1 00:00:18,197 --> 00:00:21,547 みなさん こんにちは 矢倉大夢と申します 2 00:00:21,547 --> 00:00:24,707 僕は中学1年の時に プログラミングに出会って 3 00:00:24,707 --> 00:00:27,337 そこからプログラマーとして 活動しておりまして 4 00:00:27,337 --> 00:00:30,317 例えば第2セッションの 篠田さんの話に出てきた 5 00:00:30,317 --> 00:00:33,597 デフコンの大会などにも 参加したりしてるんですけれども 6 00:00:33,597 --> 00:00:37,327 こういったことをやっていると よく聞かれる質問が1つありまして 7 00:00:37,327 --> 00:00:41,327 「好きな教科は何ですか?」という まぁベタな質問なんですけれども 8 00:00:41,327 --> 00:00:44,687 「どうせ数学が好きなんでしょ?」 とよく言われますが 9 00:00:44,687 --> 00:00:49,687 実は僕 社会の「倫理・政経」 という科目が好きなんですね 10 00:00:51,752 --> 00:00:55,522 この「倫理・政経」特に「倫理」 と言われてパッとイメージできる方は 11 00:00:55,522 --> 00:00:58,742 あまりいらっしゃらない かもしれないんですけれども 12 00:00:58,742 --> 00:01:02,032 一言で言うと「思想史」をやってます 13 00:01:02,032 --> 00:01:05,062 「思想史」というのは 14 00:01:05,062 --> 00:01:07,722 「人間とは何か?」であったり 15 00:01:07,722 --> 00:01:10,272 「世界はどのようにできているのか?」 16 00:01:10,272 --> 00:01:12,502 そういった問いかけに対する 17 00:01:12,502 --> 00:01:16,102 人類の考えてきた歴史を学ぶ というもので 18 00:01:16,102 --> 00:01:20,292 人間や世界に関する法則を 見つけ出していく — 19 00:01:20,292 --> 00:01:25,462 人間や世界を相対化していく 試みを学んでいく — 20 00:01:25,462 --> 00:01:28,502 そういうものになってるんですね 21 00:01:30,458 --> 00:01:34,458 古代ギリシャのタレスは 「万物の始原は 水である」 22 00:01:34,458 --> 00:01:38,458 つまり 世界は水からできている という風に言いました 23 00:01:38,458 --> 00:01:41,058 他にも同じくギリシャの ヘラクレイトスは 24 00:01:41,058 --> 00:01:44,568 「万物は流転する」であったり 25 00:01:44,568 --> 00:01:46,898 世界はどうとか 人間はどうとか 26 00:01:46,898 --> 00:01:50,158 色んな人が色んなことを 考えてきたんですね 27 00:01:50,158 --> 00:01:52,768 こういった歴史を学んできたんですが 28 00:01:52,768 --> 00:01:58,098 その中で 僕は 1人の考えに惹かれました 29 00:01:58,098 --> 00:02:02,066 それはヘーゲルという ドイツの思想家で 30 00:02:02,066 --> 00:02:04,816 人間の精神であったり 31 00:02:04,816 --> 00:02:09,696 国家 あるいは歴史や美学まで 様々な分野に渡る 32 00:02:09,696 --> 00:02:12,166 色んな思想を 残してきているんですけれども 33 00:02:12,166 --> 00:02:16,186 彼の色んなモノを 体系的にモデル化するという 34 00:02:16,186 --> 00:02:18,525 そういう部分に僕は惹かれました 35 00:02:18,525 --> 00:02:21,515 このモデル化っていうものは 様々な事柄を 36 00:02:21,515 --> 00:02:25,016 論理的に一貫性を持つように まとめ上げることなんですけれども 37 00:02:25,016 --> 00:02:28,246 例えば ニュートンは地球の上で 38 00:02:28,246 --> 00:02:32,656 モノを離すと落ちる という現象や 39 00:02:32,656 --> 00:02:36,906 太陽の周りを地球は回っているという そういった現象について 40 00:02:36,906 --> 00:02:40,476 「万有引力の法則」というものを 導き出すことによって 41 00:02:40,476 --> 00:02:44,226 一貫的に説明出来る そういうモデルを作り上げました 42 00:02:44,226 --> 00:02:45,816 このモデル化という作業は 43 00:02:45,816 --> 00:02:49,756 実はプログラミングにも かなり共通する部分がありまして 44 00:02:49,756 --> 00:02:51,336 「カーナビ」ありますよね? 45 00:02:51,336 --> 00:02:54,386 多分 みなさんのお家の車にも ついていると思うんですけれども 46 00:02:54,386 --> 00:02:58,516 このカーナビ すごく簡単に いい経路を見つけてくれますが 47 00:02:58,516 --> 00:03:03,266 これも現実の世界の道や混雑状況を モデル化してやって 48 00:03:03,266 --> 00:03:06,522 数学的な仕組みの中で 扱えるようにすることによって 49 00:03:06,522 --> 00:03:09,762 コンピューターがうまく経路を 見つけ出してくれるという 50 00:03:09,762 --> 00:03:12,772 そういう仕組みになっています 51 00:03:14,240 --> 00:03:17,770 モデル化する上で ヘーゲルが用いた手法が 52 00:03:17,770 --> 00:03:22,780 「弁証法」と呼ばれるもので 非常に簡単に説明しますと 53 00:03:22,780 --> 00:03:25,780 「何か」とそれに反する 「何か」があった時に 54 00:03:25,780 --> 00:03:30,160 どちらか片方を信じ込んで それに反するものを批判するのではなくて 55 00:03:30,160 --> 00:03:34,770 その矛盾点を見つめ直して それさえもカバーするような 56 00:03:34,770 --> 00:03:40,165 より本質的でメタな部分を 取り出していくという 57 00:03:40,165 --> 00:03:42,773 そういう考え方になります 58 00:03:42,773 --> 00:03:47,283 このヘーゲルの思想を学ぶ時に 僕は1つ頭に浮かんだことがありました 59 00:03:47,283 --> 00:03:51,764 それは彼の考えを 今の 現代の時代に 60 00:03:51,764 --> 00:03:54,494 適用するとどうなるのだろうかと 61 00:03:54,494 --> 00:03:57,724 つまりコンピューターが 人間に取って代わる時代において 62 00:03:57,724 --> 00:04:01,404 これからどうなっていくんだろうと そういう部分です 63 00:04:01,404 --> 00:04:06,144 例えばこれは ある大学入試の過去問の 計算問題なんですけれども 64 00:04:06,654 --> 00:04:10,394 これを手で解くと こうやって ばーっていっぱい書いて 65 00:04:10,394 --> 00:04:13,664 やっと答えが出る みたいな そういう問題なんですけれども 66 00:04:13,664 --> 00:04:17,294 これ「wolframalpha.com」 というウェブサイトに行って 67 00:04:17,294 --> 00:04:20,504 1行 式を入力してやるだけで 68 00:04:20,504 --> 00:04:24,754 こうやって答えはすぐ出て グラフまでご丁寧に描いてくれると 69 00:04:24,754 --> 00:04:29,393 こんなの 出ちゃうと あまり宿題を やる気が起きなくなりますよね 70 00:04:29,393 --> 00:04:34,458 別の例で言いますと 例えば グーグルCEOのラリー・ペイジは 71 00:04:34,458 --> 00:04:38,478 「人工知能の急速な発展によって ロボットやコンピューターが 72 00:04:38,478 --> 00:04:42,118 人間の仕事を奪っていくだろう」と そういう風に言っています 73 00:04:42,118 --> 00:04:46,288 実際に オックスフォード大学から 出た論文では 74 00:04:46,318 --> 00:04:51,241 今後20年の間に アメリカの雇用者の内 47%が 75 00:04:51,241 --> 00:04:54,861 ロボットに取って代わられるだろうと そういう予測をしています 76 00:04:54,861 --> 00:05:00,391 例えばデータの入力作業であれば 99%の確率で 77 00:05:00,391 --> 00:05:03,176 あと スポーツの審判は98% 78 00:05:03,176 --> 00:05:06,446 保険の審査も同じく98%の確率で 79 00:05:06,446 --> 00:05:08,553 ロボットがやるように なるんじゃないかと 80 00:05:08,553 --> 00:05:11,513 そういう風に予測されています 81 00:05:12,413 --> 00:05:17,333 これを さっきの話に 立ち戻って考えてみますと 82 00:05:17,333 --> 00:05:21,951 人工知能や機械学習 あるいはロボット工学の発展によって 83 00:05:21,951 --> 00:05:25,164 技術ができることが 格段に広がっていると 84 00:05:25,164 --> 00:05:29,334 そういった中で 我々人間は どうすればいいのだろうかと 85 00:05:30,244 --> 00:05:34,231 完全に人間の存在意義は 無くなると悲観的になるのか 86 00:05:34,231 --> 00:05:37,751 それとも 人間は 仕事なんてやることは無くなって 87 00:05:37,751 --> 00:05:41,511 自由に生きていけるんだと そう楽観的に考えるのか 88 00:05:41,511 --> 00:05:44,791 そのどちらでもない考え方として 89 00:05:44,791 --> 00:05:49,061 僕は別の新しい考え方を 提示したいと思っています 90 00:05:49,951 --> 00:05:53,873 それは コンピューターを通して 人間を相対化していく 91 00:05:53,873 --> 00:05:56,253 そういったものになります 92 00:05:56,253 --> 00:06:02,123 これは ヒューマノイドロボットの研究の 第一人者の 石黒浩教授が造られた 93 00:06:02,153 --> 00:06:05,163 ご自身そっくりの アンドロイドなんですけれども 94 00:06:05,163 --> 00:06:08,543 こういったアンドロイドを 造る意義として 石黒教授は 95 00:06:08,543 --> 00:06:13,803 「リアルなアンドロイドと共に過ごすことで 『人間とは何か』を考察できる」 96 00:06:13,803 --> 00:06:16,119 そういう風に述べられています 97 00:06:16,119 --> 00:06:18,349 別の例で言いますと 98 00:06:18,349 --> 00:06:21,429 「仮想の音楽家」という 思考実験があります 99 00:06:21,429 --> 00:06:25,429 これは 「コンピューターが 自動作曲した曲に対して 100 00:06:25,429 --> 00:06:28,449 我々は感動できるのか」 という話なんですけれど 101 00:06:28,449 --> 00:06:31,789 みなさんどう思われますか? 102 00:06:31,789 --> 00:06:35,849 自動作曲ということを知っていた上で 我々が感動できるのであれば 103 00:06:35,849 --> 00:06:40,419 それは 曲のコンテンツ自体に 感動していると言えるでしょう 104 00:06:40,419 --> 00:06:43,161 でも自動作曲だということを 知ってしまったら 105 00:06:43,161 --> 00:06:46,011 全く感動できなくなって しまうかもしれない 106 00:06:46,011 --> 00:06:49,911 そういった場合は 我々は作曲の裏にある 107 00:06:49,911 --> 00:06:54,761 人間の存在について 感動しているのではないかと言えると思います 108 00:06:54,761 --> 00:06:59,193 つまり 例えばオリンピックで ウサイン・ボルトが世界記録を出すと 109 00:06:59,193 --> 00:07:01,538 我々は感動するんですけれども 110 00:07:01,538 --> 00:07:04,748 同じ速度で車が走っても 感動しませんよね? 111 00:07:04,748 --> 00:07:08,548 それと同じようなことだと 言えるかもしれません 112 00:07:08,548 --> 00:07:12,748 でも その上で 自動作曲を実現する上での 113 00:07:12,748 --> 00:07:17,438 涙ぐましい努力や 苦労の話を聞くと 感動できるかもしれません 114 00:07:17,438 --> 00:07:21,952 そういった場合は 作曲や 自動作曲の裏にある物語 — 115 00:07:21,952 --> 00:07:25,937 つまりコンテキストに感動している ということが言えるでしょう 116 00:07:28,662 --> 00:07:32,462 コンピューターを通して人間を相対化 していくというのはどういうことかと言うと 117 00:07:32,462 --> 00:07:38,214 つまり「人間の心にコンピューターで 実験的に迫る」ということだと思っています 118 00:07:38,484 --> 00:07:42,484 実際に 僕がこれまで取り組んできたことの 1つを紹介したいと思います 119 00:07:42,484 --> 00:07:46,934 それは 音楽の「サビ」を 検知するプログラムなんですが 120 00:07:46,934 --> 00:07:50,061 「サビ」って何か みなさん知ってますか? 121 00:07:50,061 --> 00:07:54,681 一言で言うと 音楽の1番 盛り上がっている所を指す言葉でして 122 00:07:54,681 --> 00:07:57,775 一般的に 今出てる曲の大部分は 123 00:07:57,775 --> 00:08:02,965 こうやって「Aメロ」「Bメロ」「サビ」 みたいな組み合わせが繰り返して 124 00:08:02,995 --> 00:08:06,245 作られてることが多い という風に言われています 125 00:08:06,245 --> 00:08:10,245 これをプログラムで検知する時に どうやっていたかと言いますと 126 00:08:11,672 --> 00:08:14,922 つまり繰り返しを見つけてやれば いいんじゃないか?と 127 00:08:14,922 --> 00:08:18,382 曲があった時に「こことここが一緒」 みたいなのを見つけてやって 128 00:08:18,382 --> 00:08:21,322 更にさっきの法則に則って 129 00:08:21,322 --> 00:08:24,132 「ここがAメロ Bメロ サビ なんじゃないか?」と 130 00:08:24,132 --> 00:08:27,972 そういう風に探して これまでのプログラムはやっていました 131 00:08:27,972 --> 00:08:31,432 でもこの手法には限界点がありました 132 00:08:31,432 --> 00:08:35,612 その一因は「ボーカロイド」 つまりコンピューター上で 133 00:08:35,612 --> 00:08:39,052 曲を作ることのできる ソフトウェアの登場です 134 00:08:39,052 --> 00:08:42,522 これによりプロの作曲家でなくても アマチュアの作曲家でも 135 00:08:42,522 --> 00:08:46,522 より気軽に 自由に作曲することが できるようになりました 136 00:08:46,522 --> 00:08:50,762 その結果 より個性的で多様な曲が 生まれるようになって 137 00:08:50,762 --> 00:08:55,512 さっきの法則に則っていないような曲も たくさん作られるようになりました 138 00:08:55,512 --> 00:08:59,929 更にその曲の大部分は 「ニコニコ動画」と呼ばれる 139 00:08:59,929 --> 00:09:02,558 動画投稿サイトに 投稿されていました 140 00:09:02,558 --> 00:09:05,758 つまり 曲の長さにも 制限が無くなって 141 00:09:05,758 --> 00:09:10,208 すごく短い曲から 10分を超えるような大曲まで 142 00:09:10,208 --> 00:09:13,167 ほんとに色んな曲が 作られるようになったんですね 143 00:09:13,167 --> 00:09:16,587 そうなると さっきの手法では 太刀打ちできません 144 00:09:16,587 --> 00:09:19,777 そこで僕が開発した手法では 145 00:09:19,777 --> 00:09:23,167 ニコニコ動画の 特徴的な機能の1つである 146 00:09:23,167 --> 00:09:26,537 「コメント」というものを 組み合わせることによって 147 00:09:26,537 --> 00:09:30,787 新たに精度を高く検知する 手法を作りました 148 00:09:30,787 --> 00:09:35,429 簡単に言うと コメントの特徴的な要素を 独自の手法で取り出して 149 00:09:35,429 --> 00:09:38,269 似てる部分やサビらしい部分を 見つけるという 150 00:09:38,269 --> 00:09:40,669 そういう手法なんですけれども 151 00:09:40,669 --> 00:09:44,539 これに関して高校生向けの 科学技術の大会に出しまして 152 00:09:44,539 --> 00:09:48,139 そこで 「科学技術政策担当大臣賞」という 153 00:09:48,139 --> 00:09:51,759 ちょっと ややもすれば 噛んでしまいそうな名前の賞を頂きまして 154 00:09:51,759 --> 00:09:56,699 そこから日本代表として参加した インテルの国際大会では 155 00:09:56,699 --> 00:10:00,040 「ブルーノ・ケスラー財団賞」 という賞を頂きました 156 00:10:00,040 --> 00:10:03,730 技術というかテクノロジーの話で言うと ここで終わりなんですけれども 157 00:10:03,730 --> 00:10:07,260 こういった取り組みの中で1つ 僕が感じたことがありました 158 00:10:07,260 --> 00:10:10,140 それは 人間にできることと 159 00:10:10,140 --> 00:10:13,180 コンピューターにできることの 境界線です 160 00:10:14,727 --> 00:10:17,027 コメントを組み合わせるということは 161 00:10:17,027 --> 00:10:19,507 言わば人間の存在を 組み合わせることによって 162 00:10:19,507 --> 00:10:21,537 検知できるようになっていると 163 00:10:21,537 --> 00:10:25,277 更にコメントを組み合わせてやっても 繰り返しがはっきりしないような曲だと 164 00:10:25,277 --> 00:10:27,857 たまに 検知できないことがありました 165 00:10:27,857 --> 00:10:32,267 それでも人間は共通的に サビを見つけることができるんです 166 00:10:32,267 --> 00:10:33,709 そういった部分に 167 00:10:33,709 --> 00:10:37,949 人間の「人間らしさ」という部分が あるんじゃないかという風に考えました 168 00:10:38,799 --> 00:10:43,659 これからの時代 技術がどんどん 発展していくと言われる時代ですが 169 00:10:43,659 --> 00:10:47,331 技術が発展したからこそ 迫っていける — 170 00:10:47,331 --> 00:10:51,771 人間にしかできないような 部分というのがあると思います 171 00:10:53,259 --> 00:10:56,469 人間と技術の境界線 そこにこそ 172 00:10:56,469 --> 00:11:00,549 これからの時代を生き抜く答えがある という風に思っています 173 00:11:00,549 --> 00:11:03,379 ある思想家は言いました 174 00:11:03,379 --> 00:11:08,209 「労働からの疎外が 人間の 人間からの疎外を生む」 175 00:11:08,209 --> 00:11:10,982 つまり 人間の「人間」たる所以は 176 00:11:10,982 --> 00:11:14,542 「働くこと」こそに あるんじゃないかと 177 00:11:14,542 --> 00:11:17,252 でも僕はこう思います 178 00:11:17,252 --> 00:11:21,462 人間の人間たる所以は クリエイティビティ つまり 179 00:11:21,462 --> 00:11:23,982 創造にこそあるんじゃないかと 180 00:11:23,982 --> 00:11:25,742 ありがとうございました 181 00:11:25,742 --> 00:11:29,732 (拍手)