ここにいられることを
嬉しく思います
皆さんが
ここにいることも
だってそれは
少し変なことですから
みんなが ここにいることを
嬉しく思います
「ここ」というのは
この会場のことではなく
この町のことでもなく
ここのこと
地球です
「みんな」というのは
この会場にいる人ということではなく
地球上にいる
すべての生命
(笑)
複雑なものから
単細胞まで
菌類や キノコから
空飛ぶクマまで
ということです
(笑)
興味深いのは
地球は我々の知る
唯一生命のいる場所ということです
870万種の生物がいます
他の場所も見てきて
探し足りないのかも
しれませんが
どこにも
見つかっていません
地球は我々の知る
唯一生命のいる場所なんです
地球は特別なのでしょうか?
これは私が小さな頃から
答えを知りたかった疑問で
この会場にいる人の8割も
きっと同じ思いを
抱いていたのではと思います
太陽系内にせよ
太陽系外にせよ
生命を宿しうる惑星が
存在するか知るには
まずここにいる生命が
何を必要とするのか知ることです
870万種の生物がいる中で
生命が必要とするものは
たった3つです
左は 地球上の生命すべてが必要とする
エネルギーです
私たちのような複雑な生物は
太陽からエネルギーを得ていますが
地中深くに住む生き物は
化学反応などから
エネルギーを得ているかもしれません
惑星で利用できる
エネルギー源には
いろいろなものがあります
右は すべての生命が必要とする
食べ物ないしは栄養です
これは難しい注文に見えます
とくに瑞々しいトマトを食べたいという場合には
(笑)
しかしながら
地球の生命はすべて
栄養をたった
6つの元素から得ていて
この6つの元素は
太陽系のどの惑星でも
見つかります
そうすると 真ん中の
最も実現の難しい
条件が残ります
ヘラジカじゃなくて
水のことです
(笑)
ヘラジカは素敵だと
思いますけど
(笑)
凍った水でも 気体の水でもなく
液体の水です
これこそ すべての生命が
生きるために必要とするものです
そして太陽系の天体の多くは
液体としての水を持っていないので
ここでは考えません
中には 地球以上の
膨大な液体の水を
持っている天体も
あるかもしれませんが
氷の殻の下に
閉じ込められていて
到達するのが難しく
生命がそこにいるのか
知るのは困難です
そうすると 残るのは
ほんの一握りです
問題を簡単にするため
液体の水が地表にある惑星だけを
考えることにしましょう
地表に液体の水というと
考えられる惑星は
太陽系内に3つしかなく
太陽から近い順に
金星 地球 火星です
水が液体であるために
大気が必要です
大気については
絶妙なバランスが必要です
大気があまりに濃く
暖かすぎると
金星のように
高温になって
液体の水が
存在できません
一方で大気があまりに薄く
冷たすぎると
火星のように
寒すぎになってしまいます
金星は暑すぎ
火星は寒すぎ
地球はちょうどいい
後ろの映像を見ると
太陽系内で生命が生きられる場所は
自ずと明らかです
これは おとぎ話の
『3びきのくま』のような問題で
子供でも分かる
簡単な話です
しかしながら
『3びきのくま』の話には
みんなあまり
注意することのない
重要な点が
2つあると思います
第1に
ゴルディロックスが来た時には
母さんグマの器は
冷たすぎましたが
それは ずっと冷たかった
ということなのか
それとも いつかの時点では
ちょうどよい温度だったのか?
ゴルディロックスが
部屋に入った時間によって
答えは変わってくるのです
同じことが
惑星についても言えます
惑星は不変ではなく
変化します
進化していきます
大気だってそうです
例を挙げましょう
これは私の好きな
火星の写真です
最も高精細でも
最も美的でもなく
最新の写真という
わけでもありませんが
火星表面を刻む
河床の存在を示しています
河床は流れる液体の水で
削られてできたものです
河床は何百 何千 何万年もかけて
形成されます
今の火星では
起きえないことです
今の火星の大気は
薄すぎ 寒すぎて
液体の水が安定して
存在できません
この1枚の画像が
火星の大気は変化したこと
それも大きく変わったことを
示しています
そして その変化の前には
居住可能な状態があったのです
その昔には 生命の3つの条件が
充たされていたからです
地表に液体の水が存在できる
ようにしていた大気は
どこへ行って
しまったのでしょう?
1つの考えは 宇宙に逃げて
しまったというものです
大気の粒子が
火星の重力を振り切るのに
十分なエネルギーを得て
宇宙に飛散し
再び戻ってくることがなかった
これは大気のある
どの天体にも起きることです
彗星の尾は
大気の散逸を
目に見える形で示すものです
しかし金星や地球や
火星の大気もまた
時と共に散逸していきます
単に度合いやスケールが
違っているだけです
この大気の変化を
説明するため
大気がどの程度
散逸しているのかを知りたいのです
大気の粒子は
逃げ出すためのエネルギーを
どこから得るのでしょう?
話を少し簡単にすると
2つの方法があります
1つは太陽光です
太陽からの光が
大気の粒子に吸収されて
粒子を温めます
なんか踊っているみたいですが
(笑)
なんてことだ
結婚式でも踊らなかったというのに
(笑)
温められることによって
重力から抜け出すのに
十分なエネルギーを得るわけです
もう1つの方法は太陽風から
エネルギーを得るというものです
太陽の表面から
吐き出される粒子が
400km/秒という猛スピードで
太陽系を駆け抜けます
太陽嵐の時には
さらに速くなります
そして惑星間空間を抜けて
惑星とその大気に到達し
大気の粒子が
逃げ出すための
エネルギーを与えることも
考えられます
これが私の
興味を持っていることで
居住可能性に
かかわる話です
『3びきのくま』の話には
注意して欲しい点が
2つあると言いましたが
2つ目はもう少し
微妙なことです
父さんグマの器は
熱すぎ
母さんグマの器は
冷たすぎたなら
傾向から言って
赤ちゃんグマの器は
さらに冷たいはずでは
ないでしょうか?
ずっとそう思い込んでいたことでも
よくよく考えてみると
話はそう単純では
ないかもしれません
もちろん惑星の太陽からの距離が
温度を決め
これは居住可能性に
かかわることです
しかし他にも考えるべきことが
あるかもしれません
もしかすると
器そのものが
何がちょうどいいのか
という物語の結末に
影響を及ぼしている
かもしれません
この3つの惑星には
居住可能性に影響しうる
様々な違いがありますが
私自身の研究に関係するという
利己的な理由と
ここでリモコンを握っているのは私であって
皆さんじゃないという事実により —
(笑)
磁場について
少しお話ししたいと思います
地球には磁場があり
金星や火星にはありません
地球の奥深くにある
流動する液状の
導電性物質が
地球を覆う大きな磁場を
作り出していて
コンパスを持っていれば
どちらが北かわかります
金星や火星には
磁場はなく
コンパスを持っていたって
迷子になるのは必至です
(笑)
これは居住可能性に
影響するのでしょうか?
どう影響しうるのか?
多くの科学者は
磁場は 大気を守る盾のように
機能すると考えています
太陽風の粒子を
惑星からそらすのです
荷電粒子に対する
フォースフィールド
みたいなものとして
私はむしろサラダバーの
くしゃみカバーみたいに思っていますが
(笑)
後でこれを見た
同僚たちは
この分野の歴史上初めて
太陽風が鼻水と同一視されているのに
気付くことでしょう
(笑)
だから地球は
何十億年もの間
磁場に守られていて
大気が逃げなかったの
かもしれません
火星の方は
磁場がなく
その間守られずにいたので
大気の多くが
はぎ取られてしまい
居住可能な惑星から
今日の姿に
変わったのかもしれません
一方で 磁場は帆船の帆のように
働くかもしれないと
考える科学者もいます
惑星本体だけの場合よりも
多くのエネルギーが
太陽風から取り込まれる
ようにしていると
この磁場の帆は
太陽風からの
エネルギーを集め
より多くの大気が逃げ出す結果に
なっているのかも
検証を必要とする
考えですが
その効果や働きは
確かめるまでもありません
というのも
太陽風のエネルギーが
地球大気に取り込まれていることは
よく知られているからです
エネルギーは
磁場にそって極地へと流れ
実に美しいオーロラを
作り出します
体験すると
実に壮観なものです
エネルギーが流れ込んでいるのは
分かっています
どれほどの粒子が
飛び出していて
それに磁場が影響しているのかどうか
測定を試みています
問題を提示しましたが
答えはまだ分かっていません
まだ答えは
持ち合わせていませんが
取り組んでいます
どう取り組んでいるのかというと —
3つの惑星すべてに
探査機を送っています
今も軌道を
回っているものもあり
MAVEN は火星軌道を回っています
これには私自身
かかわっていて
ここコロラド大学から
指揮されています
大気流出を測定できるよう
設計されています
地球と金星についても
同様のデータを取っています
すべてのデータが揃ったら
それを突き合わせて
3つの惑星が
周囲の宇宙環境と
どのように相互作用して
いるのかが分かり
磁場が居住可能性に対し
重要な意味を持つかどうかも
分かるでしょう
なぜこんなことに
関心を持つべきなのか?
私はとても
関心を持っています
経済的にもですが —
(笑)
第1に この疑問への答えは
この3つの惑星について
多くのことを
教えてくれるでしょう
今日周囲の環境と
どう相互作用しているのかだけでなく
数十億年前にはどうで
昔は居住可能だったのかどうかも
それで私たちの
身近な大気について
分かるようになるでしょう
それだけでなく
3つの惑星から学んだ知識は
よその惑星の大気にも
適用できます
今や観測できるようになった
他の恒星系の惑星も含めて
たとえばケプラー探査機は
ここボルダーで製造と制御が
行われていますが
空にある切手ほどの
大きさの領域を
この2年ほど観測していて
何千という惑星を
発見しています
空の他の部分と
何も違わない
切手ほどの大きさの
領域の中でです
この20年の間に
太陽系外の惑星を
1つも知らないところから
あまりにたくさんあって
どれから調べ始めたらいいか
分からないというところまで来ました
どんなことでも助けになります
事実 ケプラーの観測結果や
その他のデータから
この銀河系だけで
二千億の恒星があり
平均すると恒星1つにつき
少なくとも1つ惑星があると
考えられています
それだけでなく
その惑星のうちの
400億から1000億個は
居住可能だろうと
見積もられています
我々の銀河だけでです
我々はそれらの惑星を
観測していますが
どれが実際居住可能かは
まだ分かっていません
それはまるでステージ上に
囚われているようで
(笑)
外には
他の世界があることが
分かっていて
是非知りたいと
思っています
問いただしてみたら
1つか2つ
自分のようなものが
あるのではないかと
しかし行くことは
まだできません
だから身近な
金星 地球 火星に対して
開発した道具を使って
他の状況に適用してみて
データから
合理的な推論をすれば
居住可能な惑星の
最有力候補がどれか
分かるようになるでしょう
少なくとも
今のところは
これが私たちのステージです
居住可能だと確かに分かっている
唯一の惑星です
じきにもっと
見つかるかもしれませんが
しかし今のところは
これが唯一の居住可能な惑星であり
私たちのステージです
私たちがここにいることを
本当に嬉しく思います
どうもありがとう
(拍手)