0:00:01.018,0:00:05.322 職場の机の上に 小さな器を置いています 0:00:05.322,0:00:09.785 大学時代に作った楽焼という種類の陶器です 0:00:09.785,0:00:14.292 楽焼は何世紀も前に日本で 0:00:14.292,0:00:18.339 茶道の茶碗を作るために生み出されました 0:00:18.339,0:00:21.604 これは400年以上前の作品です 0:00:21.604,0:00:26.068 楽焼は粘土を指先でつまんだり[br]ヘラで削ったりして作りますが 0:00:26.068,0:00:30.364 その不完全さゆえに愛されてきました 0:00:30.364,0:00:38.436 このような普通の陶器は[br]8~10時間かけて焼き上げます 0:00:38.436,0:00:41.545 これは先週 窯から取り出したばかり 0:00:41.545,0:00:46.029 窯自体も冷ますのに数日かかります 0:00:46.029,0:00:50.832 でも楽焼はとっても早いんです[br]屋外で窯を熱し 0:00:50.832,0:00:55.387 15分で800℃まで上がったら 0:00:55.387,0:00:59.045 釉薬が溶けてツヤが出てきますから 0:00:59.045,0:01:01.863 すぐ窯の火を落とし 0:01:01.863,0:01:04.450 火ばさみを入れて 0:01:04.450,0:01:08.935 作品を掴みます[br]日本ではこの赤く熱い状態で 0:01:08.935,0:01:13.849 すぐ緑茶に浸します 0:01:13.849,0:01:17.081 その蒸気がどんな香りか想像できますね 0:01:17.081,0:01:20.246 しかしアメリカでは少し手法が違って 0:01:20.246,0:01:23.911 取り出した作品を おがくずの上に置きます 0:01:23.911,0:01:26.935 火が着きます ゴミ箱の中で 0:01:26.935,0:01:31.847 更におがくずをかけると煙が吹き出します 0:01:31.847,0:01:36.727 煙臭い服で帰宅することになります 0:01:36.727,0:01:41.825 私は楽焼が大好きです[br]いろいろ遊べますから 0:01:41.825,0:01:46.321 土から形を作れるし 釉薬も選べる 0:01:46.321,0:01:50.625 ただし火と煙は受け入れなければなりません 0:01:50.625,0:01:53.090 思いも寄らないことが起きるのも魅力です 0:01:53.090,0:01:56.363 例えばこのヒビ模様は[br]陶器に負荷がかかってできました 0:01:56.363,0:01:58.974 800℃から一気に 0:01:58.974,0:02:03.053 常温まで冷却するからです 0:02:03.053,0:02:09.004 楽焼は創造の過程を[br]見事に象徴しています 0:02:09.004,0:02:12.769 私は様々な物事の中に葛藤を見出します 0:02:12.769,0:02:16.204 自分でコントロールできるものと[br]受け入れざるを得ないもの 0:02:16.204,0:02:19.998 いつでもあります[br]新しいラジオ番組を作る時にも 0:02:19.998,0:02:25.083 家で10代の息子たちと話し合う時にも 0:02:25.083,0:02:29.057 創造について本を書いているとき 0:02:29.057,0:02:31.541 順序が逆だったと気づきました 0:02:31.541,0:02:35.190 まず最初にすべきは受け入れること 0:02:35.190,0:02:39.794 何百人もの芸術家 作家 音楽家 0:02:39.794,0:02:44.269 映画監督たちの体験談に浸り[br]耳を傾けているうちに 0:02:44.269,0:02:49.581 創造の種というのは 意外なことに 0:02:49.581,0:02:52.909 日常的な経験の中に落ちているものだと 0:02:52.909,0:02:56.613 気づきました その一つが 0:02:56.613,0:02:59.533 受け入れること 0:02:59.533,0:03:03.323 割れるはずだったんですが[br]まあいいでしょう(笑) 0:03:03.323,0:03:06.272 これも受け入れの一例です[br]起きることもあれば 0:03:06.272,0:03:09.677 起きないこともある 創造というものは 0:03:09.677,0:03:12.454 壊れた所から生まれるものでもありますから 0:03:12.454,0:03:15.101 学ぶための最善の方法は 0:03:15.101,0:03:19.135 他の人の体験談を聞くことです[br]私がご紹介するのは 0:03:19.135,0:03:24.317 仕事と遊びについて[br]そして私たち自身の創造力を 0:03:24.317,0:03:26.713 開花させるために 0:03:26.713,0:03:30.781 取り入れるべき4つの人生訓です 0:03:30.781,0:03:32.797 一つ目はすごく簡単そうで 0:03:32.797,0:03:37.003 最近難しくなってきたこと 0:03:37.003,0:03:40.998 自分の周りの世界に注意を払うことです 0:03:40.998,0:03:45.453 多くの芸術家は心を開くことが必要と言います 0:03:45.453,0:03:48.893 経験を受け入れるためです 0:03:48.893,0:03:52.511 でも手元に携帯電話でもあると難しくなる 0:03:52.511,0:03:56.098 気が散りますからね 0:03:56.098,0:04:00.238 映画監督のミーラー ・ ナーイルは[br]ブバネスワルという 0:04:00.238,0:04:04.843 インドの小さな町で育った経験を[br]話してくれました 0:04:04.843,0:04:08.536 これはその町にある寺院です 0:04:08.536,0:04:11.408 ナーイル: [br]この小さな町に約2,000の寺院がありました 0:04:11.408,0:04:14.264 いつもクリケットをしていました 私たちは 0:04:14.264,0:04:17.520 瓦礫の中で育ったようなものです[br]私が影響を受け 0:04:17.520,0:04:21.168 この道へと導かれ[br]映画監督になった最大の要因は 0:04:21.168,0:04:24.720 町へ巡業に来た旅役者の劇団でした 0:04:24.720,0:04:28.032 私はそこで激しい戦いを見ました 0:04:28.032,0:04:31.448 2人の役者が善と悪に分かれ戦うのです 0:04:31.448,0:04:33.984 校庭で 小道具もないのですが 0:04:33.984,0:04:37.679 溢れる情熱と大麻はありました[br]感動的でした 0:04:37.679,0:04:40.473 マハーバーラタとラーマーヤナの民話は 0:04:40.473,0:04:43.968 二大聖典で その叙事詩によると全てのものは 0:04:43.968,0:04:47.498 インドで生まれたそうです[br]ジャトラという演劇を見た後 0:04:47.498,0:04:52.488 私も演じたいと思いました 0:04:52.488,0:04:54.395 バースティン:素晴らしい話ですよね 0:04:54.395,0:04:56.815 チャンスは日常の中にあるのです 0:04:56.815,0:04:59.534 校庭でも そこには善と悪があり 0:04:59.534,0:05:05.067 情熱と大麻があるなんて[br]ミーラー ・ ナーイルは 0:05:05.067,0:05:08.665 何千もの観客の中にいた一人の少女でしたが 0:05:08.665,0:05:11.615 彼女には準備ができていました 0:05:11.615,0:05:14.744 ひらめきを受け入れる準備が 0:05:14.744,0:05:17.359 そしてそれが彼女を導き 0:05:17.359,0:05:20.162 賞を獲るほどの映画監督にしたのです 0:05:20.162,0:05:22.983 心を開き 自分を変えるかもしれない経験を 0:05:22.983,0:05:25.916 受け入れること[br]これが一つ目です 0:05:25.916,0:05:31.695 これも芸術家が語ることですが[br]最も力強い作品とは 0:05:31.695,0:05:36.567 人生における苦難から生まれるものです 0:05:36.567,0:05:40.221 小説家リチャード ・ フォードは 0:05:40.221,0:05:44.263 幼年期から今日に至るまで[br]闘い続けている課題について 0:05:44.263,0:05:49.023 語ってくれます[br]彼は重度の識字障害なのです 0:05:49.023,0:05:51.930 フォード:私は読むのが遅く 0:05:51.930,0:05:55.762 学校でも最低限しか読めなかった 0:05:55.762,0:05:58.290 いまだに黙読していても 0:05:58.290,0:06:01.138 速度は音読とさほど変わりません 0:06:01.138,0:06:04.914 でも識字障害のおかげで利点もありました 0:06:04.914,0:06:08.059 自分に合った遅さが判ってからは 0:06:08.059,0:06:12.554 本当にゆっくりと 私は言語の特性や 0:06:12.554,0:06:16.086 文章の素晴らしさを理解できるようになったのです 0:06:16.086,0:06:18.898 言語をただ認知するのではなく 0:06:18.898,0:06:22.011 シンコペーションや語感 0:06:22.011,0:06:23.854 単語がどう並び 段落はどこで切れ 0:06:23.854,0:06:26.881 どこで改行されているか[br]つまり私は識字障害とはいえ 0:06:26.881,0:06:29.819 読めないわけじゃなかった[br]速度を落とせば読めたのです 0:06:29.819,0:06:34.362 そして じっくりと[br]文章に食らいついていたら 0:06:34.362,0:06:38.722 図らずも言語の別の特性を[br]継承することになりました 0:06:38.722,0:06:41.986 おかげで物書きになれたのです 0:06:41.986,0:06:46.066 バースティン: 非常に力強いですね[br]ピューリッツァー賞受賞者のフォードが 0:06:46.066,0:06:51.218 識字障害が文章を書くのに役立ったと言うのです 0:06:51.218,0:06:53.989 彼は課題を受け入れるしかなかった 0:06:53.989,0:06:58.102 克服ではなく[br]識字障害を受け入れることが必要だったのです 0:06:58.102,0:07:01.610 彼は識字障害から学び[br]言語の奏でる音楽を 0:07:01.610,0:07:04.674 聴く必要があったのです 0:07:04.674,0:07:09.244 また 芸術家たちは 0:07:09.244,0:07:12.638 自らの可能性の限界を押し上げ 0:07:12.638,0:07:15.986 時として不可能に攻め入る[br]すると自分の声に 0:07:15.986,0:07:19.225 耳を澄ますことができると語ります 0:07:19.225,0:07:23.370 彫刻家リチャード ・ セラは 0:07:23.370,0:07:26.290 画家を自認し 大学院を卒業後 0:07:26.290,0:07:30.569 フィレンツェに住んでいた[br]若い頃のことを語ってくれました 0:07:30.569,0:07:33.138 彼はその時期にマドリードへ行きました 0:07:33.138,0:07:35.852 この絵を見にプラド美術館へ行ったのです 0:07:35.852,0:07:39.612 スペインの画家ディエゴ・ベラスケスの描いた 0:07:39.612,0:07:44.716 1656年の作品「ラス ・ メニーナス」です 0:07:44.716,0:07:46.925 幼い皇女と侍女の絵ですが 0:07:46.925,0:07:50.612 金髪の皇女の肩越しに鏡がありますね 0:07:50.612,0:07:53.988 そこに映るのは皇女の両親 0:07:53.988,0:07:57.285 スペイン国王夫妻です 0:07:57.285,0:08:00.690 夫妻が立つ その場所に今[br]立っているのは 0:08:00.690,0:08:02.465 絵を見ているあなたです 0:08:02.465,0:08:07.532 ベラスケスはよくやるのですが[br]ここに自分自身を描いています 0:08:07.532,0:08:12.225 左側に立ち 片手に絵筆[br]もう一方の手には 0:08:12.225,0:08:14.629 パレットを持っています 0:08:14.629,0:08:16.657 セラ:その絵の前に立った時 0:08:16.657,0:08:19.267 ベラスケスが私を見ていると気づきました 0:08:19.267,0:08:23.262 「ああ 絵の主題は私なのか」と 0:08:23.262,0:08:25.514 そして思いました[br]「私に こんな絵は描けない」 0:08:25.514,0:08:28.715 当時 私は時間を計って 0:08:28.715,0:08:33.153 闇雲に四角を描きまくったりしていましたが 0:08:33.153,0:08:35.171 何の成果もなかったので[br]家に戻って 0:08:35.171,0:08:38.401 すべての絵をアルノ川に捨てました[br]そして遊び回ることにしました 0:08:38.401,0:08:41.233 バースティン: 彼はサラッと言いましたが 0:08:41.233,0:08:44.841 聞きましたか[br]リチャード・セラは 0:08:44.841,0:08:48.609 300年も前に亡くなった画家の作品を見て 0:08:48.609,0:08:52.481 「私には出来ない」と悟った[br]だからリチャード・セラは 0:08:52.481,0:08:55.312 フィレンツェのスタジオに戻り[br]それまでの全作品を 0:08:55.312,0:08:59.115 川に投げ捨てた 0:08:59.115,0:09:03.051 その時リチャード ・ セラは絵を描くことを諦めたのです 0:09:03.051,0:09:06.577 しかし芸術は諦めなかった[br]彼はニューヨークに移り 0:09:06.577,0:09:09.491 リストを作りました 0:09:09.491,0:09:12.779 「丸める」「 しわくちゃにする」「 折る」 0:09:12.779,0:09:15.475 100以上の動詞を書き出しました 0:09:15.475,0:09:17.512 そして遊んでみました[br]書き出したことを 0:09:17.512,0:09:20.829 あらゆる素材で試したのです[br]巨大な鉛のシートを丸めたり 0:09:20.829,0:09:24.627 広げたりしました[br]ゴムでもやりました 0:09:24.627,0:09:29.803 「持ち上げる」が出て来た時 0:09:29.803,0:09:34.901 彼はこれを作りました[br]近代美術館所蔵です 0:09:34.901,0:09:37.861 リチャード ・ セラは絵画を諦めねばならなかった 0:09:37.861,0:09:41.301 この遊び心の探求を始めるために 0:09:41.301,0:09:44.571 彼の代表作である巨大な鉄板のカーブ 0:09:44.571,0:09:50.149 観る側の時間と動きを利用して[br]体感させる作品です 0:09:50.149,0:09:53.886 リチャード ・ セラは 彫刻によって 0:09:53.886,0:09:57.157 絵画で出来なかったことを[br]実現しているのです 0:09:57.157,0:10:01.653 彼の芸術の主題は我々です 0:10:01.653,0:10:05.589 経験と課題 そして 0:10:05.589,0:10:09.249 限界を受け入れることで 0:10:09.249,0:10:11.845 創造力は開花するのです 0:10:11.845,0:10:15.405 そして四つ目[br]これが一番の難題です 0:10:15.405,0:10:17.765 喪失を受け入れること 0:10:17.765,0:10:22.055 喪失は太古の昔から[br]人間が経験してきたことです 0:10:22.055,0:10:24.878 創造するために 私たちは 0:10:24.878,0:10:28.678 現実と希望の狭間に立ち 0:10:28.678,0:10:33.485 拒絶や悲嘆[br]戦争や死を 0:10:33.485,0:10:36.059 直視せねばなりません 0:10:36.059,0:10:38.449 なかなか厳しいことです 0:10:38.449,0:10:43.838 教育者パーカー・パーマーの言う「悲壮のギャップ」です 0:10:43.838,0:10:47.805 悲しいからではなく[br]避けられないから悲壮なのです 0:10:47.805,0:10:50.845 友人のディック・ノデルなら こう言うでしょう 0:10:50.845,0:10:53.789 「バイオリンの弦のような緊張があればこそ 0:10:53.789,0:10:57.225 美しいものを作り出せるんだ」 0:10:57.225,0:11:00.363 その緊張は写真家ジョエル・マイエロヴィッツの作品にも 0:11:00.363,0:11:03.573 表れています[br]彼は街の瞬間を捉える 0:11:03.573,0:11:06.813 ストリート・フォトで世に出ましたが 0:11:06.813,0:11:10.495 美しい風景写真でも有名です 0:11:10.495,0:11:14.179 トスカーナやケープコッドの風景や 0:11:14.179,0:11:16.861 光の写真です 0:11:16.861,0:11:20.130 彼はニューヨーカーで[br]スタジオは長年 0:11:20.130,0:11:24.128 チェルシーにありました ダウンタウンから 0:11:24.128,0:11:27.043 世界貿易センターが一望できるところです[br]そして彼は 0:11:27.043,0:11:31.376 様々な光に輝く建物を撮りました 0:11:31.376,0:11:35.026 どんな話になるかお判りでしょう 0:11:35.026,0:11:37.514 9/11 彼は不在でした[br]ニューヨークを離れていたので 0:11:37.514,0:11:42.113 急いで帰り現場へ駆けつけました 0:11:42.113,0:11:44.238 破壊された現場です 0:11:44.238,0:11:46.417 マイエロヴィッツ: 他の通行人と同様に 0:11:46.417,0:11:49.317 チェンバーズ通とグリニッジ通に張られた[br]金網塀のところで 0:11:49.317,0:11:51.515 私は立っていました 0:11:51.515,0:11:55.185 見えたのは煙と僅かな瓦礫[br]私はカメラを構え 0:11:55.185,0:11:58.185 覗いて見ました[br]何か見えるものはないかと 0:11:58.185,0:12:02.529 すると警官が 女性の警官が私の肩を叩き 0:12:02.529,0:12:04.969 「撮影禁止!」と制しました 0:12:04.969,0:12:08.193 それは大きな衝撃で[br]私は正気に戻りました 0:12:08.193,0:12:12.249 戻るべくして 戻ったんですが 0:12:12.249,0:12:14.292 警官になぜ撮影禁止か尋ねると 0:12:14.292,0:12:17.383 「犯罪の現場で撮影は不可だ」と 0:12:17.383,0:12:18.852 「私がマスコミの人間だったら?」 0:12:18.852,0:12:21.056 と聞くと 警官は 0:12:21.056,0:12:25.150 「あれを見なさい」と[br]1ブロック後ろに記者団がいて 0:12:25.150,0:12:28.960 狭い囲いに押し込められていました 0:12:28.960,0:12:30.481 「記者には いつ撮影許可が?」 0:12:30.481,0:12:32.963 「許可は出ないでしょうね」 0:12:32.963,0:12:37.454 その場を去りながら[br]自分の考えが形になるのを感じました 0:12:37.454,0:12:40.248 あの衝撃は[br]ある種の侮辱でした 0:12:40.248,0:12:42.423 そして思いました[br]「写真がなければ 0:12:42.423,0:12:45.929 記録が残せない[br]我々には記録が必要だ」 0:12:45.929,0:12:47.799 「では私がその記録を作ろう」 0:12:47.799,0:12:50.086 こんな重大な事を[br]消滅させてたまるか 0:12:50.086,0:12:51.954 何とかして方法を見つけよう 0:12:51.954,0:12:56.197 バースティン:彼は見つけました[br]頼みの綱をすべて手繰って 0:12:56.197,0:12:58.710 現場に入る許可を得ました 0:12:58.710,0:13:02.942 そこで彼は9ヶ月間ほぼ毎日撮影しました 0:13:02.942,0:13:05.886 これらの写真を見ると私は当時 0:13:05.886,0:13:08.791 家族の元へと帰った夜に[br]服に染み付いていた 0:13:08.791,0:13:10.788 煙の臭いを思い出します 0:13:10.788,0:13:14.206 私の職場は現場から[br]ほんの数ブロック先でした 0:13:14.206,0:13:17.822 しかし こうした写真の中には[br]美しい作品もあるので 0:13:17.822,0:13:20.937 私たちは疑問に思うのです[br]あの惨状で 0:13:20.937,0:13:25.279 こんな美しいものを撮るのは[br]難しかったのではないか 0:13:25.279,0:13:28.645 マイエロヴィッツ:まあ確かに[br]酷いというか強烈で 0:13:28.645,0:13:32.016 悲惨で恐ろしかった[br]しかし 0:13:32.016,0:13:36.312 壮大な出来事でもありました 0:13:36.312,0:13:41.478 事件後 あたりの様子は一変し[br]残った姿も 0:13:41.478,0:13:43.294 他の廃墟と同様 0:13:43.294,0:13:47.143 — コロッセオでも[br]どこかの大聖堂の遺跡でも — 0:13:47.143,0:13:51.780 見る見るうちに[br]新しい意味を帯びてくるのです 0:13:51.780,0:13:53.653 あの辺りは午後になると 0:13:53.653,0:13:57.303 光がピンク色になって[br]もやがかかります 0:13:57.303,0:14:01.334 足元には瓦礫 そこに立って 0:14:01.334,0:14:05.218 自然が持つ美しさと 0:14:05.218,0:14:07.972 時が過ぎ 自然がこの傷を消していくという 0:14:07.972,0:14:11.367 事実とを感じていました 0:14:11.367,0:14:15.201 時を止めることは出来ない[br]そして時は現実の姿を変え 0:14:15.201,0:14:17.530 あの日はどんどん遠ざかっていきます 0:14:17.530,0:14:21.885 光や季節の移り変わりが[br]事態を鎮めます 0:14:21.885,0:14:26.029 ロマンチストだから言うのではありません[br]私は現実主義です 0:14:26.029,0:14:29.513 現実にはウールワースビルが 0:14:29.513,0:14:35.341 煙に包まれている[br]でも 煙が紗の幕となって 0:14:35.341,0:14:39.285 舞台はピンク色に染まるのです 0:14:39.285,0:14:42.388 見下ろせばホースで[br]放水が行われていましたが 0:14:42.388,0:14:45.397 日が暮れて明かりが灯れば[br]水はナトリウム灯に— 0:14:45.397,0:14:49.425 照らされて黄緑色に見える[br]私は思ったのです 0:14:49.425,0:14:51.602 「こんな光景を[br]誰が想像できただろうか?」 0:14:51.602,0:14:55.803 私はそこにいて とにかく 0:14:55.803,0:14:57.697 撮るしかないと思いました 0:14:57.697,0:15:00.890 バースティン:「撮るしかない」[br]ジョエルの話からは 0:15:00.890,0:15:06.690 緊迫感と使命感が[br]強く伝わってきます 0:15:06.690,0:15:10.043 最近彼に会ったのですが 0:15:10.043,0:15:13.828 面倒な手続きを踏んでもやり抜く 0:15:13.828,0:15:18.411 彼の熱烈なこだわりと意思の強さを褒めたら 0:15:18.411,0:15:20.587 彼は笑って言いました[br]「頑固なんだよ 0:15:20.587,0:15:22.991 ただ それ以上に重要なのは 私が 0:15:22.991,0:15:26.452 熱烈に楽観的であるという事だろうね」 0:15:26.452,0:15:29.255 私が初めてこの話をした時[br]聴衆の一人がこう言いました 0:15:29.255,0:15:32.745 「いずれも芸術論ではなく[br]芸術家の— 0:15:32.745,0:15:37.483 仕事論ですね[br]自分と結びつけて聞いていました 0:15:37.483,0:15:40.151 私は芸術家ではありませんが 0:15:40.151,0:15:44.779 創造に関わる仕事をしていますから」[br]その通りです 0:15:44.779,0:15:49.395 経験 課題 限界 喪失[br]我々は皆 闘っています 0:15:49.395,0:15:51.646 創造力は誰にとっても不可欠です 0:15:51.646,0:15:54.299 科学者だろうと 教師だろうと 0:15:54.299,0:15:58.658 親だろうと 企業家だろうと 0:15:58.658,0:16:00.835 最後にもう一つ 0:16:00.835,0:16:03.929 日本の茶碗をお見せしましょう 0:16:03.929,0:16:06.899 ワシントンのフリーア美術館所蔵です 0:16:06.899,0:16:09.435 100年以上前の作品ですが 0:16:09.435,0:16:13.078 陶工がつまんだ指の跡が残っています 0:16:13.078,0:16:15.995 しかしご覧の通り100年の間に 0:16:15.995,0:16:18.715 割れた形跡も残っています 0:16:18.715,0:16:21.475 修復した職人は 0:16:21.475,0:16:24.039 割れ目を隠すのではなく 0:16:24.039,0:16:29.755 金蒔絵を施して 割れ目を強調したのです 0:16:29.755,0:16:34.199 この茶碗は一度割れたことにより[br]作られた時より 0:16:34.199,0:16:37.211 なお一層美しくなりました 0:16:37.211,0:16:39.441 この割れ目は伝えてくれています 0:16:39.441,0:16:41.806 創造と破壊 0:16:41.806,0:16:45.483 コントロールと受け入れ[br]修復と 0:16:45.483,0:16:50.410 新しいものを作り出すこと[br]私たちは皆 0:16:50.410,0:16:52.409 その循環の中で生きているのだと 0:16:52.409,0:16:56.963 ありがとうございました