0:00:00.917,0:00:06.393 本日は 読書が私たちの人生を[br]どのように変えるのか 0:00:06.417,0:00:08.792 また その限界についても[br]お話ししたいと思います 0:00:09.750,0:00:14.018 力強い人々の絆という[br]共有しうる世界をいかに読書が 0:00:14.042,0:00:16.750 もたらしてくれるかを[br]お話ししたいと思います 0:00:17.833,0:00:21.393 もちろん そのつながりは[br]ほんの一部であることも確かですし 0:00:21.417,0:00:26.500 読書は孤独で 独自の作業であることも[br]間違いありません 0:00:27.625,0:00:30.476 私の人生を変えたのは 0:00:30.500,0:00:34.934 アフリカ系米国人の偉大な作家[br]ジェームズ・ボールドウィンでした 0:00:34.958,0:00:38.226 私が育った1980年代の[br]ミシガン西部では 0:00:38.250,0:00:42.167 社会変化に関心を持つアジア系米国人作家は[br]多くはありませんでした 0:00:43.292,0:00:46.518 この空白を埋めたり[br]人種を意識する方法として 0:00:46.542,0:00:50.583 ジェームズ・ボールドウィンに[br]目を向けたのだと思います 0:00:51.958,0:00:55.934 しかし 自分はアフリカ系米国人では[br]ないと意識していたからでしょうか 0:00:55.958,0:01:00.476 彼の言葉に挑発されたように[br]感じたこともありました 0:01:00.500,0:01:02.625 特にこの言葉でした 0:01:03.458,0:01:07.059 「りっぱな態度のリベラル派はいるが 0:01:07.083,0:01:09.241 本物の信念を持ち合わせている者はいない 0:01:10.083,0:01:14.018 いざという時に 頼りにしようとしても 0:01:14.042,0:01:16.518 どういうわけか[br]その場にはいない」 0:01:16.542,0:01:19.351 どういうわけか[br]その場にはいない 0:01:19.375,0:01:21.726 私は その言葉を文字通りに[br]受け止めました 0:01:21.750,0:01:23.458 では どこに行こうか? 0:01:24.500,0:01:26.518 私は ミシシッピ・デルタに向かいました 0:01:26.542,0:01:29.684 米国でも貧しい地域のひとつです 0:01:29.708,0:01:32.601 力強い歴史に形作られた場所です 0:01:32.625,0:01:37.598 1960年代にアフリカ系米国人は[br]命を賭けて 教育や 0:01:37.598,0:01:39.737 選挙権を求めました 0:01:40.625,0:01:45.069 私は 若者が高校を出て[br]大学に行けるよう支援することで 0:01:45.069,0:01:46.792 この変化に加わりたかったのです 0:01:48.250,0:01:50.976 私がミシシッピ・デルタに到着した時も 0:01:51.000,0:01:53.434 そこは 相変わらず貧しく 0:01:53.458,0:01:55.184 差別が残っており 0:01:55.208,0:01:57.750 劇的な変化が必要な場所でした 0:01:58.958,0:02:02.393 私が着任した学校は 0:02:02.417,0:02:06.726 図書室はなく 進路指導教員もおらず 0:02:06.750,0:02:09.726 代わりに警察官がいるような学校でした 0:02:09.750,0:02:12.309 教師の半数は臨時教員で 0:02:12.333,0:02:14.309 生徒がケンカをすると 0:02:14.333,0:02:18.208 学校はその生徒を[br]郡刑務所に送りました 0:02:20.250,0:02:23.226 この学校でパトリックと出会いました 0:02:23.250,0:02:28.184 彼は 15歳でしたが 2年留年して[br]8年生でした 0:02:28.208,0:02:30.684 物静かで内省的な少年で 0:02:30.708,0:02:33.518 いつも物思いにふけっていました 0:02:33.542,0:02:36.333 彼は 誰かがケンカするのが[br]大嫌いでした 0:02:37.500,0:02:41.309 ある時は 女子2人のケンカに割って入り 0:02:41.333,0:02:44.042 彼自身が叩きのめされたこともあります 0:02:45.375,0:02:47.893 パトリックには[br]ひとつだけ問題がありました 0:02:47.917,0:02:49.868 学校に来ようとしないのです 0:02:51.249,0:02:53.726 彼は 学校はあまりにも[br]気が滅入るんだと言いました 0:02:53.750,0:02:56.792 みんなケンカばかりで[br]先生たちはやめてしまうからです 0:02:58.042,0:03:03.500 また 母親は2つの仕事を掛け持ちし[br]息子を登校させるには疲れ果てていました 0:03:04.417,0:03:07.184 そこで 私が彼を[br]学校に連れてくることにしました 0:03:07.208,0:03:11.268 私は 無謀な22歳で[br]思い切り楽天的だったので 0:03:11.292,0:03:13.434 私の作戦は 彼の家に行き 0:03:13.458,0:03:15.583 「学校に行こう」と[br]声を掛けることでした 0:03:16.542,0:03:18.184 実際 この作戦は功を奏して 0:03:18.208,0:03:20.643 彼は 毎日登校するようになり 0:03:20.667,0:03:23.059 クラスで頭角を現し始めました 0:03:23.083,0:03:26.000 彼は詩を書き 読書もしました 0:03:26.917,0:03:29.208 毎日学校にやってきました 0:03:31.042,0:03:32.518 私がパトリックと 0:03:32.542,0:03:35.226 うまくやっていく方法を[br]思いついたのと同じ頃に 0:03:35.250,0:03:37.458 私は ハーバード・ロー・スクールに[br]受かったのです 0:03:39.583,0:03:42.934 また同じ問題に直面しました 0:03:42.958,0:03:44.667 自分の行くべき先は? 0:03:45.458,0:03:48.101 そして こう考えました 0:03:48.125,0:03:51.643 ミシシッピ・デルタは[br]お金がある人や 0:03:51.667,0:03:53.559 機会に恵まれた人々が 0:03:53.583,0:03:55.065 出て行ってしまう場所です 0:03:55.875,0:03:57.309 取り残されてしまうのは 0:03:57.333,0:03:59.833 出て行く機会を持たない人です 0:04:00.833,0:04:03.101 私は 出て行ったりしたくなかった 0:04:03.125,0:04:05.167 私は ここに残る人になりたかった 0:04:06.333,0:04:09.268 その一方で 私は孤独で疲れていました 0:04:09.292,0:04:12.750 そこで 一流の法学位を取れれば 0:04:14.125,0:04:17.708 もっと大きな変化が起こせると[br]自分を納得させたのです 0:04:19.541,0:04:20.931 私は 街を離れました 0:04:22.750,0:04:24.351 3年後に 0:04:24.375,0:04:26.768 ロー・スクールの卒業直前に 0:04:26.792,0:04:28.518 友達が電話してきました 0:04:28.542,0:04:33.458 パトリックがケンカに巻き込まれ[br]人を殺したと言うのです 0:04:35.333,0:04:37.393 私は 絶句しました 0:04:37.417,0:04:39.851 信じられないという思いと 0:04:39.875,0:04:42.542 これは現実なんだという気持ちが[br]交錯しました 0:04:43.583,0:04:45.583 私は パトリックに会いに行きました 0:04:46.750,0:04:49.458 刑務所に面会に行きました 0:04:50.542,0:04:54.184 彼は 本当なんだと言いました 0:04:54.208,0:04:56.601 人を殺したというのです 0:04:56.625,0:04:58.875 それ以上は 話したがりませんでした 0:04:59.833,0:05:01.851 学校はどうしたのと聞くと 0:05:01.875,0:05:06.018 私がいなくなった1年後に[br]中退したと言いました 0:05:06.042,0:05:08.684 そして まだ何か言いたそうでした 0:05:08.708,0:05:10.250 彼は視線を落とすと 0:05:10.250,0:05:13.768 娘が生まれたばかりなんだと[br]言いました 0:05:13.792,0:05:16.375 娘を失望させたと感じたのだと 0:05:18.625,0:05:22.000 そこで会話は 気まずく途切れました 0:05:23.417,0:05:28.476 刑務所の外に出た時[br]自分の心の声が聞こえました 0:05:28.500,0:05:29.768 「戻ってきなさい 0:05:29.792,0:05:33.083 今ここで戻らなければ[br]二度と戻ってこない」 0:05:36.292,0:05:39.875 そこで 私は ロー・スクールを卒業して[br]戻りました 0:05:40.833,0:05:42.518 パトリックに会いに戻ったのです 0:05:42.542,0:05:45.500 法的な支援ができないかどうか[br]確かめに向かったのです 0:05:46.917,0:05:50.268 2度目の面会の時に 0:05:50.292,0:05:52.559 いいことを思いつきました 0:05:52.583,0:05:56.184 「パトリック 娘さんに手紙を書いて 0:05:56.208,0:05:59.976 いつも思い出せるようにしたら?」 0:06:00.000,0:06:03.684 彼にペンと紙を差し入れると 0:06:03.708,0:06:05.333 パトリックは書きだしました 0:06:06.542,0:06:09.351 でも 彼が返してきた手紙を見て 0:06:09.375,0:06:10.905 私はショックを受けました 0:06:13.000,0:06:15.101 私には 彼の書いたものが[br]読めませんでした 0:06:15.125,0:06:17.958 単純な綴りさえ 間違えていたのです 0:06:19.167,0:06:21.851 そこで こう思いました 0:06:21.875,0:06:25.351 生徒が 短期間で[br]劇的に成長するのは 0:06:25.375,0:06:28.434 教師として知っていたけれど 0:06:28.458,0:06:32.125 あっという間に 忘れてしまうなんて[br]想像もつかなかったと 0:06:34.375,0:06:36.268 もっとつらかったのは 0:06:36.292,0:06:39.476 パトリックが娘に書いた内容でした 0:06:39.500,0:06:40.893 こう書いていたのです 0:06:40.917,0:06:45.208 「ごめん 一緒にいられない[br]パパを許してくれ」 0:06:46.458,0:06:49.292 たったこれだけしか[br]言えなかったのです 0:06:50.250,0:06:54.559 どうすれば 彼には[br]謝る必要のない部分もあって 0:06:54.583,0:06:58.000 それをもっと伝えたらいいのだと[br]説得できるかを自問しました 0:06:58.958,0:07:02.176 もっと娘と分かち合うことがあると 0:07:02.176,0:07:04.208 感じてほしいと思いました 0:07:05.917,0:07:09.101 その後7か月間 毎日 0:07:09.125,0:07:11.809 本を持って訪問しました 0:07:11.833,0:07:15.684 私のトートバッグは[br]ミニ図書館になりました 0:07:15.708,0:07:17.768 私はジェームズ・ボールドウィンを 0:07:17.792,0:07:22.684 ウォルト・ホイットマン[br]C.S. ルイスを持参し 0:07:22.708,0:07:27.518 樹木や鳥の図鑑や 0:07:27.542,0:07:30.995 愛用するようになるであろう[br]辞書も持っていきました 0:07:31.667,0:07:33.351 ある時は 0:07:33.375,0:07:37.167 2人とも無言で[br]何時間も読書に耽りました 0:07:38.083,0:07:39.934 また別の日には 0:07:39.958,0:07:43.476 一緒に読むこともありました[br]詩を読んだのです 0:07:43.500,0:07:47.393 俳句を読むことから始めました[br]何百もの俳句です 0:07:47.417,0:07:50.309 シンプルながらも名作でした 0:07:50.333,0:07:53.143 「好きな俳句を教えて」と[br]彼に頼んだものです 0:07:53.167,0:07:56.226 本当に面白いものもありました 0:07:56.250,0:07:58.101 小林一茶の作品です 0:07:58.125,0:08:01.833 「隅の蜘蛛案じな煤はとらぬぞよ」 0:08:02.750,0:08:07.292 「今迄は罪もあたらぬ昼寝哉」 0:08:08.667,0:08:13.101 そして 初雪を詠んだ美しい作品です 0:08:13.125,0:08:17.583 「さをしかのゑひしてなめるけさの霜」 0:08:19.250,0:08:22.268 どこかミステリアスで美しく 0:08:22.292,0:08:24.934 まさに詩の姿そのものです 0:08:24.958,0:08:29.583 余韻が 言葉そのものと同様に[br]大切なのです 0:08:31.375,0:08:33.893 W.S. マーウィンの詩も読みました 0:08:33.917,0:08:38.143 彼の妻が庭仕事をしている姿を[br]書いたものです 0:08:38.167,0:08:42.042 そして 残りの人生をずっと[br]共に過ごしていくことに気づくのです 0:08:43.167,0:08:45.518 「好きな時に戻れるとしたら 0:08:45.542,0:08:48.934 それなら春だ 0:08:48.958,0:08:52.143 私たちは もう年を取ったりしない 0:08:52.167,0:08:56.101 ゆっくりと迎える朝の中 0:08:56.125,0:08:59.893 これまでの悲しみは[br]淡い雲のように晴れる」 0:08:59.917,0:09:03.309 パトリックの好きな一節は[br]どれかを聞きました 0:09:03.333,0:09:06.875 「私たちは もう年を取ったりしない」 0:09:08.375,0:09:12.809 彼は 時の流れが止まってしまった場所 0:09:12.833,0:09:15.768 時間を忘れてしまうような場所を[br]思い出すというのです 0:09:15.792,0:09:20.268 永遠の時間が流れるこんな場所が[br]あったのかと聞いてみました 0:09:20.292,0:09:21.958 「僕の母だ」と彼は答えました 0:09:23.875,0:09:28.184 誰かと一緒に詩を読むと 0:09:28.208,0:09:30.463 詩が持つ意味が変わってきます 0:09:31.333,0:09:36.000 それは 人にとっても 自分にとっても[br]個人的なものになるからです 0:09:37.500,0:09:40.184 その後は 本当にたくさんの本を読みました 0:09:40.208,0:09:43.351 フレデリック・ダグラスの自伝を読みました 0:09:43.375,0:09:46.976 彼は 米国の奴隷でしたが[br]独学で読み書きを学び 0:09:47.000,0:09:50.333 文字が読めたおかげで[br]自由を得られたのです 0:09:51.875,0:09:54.518 私は フレデリック・ダグラスを[br]英雄だと思って育ったので 0:09:54.542,0:09:57.750 この物語が 励みや希望になると[br]考えたのです 0:09:58.917,0:10:01.750 でも この本のせいで[br]パトリックはうろたえてしまいました 0:10:02.875,0:10:07.934 彼は ダグラスが書いた[br]ある話にこだわりました 0:10:07.958,0:10:11.059 奴隷には自由が手に余ることを示すため 0:10:11.083,0:10:14.559 クリスマスに主人が[br]奴隷にジンを渡すというものです 0:10:14.583,0:10:17.522 奴隷たちは 畑で酔いつぶれてしまうからです 0:10:19.500,0:10:21.500 パトリックはよくわかると言いました 0:10:22.333,0:10:25.809 刑務所にいる人の中にも 奴隷のように 0:10:25.833,0:10:28.059 自分の状況を考えたがらない人が[br]いると言ったのです 0:10:28.083,0:10:29.893 それは あまりにも辛いから 0:10:29.917,0:10:32.101 過去を思い出したり 0:10:32.125,0:10:35.458 今後の長い道のりを[br]考えたりするのがつらいからです 0:10:36.958,0:10:39.851 彼のお気に入りは 次の一節でした 0:10:39.875,0:10:43.476 「何であれ 考えるのはやめるんだ! 0:10:43.500,0:10:48.542 状況を考え続ければ[br]いつまでも苦しみが続く」 0:10:49.958,0:10:53.917 パトリックは ダグラスは書き続け[br]考え続けるから勇敢だと言いました 0:10:55.083,0:11:00.643 しかし 私にはパトリックが[br]ダグラスの姿と重なって見えたのです 0:11:00.667,0:11:04.417 彼はパニックになりながらも[br]読み続けました 0:11:05.250,0:11:08.309 彼は 私よりも先に本を読み終えました 0:11:08.333,0:11:12.247 明かりのないコンクリートの[br]階段で読んだのです 0:11:13.583,0:11:16.309 そして 私のお気に入りのひとつ 0:11:16.333,0:11:18.518 マリリン・ロビンソンの[br]『Gilead』へと進みました 0:11:18.542,0:11:22.684 これは 父から息子に宛てた[br]長い手紙です 0:11:22.708,0:11:25.059 彼は この一節が大好きでした 0:11:25.083,0:11:27.268 「どうか聞いてくれ 0:11:27.292,0:11:30.601 自分は 何を成し遂げたのかと[br]迷うことがあったとしたも 0:11:30.625,0:11:32.643 お前は いつだって神からの恵みだった 0:11:32.667,0:11:35.833 奇跡[br]いや 奇跡以上の存在だった」 0:11:37.375,0:11:43.018 この言葉が持つ何かが ―[br]その愛や切望 その声が 0:11:43.042,0:11:45.500 パトリックの書きたいという気持ちを[br]掻き立てました 0:11:46.292,0:11:49.393 彼は 何冊ものノートを 0:11:49.417,0:11:52.726 娘宛ての手紙で埋め尽くしました 0:11:52.750,0:11:55.684 これらの美しく[br]こまごまとした手紙の中で 0:11:55.708,0:12:01.684 娘と2人でミシシッピ川を[br]カヌーで進む姿を想像しました 0:12:01.708,0:12:04.518 澄み切った水が流れる 0:12:04.542,0:12:06.708 渓流を想像したものです 0:12:08.042,0:12:10.083 パトリックが書く姿を見て 0:12:11.250,0:12:13.393 私は自分で考えてみました 0:12:13.417,0:12:15.476 皆さんにもお聞きしたいと思います 0:12:15.500,0:12:20.792 失望させてしまった相手に[br]手紙を書いたことがある人はいますか? 0:12:22.042,0:12:27.125 その相手を忘れてしまう方が[br]はるかに楽です 0:12:28.083,0:12:32.726 パトリックは 毎日毎日[br]娘と向き合いました 0:12:32.750,0:12:35.684 娘への責任を感じ 0:12:35.708,0:12:39.417 一言一言に[br]一心に集中していたのです 0:12:42.417,0:12:44.958 私は自分の人生で 0:12:46.042,0:12:49.101 こんな風に危うさと[br]対峙できたらと思いました 0:12:49.125,0:12:52.750 それは その危うさによって[br]心の強さが分かるからです 0:12:56.625,0:13:00.684 ここで立ち戻って[br]答えにくい質問をしたいと思います 0:13:00.708,0:13:04.417 このパトリックの物語を語る[br]私には一体どんな資格があるのか? 0:13:06.042,0:13:09.018 パトリックこそが[br]この苦しみと対峙した本人であり 0:13:09.042,0:13:13.208 私にそのような日は[br]一日たりともなかったのです 0:13:15.250,0:13:17.018 何度もこの質問について考えました 0:13:17.042,0:13:20.768 しかし パトリックだけの物語ではないと[br]言いたいと思います 0:13:20.792,0:13:22.309 これは 私たちの物語です 0:13:22.333,0:13:24.833 私たちの間にある[br]不平等さについてです 0:13:25.667,0:13:27.083 この豊かな世界は 0:13:28.375,0:13:32.018 パトリックや彼の両親[br]彼の祖父母が 0:13:32.042,0:13:33.851 締め出されてしまった世界です 0:13:33.875,0:13:37.103 この物語では[br]私が豊かな世界を体現しています 0:13:37.792,0:13:41.601 この物語を語る時に[br]自分のことや自分の持てる力を 0:13:41.625,0:13:44.292 隠したくはありませんでした 0:13:45.333,0:13:48.893 この物語を語ることで[br]その力を日の目にさらし 0:13:48.917,0:13:51.309 そして尋ねたいのです 0:13:51.333,0:13:54.250 この距離をどうやって消し去るのか? 0:13:56.250,0:13:59.851 読書は この距離を縮める[br]方法のひとつだと思います 0:13:59.875,0:14:04.309 私たちが共有できる静かな世界を与え 0:14:04.333,0:14:06.583 平等に分かち合えるのです 0:14:08.500,0:14:11.601 パトリックはどうしただろうと[br]お思いでしょう 0:14:11.625,0:14:13.606 読書が彼の人生を救ったのでしょうか? 0:14:14.583,0:14:16.858 そうだとも そうではないとも言えます 0:14:17.875,0:14:20.768 パトリックが出所してからの 0:14:20.792,0:14:23.343 道のりは 耐え難いものでした 0:14:24.292,0:14:27.768 前科のため 雇ってくれる人はおらず 0:14:27.792,0:14:30.934 彼の良き理解者である[br]母親は心臓病と糖尿病で 0:14:30.958,0:14:33.434 43歳で亡くなりました 0:14:33.458,0:14:36.167 彼に家はなく 飢えていました 0:14:38.250,0:14:42.792 だから 読書について[br]大げさなことを言う人もいました 0:14:43.792,0:14:47.768 文字が読めるようになっても[br]彼への差別はなくならなかった 0:14:47.792,0:14:50.417 母親の死を防ぐこともできなかった 0:14:51.708,0:14:54.083 では 読書がもたらすものとは? 0:14:55.375,0:14:59.333 いくつかの答えで[br]締めくくりたいと思います 0:15:00.667,0:15:03.417 読書で 彼の内面が豊かになりました 0:15:05.083,0:15:08.143 その神秘や想像力 美しさが 0:15:08.167,0:15:09.572 内面を変えたのです 0:15:10.292,0:15:14.625 読書によってイメージや[br]喜びがもたらされました 0:15:15.417,0:15:20.976 山 海 鹿 霜など 0:15:21.000,0:15:25.125 自由と自然界を感じる言葉です 0:15:27.625,0:15:31.143 彼が失ったものを読書が補ったのです 0:15:31.167,0:15:35.809 デレック・ウォルコットの一節が[br]どれほどかけがえのない物であったか 0:15:35.833,0:15:38.059 パトリックはこの詩を暗唱しました 0:15:38.083,0:15:40.184 「私が抱いた日々 0:15:40.208,0:15:42.476 私が失った日々 0:15:42.500,0:15:45.726 日々は娘たちのように成長し 0:15:45.750,0:15:47.626 私の両腕はさまよう」 0:15:48.667,0:15:51.643 読書は彼に勇気を教えたのです 0:15:51.667,0:15:54.976 彼はフレデリック・ダグラスを 0:15:55.000,0:15:57.143 いくら辛くても読み続けましたよね 0:15:57.167,0:16:00.899 彼はどんなに苦しくても[br]意識的であろうとしました 0:16:02.208,0:16:04.768 読むことは 考えることです 0:16:04.792,0:16:08.851 考えなくてはならないから[br]読むことは難しいのです 0:16:08.875,0:16:13.125 パトリックは 考えることをやめず[br]考え続けることを選びました 0:16:16.000,0:16:19.958 そして読書は 娘に話しかける言葉を[br]彼に与えました 0:16:21.375,0:16:24.601 彼は読むことで[br]書きたいと思ったのです 0:16:24.625,0:16:28.768 読書と書くことは[br]強く結びついています 0:16:28.792,0:16:30.851 私たちが 読み始めると 0:16:30.875,0:16:32.958 言葉が見つかります 0:16:33.958,0:16:38.601 彼は2人を結び付ける言葉を[br]見つけたのです 0:16:38.625,0:16:40.333 どれほど 娘を― 0:16:41.958,0:16:44.208 愛しているのかを[br]伝える言葉を見つけました 0:16:46.042,0:16:49.976 読書は 私たちの関係も変えたのです 0:16:50.000,0:16:52.059 視点の違いを超えて 0:16:52.083,0:16:54.976 互いに歩み寄る機会を[br]与えてくれました 0:16:55.000,0:16:57.684 そして 読書は不平等な関係を取り除き 0:16:57.708,0:17:00.375 束の間の平等を与えてくれました 0:17:02.125,0:17:05.059 読者としての誰かに出会うことは 0:17:05.083,0:17:07.059 すっかり新しい 0:17:07.083,0:17:08.791 新鮮な出会いになります 0:17:09.875,0:17:13.083 どの一節が彼の気に入るかは[br]分かりません 0:17:14.458,0:17:17.666 どんな思い出や嘆きを[br]抱いているのか分かりません 0:17:18.833,0:17:22.833 彼の究極の内面と直面するわけです 0:17:23.666,0:17:27.101 すると「私の内面とは何なのか?」と[br]考え始めます 0:17:27.125,0:17:30.375 誰かと分かち合えることが[br]あるでしょうか? 0:17:33.000,0:17:34.578 締めくくりに 0:17:36.208,0:17:40.500 パトリックが娘に宛てた手紙の[br]私の大好きな一節をお読みします 0:17:41.333,0:17:44.101 「川には 暗い場所があっても 0:17:44.125,0:17:47.393 木漏れ日が輝いている 0:17:47.417,0:17:50.976 枝にはマルベリーが豊かに実っている 0:17:51.000,0:17:54.458 手を伸ばして つかみ取るんだ」 0:17:56.042,0:17:58.476 この手紙には こうも書いています 0:17:58.500,0:18:02.851 「目を閉じて 言葉に耳を澄ましてごらん 0:18:02.875,0:18:05.059 私は この詩をそらんじている 0:18:05.083,0:18:07.917 君にもそうして欲しいんだ」 0:18:09.375,0:18:11.184 ありがとうございます 0:18:11.208,0:18:14.500 (拍手)