1 00:00:07,239 --> 00:00:08,052 この数世紀の間の 2 00:00:08,052 --> 00:00:09,579 最も重要な発見は 3 00:00:09,579 --> 00:00:11,581 何だと思いますか? 4 00:00:11,581 --> 00:00:12,614 コンピューターでしょうか? 5 00:00:12,614 --> 00:00:13,263 それとも車? 6 00:00:13,263 --> 00:00:14,168 電気? 7 00:00:14,168 --> 00:00:16,145 もしくは原子の発見? 8 00:00:16,145 --> 00:00:19,592 私はこの化学反応だと思います 9 00:00:19,592 --> 00:00:21,213 気体の窒素分子1つと 10 00:00:21,213 --> 00:00:23,297 気体の水素分子3つが 合わさると 11 00:00:23,297 --> 00:00:26,739 気体のアンモニア分子2つが できる反応です 12 00:00:26,739 --> 00:00:28,343 これはハーバー法というもので 13 00:00:28,343 --> 00:00:30,925 空気中の窒素分子と 14 00:00:30,925 --> 00:00:32,431 水素分子が結合し 15 00:00:32,431 --> 00:00:35,564 空気から肥料が できるというものです 16 00:00:35,564 --> 00:00:36,806 この化学反応がなければ 17 00:00:36,806 --> 00:00:41,348 農家の人々は 40億人分の食料しか 生産することができないでしょう 18 00:00:41,348 --> 00:00:44,516 現在の人口は70億人を 上回ったところです 19 00:00:44,880 --> 00:00:46,881 したがって ハーバー法なしには 20 00:00:46,881 --> 00:00:51,306 30億人が 食料にありつけません 21 00:00:51,306 --> 00:00:55,025 硝酸塩―NO3―という形で 存在する窒素は 22 00:00:55,025 --> 00:00:58,205 植物が生き延びるのに 必要不可欠な栄養素です 23 00:00:58,205 --> 00:01:00,706 作物が生長する時に 土壌から窒素を吸収し 24 00:01:00,706 --> 00:01:02,425 土から窒素が取り除かれます 25 00:01:02,425 --> 00:01:03,923 窒素は 動物の腐敗などの 26 00:01:03,923 --> 00:01:06,146 長期間にわたる 自然な肥沃化の過程によって 27 00:01:06,146 --> 00:01:07,845 補充されますが 28 00:01:07,845 --> 00:01:09,679 人間はそれよりも ずっと短期間に 29 00:01:09,679 --> 00:01:11,680 作物を育てる 必要があります 30 00:01:11,680 --> 00:01:13,591 ここからが ややこしいところです 31 00:01:13,591 --> 00:01:16,594 空気の78%は 窒素で構成されていますが 32 00:01:16,594 --> 00:01:19,396 作物は単に空気中から窒素を 吸収することができません 33 00:01:19,396 --> 00:01:22,511 なぜなら窒素は非常に強い 三重結合を持っており 34 00:01:22,511 --> 00:01:24,643 作物はこの結合を 切ることができないからです 35 00:01:24,643 --> 00:01:26,643 ハーバーが成しえたことは 36 00:01:26,643 --> 00:01:27,762 根本的にいえば 37 00:01:27,762 --> 00:01:29,529 空気中の窒素を取り込み 38 00:01:29,529 --> 00:01:31,281 これを土に送り込む方法の発見です 39 00:01:31,281 --> 00:01:34,864 1908年ドイツの化学者 フリッツ・ハーバーは 40 00:01:34,864 --> 00:01:36,176 空気中に 豊富にある窒素を 41 00:01:36,176 --> 00:01:39,020 利用するための 化学的な方法を編み出しました 42 00:01:39,020 --> 00:01:39,890 ハーバーは 43 00:01:39,890 --> 00:01:41,594 空気中の窒素を取り込み 44 00:01:41,594 --> 00:01:43,046 水素と結合させて 45 00:01:43,046 --> 00:01:45,242 アンモニアを生成する 方法を発見したのです 46 00:01:45,242 --> 00:01:47,797 そして アンモニアは 土壌に注入された後 47 00:01:47,797 --> 00:01:50,506 速やかに 硝酸塩に変換されます 48 00:01:50,506 --> 00:01:54,025 しかし ハーバー法を 世界の食料を賄うために使うためには 49 00:01:54,025 --> 00:01:55,213 ハーバーは 50 00:01:55,213 --> 00:01:58,415 大量のアンモニアを迅速に簡単に 生成する方法を見出す必要がありました 51 00:01:58,415 --> 00:01:59,381 ハーバーが 52 00:01:59,381 --> 00:02:01,900 この偉業をどのようにして 成し遂げたのかを理解するため 53 00:02:01,900 --> 00:02:04,397 私たちは化学平衡について 知る必る必要があります 54 00:02:04,397 --> 00:02:06,346 化学平衡は 密閉容器の中で 55 00:02:06,346 --> 00:02:09,514 化学反応が起きたときに 達成されます 56 00:02:09,514 --> 00:02:11,233 例えば 57 00:02:11,233 --> 00:02:14,346 密閉容器の中に 水素と窒素を注入し 58 00:02:14,346 --> 00:02:16,158 反応させます 59 00:02:16,158 --> 00:02:17,757 実験の 初期の段階では 60 00:02:17,757 --> 00:02:20,370 多くの窒素と水素があるので 61 00:02:20,370 --> 00:02:22,006 アンモニアは 速い速度で 62 00:02:22,006 --> 00:02:24,098 生成されます 63 00:02:24,098 --> 00:02:28,261 ところが水素と窒素が反応を起こし 消費されるにつれ 64 00:02:28,261 --> 00:02:29,883 反応速度が低下します 65 00:02:29,883 --> 00:02:33,625 容器の中の窒素と水素の量が 減るからです 66 00:02:33,625 --> 00:02:36,347 やがて アンモニア分子は ある時点を境に 67 00:02:36,347 --> 00:02:38,058 分解しはじめ 68 00:02:38,058 --> 00:02:41,339 窒素と水素に戻ります 69 00:02:41,339 --> 00:02:43,063 しばらくすると アンモニアの生成と分解という 70 00:02:43,063 --> 00:02:45,588 2つの反応は 71 00:02:45,588 --> 00:02:47,634 同じ速度で起こるようになります 72 00:02:47,634 --> 00:02:49,341 同じ速度になったとき 73 00:02:49,341 --> 00:02:52,147 「平衡状態に達した」といいます 74 00:02:53,146 --> 00:02:55,280 一見 良いことのようですが 75 00:02:55,280 --> 00:02:56,511 大量のアンモニアを 76 00:02:56,511 --> 00:02:58,817 生成したい時には 良いことではありません 77 00:02:58,817 --> 00:03:01,855 アンモニアの分解は ハーバーが望むところではありませんが 78 00:03:01,855 --> 00:03:03,374 密閉容器の中で 79 00:03:03,374 --> 00:03:04,865 単に反応させておくと 80 00:03:04,865 --> 00:03:06,487 分解が起こります 81 00:03:06,487 --> 00:03:09,981 ここで フランスの化学者 アンリ・ル・シャトリエの 82 00:03:09,981 --> 00:03:11,271 登場です 83 00:03:11,271 --> 00:03:12,705 彼が発見したことは 84 00:03:12,705 --> 00:03:14,590 平衡状態にある系に 85 00:03:14,590 --> 00:03:17,723 何か 例えば窒素を加えると 86 00:03:17,723 --> 00:03:18,715 系は平衡状態に 87 00:03:18,715 --> 00:03:20,921 戻ろうとする ということです 88 00:03:20,921 --> 00:03:22,296 さらにル・シャトリエは 89 00:03:22,296 --> 00:03:23,469 圧力を加えると 90 00:03:23,469 --> 00:03:25,596 系は元の圧力に 91 00:03:25,596 --> 00:03:26,761 戻そうとすることを 92 00:03:26,761 --> 00:03:28,978 発見しました 93 00:03:28,978 --> 00:03:30,675 混雑している部屋に いるようなものです 94 00:03:30,675 --> 00:03:32,182 分子の数が多いほど 95 00:03:32,182 --> 00:03:33,773 圧力が高くなりますが 96 00:03:33,773 --> 00:03:35,529 はじめの化学反応式を 見てみると 97 00:03:35,529 --> 00:03:39,681 左辺に4つの分子があり 98 00:03:39,681 --> 00:03:41,776 右辺には2つしかありません 99 00:03:41,776 --> 00:03:44,278 部屋の密集度を下げて 100 00:03:44,278 --> 00:03:45,872 圧力を下げたい場合 101 00:03:45,872 --> 00:03:46,779 窒素と水素が 102 00:03:46,779 --> 00:03:48,670 結合しはじめ 103 00:03:48,670 --> 00:03:51,804 よりコンパクトな アンモニア分子を生成します 104 00:03:51,804 --> 00:03:53,821 ハーバーは 105 00:03:53,821 --> 00:03:55,100 大量のアンモニアを 生成するには 106 00:03:55,100 --> 00:03:56,604 窒素と水素を 継続的に加え 107 00:03:56,604 --> 00:03:59,600 平衡状態にある系の 108 00:03:59,600 --> 00:04:03,314 圧力を増加させる機械を 製造する必要があることに気づき 109 00:04:03,314 --> 00:04:05,480 まさに それを実現しました 110 00:04:05,480 --> 00:04:08,030 現在 アンモニアは 111 00:04:08,030 --> 00:04:10,313 世界で最も多く生産される 化合物のひとつです 112 00:04:10,313 --> 00:04:14,891 年間 およそ1億3100万トン 113 00:04:14,891 --> 00:04:18,314 つまり 2900億ポンドのアンモニアが 生産されており 114 00:04:18,314 --> 00:04:19,363 これは 115 00:04:19,363 --> 00:04:24,314 1頭が約4500キロのアフリカゾウ 3000万頭分に相当します 116 00:04:24,314 --> 00:04:28,087 アンモニアの80%は 肥料生産に使われており 117 00:04:28,087 --> 00:04:29,041 残りは 118 00:04:29,041 --> 00:04:30,937 工業用や家庭用の洗剤 119 00:04:30,937 --> 00:04:33,314 また 硝酸など 120 00:04:33,314 --> 00:04:35,265 他の窒素化合物に 使われています 121 00:04:35,265 --> 00:04:36,345 最近の研究によると 122 00:04:36,345 --> 00:04:38,837 肥料に含まれる 窒素の半分が 123 00:04:38,837 --> 00:04:41,147 植物に吸収されていないことが 示されました 124 00:04:41,147 --> 00:04:42,977 その結果 窒素は 125 00:04:42,977 --> 00:04:44,642 揮発性の化合物として 126 00:04:44,642 --> 00:04:47,695 地球の水系や大気中に 見出されており 127 00:04:47,695 --> 00:04:49,646 環境に深刻な影響を 与えています 128 00:04:49,646 --> 00:04:51,475 もちろん ハーバーが 発明をもたらしたとき 129 00:04:51,475 --> 00:04:53,095 このような問題を 予期しませんでした 130 00:04:53,095 --> 00:04:54,773 彼の先駆的な洞察力を継ぎ 131 00:04:54,773 --> 00:04:56,388 現在の化学者らは 132 00:04:56,388 --> 00:04:59,054 危険な結果を伴わずに 133 00:04:59,054 --> 00:05:01,029 同じ量のアンモニアを 生成することができる 134 00:05:01,029 --> 00:05:03,359 21世紀の新しいハーバー法を 探し求めています