皆さんにお見せするのは
人体の生体組織を造っている
驚くべき分子マシンです
分子は非常に非常に小さいのです
本当に
かなり小さいのです
光の波長より小さいので
直接見ることはできません
でも科学のおかげで小さな分子の世界で
何が起きているのか かなり分かっています
しかし分子についてお話する事はできても
お見せする直接の方法はありません
見えないものを 絵で表現するという方法は
決して目新しいものではありません
科学者達はこれまでも
考えや発見の段階で絵を使ってきました
望遠鏡や顕微鏡を覗いて見た事や
頭の中で考えている事を
絵に描きました
アートで科学を表現する
という点で有名な2つの例をご紹介します
まずはガリレオ
世界初の望遠鏡で
月をみた人物ですよね
月の知識を一変させました
17世紀当時 月は完璧な
美しい球体だとされていましたが
ガリレオが見たのはゴツゴツした不毛なもので
彼はそれを水彩画で表現しました
もう一人は チャールズ・ダーウィンです
壮大な考えを持っていた生物学界のスターです
この有名なスケッチの左上には
「私の考えでは」とありそれから
最初の生命の樹が描かれています
地球上の全生物が
進化過程でどう繋がっているか
という彼の説を表しています
祖先からの多様化と
自然淘汰による生物種の起源が
表現されています
ところで 科学者の私でさえ
分子生物学の講義を受けては
研究の説明に専門用語や特殊用語が頻出し
内容が全く理解できない
と感じることが よくありました
そんな時分子生物学者
デイヴィッド・グッドセルの
美術作品に出会いました
彼の絵は 形も縮尺も
正確に表現されています
体内の分子世界がどうなっているのかが
彼の作品では理解できました
例えば 血液の断面図です
左上の端の黄緑色のエリアがありますね
これは血液の液体部分で
ほとんど水ですが
抗体 糖 ホルモン等を
含んでいます
赤色の所は赤血球の断面で
赤い分子はヘモグロビンです
血液が赤いのはこのためです
ヘモグロビンは分子のスポンジの役割をし
酸素を肺で吸収し
体全体に運びます
私は何年も前に この絵に刺激され
コンピューターグラフィックスを用いて
分子の世界を表現できないか考えました
どう見えるだろうなぁって
そこから始めたんです ではいきますよ
ご存知の2重螺旋のDNA
こちらX線解析によるもので
正確なDNAのモデルです
螺旋をばらして2つの鎖を解くと
歯のようなものが現れます
これは遺伝子コードの文字列で
25,000のヒトの遺伝子を
DNA上に書いています
遺伝子コードってよく耳にしますね
ご覧のこれがまさにそれなんです
ここではDNA科学の違った側面—
DNAの物理的な性質をお話します
これは逆向きに並んでいる2本の鎖です
細かい理由は省きますが
鎖の方向性が逆になっているため
私たちの細胞にとって
不便なことが起こります
このあとご覧いただきますが
特にDNAの複写時です
次の画像は 今まさに
皆さんの体内でも起こっている
DNA複製の正確なモデルです
2002年時点の生物学ですが
DNAが左側から生産ラインに入って行き
二本のDNAをバラバラにし
全く同じコピーを作る
小型の生化学装置に達します
DNAが入ってきて
ドーナツ型の青い部分にあたると
鎖は2本に引き離されます
片方の鎖は直接複写され
丸まって下方へ落ちて行きますが
もう片方の鎖では
そう単純にはいきません
逆方向に複製する必要があるからです
繰り返し この様なループにされ
一部ごと複写されて
2つの新しいDNA分子が造られます
今こうしている間もあなたの体内で
何十億個ものこの機械が活動し
精巧かつ完全な複製を作っています
正確に表現できています
複写速度も ほぼこの速さです
ここでは エラー修正や
他の様々なことは省略しています
(笑)
ここまでは数年前の作品です
ありがとうございます
(拍手)
これは随分前のものでしたが
今からお見せするのは
新しい科学知識を
さらに進んだ技術で表現したものです
今回も DNAから始めましょう
通常は周囲の液体分子に影響され
振動していますが
見やすいように液体を取り除きました
DNAの幅は約2ナノメートルで
とても小さいのですが
私たちの細胞内のDNAは
3千万から4千万ナノメートルの
長さがあります
構造をとりまとめ
遺伝子コードへのアクセスを制御するために
DNAは タンパク質の周りを取り巻きます
ここでタンパク質は紫色で示されています
まとまって 束ねられています
画面全体に広がるのは
1分子のDNAなんですよ
この巨大なDNAのひとまとまりが染色体です
染色体については後でお話しするとして
ズームアウトして
全DNAを含む
核から 核膜孔を抜けて
出て見ましょう
ちなみに映っているものは
生物のクラス 一学期分に値しますが
7分しかないので
今日は全部お話できませんね?
「駄目」だそうです
光学顕微鏡で覗くと
生きた細胞はこう見えます
低速度撮影のため動くのが見えています
核膜が消失しました
ソーセージのような形が染色体で
ここを中心に見ていきます
染色体が著しい動きをしている
箇所が赤い部分に集中しています
細胞分裂の準備が整うと
染色体は2つに分かれ
一組のDNAセットは一方へ
もう一組は他方へ行きます
複製した全く同じDNAです
そして細胞が真ん中で分離します
繰り返しますが今も体内では
何十億という細胞がこうして分裂しています
では少し巻き戻して 染色体だけに着目して
構造を見て 解説しましょう
分裂中期に戻ってきました
染色体が並んでいます
1つの染色体を取り出して
構造を見てみましょう
これは現在の生物学上 体内で
最も大きい分子構造の1つです
これが1つの染色体で
分裂期の染色体には
2つのDNAの鎖が入っています
一方は1つのソーセージに
他方は別のに束ねられています
ひげのような物が両側に
突き出しているのが見えますね
これは微小管といいます
細胞の重要な枠組みです
名前は重要ではありません
赤く色付けられた所に注目しましょう
ここは 新しく微小管が合成される箇所と
染色体の結合部です
明らかに 染色体の動きの中枢です
この動きの仕組みは はっきり解っていません
これは動原体と呼ばれて かなり綿密に
100年以上研究されてきましたが
その働きが やっと少しずつ
解ってきたところです
合計数千個にも及ぶ約200種類もの
タンパク質から出来ています
動原体は 信号発信のシステムです
全てが並んで準備ができると
細胞の他の部分に
染色体が切り離せる状態であることを
化学的な信号で知らせます
動原体は伸縮する微小管に
結合することができます
それは微小管の伸長に関係していて
一時的に結合することも出来ます
これは検知システムでもあり
染色体が正しく並べられ
細胞の準備できた時が分かります
全てが準備できると
ここが緑色に変わります
ここに 小さく1部分だけ
赤色のままのものが あります
赤色部分は微小管を歩いて離れていきます
これは発信システムが
「停止」の信号を送っているのです
歩いて離れる まさに機械的な動作です
細かく正確な動きです
このように分子の世界は動いています
ちょっと見た目が面白い分子に
オレンジ色のキネシンがあります
小さな分子の運び屋で左に進んでいます
これはダイニンで
発信システムを担っています
ダイニンは長い脚で
障害物をかわしたりします
これは科学から得られた情報を
正確に画像としたもので
視覚的に説明する唯一の方法です
他の方法では見ることができません
最先端の科学や 最先端の
人類の知識を探求することは
強烈で刺激的なものです
このような発見が
科学者の原動力になっていることは確かです
しかし 殆どの医学研究者にとって
このような発見をすることは
大きな目標への通過点でしかありません
大きな目標は病気を撲滅し
病気からの苦しみや悲しみをなくし
貧困をなくす事です
ありがとうございました
(拍手)