1 00:00:06,920 --> 00:00:11,517 キャンバス中に広がる夕焼けの色が 炎のごとく色彩を放つさまは 2 00:00:11,969 --> 00:00:16,659 ぱっと見の印象では 難解で抽象的かもしれません 3 00:00:16,659 --> 00:00:19,619 でも 目を凝らせば 浮かんでくるのは 繊細な茎に 4 00:00:19,619 --> 00:00:23,079 瑞々しく ビロードを思わせるような 花びらの質感をもったカンナの花です 5 00:00:23,079 --> 00:00:26,669 このように自然の中の題材を 抽象的で幾何学的な形態に変える手法は 6 00:00:26,669 --> 00:00:29,509 革命的なアメリカ人画家で彫刻家の 7 00:00:29,509 --> 00:00:32,999 ジョージア・オキーフの作品には よく見られるものです 8 00:00:32,999 --> 00:00:35,659 でも この変形の手法に秘められた 不思議な力は 9 00:00:35,659 --> 00:00:39,089 彼女自身と同様 つかみどころがありません 10 00:00:39,089 --> 00:00:44,419 1887年ウィスコンシン州で生まれた オキーフは 幼少時代を 11 00:00:44,419 --> 00:00:47,009 摘んできた野草や 並べた果物を 絵に描いて過ごしました 12 00:00:47,009 --> 00:00:52,004 17歳の時シカゴに移り 名門シカゴ美術館附属美術大学に入学しました 13 00:00:52,004 --> 00:00:55,174 講師たちの指導方針は ヨーロッパの名画家たちの例に倣い 14 00:00:55,174 --> 00:00:57,734 目で見たままを 具象的に絵に再現することでした 15 00:00:57,734 --> 00:01:01,084 オキーフは ひとりで綿密さを追求する この作業を楽しいとは思ったものの 16 00:01:01,084 --> 00:01:04,634 それに強く惹かれることは ありませんでした 17 00:01:04,634 --> 00:01:08,734 ニューヨークに引っ越した後 彼女は日本画の持つすっきりした線 18 00:01:08,734 --> 00:01:13,133 目をひく構図や鮮やかな色彩に 惹きつけられていきました 19 00:01:13,133 --> 00:01:15,813 やがてオキーフは 創作意欲を鼓舞してくれる良き師と出会い 20 00:01:15,813 --> 00:01:18,173 抱いていた関心を実践に移しました 21 00:01:18,173 --> 00:01:20,013 以前師事した講師たちとは違い 22 00:01:20,013 --> 00:01:24,687 アーサー・ウェズリー・ダウは 光 形状 色彩のより抽象的な表現に 23 00:01:24,687 --> 00:01:27,327 重点を置くことを 生徒たちに指導しました 24 00:01:27,327 --> 00:01:31,937 ダウの教えはオキーフの最初の 抽象絵画の連作に顕著に表れています 25 00:01:31,937 --> 00:01:35,727 木炭で描いた一連の作品には 幾多ものうねるような線 26 00:01:35,727 --> 00:01:38,467 大胆な影や 大波を打つような雲が 表現されています 27 00:01:38,467 --> 00:01:41,306 安易に型にはめられることに 反発するかのごとく それらの作品は 28 00:01:41,306 --> 00:01:45,656 一定の自然題材をほのめかしながらも 決してそのまま描くことはありません 29 00:01:45,656 --> 00:01:48,714 キュビズム初期の ヨーロッパの画家たちは 30 00:01:48,714 --> 00:01:52,844 外的な題材を抽象的に表現するため 直線的で幾何学な形状を取り込みました 31 00:01:52,844 --> 00:01:56,694 けれどオキーフの場合は 自然題材の形状やリズムを 32 00:01:56,694 --> 00:01:59,254 内に秘める感情を捉える手段として 取り込みました 33 00:01:59,254 --> 00:02:01,874 こうした革新的試みが土台となり 34 00:02:01,874 --> 00:02:05,134 やがてアメリカン・モダニズムという ひとつの芸術運動が誕生しました 35 00:02:05,134 --> 00:02:08,194 モダニズム絵画を定義する 決まった様式はないものの 36 00:02:08,194 --> 00:02:11,874 運動の提唱者らの共通の願いは 当時の芸術教育を支配していた ― 37 00:02:11,874 --> 00:02:14,514 伝統的な写実主義に挑むことでした 38 00:02:14,514 --> 00:02:17,434 1910年代後半に始まった モダニズム絵画は 39 00:02:17,434 --> 00:02:20,204 幾何学的形状や 大胆な色彩を多く駆使し 40 00:02:20,204 --> 00:02:23,054 アメリカ人の心理を模索するものです 41 00:02:23,054 --> 00:02:25,534 オキーフは これらの革新的試みに 打ち込んだものの 42 00:02:25,534 --> 00:02:28,364 新しく生まれた作品を 他人に見せることには消極的でした 43 00:02:28,364 --> 00:02:32,531 けれども 友達がオキーフの木炭画を 画商アルフレッド・スティーグリッツに送ると 44 00:02:32,531 --> 00:02:34,061 彼はそれに魅了されました 45 00:02:34,061 --> 00:02:38,578 1916年 スティーグリッツは ニューヨークで彼女の個展を大々的に開催し 46 00:02:38,578 --> 00:02:42,138 これをきっかけに オキーフは人気画家となり 47 00:02:42,138 --> 00:02:46,018 親交を深めた2人は 1924年に結婚しました 48 00:02:46,018 --> 00:02:48,988 結婚後も オキーフの 孤独癖は変わることなく 49 00:02:48,988 --> 00:02:50,818 広く旅をして 絵の指導をしたり 50 00:02:50,818 --> 00:02:53,918 何ヶ月も篭りきりで 絵画作品の制作をしたりしました 51 00:02:53,918 --> 00:02:57,108 探訪の地が テキサスの岩肌の荒い峡谷であれ 52 00:02:57,108 --> 00:03:02,023 サウスカロライナの静かな森林や ニューメキシコの日光で白んだ砂漠であれ 53 00:03:02,023 --> 00:03:06,132 オキーフの創作過程はいつでも 儀式的かつ綿密な観察に則ったものでした 54 00:03:06,132 --> 00:03:09,082 細部に至るまで注意を払い 55 00:03:09,082 --> 00:03:13,249 何時間もかけて絵の具を調合して 理想の色を追求しました 56 00:03:13,249 --> 00:03:15,676 完璧な色調が出来上がると 57 00:03:15,676 --> 00:03:19,496 お手製の色カードに書き込み そのコレクションは増え続けていきました 58 00:03:19,496 --> 00:03:23,326 オキーフはまた遠近法を試すことで 普段見落とされがちな 59 00:03:23,326 --> 00:03:25,046 題材を賛美しました 60 00:03:25,046 --> 00:03:27,045 『雄羊の頭とタチアオイ』には 61 00:03:27,045 --> 00:03:29,845 風雨にさらされた頭蓋骨と 繊細な花が 62 00:03:29,845 --> 00:03:32,255 そのはるか下の丘を 望む形で描かれています 63 00:03:32,255 --> 00:03:35,075 この大きな頭蓋骨が 風景に影を投げかけ 64 00:03:35,075 --> 00:03:39,997 新しく 不気味な光が差し込む中 骸骨と山々の両方を際立たせています 65 00:03:39,997 --> 00:03:44,663 大衆は彼女が創る唯一無二の遠近法と 秘密主義的な振る舞いに魅了されました 66 00:03:44,663 --> 00:03:48,075 特に賞賛されたのは 大きく描かれた一連の花の絵で 67 00:03:48,075 --> 00:03:51,775 燃えるようなケシの花 幽玄的なオランダカイウなどがあります 68 00:03:51,775 --> 00:03:55,927 当時 スティーグリッツや他の批評家らは フロイト的な精神解釈に夢中になり 69 00:03:55,927 --> 00:03:59,227 やがて オキーフの絵画作品は 女性器を連想させると言い出しました 70 00:03:59,227 --> 00:04:01,677 しかしオキーフは そのような解釈を否定しました 71 00:04:01,677 --> 00:04:04,587 芸術界を支配する 男性的目線に怒りを表し 72 00:04:04,587 --> 00:04:06,657 彼女の作品で評価すべきは 73 00:04:06,657 --> 00:04:09,977 自然界の情緒を喚起する部分だと 主張しました 74 00:04:09,977 --> 00:04:12,917 晩年のオキーフは ニューメキシコに移り 75 00:04:12,917 --> 00:04:15,557 ひっそり創作活動できる お気に入りの場に居を構えました 76 00:04:15,557 --> 00:04:18,447 70代になり 視力が衰えはじめても 77 00:04:18,447 --> 00:04:23,477 風景の神秘を 新たな立体的媒体に表現し続けました 78 00:04:23,477 --> 00:04:26,707 オキーフは 98歳で亡くなるまで 生涯創作活動を続け 79 00:04:26,707 --> 00:04:30,377 「アメリカン・モダニズムの母」 として人々に記憶されています 80 00:04:30,377 --> 00:04:33,937 何十年という月日を経ても その作品は激しいエネルギーと 81 00:04:33,937 --> 00:04:36,417 オキーフがもつ神秘性を 放ち続けています