WEBVTT

00:00:01.458 --> 00:00:06.260
想像してください―
今 あなたはバーかクラブにいます

00:00:06.285 --> 00:00:08.966
ある女性に声をかけ

00:00:08.991 --> 00:00:11.650
ひとしきり話したところで 彼女が聞きます
「お仕事は何を？」

00:00:12.244 --> 00:00:15.473
自分の仕事がイケていると思うあなたは
すかさず

00:00:15.498 --> 00:00:17.337
「僕は数学者だよ」
と答えます

00:00:17.362 --> 00:00:19.381
（笑）

00:00:19.594 --> 00:00:22.895
あなたと会話を続けます

00:00:22.895 --> 00:00:24.980
そのなかで
必ず出てくるのが

00:00:24.980 --> 00:00:28.650
つぎの どちらかの発言です

00:00:28.650 --> 00:00:32.095
A 「私は数学は苦手だったわ
でも私のせいじゃないの

00:00:32.095 --> 00:00:35.514
先生が最悪だったのよ」（笑）

00:00:35.514 --> 00:00:38.482
そして B
「でも数学って何のためにあるの？」

00:00:38.482 --> 00:00:39.510
（笑）

00:00:39.510 --> 00:00:41.855
今日はケースBについて
お話ししましょう

00:00:41.855 --> 00:00:43.410
（笑）

00:00:43.410 --> 00:00:48.254
数学は何のためにあるかと言っても
ここでは

00:00:48.254 --> 00:00:51.103
数理科学の利用法が
問われているのではありません

00:00:51.103 --> 00:00:52.454
聞かれているのは
なんで―

00:00:52.454 --> 00:00:56.385
人生で役にも立たない こんなモノを
勉強しなきゃいけないかです（笑）

00:00:56.385 --> 00:00:58.824
これが質問の真意です

00:00:58.824 --> 00:01:03.024
数学者が 数学の意義を
問われたとき

00:01:03.024 --> 00:01:05.304
その回答は
大きく２つに分かれます

00:01:05.304 --> 00:01:10.639
数学者の54.51％は
攻めの姿勢に出て

00:01:11.509 --> 00:01:16.459
44.77％は
守りの姿勢に出るのです

00:01:16.459 --> 00:01:19.968
残る0.8％は異端児で
僕はこちらに入ります

00:01:19.968 --> 00:01:22.055
どんな人が 攻めの姿勢に
出るのでしょう？

00:01:22.055 --> 00:01:24.802
攻めに出る数学者は
こんな風に言うでしょう

00:01:24.802 --> 00:01:26.749
「そんな質問は
ナンセンスだ

00:01:26.749 --> 00:01:29.497
数学はその存在自体に
意味があるんだ

00:01:29.497 --> 00:01:32.044
独自の論理で成り立つ
美しい体系―

00:01:32.044 --> 00:01:33.911
そもそも
数学がどんなことに

00:01:33.911 --> 00:01:36.458
役立つか追い求め続けるなんて
無意味だ

00:01:36.458 --> 00:01:38.747
詩は役に立つか？
愛はどうだ？

00:01:38.747 --> 00:01:41.808
人生は役立つか？
なんて質問だ」

00:01:41.808 --> 00:01:43.429
（笑）

00:01:43.429 --> 00:01:47.196
英国数学者ハーディは
まさに この攻撃タイプ

00:01:47.196 --> 00:01:49.142
守りの姿勢に出る数学者は
こう言います

00:01:49.142 --> 00:01:53.982
「友よ 君が気づかないだけで
すべては数学で成り立っている」

00:01:53.982 --> 00:01:55.240
（笑）

00:01:55.240 --> 00:01:57.118
こちらの人たちは

00:01:57.118 --> 00:02:01.146
橋やコンピュータを例に
とりあげては

00:02:01.146 --> 00:02:03.741
「数学がなければ橋は崩壊する」
と豪語します

00:02:03.741 --> 00:02:05.186
（笑）

00:02:05.186 --> 00:02:08.423
確かに コンピュータは
数学のかたまりです

00:02:08.423 --> 00:02:10.908
最近では
こんなことも言い出しています

00:02:10.913 --> 00:02:15.950
情報セキュリティやクレジットカードは
素数で成り立っているのだと

00:02:16.610 --> 00:02:20.279
数学の先生に質問したら
この手の答えが返ってくるでしょう

00:02:20.279 --> 00:02:22.444
学校の先生も
守りに入るタイプですから

00:02:22.444 --> 00:02:24.284
では誰が正しいんでしょう？

00:02:24.284 --> 00:02:26.890
数学に目的など必要ないのか

00:02:26.890 --> 00:02:29.749
それとも すべては
数学で成り立っているのか

00:02:29.749 --> 00:02:31.420
実は 両方とも正しいのです

00:02:31.420 --> 00:02:33.083
さて さきほど私は

00:02:33.083 --> 00:02:36.626
それ以外の0.8％に入ると
お話ししましたね

00:02:36.626 --> 00:02:39.829
では 私に数学は何のためにあるか
聞いてください

00:02:39.829 --> 00:02:42.758
（聴衆） 数学は何のため？

00:02:42.758 --> 00:02:47.573
今 質問をして下さったのは
皆さんのうち76.34％の方でした

00:02:47.573 --> 00:02:50.500
23.41％の方は だんまりで

00:02:50.500 --> 00:02:51.727
残る0.8％の皆さんは―

00:02:51.727 --> 00:02:54.575
一体何をされているんでしょう

00:02:54.575 --> 00:02:58.075
76.34％の皆さまに
お答えします

00:02:58.075 --> 00:03:02.715
確かに 数学は
何かの役に立たなくともよいのです

00:03:02.715 --> 00:03:05.585
また 数学は
美しく 論理的な体系を備えており

00:03:05.585 --> 00:03:08.437
おそらく 人類史上
最も素晴らしい

00:03:08.437 --> 00:03:10.533
人類の知の結集であると
言えるでしょう

00:03:10.533 --> 00:03:12.632
一方で

00:03:12.632 --> 00:03:17.231
科学者や技術者は
研究を進めるために

00:03:17.231 --> 00:03:19.541
数学理論を
追い求めています

00:03:19.541 --> 00:03:23.338
彼らは すべてに浸透する
数学の体系の中にいます

00:03:23.338 --> 00:03:26.485
科学では到達し得ない真理を
より深く追求すべきだという主張は

00:03:26.485 --> 00:03:28.208
正しいと言えます

00:03:28.208 --> 00:03:31.758
科学は 直感 創造力で
動いていますが

00:03:32.248 --> 00:03:35.672
数学は 直感をコントロールし
創造力をたしなめるものです

00:03:36.647 --> 00:03:38.837
初めて聞かれた方は

00:03:38.837 --> 00:03:41.547
たいてい驚かれますが

00:03:41.547 --> 00:03:46.087
通常使うサイズの
0.1ミリの厚さの紙１枚を用意して

00:03:46.087 --> 00:03:49.405
50回折った場合
それが十分な大きささえあれば

00:03:49.405 --> 00:03:55.105
その厚みは
地球と太陽の距離くらいになります

00:03:55.500 --> 00:03:58.101
直感では そんなこと
ありえないと思うでしょう

00:03:58.101 --> 00:04:00.522
計算をすれば
それが正しいと分かります

00:04:00.522 --> 00:04:03.035
これこそ
数学の存在意義です

00:04:03.035 --> 00:04:06.817
どんな分野であっても
科学が意味を成すのは

00:04:06.817 --> 00:04:10.188
科学によって この美しい世界を
より良く理解できるからです

00:04:10.188 --> 00:04:11.569
それによって

00:04:11.569 --> 00:04:15.079
この厳しい世界にひそむ危険を
避けることもできます

00:04:15.079 --> 00:04:18.557
私たちを より直接的に
危険から救ってくれる科学もあります

00:04:18.557 --> 00:04:20.313
腫瘍学がそうです

00:04:20.313 --> 00:04:23.805
ほかにも 私たちが遠くから
時に嫉妬しながら見ている科学もあります

00:04:23.805 --> 00:04:26.364
でも 私たちはそれらを
支えていると自負もしています

00:04:26.364 --> 00:04:29.113
それらの科学は
数学を含む基礎科学に支えられています

00:04:29.113 --> 00:04:31.549
それらの科学は
数学を含む基礎科学に支えられています

00:04:31.549 --> 00:04:35.266
科学を 真の科学たらしめるものこそ
数学の厳密さなのです

00:04:35.266 --> 00:04:40.142
その結果が永遠の真理である故に
数学は厳密なのです

00:04:40.142 --> 00:04:42.657
皆さん これまで
口や耳にしたことがおありでしょう

00:04:42.657 --> 00:04:45.608
「ダイヤモンドは永遠だ」と

00:04:47.078 --> 00:04:49.292
皆さんの「永遠」の定義にもよりますが

00:04:49.292 --> 00:04:51.783
定理―それは真に永遠です

00:04:51.783 --> 00:04:53.034
（笑）

00:04:53.034 --> 00:04:56.386
ピタゴラスの定理は
今も真です

00:04:56.386 --> 00:04:59.501
ピタゴラスは死んでいますが
まあ それは真実ですね（笑）

00:04:59.501 --> 00:05:00.846
世界が崩壊しても

00:05:00.846 --> 00:05:03.291
ピタゴラスの定理は
真のままでしょう

00:05:03.291 --> 00:05:07.352
三角形の二辺と
斜辺が都合よく合わさったらですが

00:05:07.352 --> 00:05:08.573
（笑）

00:05:08.573 --> 00:05:11.434
ピタゴラスの定理は完ぺきに
うまく機能します

00:05:11.434 --> 00:05:14.255
（拍手）

00:05:18.435 --> 00:05:22.307
私たち数学者は懸命に
定理を見つけようとしています

00:05:22.307 --> 00:05:24.043
永遠の真実を です

00:05:24.043 --> 00:05:26.809
ただし 永遠の真実たる定理と
単なる推測との違いを

00:05:26.809 --> 00:05:29.715
見分けることは
必ずしも容易ではありません

00:05:29.715 --> 00:05:32.729
証明が必要です

00:05:32.729 --> 00:05:34.496
例えば

00:05:34.496 --> 00:05:39.323
巨大で無限な面が
あるとしましょう

00:05:39.323 --> 00:05:43.032
そこを同じ大きさの形で
隙間なく埋めることを考えます

00:05:43.032 --> 00:05:45.156
四角形を使いますよね

00:05:45.156 --> 00:05:49.122
三角形も使えます
でも 円形では小さな隙間ができます

00:05:49.677 --> 00:05:52.034
どれが一番良い形でしょう？

00:05:52.034 --> 00:05:56.587
同じ面積で 周の長さが
より短くなるものです

00:05:56.587 --> 00:06:01.296
西暦300年 アレキサンドリアのパップスは
六角形が一番良いと言いました

00:06:01.296 --> 00:06:03.143
蜂と同じようにするのです

00:06:03.143 --> 00:06:04.890
でも 彼は証明しませんでした

00:06:04.890 --> 00:06:07.588
「六角形が良いんだ
それで行こう！」と言ったところで

00:06:07.588 --> 00:06:10.556
それを証明しなければ
推論にすぎません

00:06:10.556 --> 00:06:12.234
「六角形！」

00:06:12.234 --> 00:06:15.864
世界は パップス支持派と反対派に
分かれました

00:06:15.864 --> 00:06:21.153
1700年が経ち

00:06:21.153 --> 00:06:26.607
1999年に初めて
トーマス・ヘイルズが

00:06:26.607 --> 00:06:31.541
パップスと蜂は正しく
六角形が最適であると証明しました

00:06:31.541 --> 00:06:34.023
それは定理になり
ハニカム定理と呼ばれ

00:06:34.023 --> 00:06:36.083
永遠に真であり続けます

00:06:36.083 --> 00:06:39.124
皆さんのダイヤモンドよりも
長い間です（笑）

00:06:39.129 --> 00:06:41.933
では 三次元になったら
どうでしょうか？

00:06:41.933 --> 00:06:45.844
ある空間を
同じ形状で隙間なく

00:06:46.364 --> 00:06:47.705
埋めたいなら

00:06:47.705 --> 00:06:49.538
立方体も使えますね

00:06:49.538 --> 00:06:52.894
球形では小さな隙間が
できてしまいます（笑）

00:06:52.894 --> 00:06:55.857
どんな形が一番良いでしょう？

00:06:55.857 --> 00:06:59.917
絶対温度などで有名な
ケルヴィン卿は

00:07:00.507 --> 00:07:06.021
一番良いのは
「切頂八面体」と言いました

00:07:07.691 --> 00:07:10.407
皆さんご存知でしょう―

00:07:10.407 --> 00:07:11.935
（笑）

00:07:11.935 --> 00:07:13.714
こちらのものです

00:07:13.714 --> 00:07:16.653
（拍手）

00:07:18.678 --> 00:07:20.125
ほら

00:07:20.925 --> 00:07:23.762
切頂八面体が家にない人なんて
いないでしょう（笑）

00:07:23.762 --> 00:07:24.989
プラスチックのも

00:07:24.989 --> 00:07:27.746
「あなた 切頂八面体を用意して
お客さんが来るから」

00:07:27.746 --> 00:07:29.140
皆持っていますね（笑）

00:07:29.140 --> 00:07:31.514
でも ケルビン卿は
証明せず

00:07:31.514 --> 00:07:35.555
それは推論のまま
ケルビンの推論で終わりました

00:07:35.555 --> 00:07:41.077
世界は ケルビン支持派と反対派に
分かれました

00:07:41.077 --> 00:07:42.499
（笑）

00:07:42.499 --> 00:07:46.396
約百年後

00:07:49.103 --> 00:07:52.972
より良い形状が見つかりました

00:07:53.817 --> 00:07:58.926
ウィアとフェランが
こちらの小さな形を見つけたのです

00:07:58.926 --> 00:08:00.565
（笑）

00:08:00.565 --> 00:08:04.108
この構造には
大変 高尚な名前が付けられました

00:08:04.108 --> 00:08:06.275
「ウィア・フェラン構造」です

00:08:06.275 --> 00:08:08.810
（笑）

00:08:08.810 --> 00:08:11.468
変な物体に見えますが
そうでもありません

00:08:11.468 --> 00:08:13.139
自然界にも
存在する形です

00:08:13.139 --> 00:08:15.744
興味深いことに
この構造は あるものに使われました

00:08:15.744 --> 00:08:17.937
その幾何学的特性が買われ

00:08:17.937 --> 00:08:23.129
北京オリンピックで建てられた
北京国家水泳センターに使われたのです

00:08:23.869 --> 00:08:26.614
そこでマイケル・フェルプスは
金メダル８つを獲得し

00:08:26.614 --> 00:08:29.775
史上最高の水泳選手と
なりました

00:08:29.775 --> 00:08:33.516
「史上最高」とは
誰か上回る人が現れるまでのこと

00:08:33.516 --> 00:08:35.916
ちょうどウィア・フェラン構造の
ときのように

00:08:35.916 --> 00:08:38.533
より良いものが現れるまでは
それが「最高」なのです

00:08:38.533 --> 00:08:43.125
でもご注意あれ
百年後か

00:08:43.125 --> 00:08:48.105
1700年後かは知りませんが
それが一番良い形であることを

00:08:48.105 --> 00:08:53.503
誰かが証明する可能性は
あるのですから

00:08:53.878 --> 00:08:58.248
証明されれば それが定理となり
永遠に真とされます

00:08:58.248 --> 00:09:01.202
ダイヤモンドよりも
永遠です

00:09:01.737 --> 00:09:05.467
ですから 誰かに

00:09:06.677 --> 00:09:09.723
「永遠に君を愛する」と
伝えたいなら

00:09:09.723 --> 00:09:11.790
ダイヤモンドを
あげても構いません

00:09:11.790 --> 00:09:15.321
でも もし
“真に”永遠に愛するなら

00:09:15.321 --> 00:09:17.072
定理をあげてください

00:09:17.072 --> 00:09:18.163
（笑）

00:09:18.163 --> 00:09:20.753
でもちょっと待って

00:09:21.683 --> 00:09:23.083
ちゃんと証明してくださいね

00:09:23.083 --> 00:09:25.366
あなたの愛が

00:09:25.366 --> 00:09:27.199
推論に終わらないように

00:09:27.199 --> 00:09:30.443
（拍手）