WEBVTT

00:00:01.370 --> 00:00:07.120
想像してください―
今 あなたはバーかクラブにいます

00:00:07.120 --> 00:00:10.130
ひとしきり話したところで
聞かれるのが

00:00:10.130 --> 00:00:12.000
「お仕事は何を？」

00:00:12.015 --> 00:00:14.950
自分の仕事がイケていると思うあなたは
すかさず

00:00:14.950 --> 00:00:19.230
「僕は数学者だよ」
と答えます（笑）

00:00:19.690 --> 00:00:22.080
そのなかで
必ず出てくるのが

00:00:22.080 --> 00:00:25.750
つぎの どちらかの発言です

00:00:25.750 --> 00:00:29.195
A 「私は数学は苦手だったわ
でも私のせいじゃないの

00:00:29.195 --> 00:00:32.613
先生が最悪だったのよ」（笑）

00:00:32.613 --> 00:00:35.582
そして B
「でも数学って何のためにあるの？」

00:00:35.582 --> 00:00:36.610
（笑）

00:00:36.610 --> 00:00:38.955
今日はケースBについて
お話ししましょう

00:00:38.955 --> 00:00:40.510
（笑）

00:00:40.510 --> 00:00:45.354
数学は何のためにあるかと言っても
ここでは

00:00:45.354 --> 00:00:48.203
数理科学の利用法が
問われているのではありません

00:00:48.203 --> 00:00:49.554
聞かれているのは
なんで―

00:00:49.554 --> 00:00:53.485
人生で役にも立たない こんなモノを
勉強しなきゃいけないかです（笑）

00:00:53.485 --> 00:00:55.924
これが質問の真意です

00:00:55.924 --> 00:01:00.124
数学者が 数学の意義を
問われたとき

00:01:00.124 --> 00:01:02.404
その回答は
大きく２つに分かれます

00:01:02.404 --> 00:01:07.739
数学者の54.51％は
攻めの姿勢に出て

00:01:08.609 --> 00:01:13.559
44.77％は
守りの姿勢に出るのです

00:01:13.559 --> 00:01:17.068
残る0.8％は異端児で
僕はこちらに入ります

00:01:17.068 --> 00:01:19.155
どんな人が 攻めの姿勢に
出るのでしょう？

00:01:19.155 --> 00:01:21.902
攻めに出る数学者は
こんな風に言うでしょう

00:01:21.902 --> 00:01:23.849
「そんな質問は
ナンセンスだ

00:01:23.849 --> 00:01:26.597
数学はその存在自体に
意味があるんだ

00:01:26.597 --> 00:01:29.144
独自の論理で成り立つ
美しい体系―

00:01:29.144 --> 00:01:31.011
そもそも
数学がどんなことに

00:01:31.011 --> 00:01:33.558
役立つか追い求め続けるなんて
無意味だ

00:01:33.558 --> 00:01:35.847
詩は役に立つか？
愛はどうだ？

00:01:35.847 --> 00:01:38.908
人生は役立つか？
なんて質問だ」

00:01:38.908 --> 00:01:40.529
（笑）

00:01:40.529 --> 00:01:44.296
英国数学者ハーディは
まさに この攻撃タイプ

00:01:44.296 --> 00:01:46.242
守りの姿勢に出る数学者は
こう言います

00:01:46.242 --> 00:01:51.082
「友よ 君が気づかないだけで
すべては数学で成り立っている」

00:01:51.082 --> 00:01:52.340
（笑）

00:01:52.340 --> 00:01:54.218
こちらの人たちは

00:01:54.218 --> 00:01:58.246
橋やコンピュータを例に
とりあげては

00:01:58.246 --> 00:02:00.841
「数学がなければ橋は崩壊する」
と豪語します

00:02:00.841 --> 00:02:02.286
（笑）

00:02:02.286 --> 00:02:05.523
確かに コンピュータは
数学のかたまりです

00:02:05.523 --> 00:02:08.008
最近では
こんなことも言い出しています

00:02:08.013 --> 00:02:13.050
情報セキュリティやクレジットカードは
素数で成り立っているのだと

00:02:13.710 --> 00:02:17.379
数学の先生に質問したら
この手の答えが返ってくるでしょう

00:02:17.379 --> 00:02:19.544
学校の先生も
守りに入るタイプですから

00:02:19.544 --> 00:02:21.384
では誰が正しいんでしょう？

00:02:21.384 --> 00:02:23.990
数学に目的など必要ないのか

00:02:23.990 --> 00:02:26.849
それとも すべては
数学で成り立っているのか

00:02:26.849 --> 00:02:28.520
実は 両方とも正しいのです

00:02:28.520 --> 00:02:30.183
さて さきほど私は

00:02:30.183 --> 00:02:33.726
それ以外の0.8％に入ると
お話ししましたね

00:02:33.726 --> 00:02:36.929
では 私に数学は何のためにあるか
聞いてください

00:02:36.929 --> 00:02:39.858
（聴衆） 数学は何のため？

00:02:39.858 --> 00:02:44.673
今 質問をして下さったのは
皆さんのうち76.34％の方でした

00:02:44.673 --> 00:02:47.600
23.41％の方は だんまりで

00:02:47.600 --> 00:02:48.827
残る0.8％の皆さんは―

00:02:48.827 --> 00:02:51.675
一体何をされているんでしょう

00:02:51.675 --> 00:02:55.175
76.34％の皆さまに
お答えします

00:02:55.175 --> 00:02:59.815
確かに 数学は
何かの役に立たなくともよいのです

00:02:59.815 --> 00:03:02.685
また 数学は
美しく 論理的な体系を備えており

00:03:02.685 --> 00:03:05.537
おそらく 人類史上
最も素晴らしい

00:03:05.537 --> 00:03:07.633
人類の知の結集であると
言えるでしょう

00:03:07.633 --> 00:03:09.732
一方で

00:03:09.732 --> 00:03:14.331
科学者や技術者は
研究を進めるために

00:03:14.331 --> 00:03:16.641
数学理論を
追い求めています

00:03:16.641 --> 00:03:20.438
彼らは すべてに浸透する
数学の体系の中にいます

00:03:20.438 --> 00:03:23.585
科学では到達し得ない真理を
より深く追求すべきだという主張は

00:03:23.585 --> 00:03:25.308
正しいと言えます

00:03:25.308 --> 00:03:28.858
科学は 直感 創造力で
動いていますが

00:03:29.348 --> 00:03:32.772
数学は 直感をコントロールし
創造力をたしなめるものです

00:03:33.747 --> 00:03:35.937
初めて聞かれた方は

00:03:35.937 --> 00:03:38.647
たいてい驚かれますが

00:03:38.647 --> 00:03:43.187
通常使うサイズの
0.1ミリの厚さの紙１枚を用意して

00:03:43.187 --> 00:03:46.505
50回折った場合
それが十分な大きささえあれば

00:03:46.505 --> 00:03:52.205
その厚みは
地球と太陽の距離くらいになります

00:03:52.600 --> 00:03:55.201
直感では そんなこと
ありえないと思うでしょう

00:03:55.201 --> 00:03:57.622
計算をすれば
それが正しいと分かります

00:03:57.622 --> 00:04:00.135
これこそ
数学の存在意義です

00:04:00.135 --> 00:04:03.917
どんな分野であっても
科学が意味を成すのは

00:04:03.917 --> 00:04:07.288
科学によって この美しい世界を
より良く理解できるからです

00:04:07.288 --> 00:04:08.669
それによって

00:04:08.669 --> 00:04:12.179
この厳しい世界にひそむ危険を
避けることもできます

00:04:12.179 --> 00:04:15.657
私たちを より直接的に
危険から救ってくれる科学もあります

00:04:15.657 --> 00:04:17.413
腫瘍学がそうです

00:04:17.413 --> 00:04:20.904
ほかにも 私たちが遠くから
時に嫉妬しながら見ている科学もあります

00:04:20.904 --> 00:04:23.464
でも 私たちはそれらを
支えていると自負もしています

00:04:23.464 --> 00:04:26.213
それらの科学は
数学を含む基礎科学に支えられています

00:04:26.213 --> 00:04:28.649
それらの科学は
数学を含む基礎科学に支えられています

00:04:28.649 --> 00:04:32.366
科学を 真の科学たらしめるものこそ
数学の厳密さなのです

00:04:32.366 --> 00:04:37.242
その結果が永遠の真理である故に
数学は厳密なのです

00:04:37.242 --> 00:04:39.757
皆さん これまで
口や耳にしたことがおありでしょう

00:04:39.757 --> 00:04:42.708
「ダイヤモンドは永遠だ」と

00:04:44.178 --> 00:04:46.392
皆さんの「永遠」の定義にもよりますが

00:04:46.392 --> 00:04:48.883
定理―それは真に永遠です

00:04:48.883 --> 00:04:50.134
（笑）

00:04:50.134 --> 00:04:53.486
ピタゴラスの定理は
今も真です

00:04:53.486 --> 00:04:56.601
ピタゴラスは死んでいますが
まあ それは真実ですね（笑）

00:04:56.601 --> 00:04:57.946
世界が崩壊しても

00:04:57.946 --> 00:05:00.391
ピタゴラスの定理は
真のままでしょう

00:05:00.391 --> 00:05:04.452
三角形の二辺と
斜辺が都合よく合わさったらですが

00:05:04.452 --> 00:05:05.673
（笑）

00:05:05.673 --> 00:05:08.534
ピタゴラスの定理は完ぺきに
うまく機能します

00:05:08.534 --> 00:05:11.355
（拍手）

00:05:15.535 --> 00:05:19.407
私たち数学者は懸命に
定理を見つけようとしています

00:05:19.407 --> 00:05:21.143
永遠の真実を です

00:05:21.143 --> 00:05:23.909
ただし 永遠の真実たる定理と
単なる推測との違いを

00:05:23.909 --> 00:05:26.815
見分けることは
必ずしも容易ではありません

00:05:26.815 --> 00:05:29.829
証明が必要です

00:05:29.829 --> 00:05:31.596
例えば

00:05:31.596 --> 00:05:36.423
巨大で無限な面が
あるとしましょう

00:05:36.423 --> 00:05:40.132
そこを同じ大きさの形で
隙間なく埋めることを考えます

00:05:40.132 --> 00:05:42.256
四角形を使いますよね

00:05:42.256 --> 00:05:46.222
三角形も使えます
でも 円形では小さな隙間ができます

00:05:46.777 --> 00:05:49.134
どれが一番良い形でしょう？

00:05:49.134 --> 00:05:53.687
同じ面積で 周の長さが
より短くなるものです

00:05:53.687 --> 00:05:58.396
西暦300年 アレキサンドリアのパップスは
六角形が一番良いと言いました

00:05:58.396 --> 00:06:00.243
蜂と同じようにするのです

00:06:00.243 --> 00:06:01.990
でも 彼は証明しませんでした

00:06:01.990 --> 00:06:04.688
「六角形が良いんだ
それで行こう！」と言ったところで

00:06:04.688 --> 00:06:07.656
それを証明しなければ
推論にすぎません

00:06:07.656 --> 00:06:09.334
「六角形！」

00:06:09.334 --> 00:06:12.964
世界は パップス支持派と反対派に
分かれました

00:06:12.964 --> 00:06:18.253
1700年が経ち

00:06:18.253 --> 00:06:23.707
1999年に初めて
トーマス・ヘイルズが

00:06:23.707 --> 00:06:28.641
パップスと蜂は正しく
六角形が最適であると証明しました

00:06:28.641 --> 00:06:31.123
それは定理になり
ハニカム定理と呼ばれ

00:06:31.123 --> 00:06:33.183
永遠に真であり続けます

00:06:33.183 --> 00:06:36.224
皆さんのダイヤモンドよりも
長い間です（笑）

00:06:36.229 --> 00:06:39.033
では 三次元になったら
どうでしょうか？

00:06:39.033 --> 00:06:42.944
ある空間を
同じ形状で隙間なく

00:06:43.464 --> 00:06:44.805
埋めたいなら

00:06:44.805 --> 00:06:46.638
立方体も使えますね

00:06:46.638 --> 00:06:49.994
球形では小さな隙間が
できてしまいます（笑）

00:06:49.994 --> 00:06:52.957
どんな形が一番良いでしょう？

00:06:52.957 --> 00:06:57.017
絶対温度などで有名な
ケルヴィン卿は

00:06:57.607 --> 00:07:03.121
一番良いのは
「切頂八面体」と言いました

00:07:04.791 --> 00:07:07.507
皆さんご存知でしょう―

00:07:07.507 --> 00:07:09.035
（笑）

00:07:09.035 --> 00:07:10.814
こちらのものです

00:07:10.814 --> 00:07:13.753
（拍手）

00:07:15.778 --> 00:07:17.225
ほら

00:07:18.025 --> 00:07:20.862
切頂八面体が家にない人なんて
いないでしょう（笑）

00:07:20.862 --> 00:07:22.089
プラスチックのも

00:07:22.089 --> 00:07:24.846
「あなた 切頂八面体を用意して
お客さんが来るから」

00:07:24.846 --> 00:07:26.240
皆持っていますね（笑）

00:07:26.240 --> 00:07:28.614
でも ケルビン卿は
証明せず

00:07:28.614 --> 00:07:32.655
それは推論のまま
ケルビンの推論で終わりました

00:07:32.655 --> 00:07:38.177
世界は ケルビン支持派と反対派に
分かれました

00:07:38.177 --> 00:07:39.599
（笑）

00:07:39.599 --> 00:07:43.496
約百年後

00:07:46.203 --> 00:07:50.072
より良い形状が見つかりました

00:07:50.917 --> 00:07:56.026
ウィアとフェランが
こちらの小さな形を見つけたのです

00:07:56.026 --> 00:07:57.665
（笑）

00:07:57.665 --> 00:08:01.209
この構造には
大変 高尚な名前が付けられました

00:08:01.209 --> 00:08:03.375
「ウィア・フェラン構造」です

00:08:03.375 --> 00:08:05.911
（笑）

00:08:05.911 --> 00:08:08.568
変な物体に見えますが
そうでもありません

00:08:08.568 --> 00:08:10.239
自然界にも
存在する形です

00:08:10.239 --> 00:08:12.844
興味深いことに
この構造は あるものに使われました

00:08:12.844 --> 00:08:15.037
その幾何学的特性が買われ

00:08:15.037 --> 00:08:20.229
北京オリンピックで建てられた
北京国家水泳センターに使われたのです

00:08:20.969 --> 00:08:23.714
そこでマイケル・フェルプスは
金メダル８つを獲得し

00:08:23.714 --> 00:08:26.875
史上最高の水泳選手と
なりました

00:08:26.875 --> 00:08:30.616
「史上最高」とは
誰か上回る人が現れるまでのこと

00:08:30.616 --> 00:08:33.015
ちょうどウィア・フェラン構造の
ときのように

00:08:33.015 --> 00:08:35.633
より良いものが現れるまでは
それが「最高」なのです

00:08:35.633 --> 00:08:40.225
でもご注意あれ
百年後か

00:08:40.225 --> 00:08:45.205
1700年後かは知りませんが
それが一番良い形であることを

00:08:45.205 --> 00:08:50.603
誰かが証明する可能性は
あるのですから

00:08:50.978 --> 00:08:55.348
証明されれば それが定理となり
永遠に真とされます

00:08:55.348 --> 00:08:58.302
ダイヤモンドよりも
永遠です

00:08:58.837 --> 00:09:02.567
ですから 誰かに

00:09:03.777 --> 00:09:06.823
「永遠に君を愛する」と
伝えたいなら

00:09:06.823 --> 00:09:08.890
ダイヤモンドを
あげても構いません

00:09:08.890 --> 00:09:12.421
でも もし
“真に”永遠に愛するなら

00:09:12.421 --> 00:09:14.172
定理をあげてください

00:09:14.172 --> 00:09:15.263
（笑）

00:09:15.263 --> 00:09:17.853
でもちょっと待って

00:09:18.783 --> 00:09:20.183
ちゃんと証明してくださいね

00:09:20.183 --> 00:09:22.466
あなたの愛が

00:09:22.466 --> 00:09:24.299
推論に終わらないように

00:09:24.299 --> 00:09:27.543
（拍手）