WEBVTT 00:00:00.917 --> 00:00:06.393 本日は 読書が私たちの人生を どのように変えるのか 00:00:06.417 --> 00:00:08.792 また その限界についても お話ししたいと思います 00:00:09.750 --> 00:00:14.018 力強い人々の絆という 共有しうる世界をいかに読書が 00:00:14.042 --> 00:00:16.750 もたらしてくれるかを お話ししたいと思います 00:00:17.833 --> 00:00:21.393 もちろん そのつながりは ほんの一部であることも確かですし 00:00:21.417 --> 00:00:26.500 読書は孤独で 独自の作業であることも 間違いありません NOTE Paragraph 00:00:27.625 --> 00:00:30.476 私の人生を変えたのは 00:00:30.500 --> 00:00:34.934 アフリカ系米国人の偉大な作家 ジェームズ・ボールドウィンでした 00:00:34.958 --> 00:00:38.226 私が育った1980年代の ミシガン西部では 00:00:38.250 --> 00:00:42.167 社会変化に関心を持つアジア系米国人作家は 多くはありませんでした 00:00:43.292 --> 00:00:46.518 この空白を埋めたり 人種を意識する方法として 00:00:46.542 --> 00:00:50.583 ジェームズ・ボールドウィンに 目を向けたのだと思います 00:00:51.958 --> 00:00:55.934 しかし 自分はアフリカ系米国人では ないと意識していたからでしょうか 00:00:55.958 --> 00:01:00.476 彼の言葉に挑発されたように 感じたこともありました 00:01:00.500 --> 00:01:02.625 特にこの言葉でした 00:01:03.458 --> 00:01:07.059 「りっぱな態度のリベラル派はいるが 00:01:07.083 --> 00:01:09.241 本物の信念を持ち合わせている者はいない 00:01:10.083 --> 00:01:14.018 いざという時に 頼りにしようとしても 00:01:14.042 --> 00:01:16.518 どういうわけか その場にはいない」 00:01:16.542 --> 00:01:19.351 どういうわけか その場にはいない 00:01:19.375 --> 00:01:21.726 私は その言葉を文字通りに 受け止めました 00:01:21.750 --> 00:01:23.458 では どこに行こうか? NOTE Paragraph 00:01:24.500 --> 00:01:26.518 私は ミシシッピ・デルタに向かいました 00:01:26.542 --> 00:01:29.684 米国でも貧しい地域のひとつです 00:01:29.708 --> 00:01:32.601 力強い歴史に形作られた場所です 00:01:32.625 --> 00:01:37.598 1960年代にアフリカ系米国人は 命を賭けて 教育や 00:01:37.598 --> 00:01:39.737 選挙権を求めました 00:01:40.625 --> 00:01:45.069 私は 若者が高校を出て 大学に行けるよう支援することで 00:01:45.069 --> 00:01:46.792 この変化に加わりたかったのです 00:01:48.250 --> 00:01:50.976 私がミシシッピ・デルタに到着した時も 00:01:51.000 --> 00:01:53.434 そこは 相変わらず貧しく 00:01:53.458 --> 00:01:55.184 差別が残っており 00:01:55.208 --> 00:01:57.750 劇的な変化が必要な場所でした NOTE Paragraph 00:01:58.958 --> 00:02:02.393 私が着任した学校は 00:02:02.417 --> 00:02:06.726 図書室はなく 進路指導教員もおらず 00:02:06.750 --> 00:02:09.726 代わりに警察官がいるような学校でした 00:02:09.750 --> 00:02:12.309 教師の半数は臨時教員で 00:02:12.333 --> 00:02:14.309 生徒がケンカをすると 00:02:14.333 --> 00:02:18.208 学校はその生徒を 郡刑務所に送りました NOTE Paragraph 00:02:20.250 --> 00:02:23.226 この学校でパトリックと出会いました 00:02:23.250 --> 00:02:28.184 彼は 15歳でしたが 2年留年して 8年生でした 00:02:28.208 --> 00:02:30.684 物静かで内省的な少年で 00:02:30.708 --> 00:02:33.518 いつも物思いにふけっていました 00:02:33.542 --> 00:02:36.333 彼は 誰かがケンカするのが 大嫌いでした 00:02:37.500 --> 00:02:41.309 ある時は 女子2人のケンカに割って入り 00:02:41.333 --> 00:02:44.042 彼自身が叩きのめされたこともあります 00:02:45.375 --> 00:02:47.893 パトリックには ひとつだけ問題がありました 00:02:47.917 --> 00:02:49.868 学校に来ようとしないのです 00:02:51.249 --> 00:02:53.726 彼は 学校はあまりにも 気が滅入るんだと言いました 00:02:53.750 --> 00:02:56.792 みんなケンカばかりで 先生たちはやめてしまうからです 00:02:58.042 --> 00:03:03.500 また 母親は2つの仕事を掛け持ちし 息子を登校させるには疲れ果てていました 00:03:04.417 --> 00:03:07.184 そこで 私が彼を 学校に連れてくることにしました 00:03:07.208 --> 00:03:11.268 私は 無謀な22歳で 思い切り楽天的だったので 00:03:11.292 --> 00:03:13.434 私の作戦は 彼の家に行き 00:03:13.458 --> 00:03:15.583 「学校に行こう」と 声を掛けることでした 00:03:16.542 --> 00:03:18.184 実際 この作戦は功を奏して 00:03:18.208 --> 00:03:20.643 彼は 毎日登校するようになり 00:03:20.667 --> 00:03:23.059 クラスで頭角を現し始めました 00:03:23.083 --> 00:03:26.000 彼は詩を書き 読書もしました 00:03:26.917 --> 00:03:29.208 毎日学校にやってきました NOTE Paragraph 00:03:31.042 --> 00:03:32.518 私がパトリックと 00:03:32.542 --> 00:03:35.226 うまくやっていく方法を 思いついたのと同じ頃に 00:03:35.250 --> 00:03:37.458 私は ハーバード・ロー・スクールに 受かったのです 00:03:39.583 --> 00:03:42.934 また同じ問題に直面しました 00:03:42.958 --> 00:03:44.667 自分の行くべき先は? 00:03:45.458 --> 00:03:48.101 そして こう考えました 00:03:48.125 --> 00:03:51.643 ミシシッピ・デルタは お金がある人や 00:03:51.667 --> 00:03:53.559 機会に恵まれた人々が 00:03:53.583 --> 00:03:55.065 出て行ってしまう場所です 00:03:55.875 --> 00:03:57.309 取り残されてしまうのは 00:03:57.333 --> 00:03:59.833 出て行く機会を持たない人です 00:04:00.833 --> 00:04:03.101 私は 出て行ったりしたくなかった 00:04:03.125 --> 00:04:05.167 私は ここに残る人になりたかった 00:04:06.333 --> 00:04:09.268 その一方で 私は孤独で疲れていました 00:04:09.292 --> 00:04:12.750 そこで 一流の法学位を取れれば 00:04:14.125 --> 00:04:17.708 もっと大きな変化が起こせると 自分を納得させたのです 00:04:19.541 --> 00:04:20.931 私は 街を離れました NOTE Paragraph 00:04:22.750 --> 00:04:24.351 3年後に 00:04:24.375 --> 00:04:26.768 ロー・スクールの卒業直前に 00:04:26.792 --> 00:04:28.518 友達が電話してきました 00:04:28.542 --> 00:04:33.458 パトリックがケンカに巻き込まれ 人を殺したと言うのです 00:04:35.333 --> 00:04:37.393 私は 絶句しました 00:04:37.417 --> 00:04:39.851 信じられないという思いと 00:04:39.875 --> 00:04:42.542 これは現実なんだという気持ちが 交錯しました 00:04:43.583 --> 00:04:45.583 私は パトリックに会いに行きました 00:04:46.750 --> 00:04:49.458 刑務所に面会に行きました 00:04:50.542 --> 00:04:54.184 彼は 本当なんだと言いました 00:04:54.208 --> 00:04:56.601 人を殺したというのです 00:04:56.625 --> 00:04:58.875 それ以上は 話したがりませんでした 00:04:59.833 --> 00:05:01.851 学校はどうしたのと聞くと 00:05:01.875 --> 00:05:06.018 私がいなくなった1年後に 中退したと言いました 00:05:06.042 --> 00:05:08.684 そして まだ何か言いたそうでした 00:05:08.708 --> 00:05:10.250 彼は視線を落とすと 00:05:10.250 --> 00:05:13.768 娘が生まれたばかりなんだと 言いました 00:05:13.792 --> 00:05:16.375 娘を失望させたと感じたのだと 00:05:18.625 --> 00:05:22.000 そこで会話は 気まずく途切れました NOTE Paragraph 00:05:23.417 --> 00:05:28.476 刑務所の外に出た時 自分の心の声が聞こえました 00:05:28.500 --> 00:05:29.768 「戻ってきなさい 00:05:29.792 --> 00:05:33.083 今ここで戻らなければ 二度と戻ってこない」 00:05:36.292 --> 00:05:39.875 そこで 私は ロー・スクールを卒業して 戻りました 00:05:40.833 --> 00:05:42.518 パトリックに会いに戻ったのです 00:05:42.542 --> 00:05:45.500 法的な支援ができないかどうか 確かめに向かったのです 00:05:46.917 --> 00:05:50.268 2度目の面会の時に 00:05:50.292 --> 00:05:52.559 いいことを思いつきました 00:05:52.583 --> 00:05:56.184 「パトリック 娘さんに手紙を書いて 00:05:56.208 --> 00:05:59.976 いつも思い出せるようにしたら?」 00:06:00.000 --> 00:06:03.684 彼にペンと紙を差し入れると 00:06:03.708 --> 00:06:05.333 パトリックは書きだしました NOTE Paragraph 00:06:06.542 --> 00:06:09.351 でも 彼が返してきた手紙を見て 00:06:09.375 --> 00:06:10.905 私はショックを受けました 00:06:13.000 --> 00:06:15.101 私には 彼の書いたものが 読めませんでした 00:06:15.125 --> 00:06:17.958 単純な綴りさえ 間違えていたのです 00:06:19.167 --> 00:06:21.851 そこで こう思いました 00:06:21.875 --> 00:06:25.351 生徒が 短期間で 劇的に成長するのは 00:06:25.375 --> 00:06:28.434 教師として知っていたけれど 00:06:28.458 --> 00:06:32.125 あっという間に 忘れてしまうなんて 想像もつかなかったと 00:06:34.375 --> 00:06:36.268 もっとつらかったのは 00:06:36.292 --> 00:06:39.476 パトリックが娘に書いた内容でした 00:06:39.500 --> 00:06:40.893 こう書いていたのです 00:06:40.917 --> 00:06:45.208 「ごめん 一緒にいられない パパを許してくれ」 00:06:46.458 --> 00:06:49.292 たったこれだけしか 言えなかったのです 00:06:50.250 --> 00:06:54.559 どうすれば 彼には 謝る必要のない部分もあって 00:06:54.583 --> 00:06:58.000 それをもっと伝えたらいいのだと 説得できるかを自問しました 00:06:58.958 --> 00:07:02.176 もっと娘と分かち合うことがあると 00:07:02.176 --> 00:07:04.208 感じてほしいと思いました NOTE Paragraph 00:07:05.917 --> 00:07:09.101 その後7か月間 毎日 00:07:09.125 --> 00:07:11.809 本を持って訪問しました 00:07:11.833 --> 00:07:15.684 私のトートバッグは ミニ図書館になりました 00:07:15.708 --> 00:07:17.768 私はジェームズ・ボールドウィンを 00:07:17.792 --> 00:07:22.684 ウォルト・ホイットマン C.S. ルイスを持参し 00:07:22.708 --> 00:07:27.518 樹木や鳥の図鑑や 00:07:27.542 --> 00:07:30.995 愛用するようになるであろう 辞書も持っていきました 00:07:31.667 --> 00:07:33.351 ある時は 00:07:33.375 --> 00:07:37.167 2人とも無言で 何時間も読書に耽りました 00:07:38.083 --> 00:07:39.934 また別の日には 00:07:39.958 --> 00:07:43.476 一緒に読むこともありました 詩を読んだのです NOTE Paragraph 00:07:43.500 --> 00:07:47.393 俳句を読むことから始めました 何百もの俳句です 00:07:47.417 --> 00:07:50.309 シンプルながらも名作でした 00:07:50.333 --> 00:07:53.143 「好きな俳句を教えて」と 彼に頼んだものです 00:07:53.167 --> 00:07:56.226 本当に面白いものもありました 00:07:56.250 --> 00:07:58.101 小林一茶の作品です 00:07:58.125 --> 00:08:01.833 「隅の蜘蛛案じな煤はとらぬぞよ」 00:08:02.750 --> 00:08:07.292 「今迄は罪もあたらぬ昼寝哉」 00:08:08.667 --> 00:08:13.101 そして 初雪を詠んだ美しい作品です 00:08:13.125 --> 00:08:17.583 「さをしかのゑひしてなめるけさの霜」 00:08:19.250 --> 00:08:22.268 どこかミステリアスで美しく 00:08:22.292 --> 00:08:24.934 まさに詩の姿そのものです 00:08:24.958 --> 00:08:29.583 余韻が 言葉そのものと同様に 大切なのです NOTE Paragraph 00:08:31.375 --> 00:08:33.893 W.S. マーウィンの詩も読みました 00:08:33.917 --> 00:08:38.143 彼の妻が庭仕事をしている姿を 書いたものです 00:08:38.167 --> 00:08:42.042 そして 残りの人生をずっと 共に過ごしていくことに気づくのです 00:08:43.167 --> 00:08:45.518 「好きな時に戻れるとしたら 00:08:45.542 --> 00:08:48.934 それなら春だ 00:08:48.958 --> 00:08:52.143 私たちは もう年を取ったりしない 00:08:52.167 --> 00:08:56.101 ゆっくりと迎える朝の中 00:08:56.125 --> 00:08:59.893 これまでの悲しみは 淡い雲のように晴れる」 00:08:59.917 --> 00:09:03.309 パトリックの好きな一節は どれかを聞きました 00:09:03.333 --> 00:09:06.875 「私たちは もう年を取ったりしない」 00:09:08.375 --> 00:09:12.809 彼は 時の流れが止まってしまった場所 00:09:12.833 --> 00:09:15.768 時間を忘れてしまうような場所を 思い出すというのです 00:09:15.792 --> 00:09:20.268 永遠の時間が流れるこんな場所が あったのかと聞いてみました 00:09:20.292 --> 00:09:21.958 「僕の母だ」と彼は答えました 00:09:23.875 --> 00:09:28.184 誰かと一緒に詩を読むと 00:09:28.208 --> 00:09:30.463 詩が持つ意味が変わってきます 00:09:31.333 --> 00:09:36.000 それは 人にとっても 自分にとっても 個人的なものになるからです NOTE Paragraph 00:09:37.500 --> 00:09:40.184 その後は 本当にたくさんの本を読みました 00:09:40.208 --> 00:09:43.351 フレデリック・ダグラスの自伝を読みました 00:09:43.375 --> 00:09:46.976 彼は 米国の奴隷でしたが 独学で読み書きを学び 00:09:47.000 --> 00:09:50.333 文字が読めたおかげで 自由を得られたのです 00:09:51.875 --> 00:09:54.518 私は フレデリック・ダグラスを 英雄だと思って育ったので 00:09:54.542 --> 00:09:57.750 この物語が 励みや希望になると 考えたのです 00:09:58.917 --> 00:10:01.750 でも この本のせいで パトリックはうろたえてしまいました 00:10:02.875 --> 00:10:07.934 彼は ダグラスが書いた ある話にこだわりました 00:10:07.958 --> 00:10:11.059 奴隷には自由が手に余ることを示すため 00:10:11.083 --> 00:10:14.559 クリスマスに主人が 奴隷にジンを渡すというものです 00:10:14.583 --> 00:10:17.522 奴隷たちは 畑で酔いつぶれてしまうからです 00:10:19.500 --> 00:10:21.500 パトリックはよくわかると言いました 00:10:22.333 --> 00:10:25.809 刑務所にいる人の中にも 奴隷のように 00:10:25.833 --> 00:10:28.059 自分の状況を考えたがらない人が いると言ったのです 00:10:28.083 --> 00:10:29.893 それは あまりにも辛いから 00:10:29.917 --> 00:10:32.101 過去を思い出したり 00:10:32.125 --> 00:10:35.458 今後の長い道のりを 考えたりするのがつらいからです NOTE Paragraph 00:10:36.958 --> 00:10:39.851 彼のお気に入りは 次の一節でした 00:10:39.875 --> 00:10:43.476 「何であれ 考えるのはやめるんだ! 00:10:43.500 --> 00:10:48.542 状況を考え続ければ いつまでも苦しみが続く」 00:10:49.958 --> 00:10:53.917 パトリックは ダグラスは書き続け 考え続けるから勇敢だと言いました 00:10:55.083 --> 00:11:00.643 しかし 私にはパトリックが ダグラスの姿と重なって見えたのです 00:11:00.667 --> 00:11:04.417 彼はパニックになりながらも 読み続けました 00:11:05.250 --> 00:11:08.309 彼は 私よりも先に本を読み終えました 00:11:08.333 --> 00:11:12.247 明かりのないコンクリートの 階段で読んだのです NOTE Paragraph 00:11:13.583 --> 00:11:16.309 そして 私のお気に入りのひとつ 00:11:16.333 --> 00:11:18.518 マリリン・ロビンソンの 『Gilead』へと進みました 00:11:18.542 --> 00:11:22.684 これは 父から息子に宛てた 長い手紙です 00:11:22.708 --> 00:11:25.059 彼は この一節が大好きでした 00:11:25.083 --> 00:11:27.268 「どうか聞いてくれ 00:11:27.292 --> 00:11:30.601 自分は 何を成し遂げたのかと 迷うことがあったとしたも 00:11:30.625 --> 00:11:32.643 お前は いつだって神からの恵みだった 00:11:32.667 --> 00:11:35.833 奇跡 いや 奇跡以上の存在だった」 NOTE Paragraph 00:11:37.375 --> 00:11:43.018 この言葉が持つ何かが ― その愛や切望 その声が 00:11:43.042 --> 00:11:45.500 パトリックの書きたいという気持ちを 掻き立てました 00:11:46.292 --> 00:11:49.393 彼は 何冊ものノートを 00:11:49.417 --> 00:11:52.726 娘宛ての手紙で埋め尽くしました 00:11:52.750 --> 00:11:55.684 これらの美しく こまごまとした手紙の中で 00:11:55.708 --> 00:12:01.684 娘と2人でミシシッピ川を カヌーで進む姿を想像しました 00:12:01.708 --> 00:12:04.518 澄み切った水が流れる 00:12:04.542 --> 00:12:06.708 渓流を想像したものです 00:12:08.042 --> 00:12:10.083 パトリックが書く姿を見て 00:12:11.250 --> 00:12:13.393 私は自分で考えてみました 00:12:13.417 --> 00:12:15.476 皆さんにもお聞きしたいと思います 00:12:15.500 --> 00:12:20.792 失望させてしまった相手に 手紙を書いたことがある人はいますか? 00:12:22.042 --> 00:12:27.125 その相手を忘れてしまう方が はるかに楽です 00:12:28.083 --> 00:12:32.726 パトリックは 毎日毎日 娘と向き合いました 00:12:32.750 --> 00:12:35.684 娘への責任を感じ 00:12:35.708 --> 00:12:39.417 一言一言に 一心に集中していたのです NOTE Paragraph 00:12:42.417 --> 00:12:44.958 私は自分の人生で 00:12:46.042 --> 00:12:49.101 こんな風に危うさと 対峙できたらと思いました 00:12:49.125 --> 00:12:52.750 それは その危うさによって 心の強さが分かるからです 00:12:56.625 --> 00:13:00.684 ここで立ち戻って 答えにくい質問をしたいと思います 00:13:00.708 --> 00:13:04.417 このパトリックの物語を語る 私には一体どんな資格があるのか? 00:13:06.042 --> 00:13:09.018 パトリックこそが この苦しみと対峙した本人であり 00:13:09.042 --> 00:13:13.208 私にそのような日は 一日たりともなかったのです 00:13:15.250 --> 00:13:17.018 何度もこの質問について考えました 00:13:17.042 --> 00:13:20.768 しかし パトリックだけの物語ではないと 言いたいと思います 00:13:20.792 --> 00:13:22.309 これは 私たちの物語です 00:13:22.333 --> 00:13:24.833 私たちの間にある 不平等さについてです 00:13:25.667 --> 00:13:27.083 この豊かな世界は 00:13:28.375 --> 00:13:32.018 パトリックや彼の両親 彼の祖父母が 00:13:32.042 --> 00:13:33.851 締め出されてしまった世界です 00:13:33.875 --> 00:13:37.103 この物語では 私が豊かな世界を体現しています 00:13:37.792 --> 00:13:41.601 この物語を語る時に 自分のことや自分の持てる力を 00:13:41.625 --> 00:13:44.292 隠したくはありませんでした NOTE Paragraph 00:13:45.333 --> 00:13:48.893 この物語を語ることで その力を日の目にさらし 00:13:48.917 --> 00:13:51.309 そして尋ねたいのです 00:13:51.333 --> 00:13:54.250 この距離をどうやって消し去るのか? 00:13:56.250 --> 00:13:59.851 読書は この距離を縮める 方法のひとつだと思います 00:13:59.875 --> 00:14:04.309 私たちが共有できる静かな世界を与え 00:14:04.333 --> 00:14:06.583 平等に分かち合えるのです NOTE Paragraph 00:14:08.500 --> 00:14:11.601 パトリックはどうしただろうと お思いでしょう 00:14:11.625 --> 00:14:13.606 読書が彼の人生を救ったのでしょうか? 00:14:14.583 --> 00:14:16.858 そうだとも そうではないとも言えます 00:14:17.875 --> 00:14:20.768 パトリックが出所してからの 00:14:20.792 --> 00:14:23.343 道のりは 耐え難いものでした 00:14:24.292 --> 00:14:27.768 前科のため 雇ってくれる人はおらず 00:14:27.792 --> 00:14:30.934 彼の良き理解者である 母親は心臓病と糖尿病で 00:14:30.958 --> 00:14:33.434 43歳で亡くなりました 00:14:33.458 --> 00:14:36.167 彼に家はなく 飢えていました NOTE Paragraph 00:14:38.250 --> 00:14:42.792 だから 読書について 大げさなことを言う人もいました 00:14:43.792 --> 00:14:47.768 文字が読めるようになっても 彼への差別はなくならなかった 00:14:47.792 --> 00:14:50.417 母親の死を防ぐこともできなかった 00:14:51.708 --> 00:14:54.083 では 読書がもたらすものとは? 00:14:55.375 --> 00:14:59.333 いくつかの答えで 締めくくりたいと思います NOTE Paragraph 00:15:00.667 --> 00:15:03.417 読書で 彼の内面が豊かになりました 00:15:05.083 --> 00:15:08.143 その神秘や想像力 美しさが 00:15:08.167 --> 00:15:09.572 内面を変えたのです 00:15:10.292 --> 00:15:14.625 読書によってイメージや 喜びがもたらされました 00:15:15.417 --> 00:15:20.976 山 海 鹿 霜など 00:15:21.000 --> 00:15:25.125 自由と自然界を感じる言葉です 00:15:27.625 --> 00:15:31.143 彼が失ったものを読書が補ったのです 00:15:31.167 --> 00:15:35.809 デレック・ウォルコットの一節が どれほどかけがえのない物であったか 00:15:35.833 --> 00:15:38.059 パトリックはこの詩を暗唱しました 00:15:38.083 --> 00:15:40.184 「私が抱いた日々 00:15:40.208 --> 00:15:42.476 私が失った日々 00:15:42.500 --> 00:15:45.726 日々は娘たちのように成長し 00:15:45.750 --> 00:15:47.626 私の両腕はさまよう」 NOTE Paragraph 00:15:48.667 --> 00:15:51.643 読書は彼に勇気を教えたのです 00:15:51.667 --> 00:15:54.976 彼はフレデリック・ダグラスを 00:15:55.000 --> 00:15:57.143 いくら辛くても読み続けましたよね 00:15:57.167 --> 00:16:00.899 彼はどんなに苦しくても 意識的であろうとしました 00:16:02.208 --> 00:16:04.768 読むことは 考えることです 00:16:04.792 --> 00:16:08.851 考えなくてはならないから 読むことは難しいのです 00:16:08.875 --> 00:16:13.125 パトリックは 考えることをやめず 考え続けることを選びました 00:16:16.000 --> 00:16:19.958 そして読書は 娘に話しかける言葉を 彼に与えました 00:16:21.375 --> 00:16:24.601 彼は読むことで 書きたいと思ったのです 00:16:24.625 --> 00:16:28.768 読書と書くことは 強く結びついています 00:16:28.792 --> 00:16:30.851 私たちが 読み始めると 00:16:30.875 --> 00:16:32.958 言葉が見つかります 00:16:33.958 --> 00:16:38.601 彼は2人を結び付ける言葉を 見つけたのです 00:16:38.625 --> 00:16:40.333 どれほど 娘を― 00:16:41.958 --> 00:16:44.208 愛しているのかを 伝える言葉を見つけました NOTE Paragraph 00:16:46.042 --> 00:16:49.976 読書は 私たちの関係も変えたのです 00:16:50.000 --> 00:16:52.059 視点の違いを超えて 00:16:52.083 --> 00:16:54.976 互いに歩み寄る機会を 与えてくれました 00:16:55.000 --> 00:16:57.684 そして 読書は不平等な関係を取り除き 00:16:57.708 --> 00:17:00.375 束の間の平等を与えてくれました 00:17:02.125 --> 00:17:05.059 読者としての誰かに出会うことは 00:17:05.083 --> 00:17:07.059 すっかり新しい 00:17:07.083 --> 00:17:08.791 新鮮な出会いになります 00:17:09.875 --> 00:17:13.083 どの一節が彼の気に入るかは 分かりません 00:17:14.458 --> 00:17:17.666 どんな思い出や嘆きを 抱いているのか分かりません 00:17:18.833 --> 00:17:22.833 彼の究極の内面と直面するわけです 00:17:23.666 --> 00:17:27.101 すると「私の内面とは何なのか?」と 考え始めます 00:17:27.125 --> 00:17:30.375 誰かと分かち合えることが あるでしょうか? NOTE Paragraph 00:17:33.000 --> 00:17:34.578 締めくくりに 00:17:36.208 --> 00:17:40.500 パトリックが娘に宛てた手紙の 私の大好きな一節をお読みします 00:17:41.333 --> 00:17:44.101 「川には 暗い場所があっても 00:17:44.125 --> 00:17:47.393 木漏れ日が輝いている 00:17:47.417 --> 00:17:50.976 枝にはマルベリーが豊かに実っている 00:17:51.000 --> 00:17:54.458 手を伸ばして つかみ取るんだ」 00:17:56.042 --> 00:17:58.476 この手紙には こうも書いています 00:17:58.500 --> 00:18:02.851 「目を閉じて 言葉に耳を澄ましてごらん 00:18:02.875 --> 00:18:05.059 私は この詩をそらんじている 00:18:05.083 --> 00:18:07.917 君にもそうして欲しいんだ」 NOTE Paragraph 00:18:09.375 --> 00:18:11.184 ありがとうございます NOTE Paragraph 00:18:11.208 --> 00:18:14.500 (拍手)