1 00:00:07,745 --> 00:00:11,880 2009年に2人の研究者が 簡単な実験をしました 2 00:00:11,880 --> 00:00:15,055 太陽系に関する全ての知識を使って 3 00:00:15,055 --> 00:00:21,107 50億年先までの 全惑星の位置を計算したのです 4 00:00:21,107 --> 00:00:25,107 そのために2千を超える 数値シミュレーションを行いました 5 00:00:25,107 --> 00:00:29,829 全く同一の初期条件を設定したのですが 1つだけ条件を変えました 6 00:00:29,829 --> 00:00:33,926 水星と太陽との距離を シミュレーションごとに 7 00:00:33,926 --> 00:00:37,796 1ミリ未満で変えたのです 8 00:00:37,796 --> 00:00:41,074 驚いたことに シミュレーションの約1%で 9 00:00:41,074 --> 00:00:44,125 水星の軌道が非常に大きく変わり 10 00:00:44,125 --> 00:00:48,660 太陽または金星と衝突する可能性がありました 11 00:00:48,660 --> 00:00:49,600 さらに悪いことに 12 00:00:49,600 --> 00:00:54,983 あるシミュレーションでは 内太陽系全体を不安定にしました 13 00:00:54,983 --> 00:00:58,983 これは間違いではなく 結果にこれ程のばらつきがあったのは 14 00:00:58,983 --> 00:01:05,058 私どもの太陽系が思っていたよりも ずっと不安定だという真実を明かしています 15 00:01:05,058 --> 00:01:10,239 天体物理学者たちは この驚くべき重力系の特性を 16 00:01:10,239 --> 00:01:12,419 「N体問題」と称します 17 00:01:12,419 --> 00:01:17,949 互いに引力で引き合う2体の動きを 完全に予測する数式はありますが 18 00:01:17,949 --> 00:01:23,600 もっと天体数が多い問題に直面すると 解析できる術がありません 19 00:01:23,600 --> 00:01:28,861 実際に 一般的な数式の項を 全て書き出すことは不可能になり 20 00:01:28,861 --> 00:01:34,881 3体以上の互いに引き合う天体の動きを 正確に記述できません 21 00:01:34,881 --> 00:01:41,826 なぜでしょうか?N体系に含まれる 未知の変数の数に問題があるのです 22 00:01:41,826 --> 00:01:45,226 アイザック・ニュートンのおかげで いくつかの方程式によって 23 00:01:45,226 --> 00:01:49,186 天体間に働く引力を表すことができます 24 00:01:49,186 --> 00:01:55,153 しかし これらの方程式の未知変数の 一般解を 見つけようとすると 25 00:01:55,153 --> 00:01:58,002 数学的な制約に行き当たってしまいます 26 00:01:58,002 --> 00:02:01,633 未知変数1つにつき 少なくとも1つは方程式が必要で 27 00:02:01,633 --> 00:02:04,103 しかも各方程式は 独立してないといけません 28 00:02:04,103 --> 00:02:08,934 最初は 2体系にも位置や速度に関する 未知変数の数が 29 00:02:08,934 --> 00:02:12,724 運動方程式の数より 多くあるようにみえます 30 00:02:12,724 --> 00:02:14,680 ただし 解き方があります 31 00:02:14,680 --> 00:02:18,915 2つの天体の相対的な位置と速度を 32 00:02:18,915 --> 00:02:22,625 この系の重心からみて考えてください 33 00:02:22,625 --> 00:02:27,353 これにより 未知変数の数が減り 解くことができる系になります 34 00:02:27,353 --> 00:02:33,079 軌道を回る3つ以上の天体が関わると 全てが複雑になります 35 00:02:33,079 --> 00:02:37,461 相対運動を考える時の数学的な解法を 同じようにあてはめても 36 00:02:37,461 --> 00:02:42,088 未知変数の数の方が それを表す方程式の数より多く残ります 37 00:02:42,088 --> 00:02:46,340 この系の方程式の変数の数は どう考えても多過ぎて 38 00:02:46,340 --> 00:02:49,610 一般解を導き出すことができません 39 00:02:49,610 --> 00:02:53,520 解析的に解くことができない 運動方程式に従う宇宙にある天体は 40 00:02:53,520 --> 00:02:58,631 一体どのように動くのでしょうか? 41 00:02:58,631 --> 00:03:01,881 例えばアルファケンタウリのような 3つの星から成る系 は 42 00:03:01,881 --> 00:03:05,359 お互いに衝突する可能性がありますし より可能性が高いのは 43 00:03:05,359 --> 00:03:10,471 見かけの上では長期間安定していた天体が 軌道から放り出されることです 44 00:03:10,471 --> 00:03:14,471 ほとんど起こり得ない 安定した幾つかの系を除き 45 00:03:14,471 --> 00:03:20,571 起こりうるほぼ全ての場合では 長期にわたる予測は不可能なのです 46 00:03:20,571 --> 00:03:24,768 それぞれが天文学的な数の結果を生む 可能性を持っており 47 00:03:24,768 --> 00:03:29,576 位置や速度の微小な変化に影響されます 48 00:03:29,576 --> 00:03:33,742 物理学者たちは この振る舞いを「カオス」と称し 49 00:03:33,742 --> 00:03:37,472 これは N体系の重要な特徴です 50 00:03:37,472 --> 00:03:42,201 このような系も決定論的な法則に従っており 決してランダムなものではありません 51 00:03:42,201 --> 00:03:45,791 複数の系が全く同一の条件で始まれば 52 00:03:45,791 --> 00:03:48,241 いつも同一の結果にたどり着きます 53 00:03:48,241 --> 00:03:53,980 ただし 最初にごく僅かな力が 加わっただけで 全く違う結果になるのです 54 00:03:53,980 --> 00:03:57,240 これは 人間が宇宙探査をする場合のように 55 00:03:57,240 --> 00:04:02,489 複雑な軌道も非常に精密に計算する 必要がある時には 明らかに重要なことです 56 00:04:02,489 --> 00:04:06,489 幸い コンピュータ・シミュレーションが 進歩を遂げてきたので 57 00:04:06,489 --> 00:04:09,379 大惨事を避ける方法が幾つかあります 58 00:04:09,379 --> 00:04:13,695 益々パワフルになってきたプロセッサーで 解を概算することにより 59 00:04:13,695 --> 00:04:19,565 N体系の動きを長期にわたって より確実性を持って予測することができます 60 00:04:19,565 --> 00:04:22,755 3体のうち 1体の質量が非常に軽く 61 00:04:22,755 --> 00:04:25,885 他の2体に有意な力がかからない場合は 62 00:04:25,885 --> 00:04:30,727 2体系と非常に近似した振る舞いをします 63 00:04:30,727 --> 00:04:34,727 この手法は「制限三体問題」として 知られており 64 00:04:34,727 --> 00:04:41,607 例えば 地球と太陽の重力場の中にある 小惑星を記述する際や 65 00:04:41,607 --> 00:04:46,700 ブラックホールと恒星の重力場の中にある 小さい惑星を記述する際には非常に役立ちます 66 00:04:46,700 --> 00:04:49,480 私どもの太陽系に関しては 幸いなことに 67 00:04:49,480 --> 00:04:56,330 少なくとも 今後 数億年は安定していると かなりの確実性を持って言えます 68 00:04:56,330 --> 00:04:58,020 とはいえ もし別の恒星が 69 00:04:58,020 --> 00:05:02,000 銀河のかなたから地球に向かって来たら 70 00:05:02,000 --> 00:05:03,850 一巻の終わりです