1 00:00:00,843 --> 00:00:02,888 私が仕事で携わるモデル達の 2 00:00:02,888 --> 00:00:04,477 ビデオをお見せしたいと思います 3 00:00:04,477 --> 00:00:08,015 理想的なサイズで 脂肪なんて全くついていません 4 00:00:08,015 --> 00:00:10,553 とても美しいでしょう? 5 00:00:10,553 --> 00:00:13,683 科学実験のモデルなんですが(笑) 6 00:00:13,683 --> 00:00:16,026 ご想像の通り 私は再生医学者で 7 00:00:16,026 --> 00:00:18,475 これは私が研究室で作った 8 00:00:18,475 --> 00:00:20,691 拍動する心臓のビデオです 9 00:00:20,691 --> 00:00:22,573 いつの日かこれらの組織が 10 00:00:22,573 --> 00:00:25,517 人体の代替パーツとなるよう 期待されています 11 00:00:25,517 --> 00:00:27,797 しかし今日お話しするのは 12 00:00:27,797 --> 00:00:32,244 これらの組織の 研究モデルとしての有用性です 13 00:00:32,244 --> 00:00:34,971 創薬過程についてちょっと考えてみましょう 14 00:00:34,971 --> 00:00:37,949 薬を合成するところから始めて ラボでの実験 動物実験を経て 15 00:00:37,949 --> 00:00:40,452 人体実験ともいわれる 治験を行い 16 00:00:40,452 --> 00:00:42,717 その後 ようやく薬が市場へ出回ります 17 00:00:42,717 --> 00:00:45,860 金銭的にも時間的にも 大きなコストがかかります 18 00:00:45,860 --> 00:00:48,670 薬が市場に出回ったとしても 時には 19 00:00:48,670 --> 00:00:52,605 予想外の副作用を引き起こし 人々に害を与えることもあります 20 00:00:52,605 --> 00:00:56,692 副作用に気付くのが遅くなるほど 被害は大きくなります 21 00:00:56,692 --> 00:01:00,876 全ては2つの問題点に集約されます 1つ目はヒトとラットとの違い 22 00:01:00,876 --> 00:01:04,964 そして2つ目は ほぼ同じ ヒト同士でも 23 00:01:04,964 --> 00:01:07,405 僅かな個体差が 24 00:01:07,405 --> 00:01:09,914 薬の代謝や作用に 25 00:01:09,914 --> 00:01:11,783 大きく影響するということです 26 00:01:11,783 --> 00:01:14,615 もし ラットよりもヒトに近い上 27 00:01:14,615 --> 00:01:17,885 ヒトの多様性も再現できるような 28 00:01:17,885 --> 00:01:21,805 優れたモデルが研究に使えたらどうでしょう? 29 00:01:21,805 --> 00:01:25,732 再生医学がそれを可能にすることを ご覧に入れましょう 30 00:01:25,732 --> 00:01:28,261 ここでキーとなる重要な技術の1つに 31 00:01:28,261 --> 00:01:31,453 人工多能性幹細胞と呼ばれるものがあります 32 00:01:31,453 --> 00:01:33,971 ごく最近 日本で開発されました 33 00:01:33,971 --> 00:01:36,418 iPS細胞は 34 00:01:36,418 --> 00:01:38,531 ES細胞にとてもよく似ていますが 35 00:01:38,531 --> 00:01:40,748 倫理的に問題無い点が異なります 36 00:01:40,748 --> 00:01:43,647 人工的に誘導して作る細胞です 例えば皮膚細胞に 37 00:01:43,647 --> 00:01:46,154 数種の遺伝子を導入し 培養して作るわけです 38 00:01:46,154 --> 00:01:47,775 数種の遺伝子を導入し 培養して作るわけです 39 00:01:47,775 --> 00:01:50,482 iPS細胞は言ってみれば 皮膚細胞に細工をして 40 00:01:50,482 --> 00:01:53,266 細胞の記憶喪失のように 胚状態にしたものなのです 41 00:01:53,266 --> 00:01:55,978 そのため倫理的に問題ないのが 1つ目の長所です 42 00:01:55,978 --> 00:01:58,527 2つ目の長所は 自分の細胞を使って 43 00:01:58,527 --> 00:02:01,082 脳 心臓 肝臓など どんな組織でも 44 00:02:01,082 --> 00:02:03,605 つくることができる点です 45 00:02:03,605 --> 00:02:07,170 自分の心臓でも脳でも チップ上でモデルを 46 00:02:07,170 --> 00:02:09,802 つくることができるのです 47 00:02:09,802 --> 00:02:12,658 密度や挙動が予想可能な 組織生成の技術が 48 00:02:12,658 --> 00:02:15,490 モデルを創薬に応用するための 49 00:02:15,490 --> 00:02:18,162 もう一つの 欠かせない鍵となります 50 00:02:18,162 --> 00:02:21,274 これは我々が開発中の バイオリアクターの設計図で 51 00:02:21,274 --> 00:02:24,722 様々な規模で モジュール的に 組織を作れるようにするものです 52 00:02:24,722 --> 00:02:28,121 将来的にはこれを大規模に並列化し 53 00:02:28,121 --> 00:02:30,458 人間の組織が同時に何千と作れれば 54 00:02:30,458 --> 00:02:34,506 チップ上で治験を行うようなものになるでしょう 55 00:02:34,506 --> 00:02:38,301 更にiPS細胞ではこんなことも可能です 56 00:02:38,301 --> 00:02:40,850 例えば皮膚細胞を 57 00:02:40,850 --> 00:02:43,026 遺伝性疾患をもつ人から採取し 58 00:02:43,026 --> 00:02:45,282 それを元に組織を作れば 59 00:02:45,282 --> 00:02:47,250 再生医学の技術を用いて 60 00:02:47,250 --> 00:02:50,651 ラボ内で病気のモデルを 生成することができます 61 00:02:50,651 --> 00:02:54,235 ハーバード大の ケビン・エガン研究室での例ですが 62 00:02:54,235 --> 00:02:56,525 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の患者から 63 00:02:56,525 --> 00:02:59,240 iPS細胞をつくり 64 00:02:59,240 --> 00:03:01,869 ニューロンを生成しました 65 00:03:01,869 --> 00:03:04,312 iPS細胞をニューロンに分化させてみると 66 00:03:04,312 --> 00:03:07,464 驚いた事に このニューロンも ALSの症状を発症したのです 67 00:03:07,464 --> 00:03:09,563 このような疾患モデルを用いれば 68 00:03:09,563 --> 00:03:12,145 かつてない速さで病気を食い止め 69 00:03:12,145 --> 00:03:16,108 より深く病気を理解することができ 薬もずっと簡単に見つかるでしょう 70 00:03:16,108 --> 00:03:19,488 これは患者固有の幹細胞を使った 別の例で 71 00:03:19,488 --> 00:03:23,497 網膜色素変性の患者からつくられたものです 72 00:03:23,497 --> 00:03:25,251 これは網膜が衰える病気で 73 00:03:25,251 --> 00:03:28,008 私の家系にもこの病気が遺伝しているので 74 00:03:28,008 --> 00:03:30,232 iPS細胞による治療法の発見を願っています 75 00:03:30,232 --> 00:03:33,040 これらのモデルは一見良さそうですが 76 00:03:33,040 --> 00:03:36,481 ラット同等の有用性があるのか 疑問に思う人もいるかもしれません 77 00:03:36,481 --> 00:03:39,469 本質的に ラットは相互作用しあう 器官のネットワークを持つ 78 00:03:39,469 --> 00:03:41,175 完全な生物体です 79 00:03:41,175 --> 00:03:45,096 心臓の薬が肝臓で代謝されたり 80 00:03:45,096 --> 00:03:47,936 副産物が脂肪に蓄積される可能性があります 81 00:03:47,936 --> 00:03:52,463 再生医学によるモデルを使う実験では これらを見落とすのではないでしょうか? 82 00:03:52,463 --> 00:03:54,577 最近の傾向として 83 00:03:54,577 --> 00:03:57,444 再生医学技術とマイクロ流体学を 融合させることが 84 00:03:57,444 --> 00:03:59,608 主流になりつつあります 85 00:03:59,608 --> 00:04:02,114 つまり 複数の器官システムを持った 86 00:04:02,114 --> 00:04:04,514 完全な生体全体を再現するモデルを用いて 87 00:04:04,514 --> 00:04:06,117 血圧の薬の肝臓への影響や 88 00:04:06,117 --> 00:04:09,384 抗鬱薬の心臓への影響を 実験するのです 89 00:04:09,384 --> 00:04:13,456 このようなシステム構築は実に困難ですが 実現可能になりつつあるので 90 00:04:13,456 --> 00:04:16,760 見ていてください 91 00:04:16,760 --> 00:04:19,392 しかしこれで全てではありません なぜなら薬の承認後も 92 00:04:19,392 --> 00:04:23,074 再生医学技術はオーダーメイド治療の 開発に役立つからです 93 00:04:23,074 --> 00:04:26,816 これは皆さんが将来 興味をを持つ例かもしれません 94 00:04:26,816 --> 00:04:28,936 そうならないよう願いますが 95 00:04:28,936 --> 00:04:31,456 医者から電話で悪い知らせを告げられ 96 00:04:31,456 --> 00:04:34,664 ガンの疑いがあるなんてことになったとします 97 00:04:34,664 --> 00:04:37,200 抗がん剤が自分のガンに効くかどうか 98 00:04:37,200 --> 00:04:39,960 飲む前に実験で試してみたくありませんか? 99 00:04:39,960 --> 00:04:42,382 これはカレン・バーグ研究室の例で 100 00:04:42,382 --> 00:04:45,288 インクジェット技術を利用して 乳ガン細胞を印刷し 101 00:04:45,288 --> 00:04:47,759 ガンの進行と治療について研究したものです 102 00:04:47,759 --> 00:04:50,312 タフツ大学では このようなモデルを 103 00:04:50,312 --> 00:04:53,400 再生された骨と混ぜ合わせて ガンが体内のある部位から 104 00:04:53,400 --> 00:04:56,120 別の部位にどのように広がるのか実験しています 105 00:04:56,120 --> 00:04:58,504 このような複数の組織からなるチップが 106 00:04:58,504 --> 00:05:01,489 この類の研究の次世代を担うことでしょう 107 00:05:01,489 --> 00:05:03,911 このようなモデルについて考えると 108 00:05:03,911 --> 00:05:05,824 再生医学は将来的には 109 00:05:05,824 --> 00:05:08,280 創薬の各ステップに革命を起こす準備が 110 00:05:08,280 --> 00:05:11,058 できていることがお分かり頂けるでしょう 111 00:05:11,058 --> 00:05:13,632 薬物開発に貢献する疾患モデル作成や 112 00:05:13,632 --> 00:05:17,503 研究に革命をもたらす 大規模に並列化されたヒト組織モデルは 113 00:05:17,503 --> 00:05:21,728 臨床試験において動物実験や人体実験を減らします 114 00:05:21,728 --> 00:05:23,420 またオーダーメイド医療など 115 00:05:23,420 --> 00:05:27,008 考えられなかった市場まで覆します 116 00:05:27,008 --> 00:05:29,552 本質的には 分子の合成と 117 00:05:29,552 --> 00:05:31,875 人体における作用を研究する過程の間で 118 00:05:31,875 --> 00:05:34,224 フィードバックを劇的に高速化しているのです 119 00:05:34,224 --> 00:05:36,552 我々がこれを行うプロセスは 本質的には 120 00:05:36,552 --> 00:05:41,413 生物工学や薬学を情報技術へと変え 121 00:05:41,413 --> 00:05:44,392 新薬の発見や評価を 122 00:05:44,392 --> 00:05:47,608 速く 安く 効率的に済ませられるようにしているのです 123 00:05:47,608 --> 00:05:51,688 動物実験に対して モデルならではの 優位性がお分かりいただけると思います 124 00:05:51,688 --> 00:05:58,503 ありがとうございました (拍手)