WEBVTT 00:00:06.237 --> 00:00:09.237 この2枚の絵には ある家が描かれています 00:00:09.237 --> 00:00:12.167 2枚の絵には明らかな違いがありますが 00:00:12.167 --> 00:00:13.837 患者のP.S.氏には 00:00:13.837 --> 00:00:16.567 2枚ともまったく同じに見えました NOTE Paragraph 00:00:16.567 --> 00:00:20.077 P.S.氏は脳卒中によって右脳が損傷し 00:00:20.077 --> 00:00:24.057 自分の左側で起きていることを 意識しなくなってしまったのです 00:00:24.057 --> 00:00:27.557 ところが 描かれた家の違いは 分からなくても 00:00:27.557 --> 00:00:30.957 研究者がどちらの家に住みたいか尋ねると 00:00:30.957 --> 00:00:33.827 氏は燃えていない家の絵を選びました 00:00:33.827 --> 00:00:36.897 1度きりではなく 何度やっても同じです NOTE Paragraph 00:00:36.897 --> 00:00:40.297 P.S.氏の脳は 両側からの視覚情報を 00:00:40.297 --> 00:00:42.167 処理し続けていたためです 00:00:42.167 --> 00:00:43.747 氏には絵が2枚とも見え 00:00:43.747 --> 00:00:45.587 その違いも区別できましたが 00:00:45.587 --> 00:00:47.837 それを分かってはいなかったのです 00:00:47.837 --> 00:00:50.247 もし誰かが 左側にボールを投げれば 00:00:50.247 --> 00:00:52.157 氏はおそらく避けるでしょう 00:00:52.157 --> 00:00:54.777 けれども氏はボールを意識しておらず 00:00:54.777 --> 00:00:57.457 なぜ自分が避けたかも分かりません NOTE Paragraph 00:00:57.457 --> 00:00:58.877 P.S.氏の症状は 00:00:58.877 --> 00:01:01.147 「半側空間無視」と呼ばれ 00:01:01.147 --> 00:01:09.164 脳の情報処理と 処理を経験することは 異なるという重要な事実を示しています 00:01:09.164 --> 00:01:13.034 この経験が いわゆる「意識」です 00:01:13.034 --> 00:01:18.044 我々は外界についても 自身の内界についても意識しています 00:01:18.044 --> 00:01:19.815 絵に対する意識の仕方も 00:01:19.815 --> 00:01:22.255 絵を見ている自分や 00:01:22.255 --> 00:01:26.455 自分の考えや気持ちに対する 意識の仕方と変わりありません 00:01:26.455 --> 00:01:28.965 でも意識はどこから来るのでしょうか 00:01:28.965 --> 00:01:31.815 科学者や神学者 哲学者たちが 00:01:31.815 --> 00:01:35.625 何世紀もの間 この問題に 取り組んできましたが 00:01:35.625 --> 00:01:38.115 意見の一致を見ませんでした NOTE Paragraph 00:01:38.115 --> 00:01:40.185 近年のある学説では 意識とは 00:01:40.185 --> 00:01:44.765 脳の活動について脳自身が描く 不完全なイメージのこととされています NOTE Paragraph 00:01:44.765 --> 00:01:46.745 この説を理解するのに まず 00:01:46.745 --> 00:01:52.795 脳による感覚情報の処理に関する ある重要な仕組みについて説明しましょう 00:01:52.795 --> 00:01:54.404 脳は感覚情報をもとに 00:01:54.404 --> 00:01:55.984 複数のモデルを作ります 00:01:55.984 --> 00:02:02.104 これらのモデルは 物や出来事についての 単純化された描写を常に更新しています 00:02:02.104 --> 00:02:05.454 我々の知識はみな これらのモデルに基づいています 00:02:05.454 --> 00:02:09.044 モデルは 物事の細部まで 捉えるのではなく 00:02:09.044 --> 00:02:13.097 脳が適切な反応をするのに 必要な分だけを捉えます 00:02:13.397 --> 00:02:16.877 例えば 視覚系の奥深くに作られた あるモデルは 00:02:16.877 --> 00:02:20.137 白色光を 色のない耀きと読み取ります 00:02:20.137 --> 00:02:21.197 実際には 00:02:21.197 --> 00:02:26.337 白色光は目に見えるすべての色に対応する 波長を含んでいます 00:02:26.337 --> 00:02:30.027 白色光についての我々の感覚は 誤っていて 単純化され過ぎています 00:02:30.027 --> 00:02:32.487 でも我々が機能するには十分です 00:02:32.487 --> 00:02:35.127 同様に人体に関する脳のモデルは 00:02:35.127 --> 00:02:37.797 手足の位置を把握しますが 00:02:37.797 --> 00:02:40.987 個々の細胞 または筋肉についてさえ 把握しません 00:02:40.987 --> 00:02:44.967 このレベルの情報は 動作を計画するのに必要がないからです 00:02:44.967 --> 00:02:48.417 もし脳にこのモデルがなく 体の大きさや形 00:02:48.417 --> 00:02:50.677 瞬間的な動作を把握できなければ 00:02:50.677 --> 00:02:53.087 我々はすぐにケガしてしまいます NOTE Paragraph 00:02:53.087 --> 00:02:55.797 脳には脳自身のモデルも必要です 00:02:55.797 --> 00:02:56.667 例えば 00:02:56.667 --> 00:03:00.787 脳は特定の物や出来事に 注意を払うことができます 00:03:00.787 --> 00:03:02.248 さらに 焦点を操作し 00:03:02.248 --> 00:03:05.268 ある物事から別の物事 内界と外界といったように 00:03:05.268 --> 00:03:08.368 必要に応じて焦点を移動させます 00:03:08.368 --> 00:03:10.578 焦点を動かす能力が脳になければ 00:03:10.578 --> 00:03:15.318 脅威の判断や 食事を終えることが不可能になり もしくは全く機能しなくなるかもしれません 00:03:15.318 --> 00:03:17.497 焦点を効果的に合わせるために 00:03:17.497 --> 00:03:21.207 脳は注意の振り向け方を定める モデルを作る必要があります 00:03:21.207 --> 00:03:24.957 860億個の神経細胞が 絶えず相互に作用している状態では 00:03:24.957 --> 00:03:27.837 脳の情報処理モデルが 00:03:27.837 --> 00:03:30.707 自らの状態を 完全に描写することはできません 00:03:30.707 --> 00:03:32.707 ですが人体についてのモデルや 00:03:32.707 --> 00:03:34.697 白色光についての認識と同じく 00:03:34.697 --> 00:03:36.677 完璧である必要はありません 00:03:36.677 --> 00:03:40.177 我々が抽象的で主観的な 経験をしているという確信は 00:03:40.177 --> 00:03:42.877 脳のモデルに由来するのかもしれません 00:03:42.877 --> 00:03:46.377 情報を集中的かつ深く処理するとは どういうことかについて 00:03:46.377 --> 00:03:48.637 単純化して描写するというモデルです NOTE Paragraph 00:03:48.637 --> 00:03:52.137 科学者たちはすでに 脳が自身のモデルをどう作るかを 00:03:52.137 --> 00:03:54.597 理解する試みを始めました 00:03:54.597 --> 00:03:59.517 MRIを用いた研究により 関係する ネットワークが特定できると期待されます 00:03:59.517 --> 00:04:02.837 研究では 画像などの感覚刺激を 意識しているときと 00:04:02.837 --> 00:04:07.507 していないときで 神経細胞の活性化のパターンを比べます 00:04:07.507 --> 00:04:10.947 結果は 視覚情報の処理に必要な領域は 00:04:10.947 --> 00:04:14.916 被験者が画像を意識していてもいなくても 活性化するが 00:04:14.916 --> 00:04:17.677 関連するネットワーク全体が 発火するのは 00:04:17.677 --> 00:04:21.387 被験者が画像を意識している時に 限るというものでした 00:04:21.387 --> 00:04:24.457 P.S.氏のような「半側空間無視」の患者は 00:04:24.457 --> 00:04:28.467 普通 このネットワークの特定の部分が 損傷しています 00:04:28.467 --> 00:04:32.789 このネットワークがもっと大きな 損傷を受けると 00:04:32.789 --> 00:04:35.719 意識を示す兆候のない 植物状態になり得ます NOTE Paragraph 00:04:35.719 --> 00:04:37.269 こうした証拠により 00:04:37.269 --> 00:04:41.009 意識が脳に組み込まれている仕組みが 分かりつつありますが 00:04:41.009 --> 00:04:43.149 知るべきことはまだ多くあります 00:04:43.149 --> 00:04:43.969 例えば 00:04:43.969 --> 00:04:47.409 意識に関わるネットワーク中の神経細胞が 00:04:47.409 --> 00:04:49.429 特定の情報を処理する仕組みについては 00:04:49.429 --> 00:04:52.369 現在の科学技術が及ぶ範囲を超えています 00:04:52.369 --> 00:04:55.449 私たちが科学を通して意識に迫るとき 00:04:55.449 --> 00:04:58.979 人間とは何かという疑問に対する 新たな探求が始まるのです