55,980
ここで情報処理について
考えてみてください

258
00:11:55,980 --> 00:11:59,649
それは力や質量や重力のように
絶対的なものでしょうか？

259
00:11:59,649 --> 00:12:01,781
それとも捉え方によるものでしょうか？

260
00:12:01,781 --> 00:12:05,308
確かに本質的な部分もあります

261
00:12:05,308 --> 00:12:07,219
２と２を足せば４になります

262
00:12:07,219 --> 00:12:09,790
誰がどう考えようと
変わりはありません

263
00:12:09,790 --> 00:12:12,279
でも私が電卓を取り出して

264
00:12:12,279 --> 00:12:16,061
計算する場合 本質的な事象は

265
00:12:16,061 --> 00:12:19,236
電気回路と その挙動だけです

266
00:12:19,236 --> 00:12:21,000
それだけが絶対的な事象で

267
00:12:21,000 --> 00:12:23,428
残りはすべて私達の解釈です

268
00:12:23,428 --> 00:12:27,269
情報処理は意識による
解釈なしには存在しません

269
00:12:27,269 --> 00:12:30,044
意識を持つ行為者が
処理を実行するか ―

270
00:12:30,044 --> 00:12:33,687
解釈可能な処理をする
機器を持つかのどちらかです

271
00:12:33,687 --> 00:12:36,755
処理自体はいいかげんな
ものではありません

272
00:12:36,755 --> 00:12:39,203
機器には
お金をかけているんですから

273
00:12:39,203 --> 00:12:41,349
一方 混同しがちなのが

274
00:12:41,349 --> 00:12:46,070
「現実」が備える特徴としての
主観性・客観性と ―

275
00:12:46,070 --> 00:12:49,998
「主張」の特徴としての
主観性・客観性です

276
00:12:49,998 --> 00:12:53,164
ここでの話の要点は こうです

277
00:12:53,164 --> 00:12:56,815
客観的に真である主張をする ―

278
00:12:56,815 --> 00:12:59,727
完ぺきに客観的な科学は可能です

279
00:12:59,727 --> 00:13:03,157
たとえそれが
主観的な存在である領域 ―

280
00:13:03,157 --> 00:13:06,392
つまり人間の脳内に存在する
感覚や感情 認識といった ―

281
00:13:06,392 --> 00:13:08,531
主観からなる領域が
対象であってもです

282
00:13:08,531 --> 00:13:10,216
主観からなる領域が
対象であってもです

283
00:13:10,216 --> 00:13:14,553
したがって「意識は主観的で
科学は客観的だから

284
00:13:14,553 --> 00:13:18,761
客観的な 意識の科学は不可能」
と言うのは冗談みたいな話です

285
00:13:18,761 --> 00:13:21,470
客観性と主観性に関する
できの悪い冗談です

286
00:13:21,470 --> 00:13:23,794
領域の在り方が主観的であっても

287
00:13:23,794 --> 00:13:27,836
客観的な主張をすることは可能です

288
00:13:27,836 --> 00:13:29,409
事実 神経科医はやっています

289
00:13:29,409 --> 00:13:31,899
実際に痛みを訴える患者がいれば

290
00:13:31,899 --> 00:13:34,588
その痛みを客観的
科学的に捉えようとします

291
00:13:34,588 --> 00:13:36,660
さて 全て論破すると
約束しましたが

292
00:13:36,660 --> 00:13:38,235
時間も限られていますから

293
00:13:38,235 --> 00:13:40,143
あと少しだけ反論します

294
00:13:40,143 --> 00:13:42,378
私は先程 こう言いました

295
00:13:42,378 --> 00:13:45,667
「行動主義は
少し考えれば間違いだとわかる ―

296
00:13:45,667 --> 00:13:48,560
私達の知的文化における
最大級の恥である」

297
00:13:48,560 --> 00:13:51,417
だって 精神状態と行動が
イコールだと思いますか？

298
00:13:51,417 --> 00:13:54,568
例えば 痛みを感じることと
痛みに対する反応との

299
00:13:54,568 --> 00:13:56,271
違いを考えてみてください

300
00:13:56,271 --> 00:13:58,259
痛みを感じていなくても

301
00:13:58,259 --> 00:14:00,098
痛いふりをすることは可能です

302
00:14:00,098 --> 00:14:04,218
だからこれは明らかな誤りです
なぜこんな間違いをしたのか？

303
00:14:04,218 --> 00:14:06,102
間違いの元は ―

304
00:14:06,102 --> 00:14:08,691
過去の文献を読むと
繰り返し登場しますが

305
00:14:08,691 --> 00:14:12,707
行動主義者の考えでは意識を
他のものに還元できない存在と認めたら

306
00:14:12,707 --> 00:14:15,502
科学を放棄することになり

307
00:14:15,502 --> 00:14:18,573
過去300年間の
人類の進歩も希望も すべて ―

308
00:14:18,573 --> 00:14:20,322
放棄したことになるというのです

309
00:14:20,322 --> 00:14:23,222
皆さん 覚えておいてください

310
00:14:23,222 --> 00:14:25,665
意識は 純然たる生物学的な現象で

311
00:14:25,665 --> 00:14:28,153
他の生物学的な現象や

312
00:14:28,153 --> 00:14:30,620
科学領域の現象と同じです

313
00:14:30,620 --> 00:14:32,580
意識を 科学的な分析の
対象として認めるべきです

314
00:14:32,580 --> 00:14:34,734
意識を 科学的な分析の
対象として認めるべきです

315
00:14:34,734 --> 00:14:36,116
ありがとうございました

316
00:14:36,116 --> 00:14:41,609
（拍手）