1 00:00:10,670 --> 00:00:13,775 さて 音楽の美しさとは何によるものでしょう 2 00:00:13,775 --> 00:00:15,807 音楽学者の多くは 3 00:00:15,807 --> 00:00:18,726 リピートこそが美の鍵だというでしょう 4 00:00:18,726 --> 00:00:21,596 メロディー、主題、音楽的な思想を取り入れるため 5 00:00:21,596 --> 00:00:24,802 それを繰り返し リピートを期待するよう構成し 6 00:00:24,802 --> 00:00:27,657 その後 その期待通りにしたり あえてしなかったりします 7 00:00:27,657 --> 00:00:29,768 これが美の重要な構成要素なのです 8 00:00:29,768 --> 00:00:33,035 もし リピートやパターンが美の鍵だとしたら 9 00:00:33,035 --> 00:00:36,104 リピートのまったくない曲を作曲したとき 10 00:00:36,104 --> 00:00:37,457 パターンのないその曲は どのように聞こえるのでしょうか 11 00:00:37,457 --> 00:00:41,313 パターンのないその曲は どのように聞こえるのでしょうか 12 00:00:41,313 --> 00:00:43,384 これは実は 興味深い数学の問題なのです 13 00:00:43,384 --> 00:00:46,910 リピートのまったくない曲を 作曲することは可能でしょうか 14 00:00:46,910 --> 00:00:49,141 ランダムではありません でたらめは簡単です 15 00:00:49,141 --> 00:00:51,943 リピート無しはとても難しく 16 00:00:51,943 --> 00:00:53,914 それを実現できたのは唯一 17 00:00:53,914 --> 00:00:57,239 潜水艦の探査をしていた人のおかげです 18 00:00:57,239 --> 00:01:01,699 世界で一番完璧なソナー音を 開発しようとした男が 19 00:01:01,717 --> 00:01:04,864 パターン無しの音楽を作曲することを 可能にしました 20 00:01:04,864 --> 00:01:08,061 そして これが今日の主題です 21 00:01:08,061 --> 00:01:13,019 さて ソナーに話を戻します 22 00:01:13,019 --> 00:01:15,904 船から水中に音を放ちます 23 00:01:15,920 --> 00:01:18,051 艦にはこんなエコー音が届きます 24 00:01:18,051 --> 00:01:20,801 音を発するエコーが返る 発する 返る 25 00:01:20,801 --> 00:01:23,888 音が返ってくるまでの時間で 物体までの距離がわかります 26 00:01:23,888 --> 00:01:26,868 高い周波数の音で返ってくるのなら 物体は向かってきています 27 00:01:26,868 --> 00:01:29,964 低い周波数の音で返ってくるのなら 離れていっています 28 00:01:29,964 --> 00:01:32,468 完璧なソナー音を設計するにはどうするか? 29 00:01:32,468 --> 00:01:36,585 1960年代に ジョン・コスタスという男が 30 00:01:36,585 --> 00:01:40,353 米海軍の非常に高価な ソナーシステムに取り組んでいました 31 00:01:40,353 --> 00:01:41,548 うまくいっていませんでした 32 00:01:41,548 --> 00:01:44,098 それは使用していた音が 適切ではなかったからです 33 00:01:44,098 --> 00:01:46,481 こんな音でした 34 00:01:46,481 --> 00:01:49,059 旋律のように思うかもしれません 35 00:01:49,059 --> 00:01:51,023 こうです 36 00:01:51,023 --> 00:01:52,815 (音楽) 37 00:01:52,815 --> 00:01:55,568 これが彼らが使用していた音です ダウンチャープ信号といいます 38 00:01:55,568 --> 00:01:57,820 不適切な音だとわかりました 39 00:01:57,820 --> 00:02:00,535 なぜか それは音自体が 推移しているかのようだからです 40 00:02:00,535 --> 00:02:03,201 最初の2音の関係は次の2音の関係と同じで 41 00:02:03,201 --> 00:02:05,677 そこから先も同様です 42 00:02:05,677 --> 00:02:08,185 そこで彼は違うソナー音を設計しました 43 00:02:08,185 --> 00:02:09,667 無規則のように聞こえる音です 44 00:02:09,667 --> 00:02:12,642 一見規則のないパターンに見えます が 違います 45 00:02:12,642 --> 00:02:15,088 よく見るとわかりますが 46 00:02:15,088 --> 00:02:18,813 それぞれ一対の点が他のどの点とも違います 47 00:02:18,813 --> 00:02:20,836 繰り返しがありません 48 00:02:20,836 --> 00:02:23,684 最初の2音とその他の2音とは 49 00:02:23,684 --> 00:02:26,418 すべて違う組み合わせになっています 50 00:02:26,418 --> 00:02:29,450 こんなことは自然ではありえません 51 00:02:29,450 --> 00:02:31,434 このパターンを開発したのが ジョン・コスタスです 52 00:02:31,434 --> 00:02:33,934 この写真は2006年 死の直前です 53 00:02:33,934 --> 00:02:37,277 彼は海軍のソナー技師でした 54 00:02:37,277 --> 00:02:39,854 音のパターンを考え 55 00:02:39,854 --> 00:02:42,353 手計算で 12のサイズを考え付くに至りました 56 00:02:42,353 --> 00:02:43,727 12×12マス 57 00:02:43,727 --> 00:02:45,959 それ以上の大きさにはできず 58 00:02:45,959 --> 00:02:47,919 12以上の大きさでは存在しないのだろうと考えました 59 00:02:47,919 --> 00:02:50,334 途中で数学者に手紙を書きます 60 00:02:50,334 --> 00:02:52,532 当時カリフォルニアの新鋭数学者 61 00:02:52,532 --> 00:02:53,834 ソロモン・ゴロムです 62 00:02:53,834 --> 00:02:56,018 ソロモンは現代の離散数学において 63 00:02:56,018 --> 00:02:58,963 ずばぬけて才能のある一人です 64 00:02:58,963 --> 00:03:04,042 ジョンはソロモンに尋ねます 何かこの点のパターンに関係する文献を知らないかと 65 00:03:04,050 --> 00:03:05,441 文献はありませんでした 66 00:03:05,441 --> 00:03:06,990 リピートやパターンのない構造など 67 00:03:06,990 --> 00:03:10,207 今まで誰も考えたこともなかったのです 68 00:03:10,207 --> 00:03:13,298 ソロモンはこの問題にひと夏をかけました 69 00:03:13,298 --> 00:03:16,357 そして この紳士の理論にたどり着きました 70 00:03:16,357 --> 00:03:17,804 エヴァリスト・ガロア 71 00:03:17,804 --> 00:03:19,635 現在ではガロアは著名な数学者です 72 00:03:19,635 --> 00:03:22,618 彼の理論は数学の幅広い分野に影響し 73 00:03:22,618 --> 00:03:25,218 彼の名にちなんでガロア理論と呼ばれています 74 00:03:25,218 --> 00:03:28,622 素数の理論のことです 75 00:03:28,622 --> 00:03:31,989 その死に様も有名です 76 00:03:31,989 --> 00:03:35,435 その逸話は ある若い女性の名誉のために 争ったときのことです 77 00:03:35,435 --> 00:03:38,896 彼は決闘を申し込まれ それを受けました 78 00:03:38,896 --> 00:03:41,399 その決闘の直前 79 00:03:41,399 --> 00:03:43,254 彼はその数学的アイデアを全て書き残し 80 00:03:43,254 --> 00:03:44,446 友人全てに手紙を送りました 81 00:03:44,446 --> 00:03:45,780 お願い お願いだ… 82 00:03:45,780 --> 00:03:46,774 200年前のことです 83 00:03:46,774 --> 00:03:47,751 お願いだ  どうか頼むから 84 00:03:47,751 --> 00:03:50,862 この理論が世に出るのを見届けてくれ 85 00:03:50,862 --> 00:03:54,168 それから彼は決闘に臨み 撃たれ 二十歳の生涯を終えました 86 00:03:54,168 --> 00:03:57,118 この理論は携帯電話 インターネットなど 87 00:03:57,118 --> 00:04:00,891 私たちの通信手段 果てはDVDまでを可能にしました 88 00:04:00,891 --> 00:04:03,702 全てはガロアの考えに由来しています 89 00:04:03,702 --> 00:04:06,621 二十歳の若さで死んだ数学者の です 90 00:04:06,621 --> 00:04:08,797 後世に遺産を遺すとして 91 00:04:08,797 --> 00:04:10,615 もちろん 彼もその数学理論の利用法については 92 00:04:10,615 --> 00:04:12,299 思いつきもしなかったでしょう 93 00:04:12,299 --> 00:04:14,451 ありがたくも 彼の数学理論は世に出ました 94 00:04:14,451 --> 00:04:20,319 ソロモン・ゴロムは これこそが 求めていた理論だと気づいたのです 95 00:04:20,319 --> 00:04:22,534 パターン無しの構造を生み出せる理論だと 96 00:04:22,534 --> 00:04:25,984 彼はジョンに返信しました 素数理論から規則のないパターンを生み出せる 97 00:04:25,984 --> 00:04:28,268 彼はジョンに返信しました 素数理論から規則のないパターンを生み出せる 98 00:04:28,268 --> 00:04:34,489 それからジョンは必死に取り組み ついに海軍のソナー音の問題を解決しました 99 00:04:34,489 --> 00:04:36,901 さて例のパターンを見直すと どう見えるでしょう 100 00:04:36,901 --> 00:04:38,856 そのパターンがこちらです 101 00:04:38,856 --> 00:04:42,834 88×88マスのコスタス配列です 102 00:04:42,850 --> 00:04:45,135 作るのはとても単純 103 00:04:45,135 --> 00:04:49,252 小学校の算数で十分でしょう 104 00:04:49,252 --> 00:04:52,818 3で繰り返し掛け算をするだけです 105 00:04:52,818 --> 00:04:58,208 1、3、9、27、81、243… 106 00:04:58,208 --> 00:05:00,591 89よりも大きな数字になった時には 107 00:05:00,591 --> 00:05:01,769 89以下になるまで 108 00:05:01,769 --> 00:05:04,648 素数である89を引きます 109 00:05:04,648 --> 00:05:08,351 さあ88×88のマス目がついに埋まりました 110 00:05:08,351 --> 00:05:11,701 そしてピアノにも88の音階があります 111 00:05:11,701 --> 00:05:14,598 そこで今日は世界初パターン無しのピアノ・ソナタを 世界初演したいと思います 112 00:05:14,598 --> 00:05:19,664 そこで今日は世界初パターン無しのピアノ・ソナタを 世界初演したいと思います 113 00:05:19,664 --> 00:05:22,502 さて音楽の疑問に戻ります 114 00:05:22,502 --> 00:05:23,901 音楽は何をもって美しいのでしょうか 115 00:05:23,901 --> 00:05:26,423 これまでに作曲されたもっとも美しい曲の一つ 116 00:05:26,423 --> 00:05:27,982 ベートーベンの第5交響曲 117 00:05:27,982 --> 00:05:31,518 有名な ”ダナナナーン” という主題 118 00:05:31,518 --> 00:05:34,351 この主題は同曲内で何百回も繰り返されます 119 00:05:34,351 --> 00:05:36,701 第一楽章だけでも数え切れません 120 00:05:36,701 --> 00:05:38,804 他の楽章でも同様です 121 00:05:38,804 --> 00:05:40,671 このリピートの構成は 美しさの鍵です 122 00:05:40,671 --> 00:05:43,427 このリピートの構成は 美しさの鍵です 123 00:05:43,427 --> 00:05:47,566 単にでたらめに音符を並べただけのものが 無作為な音楽だとすると 124 00:05:47,566 --> 00:05:50,512 そこにはどういうわけかベートーベンの第5にもある パターンが出現してしまいます 125 00:05:50,512 --> 00:05:52,646 もし完璧にパターンのない曲を書いたとしたら 126 00:05:52,646 --> 00:05:54,295 ずっとはずれのほうに出現します 127 00:05:54,295 --> 00:05:56,427 実際もっとも音楽らしくないのは 128 00:05:56,427 --> 00:05:58,092 パターンのない構造です 129 00:05:58,092 --> 00:06:01,708 しかし今ご覧に入れた マス目で示した音は 130 00:06:01,708 --> 00:06:05,335 無作為とは程遠いものです 131 00:06:05,335 --> 00:06:07,440 完全にパターンが無いのです 132 00:06:07,440 --> 00:06:10,649 有名な作曲家の アーノルド・シェーンベルクも 133 00:06:10,649 --> 00:06:13,397 1930年代から50年代にかけて これを研究していました 134 00:06:13,397 --> 00:06:16,697 1930年代から50年代にかけて これを研究していました 135 00:06:16,697 --> 00:06:20,284 彼は作曲家として 構造の無い音楽を目指していました 136 00:06:20,284 --> 00:06:22,434 彼は作曲家として 構造の無い音楽を目指していました 137 00:06:22,434 --> 00:06:24,818 不協和音の解放と呼び 138 00:06:24,818 --> 00:06:26,901 12音技法といわれる構造を編み出しました 139 00:06:26,901 --> 00:06:28,385 これが音列です 140 00:06:28,385 --> 00:06:30,219 コスタス配列とかなり似て聞こえます 141 00:06:30,219 --> 00:06:34,023 残念なことに彼はコスタスが 数学的にこの構造を生み出す 142 00:06:34,023 --> 00:06:37,372 10年も前にこの世を去りました 143 00:06:37,372 --> 00:06:42,384 さあ完璧なソナー音による世界初演を 堪能しましょう 144 00:06:42,384 --> 00:06:46,384 88×88マスのコスタス配列を 145 00:06:46,384 --> 00:06:48,002 ピアノの楽譜にそのまま配置しました 146 00:06:48,002 --> 00:06:51,591 リズムにはゴロム定規を採用しました 147 00:06:51,591 --> 00:06:54,052 これでどの一対の音符が弾かれる時間も 同じではないということになります 148 00:06:54,052 --> 00:06:55,820 これでどの一対の音符が弾かれる時間も 同じではないということになります 149 00:06:55,820 --> 00:06:58,664 これは数学的にはほぼ不可能です 150 00:06:58,664 --> 00:07:01,396 実際コンピューターの演算でも 創り出すことはできません 151 00:07:01,396 --> 00:07:04,439 200年前に編み出された理論のおかげで 152 00:07:04,439 --> 00:07:07,300 -現代の数学者と技師の協力を得て 153 00:07:07,300 --> 00:07:10,233 ついに作曲もしくは製作が 可能になりました 154 00:07:10,233 --> 00:07:12,784 3で掛け算をするのです 155 00:07:12,784 --> 00:07:15,208 この曲を聴くときには 156 00:07:15,208 --> 00:07:17,957 美を求めないでください 157 00:07:17,957 --> 00:07:22,383 これは世界で最も 聴くに堪えない音楽です 158 00:07:22,383 --> 00:07:25,925 まったくこんな曲を作曲できたのは 数学者だけです 159 00:07:25,925 --> 00:07:29,303 またこの曲を聴くときには どうか 160 00:07:29,303 --> 00:07:31,430 リピートを探してみて下さい 161 00:07:31,430 --> 00:07:33,919 何か楽しめるものを見つけてみて下さい 162 00:07:33,919 --> 00:07:36,717 何にも見つからないことが 楽しくなってきますよ 163 00:07:36,717 --> 00:07:38,150 いいですか 164 00:07:38,150 --> 00:07:40,689 もういいでしょう マイケル・リンビル氏 165 00:07:40,689 --> 00:07:43,524 ニュー・ワールド交響楽団の 室内アンサンブルの指揮者が 166 00:07:43,524 --> 00:07:48,154 完璧なソナー音の世界初演をお耳に入れます 167 00:07:49,293 --> 00:07:57,202 (音楽) 168 00:09:34,817 --> 00:09:36,679 どうもありがとう 169 00:09:36,679 --> 00:09:42,262 (拍手)