1 00:00:07,633 --> 00:00:12,105 ヨーロッパの2つの大国に 挟まれたイギリス海峡は 2 00:00:12,105 --> 00:00:16,345 古くから世界で最も重要な 航路の1つです 3 00:00:16,345 --> 00:00:17,949 しかし その歴史において 4 00:00:17,949 --> 00:00:20,860 イギリス海峡は岩石海岸である上に 時化になりやすく 5 00:00:20,860 --> 00:00:23,930 横断するのは危険なことでした 6 00:00:23,930 --> 00:00:27,800 19世紀初頭の技術者は 7 00:00:27,800 --> 00:00:31,130 33キロ離れた両国間をつなぐ 様々な計画案を提出しました 8 00:00:31,130 --> 00:00:35,200 人工島を橋でつなげる計画 9 00:00:35,200 --> 00:00:39,065 浮遊式の構造物から 水中のトンネルをつり下げる計画 10 00:00:39,065 --> 00:00:44,479 既存のどのトンネルよりも2倍長い 海底トンネルを作る計画などがありました 11 00:00:44,479 --> 00:00:45,999 19世紀末頃には 12 00:00:45,999 --> 00:00:50,150 この最後の提案がヨーロッパの人たちの 興味をかき立てました 13 00:00:50,150 --> 00:00:52,770 トンネルの掘削機が考案され 14 00:00:52,770 --> 00:00:57,236 海底下に安定した チョーク・マール層を見つけると 15 00:00:57,236 --> 00:01:00,331 この空想上のトンネルは 現実味を帯びてきました 16 00:01:00,331 --> 00:01:06,210 しかし 工事の喫緊の課題に対処できる 技術者はいませんでした 17 00:01:06,210 --> 00:01:07,160 当時 18 00:01:07,160 --> 00:01:11,656 イギリス人は地理的な孤立を 戦略的に優位と捉えており 19 00:01:11,656 --> 00:01:16,013 フランス侵攻の恐怖から トンネル計画は頓挫しました 20 00:01:16,013 --> 00:01:20,164 空中戦が始まったことで このような恐怖は過去のものとなりましたが 21 00:01:20,164 --> 00:01:24,033 新たな経済問題への懸念が これにとって代わりました 22 00:01:24,033 --> 00:01:27,546 最初に掘削してから100年後に 23 00:01:27,546 --> 00:01:29,816 イギリスとフランスは ようやく合意に達し 24 00:01:29,816 --> 00:01:33,206 民間資金を投じて工事が進みました 25 00:01:33,206 --> 00:01:36,807 1985年にフランスとイギリスの 企業グループが 26 00:01:36,807 --> 00:01:40,812 約140億ポンド相当の費用をかけて トンネルを建設しました 27 00:01:40,812 --> 00:01:46,453 それまでで最も高額な インフラ整備プロジェクトとなりました 28 00:01:46,453 --> 00:01:49,153 独立したトンネルが3本という設計で 29 00:01:49,153 --> 00:01:52,697 フランス行きの鉄道トンネルが1本 イギリス行きの鉄道トンネルが1本 30 00:01:52,697 --> 00:01:55,497 その間に保守用トンネルが1本 ありました 31 00:01:55,497 --> 00:01:59,827 トンネル間をつなぐ渡り線や 避難通路や通気孔が設置され 32 00:01:59,827 --> 00:02:04,144 総延長200キロを超える トンネルとなりました 33 00:02:04,144 --> 00:02:08,480 1988年 イギリスとフランス側の両方から 掘削をはじめ 34 00:02:08,480 --> 00:02:10,808 中間地点で合流する計画でした 35 00:02:10,808 --> 00:02:15,769 フランス海岸での初期の調査により 建設対象地域に多くの断層線が見つかりました 36 00:02:15,769 --> 00:02:19,299 これらの小さな亀裂から 水が岩盤に染み込むので 37 00:02:19,299 --> 00:02:23,159 技術者は防水性の掘削機を 開発しなくてはなりませんでした 38 00:02:23,159 --> 00:02:28,698 イギリス側は乾燥していると見込み 通常の掘削機で工事を進めましたが 39 00:02:28,698 --> 00:02:34,112 着工からわずか数か月後 未検出の亀裂から海水が入り込みました 40 00:02:34,112 --> 00:02:37,752 この湿ったチョーク層を掘削するのに イギリスは注入剤を使って 41 00:02:37,752 --> 00:02:40,979 掘削した後にできた亀裂を塞ぎ 42 00:02:40,979 --> 00:02:43,379 さらには 主トンネル坑の掘削前に 43 00:02:43,379 --> 00:02:46,649 前方のチョーク層の補強工事を 行うこともありました 44 00:02:46,649 --> 00:02:52,141 このような障害がありながらも 双方ともフル稼働で掘削を開始しました 45 00:02:52,141 --> 00:03:00,071 1,300トンにも及ぶ掘削機で 毎時約3.5メートルを掘進しました 46 00:03:00,071 --> 00:03:05,403 掘り進むごとに覆工用のリングを設置して 掘削済み部分を固定し 47 00:03:05,403 --> 00:03:09,473 掘削機の後方で 作業車が通れるようにしました 48 00:03:09,473 --> 00:03:13,187 フル稼働で作業しながらも 工事は慎重に進められました 49 00:03:13,187 --> 00:03:18,114 チョーク層は不安定な岩層と 粘土層の間にあり 50 00:03:18,114 --> 00:03:23,647 前回の測量で100か所以上の ボーリング坑が開いていました 51 00:03:23,647 --> 00:03:27,617 さらに 双方とも絶えず座標を確認し 52 00:03:27,617 --> 00:03:32,431 誤差が互いに2センチ以内で 収まるようにしました 53 00:03:32,431 --> 00:03:34,711 この精密な軌道を維持しつつ 54 00:03:34,711 --> 00:03:38,459 掘削作業員は 衛星測位システムを使い 55 00:03:38,459 --> 00:03:42,429 また 古生物学者は 掘り出された化石を使って 56 00:03:42,429 --> 00:03:45,269 正しい深さかを確認しました 57 00:03:45,269 --> 00:03:49,829 工事期間中 13,000人以上の作業員が投入され 58 00:03:49,829 --> 00:03:52,606 うち10人が犠牲になりました 59 00:03:52,606 --> 00:03:55,309 トンネルを掘り始めてから2年半後に 60 00:03:55,309 --> 00:03:58,559 ようやく貫通しました 61 00:03:58,559 --> 00:04:02,089 イギリスの作業員 グラハム・ファッグが フランス側に現れ 62 00:04:02,089 --> 00:04:07,519 陸続きであった氷河時代以降では イギリス海峡を渡った最初の人になりました 63 00:04:07,519 --> 00:04:09,539 まだ工事は残っていました 64 00:04:09,539 --> 00:04:12,679 渡り線やポンプ室の設置から 65 00:04:12,679 --> 00:04:17,399 約160キロの線路、ケーブル センサーの敷設などです 66 00:04:17,399 --> 00:04:23,369 1994年5月6日 トンネル完成を記念する 開通式が行われました 67 00:04:23,369 --> 00:04:26,899 16か月後に全線開通し 68 00:04:26,899 --> 00:04:31,479 乗客用の列車と乗用車とトラック用の 貨物シャトル列車が運行しました 69 00:04:31,479 --> 00:04:36,645 こんにち 海峡トンネルを 年間2千万人以上の乗客が行き来しており 70 00:04:36,645 --> 00:04:41,374 海峡の通過時間は 約35分となっています 71 00:04:41,374 --> 00:04:46,395 あいにく 誰でも合法的に 乗れるわけではありません 72 00:04:46,395 --> 00:04:50,305 何千もの難民が このトンネルを通って イギリスへの入国を試み 73 00:04:50,305 --> 00:04:52,757 命を落とした人もいます 74 00:04:52,757 --> 00:04:56,287 このような悲劇から トンネルの南側入口は 75 00:04:56,287 --> 00:04:59,221 紛争が起こる場所へと変容しています 76 00:04:59,221 --> 00:05:02,861 願わくば この建造物の歴史を振り返ることで 人々の間の障壁を取り除くことが 77 00:05:02,861 --> 00:05:06,391 最高の人道的行為であると 思い出して欲しいのです