1 00:00:15,250 --> 00:00:17,333 今日皆さんにお話したいのは 2 00:00:17,334 --> 00:00:23,282 脳神経外科医としての私の興味深い経験です 3 00:00:23,283 --> 00:00:25,537 私は脳神経外科医として 4 00:00:25,538 --> 00:00:29,627 人間の悲劇と毎日向き合わなければなりません 5 00:00:30,397 --> 00:00:36,619 自動車事故や脳卒中の後などは本当に大変です 6 00:00:36,620 --> 00:00:40,455 脳の大部分が破壊されると 7 00:00:40,456 --> 00:00:46,126 残念ながら中枢神経系の自己修理は見込めません 8 00:00:46,127 --> 00:00:50,491 脳神経外科医としての私の夢は 9 00:00:50,491 --> 00:00:53,175 人の失った機能を取り戻すことです 10 00:00:53,176 --> 00:00:56,464 重度の身体障害を持ったままの人を 11 00:00:56,465 --> 00:00:59,818 毎日見るのは辛いからです 12 00:00:59,834 --> 00:01:02,569 おそらくこれが私が 13 00:01:02,569 --> 00:01:04,902 機能的脳神経外科の道を選んだ理由です 14 00:01:04,903 --> 00:01:07,106 機能的脳神経外科医が試みるのは 15 00:01:07,107 --> 00:01:12,641 外科手術を使って 失った機能を取り戻したり改善したりすることです 16 00:01:12,642 --> 00:01:17,220 よく知られているのが深部脳刺激療法です 17 00:01:18,800 --> 00:01:22,511 14年前 私は 18 00:01:22,512 --> 00:01:26,718 ある重大な発見に名を連ねました 19 00:01:26,718 --> 00:01:29,808 これが中枢神経系に重度の損傷がある患者さんの 20 00:01:29,809 --> 00:01:33,998 回復につながるかも知れないと思っています 21 00:01:33,999 --> 00:01:37,354 それが今日のお話です 22 00:01:37,355 --> 00:01:39,333 その前にここで 23 00:01:41,103 --> 00:01:46,001 二人の重要で並外れた登場人物をご紹介します 24 00:01:46,002 --> 00:01:50,514 彼ら無しでは今日の話はありません 25 00:01:51,894 --> 00:01:55,056 最初のひとりはここにはいません 26 00:01:55,057 --> 00:01:57,432 お分かりでしょうか 27 00:01:57,433 --> 00:02:01,632 正確に言うとこの牛の従兄弟にあたる 28 00:02:01,633 --> 00:02:03,956 南アメリカの牛です 29 00:02:03,957 --> 00:02:07,559 この牛の血清なしでは 30 00:02:07,560 --> 00:02:12,541 成人の脳細胞を培養することはできませんでした 31 00:02:12,542 --> 00:02:18,493 もう一人もここにはいませんが 牧草は食べません 32 00:02:18,494 --> 00:02:22,601 私の友人で共同研究者のジャン-フランソワ・ブルネ 33 00:02:22,602 --> 00:02:27,352 生物学者で彼の忍耐と議論好きな性格なしには 34 00:02:27,353 --> 00:02:31,746 脳細胞の培養はできなかったでしょう 35 00:02:31,747 --> 00:02:34,061 ではお話に戻りましょう 36 00:02:35,621 --> 00:02:40,673 14年前を想像してください 37 00:02:40,674 --> 00:02:43,465 当時私は脳外科のチーフレジデントでした 38 00:02:43,466 --> 00:02:49,442 チーフレジデントは 昼夜 救急の仕事で多忙です 39 00:02:49,443 --> 00:02:54,920 時には救急で脳の一部を取り除くことがあります 40 00:02:54,921 --> 00:02:58,259 交通事故などで脳浮腫になった時 41 00:02:58,260 --> 00:03:01,500 さもなければ患者さんが死ぬという時には 42 00:03:01,525 --> 00:03:04,502 頭蓋骨切除を行わなければなりません 43 00:03:04,503 --> 00:03:07,824 脳の一部を切除しなければならないこともあります 44 00:03:07,825 --> 00:03:11,206 生物学者のジャン-フランソワと私たちは 45 00:03:11,207 --> 00:03:13,571 「頻繁に摘出するこのような脳の一部を 46 00:03:13,571 --> 00:03:17,627 何かに活用できないか」と考えたのです 47 00:03:17,628 --> 00:03:19,952 ジャン-フランソワは患者さんの同意を得て 48 00:03:19,953 --> 00:03:23,279 「この脳組織で興味深いことができる」と言いました 49 00:03:23,280 --> 00:03:26,084 彼は色々な種類の血清で 50 00:03:26,085 --> 00:03:30,329 何度も何度も実験を試み 51 00:03:30,330 --> 00:03:34,652 先程紹介した牛の血清を使って 良い結果を得たのです 52 00:03:34,653 --> 00:03:39,112 ある日 彼が顕微鏡で見たものがこの写真です 53 00:03:39,113 --> 00:03:43,903 そこで発見した細胞は 54 00:03:43,904 --> 00:03:47,518 幹細胞に似ていました 55 00:03:47,519 --> 00:03:51,437 14年前の私たちは 56 00:03:51,438 --> 00:03:57,231 中枢神経系にある幹細胞は 57 00:03:57,232 --> 00:04:02,936 脳の奥深い2箇所の 小さな領域にあると考えていました 58 00:04:02,937 --> 00:04:07,409 しかし彼が皮質から採集したどのサンプルにも 59 00:04:07,410 --> 00:04:12,335 この種の細胞が見つかったのです 驚くべきことでした 60 00:04:12,336 --> 00:04:16,072 この種の細胞 61 00:04:16,083 --> 00:04:18,458 緑色に見える細胞がアストロサイト 62 00:04:18,464 --> 00:04:22,845 正常な脳では神経細胞を維持しています 63 00:04:22,846 --> 00:04:28,331 内側にある小さな丸い細胞は未成熟の神経細胞で 64 00:04:28,332 --> 00:04:31,750 これが成熟細胞になります 65 00:04:31,751 --> 00:04:35,850 当時は誰もが「皮質を培養しても 66 00:04:35,851 --> 00:04:40,885 幹細胞を見いだすのは不可能だ 67 00:04:40,886 --> 00:04:45,340 その培養細胞に脳の深部の幹細胞が 混ざってしまったに違いない」と言いました 68 00:04:45,341 --> 00:04:48,691 私たちは反論しました なぜならこの細胞は 69 00:04:48,692 --> 00:04:53,488 幹細胞とは違い ゆっくりと分裂し 70 00:04:53,489 --> 00:04:55,714 決して腫瘍を作らず 活動性は低く 71 00:04:55,715 --> 00:05:01,669 10から15週間の培養後に 死んでしまうからです 72 00:05:01,670 --> 00:05:05,589 更新を繰り返すものではないのです 73 00:05:06,319 --> 00:05:12,324 ついに私たちはこれらの細胞がどこから来たかを 突き止めました 74 00:05:12,325 --> 00:05:14,837 幹細胞からではありません 75 00:05:14,838 --> 00:05:18,876 この青く染色されている細胞からです 76 00:05:18,877 --> 00:05:21,599 あなたもこの細胞を脳にもっています 77 00:05:21,600 --> 00:05:24,674 ごく最近発見されたことです 78 00:05:24,675 --> 00:05:30,123 これらはダブルコーティン陽性細胞と呼ばれます 79 00:05:30,124 --> 00:05:33,327 胎児に豊富に見られるのは 80 00:05:33,328 --> 00:05:38,084 皮質の折りたたみ形成を促すからです 81 00:05:38,085 --> 00:05:44,642 大脳皮質は折りたたまれた構造になっており この細胞はそれを促すのです 82 00:05:44,643 --> 00:05:49,276 私たちはこの細胞は成人では消失してしまうと 考えていました 83 00:05:49,277 --> 00:05:52,816 それが違っていたのです 84 00:05:52,817 --> 00:05:57,656 皮質の細胞の4%は ダブルコーティン陽性細胞です 85 00:05:57,657 --> 00:06:00,748 それがどんな役割を持つか 86 00:06:00,749 --> 00:06:02,239 どんな細胞かも分かりません 87 00:06:02,240 --> 00:06:05,971 どこかに傷害がある時に役立つのか はっきりは分かりません 88 00:06:05,972 --> 00:06:08,404 分かっているのはこれらの細胞から 89 00:06:08,405 --> 00:06:11,577 先程お見せした 培養細胞が得られたということです 90 00:06:12,917 --> 00:06:15,870 生物学者が脳神経外科医と仕事をするとき 91 00:06:15,871 --> 00:06:18,004 脳神経外科医は常に実践的です 92 00:06:18,005 --> 00:06:22,424 「これで細胞がたくさん入手できる 何かをしてみよう」と 93 00:06:22,425 --> 00:06:24,895 先程言いました様に私たちは 94 00:06:24,896 --> 00:06:29,308 中枢神経系が自己修復できないことに 失望しています 95 00:06:29,309 --> 00:06:33,265 患者さんを助ける手がかりを 見つけたのではないかと思い 96 00:06:35,506 --> 00:06:39,511 ある考えにたどり着きました 97 00:06:40,641 --> 00:06:44,611 人の生検を行おう 98 00:06:46,491 --> 00:06:48,366 方法は分かっている 99 00:06:48,367 --> 00:06:53,213 その細胞を培養する―その方法も知っている 100 00:06:53,214 --> 00:06:55,416 培養した細胞に目印を付け 101 00:06:55,417 --> 00:06:59,251 それを脳の他の部位に移植する 102 00:07:00,501 --> 00:07:01,893 よし そうしよう 103 00:07:01,894 --> 00:07:04,849 もちろん最初に人には試せません 104 00:07:04,850 --> 00:07:11,084 マウスやラットのモデルで試すことは誰でも知ってるでしょう 105 00:07:11,109 --> 00:07:14,130 しかし残念ながらマウスやラットの大脳皮質には 106 00:07:14,131 --> 00:07:17,910 ダブルコーティン陽性細胞はありません 107 00:07:17,911 --> 00:07:21,507 なぜかは分かりませんが マウスやラットではだめです 108 00:07:21,508 --> 00:07:26,032 ほかの動物で実験です 109 00:07:26,033 --> 00:07:27,737 運良く見つかりました 110 00:07:27,738 --> 00:07:32,187 私の良い友人で私たちの考えを信じてくれた 111 00:07:32,209 --> 00:07:36,580 フリブールの生理学教授エリック・ルイレーです 112 00:07:36,581 --> 00:07:39,436 彼はスイス最大の猿の施設を持ち 113 00:07:39,437 --> 00:07:41,400 私たちを手助けしてくれました 114 00:07:41,401 --> 00:07:45,491 「あなた方の考えは素晴らしい 正しいやり方だと思う 115 00:07:45,496 --> 00:07:48,776 この2匹の猿で試しなさい」と言ってくれました 116 00:07:48,777 --> 00:07:50,581 私たちは喜びました 117 00:07:50,582 --> 00:07:52,107 まず 人でするのと全く同じ培養ができると 118 00:07:52,108 --> 00:07:55,319 証明できるのです 119 00:07:55,320 --> 00:07:59,532 なぜなら猿は人と全く同じ細胞の構成を 持っているからです 120 00:07:59,533 --> 00:08:03,472 培養細胞に印をつけ 移植しました 121 00:08:03,473 --> 00:08:06,457 最初の疑問は 122 00:08:06,459 --> 00:08:11,626 正常な脳に移植したら これらの細胞はどのような行動をとるか 123 00:08:12,796 --> 00:08:18,504 傷害部位に移植したら? 傷害に近い部分に移植したら? 124 00:08:19,884 --> 00:08:25,662 興味深いことに 正常な脳に移植された細胞は 消えてしまいました 125 00:08:25,663 --> 00:08:31,065 生検で 細胞を元の場所から取り出し 126 00:08:31,066 --> 00:08:35,416 培養し同じ猿に移植すると 127 00:08:35,417 --> 00:08:38,126 免疫応答がでません 128 00:08:38,153 --> 00:08:41,798 細胞は入るスペースがないと分かると 129 00:08:41,798 --> 00:08:45,029 「私は必要じゃないのね バイバイ」と言って いなくなってしまうのです 130 00:08:45,030 --> 00:08:48,539 しかし傷害部位の近くに移植すると 131 00:08:48,540 --> 00:08:52,579 「空きのスペースがある」と思い 132 00:08:52,584 --> 00:08:55,416 次第に順応し 133 00:08:55,417 --> 00:08:57,919 1カ月から1カ月半ぐらいで 134 00:08:57,920 --> 00:09:02,042 成長し成熟した神経細胞になります 135 00:09:02,043 --> 00:09:07,032 この写真は傷害部付近に移植して 3カ月後です 136 00:09:07,042 --> 00:09:10,785 赤く見えるのが移植した細胞です 137 00:09:10,786 --> 00:09:14,793 最初にお見せした小さな丸い細胞ではありませんね 138 00:09:14,794 --> 00:09:18,608 しかし軸索のある大きな神経細胞です 139 00:09:18,609 --> 00:09:22,347 それらはコロニー形成したと考えられます 140 00:09:23,872 --> 00:09:28,170 またこれらの細胞は 141 00:09:28,171 --> 00:09:31,541 私たちが培養した細胞と同じだと証明できます 142 00:09:33,876 --> 00:09:38,752 この赤い染料が私たちが培養に使ったものだからです 143 00:09:38,753 --> 00:09:43,716 緑の蛍光は成熟した神経細胞を示します 144 00:09:43,717 --> 00:09:47,858 これらの細胞には2種類の目印があります 145 00:09:47,859 --> 00:09:50,771 緑と赤 146 00:09:50,772 --> 00:09:54,030 それは以前培養されて 移植後に成熟した神経細胞を意味します 147 00:09:54,031 --> 00:09:55,390 つまり 未熟な神経細胞が 148 00:09:55,391 --> 00:09:57,845 成熟した神経細胞となったのです 149 00:09:57,846 --> 00:09:59,988 では次のステップは何でしょう? 150 00:09:59,989 --> 00:10:03,987 特に脳神経外科医が知りたいのは これが何を意味しているのかということです? 151 00:10:03,988 --> 00:10:07,673 これは正常に働いているのか? これらの細胞はあっていいものか? 152 00:10:07,674 --> 00:10:09,661 それでこの実験をしました 153 00:10:09,662 --> 00:10:15,488 数匹の猿に特別なタスクを訓練しました 154 00:10:15,489 --> 00:10:20,313 トレイに入れた食べ物を取り出すことです 155 00:10:20,314 --> 00:10:22,066 皆上手にできました 156 00:10:22,067 --> 00:10:26,879 時間をかけて習得させ 157 00:10:26,880 --> 00:10:29,904 とても良いレベルに達成しました 158 00:10:29,905 --> 00:10:33,609 その良いレベルが維持できるようになってから 159 00:10:33,610 --> 00:10:39,219 手の動きを司る大脳の皮質運動中枢に 160 00:10:39,220 --> 00:10:42,708 少し傷害を加えました 161 00:10:42,709 --> 00:10:46,001 もちろん直後には麻痺が起こります 162 00:10:46,019 --> 00:10:50,273 腕を動かすことができません タスクができなくなります 163 00:10:50,274 --> 00:10:53,263 しかし自然とはすごいものです 164 00:10:53,264 --> 00:10:56,458 動物には自然治癒力があります 165 00:10:56,459 --> 00:11:00,335 おそらく痙性麻痺のためでしょう 166 00:11:00,338 --> 00:11:04,185 動作はある程度まで回復します 167 00:11:04,186 --> 00:11:08,906 しかしその回復には限りがあります 168 00:11:10,356 --> 00:11:16,380 ここで生検を行い 細胞培養し それを脳に移植しました 169 00:11:16,381 --> 00:11:18,446 ご覧ください 170 00:11:18,447 --> 00:11:23,025 この映像が一番わかりやすいでしょう 171 00:11:24,515 --> 00:11:26,936 左側は 172 00:11:28,086 --> 00:11:32,337 猿が自然治癒した後での 173 00:11:32,338 --> 00:11:36,122 ベストな状態です 174 00:11:37,375 --> 00:11:41,375 右側は移植後2カ月 175 00:11:42,494 --> 00:11:46,004 移植をした猿たちは皆 176 00:11:46,005 --> 00:11:50,895 移植をしなかった猿たちより 動きが良くなりました 177 00:11:53,365 --> 00:11:55,893 素晴らしいと思います 178 00:11:58,003 --> 00:12:00,020 では次のステップはなんでしょう 179 00:12:00,021 --> 00:12:03,498 当然 いろいろなモデルで実験を続けました 180 00:12:03,499 --> 00:12:06,526 以来いろいろな発見がありました 181 00:12:06,527 --> 00:12:11,717 しかし 私の目的は人の回復に結びつけることです 182 00:12:13,827 --> 00:12:17,463 必要な過程をすべてクリアすることが どれほど難しいか理解するにつれて 183 00:12:17,464 --> 00:12:23,422 正直 意気込みが少ししぼんだ面もあります 184 00:12:23,423 --> 00:12:28,513 人に実験を試みるには認可も必要です 185 00:12:29,289 --> 00:12:33,072 しかし私が引退するまでには 成功できると期待しています 186 00:12:34,232 --> 00:12:36,537 ご静聴ありがとうございました 187 00:12:36,538 --> 00:12:38,138 (拍手)