マーク・ブラウンのGame Maker's Toolkitへようこそ
ゲームデザインについてのシリーズだ
アンチャーテッド3にはネイサン・ドレイクが
船から船に飛び移るシーンがある
そこでのセリフがこうだ
「よし、あそこにハシゴがある
チャンスは一度だけだぞ」
こう言われると、チャンスはまあ
一度しかないと思うかもしれない
でも失敗して転落死すると
そこはビデオゲームなので
すぐに復活して
10秒もするとまたドレイクの
このセリフだ
「チャンスは一度だけだぞ」
ゲームは重い決断をさせるのが
あまりうまくない
良質の強盗ゲームが少ないのはそのせいかもしれない
特に1人用のゲームでは稀だ
警備員に見つかって殺されても
最後のチェックポイントに戻されるだけなら
命がけの強盗をやってのける
ゲームなんて作れないだろう
そこでThe Swindleだ
これは本物のプレッシャーを感じられるゲームだ
失敗すれば大きな後退を強いられる
だから結果には重みがある
だが緊張感が強盗の全てではない
盗賊にはなるべく欲張って
大金を稼ぐため危険に
身をさらしてもらわなければならない
そこから面白い物語が生まれるからだ
The Swindleはそれも達成している
ではこのゲームが強盗をマスターするよう
仕向ける方法を見ていこう
The Swindleは横スクロールのジャンプアクションだ
ごく簡単なステルスシステムがある
敵の後頭部を殴る、地雷を解除する
監視カメラをすり抜ける
端末をハックする、といった具合だ
ランダム生成される各ステージで
プレイヤーは可能な限り金を稼いで
出口から脱出する
成功すれば、稼いだ金で
特殊能力を購入できる
三段ジャンプ、爆弾、移動時の音軽減、視界拡張など
それに後半ステージへの入場権も買う必要がある
これには最後の犯罪「スウィンドル」も含まれる
しかし、はした金は無視して
大金を狙うようプレイヤーを仕向ける
二つのシステムがある
まず、100日のタイムリミットだ
強盗1回は成功・失敗に関わらず1日とカウントされる
100日以内に最終ミッションを終えなければ
ゲームオーバーだ
それからボーナスがある
発覚せずに建物内の現金をすべて拾えば
ゴーストボーナスがもらえる
金の大部分を盗むことができれば
盗賊の経験値が上昇する 長期間生存させれば
強盗のたびに大量のボーナスが得られる
この二つのシステムはプレッシャーを生む
盗賊は一撃死なので、強盗は簡単に失敗する
そして失敗すれば獲得金額はゼロだ
さらに盗賊も失ってしまう
また最初から経験値をためなければ
いけないということだ
これにより、もっと金を稼ぐために
より大きなリスクを取るプレッシャーが生じる
日々できるだけ大金を稼ぎたいし
経験値とゴーストボーナスもほしい
これは見事な仕掛けだ このゲームは
プレイヤーが危険な状況にある時に
最も輝くからだ
大きなリスクを取った際の結末は三つだ
賭けに勝利して忍者のごとく金を手にする
これは気分がいい
ヘマをして警報が作動してしまうが
ステージはクリアする
背景ではサイレンが鳴っている
これもまた達成感がある
あるいは完全に失敗して、金を失う
いい気分ではないが
長期的には挽回可能かもしれない
失敗するたびに、100日の期限に
間に合わない可能性が高くなる
さらに緊張感が高まり、もっと欲張って
リスクを取る必要が出る
そうするとさらに失敗が増えるが
壮大な強盗物語も生まれるかもしれない
失敗がそこまで痛くないことも重要だ
最終ミッションに備えるゲームは他にもある
例えば宇宙サバイバルゲームのFTL
サイバーパンクのスパイ物Invisible Inc.など
だがこれらのゲームで失敗は
ゲームオーバーか、でなくとも大幅な不利になる
The Swindleは意図的に余裕を持たせているのだろう
プレイヤーにリスクを取るよう誘導するためだ
たとえ最後の犯罪に失敗しても再挑戦可能だ
しかし再挑戦には4万ポンド支払う必要があるので
やはり強盗で大きいリスクを取る動機になる
The Swindleはデザインによってプレイヤーを
特定の行動へ誘導している範例だ
100日のタイムリミットや他のシステムがなければ
このゲームへの取り組み方は
大きく変わっていただろう
それは事実としてわかっている
僕はThe Swindleのデザイナー
ダン・マーシャルと話したが、彼が言うには
ある時点まで100日の期限はなかった
だが記者に早期ビルドを見せた時
その記者はちょっとだけ盗んで脱出し
それを何回も繰り返す方が
大金を狙うよりも安全だと気づいた
その記者を責めることはできない
これは支配的戦略という、ゲームデザインでは
よく知られた現象だ
プレイヤーがシステムの穴を突いて
楽に勝てる場合、ほとんどの
プレイヤーはそれを利用する
どれだけ退屈であってもだ
一番楽しい遊び方はこの場合
危険を冒して大金を狙うことだが
プレイヤーが勝手にそうすると期待してはいけない
適切な動機や報酬がなければ
開発者が意図した仕方では
遊んでくれないかもしれない
デザイナーの仕事は適切なプレッシャーを
与え、適切なシステムを作成して
プレイヤーの行動を促すことだ
The Swindleだとそれは
お菓子の万引きと
世紀の大強盗との違いになる
視聴をありがとう 楽しんでくれたなら
「いいね!」とチャンネル登録をよろしく
それからPatreonの支援も
考えてみてほしい