1 00:00:01,354 --> 00:00:05,950 私の場合 仮想現実との出会いは 少し変わっていました 2 00:00:06,976 --> 00:00:09,173 1970年代のことです 3 00:00:09,173 --> 00:00:12,383 私が この分野にのめり込んだのは わずか7才の頃です 4 00:00:12,383 --> 00:00:17,245 仮想現実にアクセスするために 使ったツールは 5 00:00:17,245 --> 00:00:20,810 イーヴル・クニーヴルの スタント用バイクでした 6 00:00:20,810 --> 00:00:23,201 これが そのコマーシャルです 7 00:00:23,201 --> 00:00:24,776 (ビデオ)すごいジャンプだ! 8 00:00:24,776 --> 00:00:26,767 イーヴルが操るのは 驚異のスタント・バイク 9 00:00:26,767 --> 00:00:29,536 ジャイロ・パワーで30mを超える 高速走行が可能です 10 00:00:29,536 --> 00:00:31,628 (クリス・ミルク)当時は 大のお気に入りでした 11 00:00:31,628 --> 00:00:34,587 私はどこでも このバイクに 乗っている気分でした 12 00:00:34,587 --> 00:00:38,847 私はイーヴルと共にいました スネーク・リバー峡谷の大ジャンプもです 13 00:00:38,847 --> 00:00:40,216 ロケットも欲しかったけれど 14 00:00:40,216 --> 00:00:42,996 バイクしか買ってもらえませんでした 15 00:00:45,626 --> 00:00:48,203 この世界に本当にハマっていました 16 00:00:48,203 --> 00:00:52,440 大きくなったら作家ではなく スタントマンになりたかったんです 17 00:00:52,440 --> 00:00:55,644 私は その世界の中にいて イーヴルは友達でした 18 00:00:55,644 --> 00:00:58,027 すっかり感情移入していたんです 19 00:00:58,747 --> 00:01:01,358 でも うまくいきませんでした(笑) 20 00:01:01,358 --> 00:01:03,382 私は美大に入って 21 00:01:03,382 --> 00:01:05,792 ミュージック・ビデオを 撮るようになりました 22 00:01:05,792 --> 00:01:08,866 これは撮り始めた頃のビデオです 23 00:01:08,866 --> 00:01:14,756 (音楽)カニエ・ウェスト 『タッチ・ザ・スカイ』 24 00:01:14,756 --> 00:01:18,032 (クリス)ちょっと似てるでしょう 25 00:01:18,032 --> 00:01:19,818 (笑) 26 00:01:19,818 --> 00:01:22,461 ロケットも手に入れました 27 00:01:22,461 --> 00:01:25,104 (笑) 28 00:01:25,104 --> 00:01:29,509 さて映像作家というか その端くれになり 29 00:01:29,509 --> 00:01:33,243 映像作家のツールを駆使して 30 00:01:33,243 --> 00:01:37,831 視聴者にできるだけ魅力的な ストーリーを伝えようとしました 31 00:01:37,831 --> 00:01:40,980 映像とは 自分とは全く違う人々や 32 00:01:40,980 --> 00:01:43,006 未知の世界に 33 00:01:43,006 --> 00:01:45,838 感情移入できる すごいメディアです 34 00:01:45,838 --> 00:01:46,668 残念なことに 35 00:01:46,668 --> 00:01:51,527 イーヴル・クニーブルは 私たちに感情移入してくれなかったようで 36 00:01:51,527 --> 00:01:54,330 ビデオを撮った私たちを訴えました 37 00:01:54,330 --> 00:01:56,061 (笑) 38 00:01:56,061 --> 00:01:58,110 すぐ後のことです 39 00:01:58,110 --> 00:02:02,950 ただ いいこともありました 子どもの頃に憧れた人 ― 40 00:02:02,950 --> 00:02:06,066 将来の目標だった 本人の 41 00:02:06,066 --> 00:02:09,906 サインを ついに手に入れました 42 00:02:10,556 --> 00:02:13,902 (拍手) 43 00:02:17,832 --> 00:02:22,849 ここで 映像について話しましょう 44 00:02:22,849 --> 00:02:25,745 映像はすごいメディアですが 45 00:02:25,745 --> 00:02:29,060 本質は昔から変わっていません 46 00:02:29,060 --> 00:02:32,529 映像は 連続して映しだされる 長方形なんです 47 00:02:32,529 --> 00:02:36,362 私たちは この長方形で すごいことを実現してきました 48 00:02:36,362 --> 00:02:39,247 でも私は こんなことを 考えるようになりました 49 00:02:39,247 --> 00:02:43,616 「今までとは違う方法で ストーリーを語るために 50 00:02:43,616 --> 00:02:45,741 現代の進歩した技術を使えないか ― 51 00:02:45,741 --> 00:02:47,482 私たちが この100年使ってきた 52 00:02:47,482 --> 00:02:51,793 旧来の映像制作のツールでは 語り切れないような 53 00:02:51,793 --> 00:02:53,964 別の形のストーリーを語れないか?」 54 00:02:53,964 --> 00:02:56,785 そこで実験を始めました 55 00:02:56,785 --> 00:03:01,874 試みたのは 極めつけの 感情移入マシーンを作ることです 56 00:03:03,054 --> 00:03:05,588 これは初期の実験の一部です 57 00:03:05,588 --> 00:03:08,412 (音楽) 58 00:03:08,412 --> 00:03:10,656 タイトルは『The Wilderness Downtown』― 59 00:03:10,656 --> 00:03:12,712 アーケイド・ファイアとの共同制作です 60 00:03:12,712 --> 00:03:16,362 最初に自分が育った場所の 住所を入力します 61 00:03:16,362 --> 00:03:17,359 このウェブサイトから 62 00:03:17,359 --> 00:03:22,275 小さなボックスが 次々と 別ウインドウで立ち上がります 63 00:03:22,275 --> 00:03:24,657 十代の子どもが通りを駆けていて 64 00:03:24,657 --> 00:03:27,415 Googleストリートビューと Googleマップの画像で 65 00:03:27,415 --> 00:03:29,939 その場所が 自分が育った辺りだとわかります 66 00:03:29,939 --> 00:03:34,048 1軒の家の所で立ち止まりますが それは あなたの家の前です 67 00:03:35,735 --> 00:03:39,417 これはすごく良くて それまで長方形の画面で作ってきたものより 68 00:03:39,417 --> 00:03:42,631 はるかに深い 感情的な反応が 返ってきました 69 00:03:42,631 --> 00:03:46,562 これは言わば あなたの 生い立ちの一部を拾い上げて 70 00:03:46,562 --> 00:03:49,981 ストーリーに当てはめたことになります 71 00:03:49,981 --> 00:03:51,578 でも その後こう考えました 72 00:03:51,578 --> 00:03:53,430 「今回は一部だけだったけど 73 00:03:53,430 --> 00:03:58,731 どうすれば相手を丸ごと ストーリーに組み込めるだろう?」 74 00:03:58,731 --> 00:04:01,834 こうして私はインスタレーションの 制作を始めました 75 00:04:01,834 --> 00:04:04,374 これは『The Treachery of Sanctuary』という作品です 76 00:04:04,374 --> 00:04:07,392 三連作ですが 3番目のパネルをご覧ください 77 00:04:07,392 --> 00:04:11,230 (音楽) 78 00:04:31,260 --> 00:04:34,848 今度は観客そのものを フレームの中に捉えていて 79 00:04:34,848 --> 00:04:39,403 前作よりも さらに深い 心からの反応が 80 00:04:39,403 --> 00:04:42,080 返ってきました 81 00:04:42,080 --> 00:04:46,230 でも一方で フレームとは何なのかと 考えるようになりました 82 00:04:46,230 --> 00:04:48,487 フレームは窓に過ぎません 83 00:04:48,487 --> 00:04:51,566 つまり あらゆるメディアは テレビにしろ映画にしろ 84 00:04:51,566 --> 00:04:53,819 他の世界を覗く窓なんです 85 00:04:53,819 --> 00:04:56,507 そこで考えました 相手をフレームに取り込んでしまおう 86 00:04:56,507 --> 00:04:59,634 ただし 相手をフレームで囲み 窓に はめ込むのではなく 87 00:04:59,634 --> 00:05:02,523 相手が窓をすり抜けて 反対側に行き 88 00:05:02,523 --> 00:05:05,598 そっちの世界に 入り込むようにしたいんです 89 00:05:06,218 --> 00:05:09,123 ここで仮想現実の話に戻ります 90 00:05:09,123 --> 00:05:11,344 その話をしましょう 91 00:05:12,634 --> 00:05:13,934 ただ残念ですが 92 00:05:13,934 --> 00:05:18,423 仮想現実を語るのは 建築をダンスで表現するようなものです 93 00:05:18,423 --> 00:05:25,340 実際に仮想現実の中で ダンスで建築を表すと こんな感じです 94 00:05:25,340 --> 00:05:27,823 (笑) 95 00:05:27,823 --> 00:05:31,084 説明が難しいんです では なぜ難しいのか? 96 00:05:31,084 --> 00:05:34,782 それは体験するメディアだからです 97 00:05:34,782 --> 00:05:36,698 内部で感じるメディアだからです 98 00:05:36,698 --> 00:05:38,496 機械ではありますが その内部は 99 00:05:38,496 --> 00:05:41,945 現実の世界 本物のように感じます 100 00:05:41,945 --> 00:05:44,466 世界の内部にいるような気持ちになり 101 00:05:44,466 --> 00:05:47,689 その世界の人々と 一緒にいるような気持ちになります 102 00:05:47,689 --> 00:05:51,785 ここで仮想現実映像のデモを ご覧に入れましょう 103 00:05:51,785 --> 00:05:54,006 仮想現実を撮影した時に捉えた情報を 104 00:05:54,006 --> 00:05:56,209 すべてスクリーンに投影します 105 00:05:56,209 --> 00:05:58,034 あらゆる方向を撮影しています 106 00:05:58,034 --> 00:06:00,210 これは私たちが開発したカメラ・システムで 107 00:06:00,210 --> 00:06:03,235 全方向を見渡す3Dカメラと その方向に向けられた 108 00:06:03,235 --> 00:06:05,987 バイノーラル・マイクがついています 109 00:06:05,987 --> 00:06:11,333 これを使って みなさんを囲む 球体状の世界を作ります 110 00:06:11,333 --> 00:06:14,736 ですから お見せするのは 世界を内部から眺めたものではなく 111 00:06:14,736 --> 00:06:18,107 世界全体を長方形に引き伸ばしたものです 112 00:06:18,107 --> 00:06:21,495 タイトルは『Clouds Over Sidra』 113 00:06:21,495 --> 00:06:25,989 私たちの仮想現実 制作会社VRSEと 114 00:06:25,989 --> 00:06:27,755 国連 そして 115 00:06:27,755 --> 00:06:30,788 ガボ・オローラと共同で制作しました 116 00:06:30,788 --> 00:06:34,625 12月にヨルダンの シリア難民キャンプを訪れて 117 00:06:34,625 --> 00:06:38,982 12才の少女シードラの物語を撮りました 118 00:06:38,982 --> 00:06:42,473 彼女は家族と一緒に砂漠を越えて シリアを脱出し ヨルダンに来ました 119 00:06:42,473 --> 00:06:46,567 キャンプで暮らすようになって もう1年半になります 120 00:06:48,207 --> 00:06:50,720 (シードラ)私はシードラ 121 00:06:50,720 --> 00:06:52,616 12才です 122 00:06:52,616 --> 00:06:54,418 5年生です 123 00:06:54,418 --> 00:06:59,605 シリアのダーラ県インクヒル市 出身です 124 00:06:59,605 --> 00:07:04,843 ヨルダンのザータリ難民キャンプで 暮らして1年半になります 125 00:07:06,923 --> 00:07:08,931 私の家は大家族で 126 00:07:08,931 --> 00:07:11,697 兄弟が3人います 1人はまだ赤ちゃんです 127 00:07:11,697 --> 00:07:15,142 弟はよく泣きます 128 00:07:15,142 --> 00:07:20,197 私が赤ちゃんの時よく泣いたか 父さんに聞いたけど 泣かなかったそうです 129 00:07:20,197 --> 00:07:23,821 たぶん私は弟より 強かったんだと思います 130 00:07:23,821 --> 00:07:26,731 (クリス)ヘッドセットをかぶっていると 131 00:07:26,731 --> 00:07:28,351 このようには見えません 132 00:07:28,351 --> 00:07:30,423 世界をぐるっと見渡せます 133 00:07:30,423 --> 00:07:35,711 360度 あらゆる方向が 見えるはずです 134 00:07:35,711 --> 00:07:38,702 彼女の部屋で 本人を前にして座っている時は 135 00:07:38,702 --> 00:07:41,115 テレビ画面や窓を通して 見ているのではなく 136 00:07:41,115 --> 00:07:44,523 彼女と そこに座っているんです 137 00:07:44,523 --> 00:07:48,896 足元を見ると 彼女と同じ地面に座っています 138 00:07:48,915 --> 00:07:50,666 だからこそ 139 00:07:50,666 --> 00:07:55,054 より深く 彼女の人間性を感じ 140 00:07:55,054 --> 00:07:59,590 より深く感情移入できるんです 141 00:07:59,590 --> 00:08:05,917 私はこの機械で 心を動かせると考えています 142 00:08:05,917 --> 00:08:09,690 すでに私たちは何人かの 心を動かそうとしています 143 00:08:09,690 --> 00:08:14,536 1月に この映像をダボスの 世界経済フォーラムに持って行き 144 00:08:14,536 --> 00:08:17,022 数百万人の暮らしに 145 00:08:17,022 --> 00:08:21,102 影響を与える決定を下す人たちに 見てもらいました 146 00:08:21,102 --> 00:08:23,220 彼らは この機会がなければ 147 00:08:23,220 --> 00:08:29,484 ヨルダンの難民キャンプの テントに座ることなどなかったでしょう 148 00:08:29,484 --> 00:08:35,813 1月のある日の午後 スイスにいた彼らは 149 00:08:35,813 --> 00:08:39,429 気付くと 難民キャンプにいたのです 150 00:08:40,308 --> 00:08:44,489 (拍手) 151 00:08:46,699 --> 00:08:49,058 みんな心を動かされました 152 00:08:49,058 --> 00:08:52,374 だから私たちは さらに制作することにしています 153 00:08:52,374 --> 00:08:55,460 現在 国連と協力して 154 00:08:55,460 --> 00:08:57,515 こんな映像をシリーズで撮影しています 155 00:08:57,515 --> 00:09:00,187 ちょうどリベリアでの撮影を終え 156 00:09:00,187 --> 00:09:03,633 インドで撮影を始めるところです 157 00:09:03,633 --> 00:09:05,511 私たちは 映像を撮影し 158 00:09:05,511 --> 00:09:08,036 国連で そこに派遣中の人や 159 00:09:08,036 --> 00:09:11,023 そこへ行く予定の人に見せています 160 00:09:11,023 --> 00:09:12,810 映像に映る人々の暮らしを 161 00:09:12,810 --> 00:09:17,274 変える力を持つ人々に見せるのです 162 00:09:17,274 --> 00:09:20,955 それでもまだ 仮想現実が持つ本当の力の 163 00:09:20,955 --> 00:09:24,614 ほんの一部を 使っているだけだと思います 164 00:09:24,614 --> 00:09:26,835 これはゲームの周辺機器ではありません 165 00:09:26,835 --> 00:09:31,408 仮想現実は 既存のメディアとは 比べものにならない位 166 00:09:31,408 --> 00:09:34,873 深く人間同士を結びつけます 167 00:09:34,873 --> 00:09:38,612 そして双方の見方を 変えることができます 168 00:09:38,612 --> 00:09:40,298 だから仮想現実は 169 00:09:40,298 --> 00:09:43,734 本当の意味で 世界を変える力を持っているのです 170 00:09:46,604 --> 00:09:49,151 これは単なる機械ですが 171 00:09:49,151 --> 00:09:54,074 私たちは それを通して より思いやりをもち 172 00:09:54,074 --> 00:09:59,667 より感情移入し より つながり合えます 173 00:09:59,667 --> 00:10:03,521 そして最終的には より人間らしくなれるのです 174 00:10:04,491 --> 00:10:05,651 どうもありがとう 175 00:10:05,651 --> 00:10:08,771 (拍手)