WEBVTT 00:00:01.458 --> 00:00:06.260 想像してください― 今 あなたはバーかクラブにいます 00:00:06.910 --> 00:00:09.591 ある女性に声をかけ 00:00:09.951 --> 00:00:14.542 ひとしきり話したところで 彼女が聞きます 「お仕事は何を?」 00:00:14.553 --> 00:00:17.867 自分の仕事がイケていると思うあなたは すかさず 00:00:17.867 --> 00:00:19.706 「僕は数学者だよ」 と答えます 00:00:19.706 --> 00:00:21.725 (笑) 00:00:22.355 --> 00:00:26.537 すると 女性の33.51%は その瞬間 都合よく 00:00:26.537 --> 00:00:30.772 急ぎの電話がかかってきて その場を立ち去ります 00:00:30.772 --> 00:00:32.494 (笑) 00:00:32.494 --> 00:00:35.806 そして女性の64.69%は 00:00:36.266 --> 00:00:40.077 必死で話題を変え これまた去って行きます 00:00:40.077 --> 00:00:41.269 (笑) 00:00:41.269 --> 00:00:45.409 0.8%の女性 つまり あなたの従姉妹、彼女、母親は 00:00:45.409 --> 00:00:49.694 あなたの仕事がヘンだと思うものの それが何か覚えていません(笑) 00:00:49.694 --> 00:00:52.995 そして残る1%の女性は あなたと会話を続けます 00:00:52.995 --> 00:00:55.080 そのなかで 必ず出てくるのが 00:00:55.080 --> 00:00:58.750 つぎの どちらかの発言です 00:00:58.750 --> 00:01:02.195 A 「私は数学は苦手だったわ でも私のせいじゃないの 00:01:02.195 --> 00:01:05.614 先生が最悪だったのよ」(笑) 00:01:05.614 --> 00:01:08.582 そして B 「でも数学って何のためにあるの?」 00:01:08.582 --> 00:01:09.610 (笑) 00:01:09.610 --> 00:01:11.955 今日はケースBについて お話ししましょう 00:01:11.955 --> 00:01:13.510 (笑) 00:01:13.510 --> 00:01:18.354 数学は何のためにあるかと言っても ここでは 00:01:18.354 --> 00:01:21.203 数理科学の利用法が 問われているのではありません 00:01:21.203 --> 00:01:22.554 聞かれているのは なんで― 00:01:22.554 --> 00:01:26.485 人生で役にも立たない こんなモノを 勉強しなきゃいけないかです(笑) 00:01:26.485 --> 00:01:28.924 これが質問の真意です 00:01:28.924 --> 00:01:33.124 数学者が 数学の意義を 問われたとき 00:01:33.124 --> 00:01:35.404 その回答は 大きく2つに分かれます 00:01:35.404 --> 00:01:40.739 数学者の54.51%は 攻めの姿勢に出て 00:01:41.609 --> 00:01:46.559 44.77%は 守りの姿勢に出るのです 00:01:46.559 --> 00:01:50.068 残る0.8%は異端児で 僕はこちらに入ります 00:01:50.068 --> 00:01:52.155 どんな人が 攻めの姿勢に 出るのでしょう? 00:01:52.155 --> 00:01:54.902 攻めに出る数学者は こんな風に言うでしょう 00:01:54.902 --> 00:01:56.849 「そんな質問は ナンセンスだ 00:01:56.849 --> 00:01:59.597 数学はその存在自体に 意味があるんだ 00:01:59.597 --> 00:02:02.144 独自の論理で成り立つ 美しい体系― 00:02:02.144 --> 00:02:04.011 そもそも 数学がどんなことに 00:02:04.011 --> 00:02:06.558 役立つか追い求め続けるなんて 無意味だ 00:02:06.558 --> 00:02:08.847 詩は役に立つか? 愛はどうだ? 00:02:08.847 --> 00:02:11.908 人生は役立つか? なんて質問だ」 00:02:11.908 --> 00:02:13.529 (笑) 00:02:13.529 --> 00:02:17.296 英国数学者ハーディは まさに この攻撃タイプ 00:02:17.296 --> 00:02:19.242 守りの姿勢に出る数学者は こう言います 00:02:19.242 --> 00:02:24.082 「友よ 君が気づかないだけで すべては数学で成り立っている」 00:02:24.082 --> 00:02:25.340 (笑) 00:02:25.340 --> 00:02:27.218 こちらの人たちは 00:02:27.218 --> 00:02:31.246 橋やコンピュータを例に とりあげては 00:02:31.246 --> 00:02:33.841 「数学がなければ橋は崩壊する」 と豪語します 00:02:33.841 --> 00:02:35.286 (笑) 00:02:35.286 --> 00:02:38.523 確かに コンピュータは 数学のかたまりです 00:02:38.523 --> 00:02:41.008 最近では こんなことも言い出しています 00:02:41.013 --> 00:02:46.050 情報セキュリティやクレジットカードは 素数で成り立っているのだと 00:02:46.710 --> 00:02:50.379 数学の先生に質問したら この手の答えが返ってくるでしょう 00:02:50.379 --> 00:02:52.544 学校の先生も 守りに入るタイプですから 00:02:52.544 --> 00:02:54.384 では誰が正しいんでしょう? 00:02:54.384 --> 00:02:56.990 数学に目的など必要ないのか 00:02:56.990 --> 00:02:59.849 それとも すべては 数学で成り立っているのか 00:02:59.849 --> 00:03:01.520 実は 両方とも正しいのです 00:03:01.520 --> 00:03:03.183 さて さきほど私は 00:03:03.183 --> 00:03:06.726 それ以外の0.8%に入ると お話ししましたね 00:03:06.726 --> 00:03:09.929 では 私に数学は何のためにあるか 聞いてください 00:03:09.929 --> 00:03:12.858 (聴衆) 数学は何のため? 00:03:12.858 --> 00:03:17.673 今 質問をして下さったのは 皆さんのうち76.34%の方でした 00:03:17.673 --> 00:03:20.600 23.41%の方は だんまりで 00:03:20.600 --> 00:03:21.827 残る0.8%の皆さんは― 00:03:21.827 --> 00:03:24.675 一体何をされているんでしょう 00:03:24.675 --> 00:03:28.175 76.34%の皆さまに お答えします 00:03:28.175 --> 00:03:32.815 確かに 数学は 何かの役に立たなくともよいのです 00:03:32.815 --> 00:03:35.685 また 数学は 美しく 論理的な体系を備えており 00:03:35.685 --> 00:03:38.537 おそらく 人類史上 最も素晴らしい 00:03:38.537 --> 00:03:40.633 人類の知の結集であると 言えるでしょう 00:03:40.633 --> 00:03:42.732 一方で 00:03:42.732 --> 00:03:47.331 科学者や技術者は 研究を進めるために 00:03:47.331 --> 00:03:49.641 数学理論を 追い求めています 00:03:49.641 --> 00:03:53.438 彼らは すべてに浸透する 数学の体系の中にいます 00:03:53.438 --> 00:03:56.585 科学では到達し得ない真理を より深く追求すべきだという主張は 00:03:56.585 --> 00:03:58.308 正しいと言えます 00:03:58.308 --> 00:04:01.858 科学は 直感 創造力で 動いていますが 00:04:02.348 --> 00:04:05.772 数学は 直感をコントロールし 創造力をたしなめるものです 00:04:06.747 --> 00:04:08.937 初めて聞かれた方は 00:04:08.937 --> 00:04:11.647 たいてい驚かれますが 00:04:11.647 --> 00:04:16.187 通常使うサイズの 0.1ミリの厚さの紙1枚を用意して 00:04:16.187 --> 00:04:19.505 50回折った場合 それが十分な大きささえあれば 00:04:19.505 --> 00:04:25.205 その厚みは 地球と太陽の距離くらいになります 00:04:25.600 --> 00:04:28.201 直感では そんなこと ありえないと思うでしょう 00:04:28.201 --> 00:04:30.622 計算をすれば それが正しいと分かります 00:04:30.622 --> 00:04:33.135 これこそ 数学の存在意義です 00:04:33.135 --> 00:04:36.917 どんな分野であっても 科学が意味を成すのは 00:04:36.917 --> 00:04:40.288 科学によって この美しい世界を より良く理解できるからです 00:04:40.288 --> 00:04:41.669 それによって 00:04:41.669 --> 00:04:45.179 この厳しい世界にひそむ危険を 避けることもできます 00:04:45.179 --> 00:04:48.657 私たちを より直接的に 危険から救ってくれる科学もあります 00:04:48.657 --> 00:04:50.413 腫瘍学がそうです 00:04:50.413 --> 00:04:53.905 ほかにも 私たちが遠くから 時に嫉妬しながら見ている科学もあります 00:04:53.905 --> 00:04:56.464 でも 私たちはそれらを 支えていると自負もしています 00:04:56.464 --> 00:04:59.213 それらの科学は 数学を含む基礎科学に支えられています 00:04:59.213 --> 00:05:01.649 それらの科学は 数学を含む基礎科学に支えられています 00:05:01.649 --> 00:05:05.366 科学を 真の科学たらしめるものこそ 数学の厳密さなのです 00:05:05.366 --> 00:05:10.242 その結果が永遠の真理である故に 数学は厳密なのです 00:05:10.242 --> 00:05:12.757 皆さん これまで 口や耳にしたことがおありでしょう 00:05:12.757 --> 00:05:15.708 「ダイヤモンドは永遠だ」と 00:05:17.178 --> 00:05:19.392 皆さんの「永遠」の定義にもよりますが 00:05:19.392 --> 00:05:21.883 定理―それは真に永遠です 00:05:21.883 --> 00:05:23.134 (笑) 00:05:23.134 --> 00:05:26.486 ピタゴラスの定理は 今も真です 00:05:26.486 --> 00:05:29.601 ピタゴラスは死んでいますが まあ それは真実ですね(笑) 00:05:29.601 --> 00:05:30.946 世界が崩壊しても 00:05:30.946 --> 00:05:33.391 ピタゴラスの定理は 真のままでしょう 00:05:33.391 --> 00:05:37.452 三角形の二辺と 斜辺が都合よく合わさったらですが 00:05:37.452 --> 00:05:38.673 (笑) 00:05:38.673 --> 00:05:41.534 ピタゴラスの定理は完ぺきに うまく機能します 00:05:41.534 --> 00:05:44.355 (拍手) 00:05:48.535 --> 00:05:52.407 私たち数学者は懸命に 定理を見つけようとしています 00:05:52.407 --> 00:05:54.143 永遠の真実を です 00:05:54.143 --> 00:05:56.909 ただし 永遠の真実たる定理と 単なる推測との違いを 00:05:56.909 --> 00:05:59.815 見分けることは 必ずしも容易ではありません 00:05:59.815 --> 00:06:02.829 証明が必要です 00:06:02.829 --> 00:06:04.596 例えば 00:06:04.596 --> 00:06:09.423 巨大で無限な面が あるとしましょう 00:06:09.423 --> 00:06:13.132 そこを同じ大きさの形で 隙間なく埋めることを考えます 00:06:13.132 --> 00:06:15.256 四角形を使いますよね 00:06:15.256 --> 00:06:19.222 三角形も使えます でも 円形では小さな隙間ができます 00:06:19.777 --> 00:06:22.134 どれが一番良い形でしょう? 00:06:22.134 --> 00:06:26.687 同じ面積で 周の長さが より短くなるものです 00:06:26.687 --> 00:06:31.396 西暦300年 アレキサンドリアのパップスは 六角形が一番良いと言いました 00:06:31.396 --> 00:06:33.243 蜂と同じようにするのです 00:06:33.243 --> 00:06:34.990 でも 彼は証明しませんでした 00:06:34.990 --> 00:06:37.688 「六角形が良いんだ それで行こう!」と言ったところで 00:06:37.688 --> 00:06:40.656 それを証明しなければ 推論にすぎません 00:06:40.656 --> 00:06:42.334 「六角形!」 00:06:42.334 --> 00:06:45.964 世界は パップス支持派と反対派に 分かれました 00:06:45.964 --> 00:06:51.253 1700年が経ち 00:06:51.253 --> 00:06:56.707 1999年に初めて トーマス・ヘイルズが 00:06:56.707 --> 00:07:01.641 パップスと蜂は正しく 六角形が最適であると証明しました 00:07:01.641 --> 00:07:04.123 それは定理になり ハニカム定理と呼ばれ 00:07:04.123 --> 00:07:06.183 永遠に真であり続けます 00:07:06.183 --> 00:07:09.224 皆さんのダイヤモンドよりも 長い間です(笑) 00:07:09.229 --> 00:07:12.033 では 三次元になったら どうでしょうか? 00:07:12.033 --> 00:07:15.944 ある空間を 同じ形状で隙間なく 00:07:16.464 --> 00:07:17.805 埋めたいなら 00:07:17.805 --> 00:07:19.638 立方体も使えますね 00:07:19.638 --> 00:07:22.994 球形では小さな隙間が できてしまいます(笑) 00:07:22.994 --> 00:07:25.957 どんな形が一番良いでしょう? 00:07:25.957 --> 00:07:30.017 絶対温度などで有名な ケルヴィン卿は 00:07:30.607 --> 00:07:36.121 一番良いのは 「切頂八面体」と言いました 00:07:37.791 --> 00:07:40.507 皆さんご存知でしょう― 00:07:40.507 --> 00:07:42.035 (笑) 00:07:42.035 --> 00:07:43.814 こちらのものです 00:07:43.814 --> 00:07:46.753 (拍手) 00:07:48.778 --> 00:07:50.225 ほら 00:07:51.025 --> 00:07:53.862 切頂八面体が家にない人なんて いないでしょう(笑) 00:07:53.862 --> 00:07:55.089 プラスチックのも 00:07:55.089 --> 00:07:57.846 「あなた 切頂八面体を用意して お客さんが来るから」 00:07:57.846 --> 00:07:59.240 皆持っていますね(笑) 00:07:59.240 --> 00:08:01.614 でも ケルビン卿は 証明せず 00:08:01.614 --> 00:08:05.655 それは推論のまま ケルビンの推論で終わりました 00:08:05.655 --> 00:08:11.177 世界は ケルビン支持派と反対派に 分かれました 00:08:11.177 --> 00:08:12.599 (笑) 00:08:12.599 --> 00:08:16.496 約百年後 00:08:19.203 --> 00:08:23.072 より良い形状が見つかりました 00:08:23.917 --> 00:08:29.026 ウィアとフェランが こちらの小さな形を見つけたのです 00:08:29.026 --> 00:08:30.665 (笑) 00:08:30.665 --> 00:08:34.208 この構造には 大変 高尚な名前が付けられました 00:08:34.208 --> 00:08:36.375 「ウィア・フェラン構造」です 00:08:36.375 --> 00:08:38.910 (笑) 00:08:38.910 --> 00:08:41.568 変な物体に見えますが そうでもありません 00:08:41.568 --> 00:08:43.239 自然界にも 存在する形です 00:08:43.239 --> 00:08:45.844 興味深いことに この構造は あるものに使われました 00:08:45.844 --> 00:08:48.037 その幾何学的特性が買われ 00:08:48.037 --> 00:08:53.229 北京オリンピックで建てられた 北京国家水泳センターに使われたのです 00:08:53.969 --> 00:08:56.714 そこでマイケル・フェルプスは 金メダル8つを獲得し 00:08:56.714 --> 00:08:59.875 史上最高の水泳選手と なりました 00:08:59.875 --> 00:09:03.616 「史上最高」とは 誰か上回る人が現れるまでのこと 00:09:03.616 --> 00:09:06.016 ちょうどウィア・フェラン構造の ときのように 00:09:06.016 --> 00:09:08.633 より良いものが現れるまでは それが「最高」なのです 00:09:08.633 --> 00:09:13.225 でもご注意あれ 百年後か 00:09:13.225 --> 00:09:18.205 1700年後かは知りませんが それが一番良い形であることを 00:09:18.205 --> 00:09:23.603 誰かが証明する可能性は あるのですから 00:09:23.978 --> 00:09:28.348 証明されれば それが定理となり 永遠に真とされます 00:09:28.348 --> 00:09:31.302 ダイヤモンドよりも 永遠です 00:09:31.837 --> 00:09:35.567 ですから 誰かに 00:09:36.777 --> 00:09:39.823 「永遠に君を愛する」と 伝えたいなら 00:09:39.823 --> 00:09:41.890 ダイヤモンドを あげても構いません 00:09:41.890 --> 00:09:45.421 でも もし “真に”永遠に愛するなら 00:09:45.421 --> 00:09:47.172 定理をあげてください 00:09:47.172 --> 00:09:48.263 (笑) 00:09:48.263 --> 00:09:50.853 でもちょっと待って 00:09:51.783 --> 00:09:53.183 ちゃんと証明してくださいね 00:09:53.183 --> 00:09:55.466 あなたの愛が 00:09:55.466 --> 00:09:57.299 推論に終わらないように 00:09:57.299 --> 00:10:00.543 (拍手)