『ゼルダの伝説 Breath of the Wild』で 雨が降ると全てが変わる 岩肌はすべって登りづらくなる だがリンクの足音は消えるので 簡単に忍び寄れる 電気のダメージは劇的に増えるが 炎や爆弾の矢は 普通の矢になってしまう ビリビリヤンマなどの特定の生き物は 雨のときだけ現れる 人間は走って雨宿りをするし 焚き火は燃え尽きる どこかで巨大な水溜りを見つけても 太陽が昇ると蒸発してしまう 『BotW』の変化する天候システムは ただ見栄えを良くするだけでなく 他のほぼ全ての要素に手を伸ばして 影響を与えるのだ これが「システミックゲーム」の定義だ Ubisoft の元リードプログラマー Aleissia Laidacker はこう述べる 「システミックとはゲームの全ての要素が 繋がってることを意味します」 「これは1つの要素が他へ影響することを 目的に開発・設計されています」 ここ数年で、この種の相互接続性を持つ ゲームが爆発的に増えている 『MGS V』や『ゼルダの伝説』などの 日本製ゲームから ヨーロッパ製の野心作 『Kingdom Come: Deliverance』 『Mark of the Ninja』のような 独立系ゲームや Ubisoft のほぼ全ての 最新ゲームまで 例えば『Far Cry 4』には とても嬉しい仕様があって プレイヤーが敵や野生動物と 戦うだけではなく 敵も動物と戦えるのだ 逆もまたしかり この戦いは開発者が手作りした台本ではない 敵のシステムと、野生動物のシステムが ただ相互作用して… 虎が見張りの顔を切り裂いたのだ この仕組みは 「認識」と「法則」のおかげだ 超単純化して言えば―― ゲームの全ての実体には「入力」がある これで聞くことができる 『Far Cry 4』の虎の場合、それはプレイヤーや エサ、炎、敵のことかもしれない また実体には「出力」もあって 実体の存在を ゲーム世界へ発信している 入力と出力が一致し、実体が互いに 見たり触れたりできるとき、接続が確立する 法則に従うのはその時だ 虎と見張りの場合 法則上、顔が切り裂かれる だが他のゲームでは 木製の矢に着火して放火できたり オレンジ色のアマガエルが爆発して 地形を破壊したり キャンプファイアに雨が降って 火が消えたりする システミックゲームでは、あらゆる種類の 物体、キャラ、環境の断片と ゲームシステムがお互いを認識し それが作用する法則が必要になる だが重要なのか? システムがそれほど繋がっていないゲームよりも こっちの方が面白いのはなぜだろう? 1つの大きな利点は、プレイヤーが 面白い計画を立てられることだ 伝統的なゲームでは、実体が認識するのは プレイヤーだけで、他の要素はあまり認識しない つまり敵に作用するためには 直接的な手段を使うしかない すなわち、敵を撃つことだ だがシステミックゲームの実体は たくさんの要素を認識しているので 間接的な手段で敵に作用できる 例えば、檻の動物を解放して 近くの見張りへ攻撃させる つまりシステミックゲームの 決定的な特徴は―― 様々な実体やシステム同士の関係性を 計画に利用できることにある それらが一緒になったとき かなり知的な気分になる 『Watch Dogs 2』に良い見本がある 警察が追ってきたので 僕はそのままギャングの縄張りへ誘導して 屋上から警察とギャングの戦いを 眺めていた 警察が注意散漫になったので急いで立ち去り 指名手配から逃げ切った これは最高の気分だったし 警官に撃ちまくるよりもずっと面白かった システミックのもう1つの大きな利点は ドラマや驚きの瞬間を生み出せることだ 王立軍、反政府組織、怒れる像の 三つ巴の戦いみたいな感じだ 繰り返すが、台本が無いのにこれが自然発生したのは 色んな実体が 互いに認識し、互いに法則を持ち 同じ場所にいることに気づいたからだ こうした体験は 2つの理由でクールだと思う 1つは、面白い物語構造になるからだ プレイヤーが計画を立てて実行しようとしても 予想外の事態が連鎖して計画が台無しになるので それに対応する必要がある こうした出来事は 完全に自分だけの体験なので 全員が目にする超壮大な場面よりも 特別で記憶に残るものになると思う 誰もこの場面をツイートしてないだろ? だからシステミックゲームでは プレイヤーが面白い計画を立てられるし それが意外な体験になる これは「創発的ゲームプレイ」と呼ばれている 開発者が意図的に 設計したものではなく 複数のシステムが出会うことで出現する 解決策や状況のことだ とはいえ開発者の責任が 消えるわけではない 開発者は創発を可能にするために 何もかも準備しないといけない そのためには色んな実体に「認識」を 実装する必要がある 互いに認識する要素は 多いほど良い キャラ同士が戦うのも1つの手だが 敵が環境を破壊しても良いし 実体に昼夜の周期を認識させたり ゼルダの場合は 化学エンジンを丸ごと発明して 風、炎、氷などを実装したりしている 次に、一貫性のある「法則」が必要だ なぜなら AI の動画でも話したように プレイヤーが良い計画を立てるには 自分の行動にシステムがどう反応するのか ハッキリ分かってる必要があるからだ だが普遍的な法則も必要になる 例えば、木製のモノが燃えるなら 木の物体は全て燃えるべきだ こういう法則が破られるたび 世界の信憑性は低下し プレイヤーが今後 何かを試す可能性は低くなる そこで普遍的な接続性を 容易にするために 『Dishonored』共同ディレクター Harvey Smith と Raphael Colantonio の助言を紹介しよう 実体が特定の物体やキャラを 聞けるようにするのではなく 実体が「一般的な刺激」を出力できるようにする 例えば炎、貫通、爆発ダメージなどだ 次にその刺激を他の要素に 認識させるらしい この抽象化した層が 実体の追加や変更を容易にし プレイヤーは開発者が考えもしなかった接続性を 発見できるようになる 例えば Harvey Smith の代表作 『Deus Ex』では MIB が死に際に爆発することを利用して ドアを開けることができる ゼルダでも金属の物体を床に置くと 電気が流れて 自己流のやり方でパズルを解ける ちょっとズルい感じだが これこそがシステミックゲームの楽しさだ 1つしかないパズルの解法を 見つける代わりに システム固有の振る舞いを活用して 自分のやり方で目の前の問題を解決できるのだ また予想外な出来事を 頻繁に発生させたいなら システムが少し 不安定であることが大切だ プレイヤーが何もしていなくても システムを活動させて システムが自ら 移動・変化できるようにする これでシステムを自動化できる 例えば『BotW』の変化する天候は 予測不可能な雷雨を発生させる または AI に独自の目的と欲求を与えれば AI が動き回って 上手くいけば他の実体と 対立させることができる Okay 君はシステミックゲームを作った ゲームの全ての実体同士に 接続性を作って 一貫性がある普遍的な法則に 従わせている だが簡単に台無しになるので まだやるべき作業がある 多くのゲームは創発的な攻略を 促すことに失敗している 『MGS V』にはワクワクする機会が たくさんあるにもかかわらず 僕は静音麻酔銃で 多くのミッションを片付けてしまった より確実な攻略法があるなら なんで馬鹿げた計画で危険を冒すんだ? 『Hitman』は創造力を促すために Agent 47 の銃撃戦を弱くしてる ゼルダは物議を醸したが、武器が粉々になることで 創造的な攻略法を試すように促している また、あらゆる方法で 世界と相互作用できることも重要だ これは皆殺しよりも優れている 敵を殺すことは、本質的には 空間から実体を消すことであって 大抵はシステムで楽しむ機会を 減らしてしまう 実体をただ消すだけでなく 変更や追加できる手段を用意したい 警備システムをハッキングして 忠誠心を変えたり デコイ人形を膨らませて 敵を動揺させたりなどだ 一本道のミッションで選択肢が制限され 台無しなゲームもある 『Grand Theft Auto』は この点が痛い 優れたシステムがいっぱいあって 都市が活発で現実的に感じるし 警察の指名手配は、天才的な出来事だ これが無かったら『GTA』で民間人を殺しても 面白いことは起きないだろう だが殺人が指名手配システムに影響して パトカーが追ってくるので プレイヤーの行動の結果が ゲームの色んなシステムに波及する 最高だ だがメインミッションは台本で ものすごく直線的になり 画面上の指示にしっかり従わないと ありとあらゆる失敗判定が出てくる 『Far Cry』にもこの問題がある 野営地の面白さがメインミッションに無いのだ 野営地は色んなシステムのための 自由な実験場だ システミックのステージで重要なのはプレイヤーに 目標を与えることであって攻略手段ではない 自由な空間と、互いを認識し合う 大量の実体を用意すれば 良い計画や印象的な体験が 生まれる機会になる システミックでも独自の体験を 作れないゲームもある Ubisoft はありがたいことに、全てのゲームを 創発スリルの素材で満たそうとしているが 『Assassin’s Creed Origins』の野営地は 『Far Cry 4』と驚くほど似ている だから独自の体験を提供できるような システムの設定が大切だ 『Far Cry 2』の違いを見てくれ 火災の伝播や、悪者の徘徊などの システムがあるが この設計の目的はプレイヤーの危険を 煽ることだと思う 一方で暗殺シミュレーター 『Hitman』の方向性は真逆だ 完璧に統制されたシステムに 重点を置くことで プレイヤーはそこで 歯車を狂わせる役になるのだ 『Mafia 3』のようにシステムに メッセージを込めることだってできる 黒人地区の警察は 白人地区より駆けつけるのが遅い このゲームはシステムを通じて 語っているのだ ところで、こうしたシステミックの設計は 今に始まったことではない 何十年もシミュレーションゲームは この種の相互接続性を使って 現実世界のシステムを模倣してきた それは偶然にも、全知全能の存在として 見下ろし視点で遊ぶゲームだった 現在でもこういうゲームはある 例えば『Rimworld』や 相互接続性が馬鹿げてる 『Dwarf Fortress』とかだ このゲームでは緊急事態が起きる 例えばネコが死んでしまうのだが それはドワーフが飲酒中にワインをぶち撒け ネコが毛づくろいでワインを舐めてしまい アルコール中毒で死ぬという経緯だ 馬鹿げてるだろ 詳細は Eurogamer の 「Here’s A Thing」を視聴してくれ それから没入型シムがある 『Thief』や『Deus Ex』などのジャンルだが その核心は シミュレーションの設計を 一人称視点で1人のキャラを操作する 没入感のあるゲームに組み込むことだった それでこんな名前になった だからこそ僕は没入型シムの復活に 大喜びした 『Prey』や『Dishonored 2』などの 傑作のことだ でもこれらのゲームが商業的に 上手くいかなかったのでかなり落胆した だがこういう設計の人気が 明らかになった現在では 『Ultima Underworld』や『System Shock』にまで遡る 特定の遺産にゲームが限定される必要はない 大規模予算にも 低品質ヨーロッパ作品にも 没入型シムファンの独立系作品にも 実に奇妙なことに、ゼルダの最新作の中にも システミックの設計と、創発的ゲームプレイが あらゆるゲームの中に登場しつつある そういうのが大好きな人間としては 計画を立てて、それが大失敗するのを見るために この流行が次にどこへ向かうのか 非常に楽しみだ (字幕翻訳:Nekofloor) ご視聴ありがとう! システミックの設計は超複雑な内容なので この動画では表面的な部分しか触れていないが この分野の専門家からの大量の情報は 下の説明欄にあるリンクを参照してくれ