WEBVTT 00:00:00.570 --> 00:00:03.008 さて、前編のおさらいから始めよう。 00:00:03.008 --> 00:00:07.758 革命指導者であるトゥーサンを裏切ったのは、 00:00:07.758 --> 00:00:10.665 まず、ある意味彼自身の近侍の将軍たちだよね。 00:00:10.665 --> 00:00:14.033 土壇場にルクレールの側についたわけだから。 00:00:14.033 --> 00:00:17.035 そして、ルクレールとの闘いをやめてしまったわけだから。 00:00:17.035 --> 00:00:18.750 彼らは、ルクレールがそれほど悪い奴ではないと思い込んだ。 00:00:18.750 --> 00:00:21.250 つまり、奴隷制を戻すつもりや、 00:00:21.250 --> 00:00:23.638 人々の権利、特に 00:00:23.638 --> 00:00:26.515 アフリカ系市民の権利を取り上げるつもりではないと思っていた。 00:00:26.530 --> 00:00:28.960 ほら、これがルクレールの写真ね。 00:00:28.960 --> 00:00:32.143 こいつです。 00:00:32.143 --> 00:00:34.995 トゥーサンは武装解除に追い込まれ、 00:00:34.995 --> 00:00:37.021 ルクレールとの和議交渉に赴いたんだけど、 00:00:37.021 --> 00:00:38.424 騙されてルクレールに監禁され、 00:00:38.424 --> 00:00:39.279 船に載せられ、 00:00:39.279 --> 00:00:40.535 フランスに運ばれて、 00:00:40.535 --> 00:00:42.366 翌年に獄死してしまった。 00:00:42.366 --> 00:00:47.292 つまり、トゥーサンは裏切られ、 00:00:47.292 --> 00:00:50.562 1,803に獄死。 00:00:50.562 --> 00:00:53.170 そしてトゥーサンという人物は、あらゆる意味で、 00:00:53.170 --> 00:00:55.369 ハイチ革命におけるという意味だけでなく 00:00:55.369 --> 00:00:57.546 歴史を通してみても、偉大な指導者だった。 00:00:57.546 --> 00:00:59.667 トゥーサンは権力を握った時、前も言ったけど、 00:00:59.667 --> 00:01:02.390 白人の前支配階級に対し報復行為をせず、 00:01:02.390 --> 00:01:05.594 ハイチの経済発展に尽力し、 00:01:05.594 --> 00:01:08.043 国を富ませようとまず頑張ったんだ。 00:01:08.043 --> 00:01:11.630 そして彼はさらに、ハイチ、つまり当時のサント・ドミンゴを 00:01:11.630 --> 00:01:16.550 イギリス王立海軍からも守ってみせた。 00:01:16.550 --> 00:01:18.400 前編で言うの忘れたけど、 00:01:18.400 --> 00:01:26.392 イギリス王立海軍というのは、 00:01:26.392 --> 00:01:27.865 当時の世界では、 00:01:27.865 --> 00:01:31.074 圧倒的な力を誇る海軍だったんだよ。 00:01:31.074 --> 00:01:33.675 なので、この戦役で彼は 00:01:33.675 --> 00:01:34.817 本当に偉大な軍事指導者であるとの評価を得ている。 00:01:34.817 --> 00:01:37.005 彼は偉大な指導者であるだけでなく、 00:01:37.005 --> 00:01:38.797 報復行為に踏み切らず、 00:01:38.797 --> 00:01:41.374 当時では一般的だった殺し尽くし焼きつくし 00:01:41.374 --> 00:01:44.430 敵と見れば徹底的に嬲り尽くすという戦法を潔しとしなかったんだ。 00:01:44.430 --> 00:01:46.318 けど、彼は裏切られた。 00:01:46.318 --> 00:01:49.200 ちょっとはっきりさせておくけど、 00:01:49.200 --> 00:01:54.620 このルクレールというやつは、ちょっと悪魔の角がお似合いの悪党で 00:01:54.620 --> 00:01:56.155 とはいえ、もうちょっとしたら 00:01:56.155 --> 00:01:58.788 本当にもっと大きな角が似合う奴がすぐ出てくるけど。 00:01:58.788 --> 00:02:00.532 ルクレールはその大悪党の 00:02:00.532 --> 00:02:02.889 先駆け的な存在だったのかもね。 00:02:02.889 --> 00:02:06.969 1802年5月、 00:02:06.969 --> 00:02:12.101 ナポレオンが署名したのは、 00:02:12.101 --> 00:02:17.012 奴隷制が消滅していない場所での奴隷制復活、という法案だった。 00:02:17.012 --> 00:02:25.535 奴隷制が消滅していない箇所 00:02:25.535 --> 00:02:27.720 というのはとても曖昧な表現で 00:02:27.720 --> 00:02:29.214 場所によっては 00:02:29.214 --> 00:02:32.040 奴隷制がまだ続いていた場所もあった。 00:02:32.040 --> 00:02:39.430 フランス領マルティニーク島もそうだったし、 00:02:39.430 --> 00:02:43.620 セントルシアやドバゴでも、そうだった。 00:02:43.620 --> 00:02:45.136 けど、ハイチ、当時のサント・ドミンゴでは 00:02:45.136 --> 00:02:46.962 そこらへんの事情は 00:02:46.962 --> 00:02:48.680 少し曖昧だったわけだね。 00:02:48.680 --> 00:02:51.415 奴隷制はほんとうの意味で 00:02:51.415 --> 00:02:52.812 消滅したか否か? 00:02:52.812 --> 00:02:54.440 ハイチでは奴隷たちは自由だった。 00:02:54.440 --> 00:02:58.229 けれど、ハイチ全体でみた場合、どう解釈すべきだろう? 00:02:58.229 --> 00:02:59.657 けれど、当時 00:02:59.657 --> 00:03:01.020 ハイチの人々はここらの事情を知っていたわけではない。 00:03:01.020 --> 00:03:03.750 1802年5月に可決した法律なんだけどね。 00:03:03.750 --> 00:03:06.577 けど、ちょっとはっきりさせておくと、 00:03:06.577 --> 00:03:11.565 ナポレオンはルクレールに秘密文書を送りつけていたんだ。 00:03:11.565 --> 00:03:13.630 機が熟したら 00:03:13.630 --> 00:03:15.308 奴隷制を復活させよ、と。 00:03:15.308 --> 00:03:26.724 タイミングがいいときに奴隷制を復活させる。 00:03:26.724 --> 00:03:29.540 ナポレオンたちは自分の立場をわかっていた。 00:03:29.540 --> 00:03:31.020 つまり、ハイチの影響力を得るためには 00:03:31.020 --> 00:03:32.968 トゥーサンの前側近たちの 00:03:32.968 --> 00:03:37.555 協力が必要だってこと。 00:03:37.555 --> 00:03:39.623 デサリーヌとか、トゥーサンの将たちのことね。 00:03:39.623 --> 00:03:41.860 ルクレールは彼らが必要だった。 00:03:41.860 --> 00:03:43.701 けれど、腹の中では最初から、 00:03:43.701 --> 00:03:45.705 つまりハイチへの影響力を十分得た状態になったら 00:03:45.705 --> 00:03:49.097 手のひらを返して奴隷制復活と 00:03:49.097 --> 00:03:53.350 有色人種の市民権剥奪を狙っていたんだ。 00:03:53.350 --> 00:03:56.000 けど、ハイチ側のリーダーたちもバカじゃない。 00:03:56.000 --> 00:03:58.450 デサリーヌを覚えているかな。 00:03:58.450 --> 00:04:00.560 これが写真なんだけど。 00:04:00.560 --> 00:04:03.452 彼自身も解放奴隷で、 00:04:03.452 --> 00:04:06.868 トゥーサンの片腕として活躍していたんだけど、 00:04:06.868 --> 00:04:09.560 彼は優秀な将軍だった。 00:04:09.560 --> 00:04:10.625 さっきも言ったように 00:04:10.625 --> 00:04:13.514 ルクレールとの闘いで、 00:04:13.514 --> 00:04:15.296 最後にルクレールに寝返って 00:04:15.296 --> 00:04:16.438 言い方によっては 00:04:16.438 --> 00:04:18.410 トゥーサンを裏切ったことになる人なんだけれど。 00:04:18.410 --> 00:04:20.955 けど、デサリーヌや 00:04:20.955 --> 00:04:23.155 他のトゥーサンの元側近たちは、 00:04:23.155 --> 00:04:24.170 状況のまずさをちゃんと察していた。 00:04:24.170 --> 00:04:26.320 別にナポレオンの秘密文書を盗む必要なんてない。 00:04:26.320 --> 00:04:31.350 マルティニーク島、ドバゴやセントルシアで 00:04:31.350 --> 00:04:35.120 奴隷制が復活された噂はちゃんと耳に入ってる。 00:04:35.120 --> 00:04:36.768 彼らにとって、フランス軍はもはや 00:04:36.768 --> 00:04:39.133 まともに交渉したり信用したりするのに値する相手では見なされなくなった。 00:04:39.133 --> 00:04:42.360 奴隷制に関してはね。 00:04:42.360 --> 00:04:50.720 そして、デサリーヌとその将ちは再び武装蜂起した。 00:04:50.720 --> 00:04:53.272 けれど、デサリーヌは 00:04:53.272 --> 00:04:55.265 トゥーサンとは全く違うタイプの人物だった。 00:04:55.265 --> 00:04:57.406 ひとつ共通点があるとすれば、 00:04:57.406 --> 00:05:01.220 ふたりとも優秀な軍人であったことだけれども 00:05:01.220 --> 00:05:03.698 大きな違いは、 00:05:03.698 --> 00:05:12.515 デサリーヌは、ちっとも遠慮なんかしなかったってことだ。 00:05:12.515 --> 00:05:14.496 彼は、言ってしまえば 00:05:14.496 --> 00:05:18.660 トゥーサンなどよりも、よほど「目には目を」というタイプの人で 00:05:18.660 --> 00:05:22.670 この時デサリーヌは、言うなれば 00:05:22.670 --> 00:05:25.200 奴隷反乱軍の指導者の座についたわけだけれど、 00:05:25.200 --> 00:05:26.923 それに対するは 00:05:26.923 --> 00:05:30.555 ルクレールと4万人のフランス軍。 00:05:30.555 --> 00:05:33.731 ナポレオンの命でハイチ革命を鎮圧しに来た人たちだよね。 00:05:33.731 --> 00:05:36.753 けど、デサリーヌにとって幸運なことに 00:05:36.753 --> 00:05:38.660 ハイチでは黄熱病が大流行。幸運って言っちゃいけないか。 00:05:38.660 --> 00:05:40.910 実際、沢山の人が病で亡くなったわけだし。 00:05:40.910 --> 00:05:43.177 けど、この病が戦争の命運をわけた。 00:05:43.177 --> 00:05:49.370 島のアフリカ系の人々に有利な方にね。 00:05:49.370 --> 00:05:58.595 黄熱病が島を襲い、ルクレールをはじめ、 00:05:58.595 --> 00:06:02.000 2万近くのフランス軍兵士の命を奪ったんだ。 00:06:02.000 --> 00:06:04.870 2万4千だったかな。どっかで読んだけど。 00:06:04.870 --> 00:06:06.750 なので、フランス軍は半分以下になり 00:06:06.750 --> 00:06:08.430 8千人がさらに戦闘不能状態に 00:06:08.430 --> 00:06:11.270 つまり、4万のうち3万2千がだめになり、 00:06:11.270 --> 00:06:15.485 8千足らずの軍勢になってしまう。 00:06:15.485 --> 00:06:17.910 なので、一夜のうちに、戦いの勢いは反転し、 00:06:17.910 --> 00:06:21.038 数の面では完全に逆転してしまったんだ。 00:06:21.038 --> 00:06:27.370 反乱軍の敵側がね。 00:06:27.370 --> 00:06:32.030 けど、それでは終わらなかった。 00:06:32.030 --> 00:06:34.018 ルクレール、この小さな角の悪党は、 00:06:34.018 --> 00:06:35.655 もっともっと邪悪な人間によって 00:06:35.655 --> 00:06:44.725 取って代わられることになってしまう。これが、ロシャンポー子爵。 00:06:44.725 --> 00:06:47.062 父親と同じ名前だから間違えないように。 00:06:47.062 --> 00:06:49.272 彼の父は、 00:06:49.272 --> 00:06:52.718 アメリカ独立戦争の英雄で、 00:06:52.718 --> 00:06:55.379 アメリカ軍に味方していたフランス軍と戦ったわけだけれども、 00:06:55.379 --> 00:06:56.825 彼の息子は・・・ 00:06:56.825 --> 00:06:59.102 まあ、僕の知る限り父親のほうは、 00:06:59.102 --> 00:07:00.451 わりとまともな人だったんだけど、 00:07:00.451 --> 00:07:03.570 この息子は本当に本当に邪悪なやつだ。 00:07:03.570 --> 00:07:05.382 歴史の流れを見ると、「完全な悪」と言い切れる人物は 00:07:05.382 --> 00:07:08.990 そんなにいないけど、 00:07:08.990 --> 00:07:10.700 彼は紛れもなくそのひとりだった。 00:07:10.700 --> 00:07:12.736 そして、黄熱病でバタバタと倒れた軍勢を立て直すのに 00:07:12.736 --> 00:07:16.812 彼は必死になっていて、 00:07:16.812 --> 00:07:21.205 しかも、猛烈な敵とも戦わねばならなくて必死だったんだろうけど 00:07:21.205 --> 00:07:25.011 彼はとても残忍な戦い方を選んだ。例えば、 00:07:25.011 --> 00:07:28.284 ちょっとひどいけど書いておこうか。 00:07:28.284 --> 00:07:33.035 ロシャンポーはアフリカ人たち 00:07:33.035 --> 00:07:34.070 つまりアフリカ系住民たちを 00:07:34.070 --> 00:07:37.605 解放奴隷や自由有色人種たちを 00:07:37.605 --> 00:07:48.170 虫で一杯にした穴の中に生き埋めにしたり、 00:07:48.170 --> 00:07:58.825 煮えたぎった黒糖の鍋で、彼らを煮殺したりした。 00:07:58.825 --> 00:08:01.650 他にも、ロシャンポーはある日、 00:08:01.650 --> 00:08:08.178 混血の地元有力者たちを晩餐会に招き 00:08:08.178 --> 00:08:11.199 自宅でのパーティなんだけど、 00:08:11.199 --> 00:08:12.920 12時ぴったりに、客を全員殺すことを 00:08:12.920 --> 00:08:15.097 宣言したり、とかね。 00:08:15.097 --> 00:08:19.322 つまり、彼はこの上なく残忍で、 00:08:19.322 --> 00:08:20.264 その被害者たちは 00:08:20.264 --> 00:08:24.355 彼が好きな様に出来る人達、 00:08:24.355 --> 00:08:26.000 つまりハイチのアフリカ系住民たちだった。 00:08:26.000 --> 00:08:29.618 けれど、彼のこの残忍さは 00:08:29.618 --> 00:08:33.657 ハイチに住む全てのアフリカ系の人々、 00:08:33.657 --> 00:08:37.419 彼ら全ての心を、本当の意味でひとつにするという効果をもたらした。 00:08:37.419 --> 00:08:47.834 奴隷たちと、解放奴隷たちと、 00:08:47.834 --> 00:08:56.545 そして混血の自由有色人種たち全てをね。 00:08:56.545 --> 00:09:03.160 それで時は1803年だけど、 00:09:03.160 --> 00:09:05.090 思い出してほしいのは 00:09:05.090 --> 00:09:11.140 ハイチはまだイギリスと戦争中で 00:09:11.140 --> 00:09:14.269 イギリスは、前も言ったけど 00:09:14.269 --> 00:09:18.308 彼らの持つ王立海軍は紛れもなく世界一 00:09:18.308 --> 00:09:25.777 世界一の海軍だね。 00:09:25.777 --> 00:09:29.538 ロシャンポーは邪悪で残酷だったけれども、 00:09:29.538 --> 00:09:31.348 デサリーヌと渡り合うには 00:09:31.348 --> 00:09:34.360 ナポレオンからの援軍が必要だった。 00:09:34.360 --> 00:09:37.390 そして、もうひとつ。 00:09:37.390 --> 00:09:39.369 デサリーヌは、前も言ったけど 00:09:39.369 --> 00:09:42.150 決して報復行為を恐れるタイプではない。 00:09:42.150 --> 00:09:43.132 例えば、あるとき、 00:09:43.132 --> 00:09:48.144 ロシャンポーが500人の反乱軍捕虜を生き埋めにしたとき 00:09:48.144 --> 00:09:52.898 デサリーヌは仕返しに500人のフランス軍捕虜を絞首刑に処したりした。 00:09:52.898 --> 00:09:54.446 なので、デサリーヌは決して 00:09:54.446 --> 00:09:58.540 血を見るのをためらうタイプではないんだよね。 00:09:58.540 --> 00:10:01.610 トゥーサンとは決定的に違うところなんだけれども。 00:10:01.610 --> 00:10:02.470 これは思うに、歴史の教訓だね。 00:10:02.470 --> 00:10:04.703 ある敵と戦っている時、 00:10:04.703 --> 00:10:11.835 敵の割りと話のわかる常識的な指導者を引きずり下ろした場合、 00:10:11.835 --> 00:10:16.558 その次にリーダーに就く人間がとんでもなく 00:10:16.558 --> 00:10:19.089 自分に近いというか、もっと残酷な人間だったりすることがあり、 00:10:19.089 --> 00:10:22.620 結果的にもっと沢山血を見ることになってしまうことがままあるんだよね。 00:10:22.620 --> 00:10:25.330 まあ、これは僕の考察にすぎないけれど。 00:10:25.330 --> 00:10:27.470 さて、これで舞台は整った。 00:10:27.470 --> 00:10:28.340 フランスはイギリスと戦争中。 00:10:28.340 --> 00:10:31.940 イギリスはカリブ海などを制しているし 00:10:31.940 --> 00:10:34.515 ロシャンポーは、滅法強い奴隷反乱軍を相手に 00:10:34.515 --> 00:10:42.160 援軍が欲しいって言ってる。 00:10:42.160 --> 00:10:45.890 けど、ナポレオンは損切りが速いことで有名だ。 00:10:45.890 --> 00:10:47.380 例えばエジプトでしたように。 00:10:47.380 --> 00:10:49.247 ナポレオンは、なんていうか、個人の将軍がどうなろうが 00:10:49.247 --> 00:10:50.833 どうでもいいタイプの指導者で、 00:10:50.833 --> 00:10:54.280 彼にとって見れば自分のエゴと権力がずっとずっと大事。 00:10:54.280 --> 00:11:02.818 なので、ナポレオンは援軍要請を無視。 00:11:02.818 --> 00:11:03.800 まあ、状況を把握してたら仕方ないんだけど 00:11:03.800 --> 00:11:06.655 援軍はきっとイギリスの軍艦をかいくぐってハイチに辿りつけないし 00:11:06.655 --> 00:11:07.706 同時に、ナポレオンは 00:11:07.706 --> 00:11:09.550 ヨーロッパとの戦争で首が回らない。 00:11:09.550 --> 00:11:11.720 そしてそもそもフランス革命が起こったのは 00:11:11.720 --> 00:11:14.090 フランス国庫がカラだったからなんだよね。 00:11:14.090 --> 00:11:16.748 なので、ナポレオンはロシャンポーを見捨てただけでなく 00:11:16.748 --> 00:11:18.431 まあ、ロシャンポーにとっては当然の報いだけれど。 00:11:18.431 --> 00:11:22.402 ナポレオンは他の植民とも全部諦めたんだよね。 00:11:22.402 --> 00:11:25.150 西半球にあるやつはほぼすべて。 00:11:25.150 --> 00:11:27.166 戦争資金のために、 00:11:27.166 --> 00:11:31.346 ナポレオンは仏領ルイジアナをアメリカに売り払った。 00:11:31.346 --> 00:11:33.746 このルイジアナってのは、ルイジアナ州、 00:11:33.746 --> 00:11:36.930 今のこの小さな州のことではなく、 00:11:36.930 --> 00:11:37.900 こんなに大きかった。 00:11:37.900 --> 00:11:39.800 まあ、実は僕はルイジアナ生まれなんだけど、 00:11:39.800 --> 00:11:41.342 ここでいう仏領ルイジアナは、 00:11:41.342 --> 00:11:44.180 この大きな部分、現在のアメリカの3分の1の面積を占める広大な土地のことだったんだ。 00:11:44.180 --> 00:11:48.118 彼はこれを全部売っぱらった。 00:11:48.140 --> 00:11:49.472 すごい必死だったんだろうね。 00:11:49.472 --> 00:11:56.330 だって、たったの1千5百万ドル。 00:11:56.330 --> 00:12:03.350 6千万フランに当たるんだけど、 00:12:03.350 --> 00:12:05.405 現在のドルに直すと 00:12:05.405 --> 00:12:08.803 100億ドルというところか。 00:12:08.803 --> 00:12:10.377 けど、土地の大きさを見ると 00:12:10.377 --> 00:12:12.582 ほら、100億ドルでアメリカの3分の1だよ? 00:12:12.582 --> 00:12:14.793 そう考えれば 00:12:14.793 --> 00:12:16.850 すごく安値で売り払ったことになる。 00:12:16.850 --> 00:12:19.100 今の100億ドルで。 00:12:19.100 --> 00:12:22.874 でも、1803年当時の1500万ドルというのも、 00:12:22.874 --> 00:12:24.730 当時でもたいした額ではなかったので、彼の必死さが伝わるよね。 00:12:24.730 --> 00:12:27.383 地球の裏側の植民地を支配し続けることは 00:12:27.383 --> 00:12:28.935 ナポレオンには無理と判断したからなんだが。 00:12:28.935 --> 00:12:30.485 特にイギリスが事実上海を支配していて、 00:12:30.485 --> 00:12:34.463 自分たちはヨーロッパでどんぱちやってて首が回らない状態では。 00:12:34.463 --> 00:12:36.410 なので、アメリカはすごく得な買い物をしたわけだ。 00:12:36.410 --> 00:12:38.580 けど、言ってしまうとね。もしナポレオンがこのとき二束三文で売らなかったら、 00:12:38.580 --> 00:12:40.860 そのうちイギリスかアメリカのどっちかがたぶん 00:12:40.860 --> 00:12:43.890 占領して終わり、ってことになってただろうしね。 00:12:43.890 --> 00:12:47.572 話を戻すと、ロシャンポーはナポレオンに切り捨てられ、 00:12:47.572 --> 00:12:53.107 デサリーヌに滅ぼされた。 00:12:53.107 --> 00:13:00.410 そして、デサリーヌはサント・ドミンゴの独立を宣言。 00:13:00.410 --> 00:13:09.250 1804年1月1日のことだ。 00:13:09.250 --> 00:13:12.922 デサリーヌは、サント・ドミンゴの独立を宣言し、 00:13:12.922 --> 00:13:15.760 この新しい国をハイチと名付けた。 00:13:15.760 --> 00:13:18.640 先住民たちにとってのこの地の呼び名をとってね。 00:13:18.640 --> 00:13:21.010 山脈の地、という意味らしい。 00:13:21.010 --> 00:13:24.349 さて、気づいてない人もいると思うけど 00:13:24.349 --> 00:13:27.100 思い出してほしいのは、 00:13:27.100 --> 00:13:31.261 この時点で、ハイチはとてもとても貧しい国だった。 00:13:31.261 --> 00:13:35.230 そしてデサリーヌの後にも、次から次へと、まあ飽きもせず 00:13:35.230 --> 00:13:37.158 いつかこれについてビデオ作る予定だけど、 00:13:37.158 --> 00:13:39.280 次から次へと、独裁者が現れては消えていき、 00:13:39.280 --> 00:13:41.120 人々にとっては過酷な年月が流れていく。 00:13:41.120 --> 00:13:41.834 そして、ひとつはっきりしているのは、 00:13:41.834 --> 00:13:45.330 彼らの国としてのスタート時点がまず苛烈だったこと。 00:13:45.330 --> 00:13:47.645 デサリーヌが1804年に独立を 00:13:47.660 --> 00:13:51.507 宣言はしたものの、 00:13:51.507 --> 00:13:58.899 フランスはこの独立を1805、いや失礼、1825年まで認知しなかった。 00:13:58.899 --> 00:14:03.224 フランスによる認知 00:14:03.224 --> 00:14:04.933 どういうことかというと、 00:14:04.933 --> 00:14:07.982 まあ、そんな認知とかどうでもいいとか思うかもしれないけど、 00:14:07.982 --> 00:14:10.995 前宗主国とかどうでもいいってね。 00:14:10.995 --> 00:14:12.890 けど、認知するまでフランスは、 00:14:12.890 --> 00:14:14.050 ハイチを経済封鎖していたんだよね。 00:14:14.050 --> 00:14:16.000 外国とのありとあらゆる 00:14:16.000 --> 00:14:17.740 貿易を阻止した。 00:14:17.740 --> 00:14:20.130 これでは経済は立ち行かない。 00:14:20.130 --> 00:14:24.230 そして、認知されるために、 00:14:24.230 --> 00:14:39.402 ハイチは9千万フランの賠償金の支払いをフランスに約束させられたんだ。 00:14:39.402 --> 00:14:41.911 これがどれだけな額かというと、 00:14:41.911 --> 00:14:47.702 特にこんな小さな島の半分、 00:14:47.702 --> 00:14:49.870 解放奴隷によって建国されたばかりで、 00:14:49.870 --> 00:14:54.392 前宗主国に無理やり賠償金を押し付けられ 00:14:54.392 --> 00:14:58.527 さらにはその拘束は 00:14:58.527 --> 00:15:00.140 アメリカやイギリスによっても強化された。 00:15:00.140 --> 00:15:01.291 嫌な話だよね。 00:15:01.291 --> 00:15:03.518 前の敵国どうしでも、こういうこと、 00:15:03.518 --> 00:15:08.100 つまり小さな貧国を抑えつけるという点ではみんな協力しあえるわけらしいから。 00:15:08.100 --> 00:15:09.582 なので、彼らは、さっきナポレオンが 00:15:09.582 --> 00:15:13.950 ルイジアナを売っぱらった額の1.5倍の賠償金を 00:15:13.950 --> 00:15:18.240 背負うことになる。 00:15:18.240 --> 00:15:19.530 ルイジアナの売値は6千万フラン。 00:15:19.530 --> 00:15:20.720 それがルイジアナ全部。 00:15:20.720 --> 00:15:24.830 そして、ハイチがフランスに支払うのは9千万フラン。 00:15:24.830 --> 00:15:27.332 今のドルに直せば、 00:15:27.332 --> 00:15:31.233 140-150億ドルくらいか。 00:15:31.233 --> 00:15:33.580 で、当時のハイチの人口はたったの 00:15:33.580 --> 00:15:36.230 50万人くらいの、しかもほとんど解放奴隷。 00:15:36.230 --> 00:15:37.970 なので、これがどれだけひどい額かよくわかると思う。 00:15:37.970 --> 00:15:39.982 そして、この件は、19世紀の 00:15:39.998 --> 00:15:45.458 帝国主義時代の出来事ってだけでは片付けられない。 00:15:45.458 --> 00:15:46.173 実際、 00:15:46.173 --> 00:15:58.720 この賠償金は利息付きで、1947年にやっと完済したんだ。 00:15:58.720 --> 00:16:00.480 20世紀の半ばまでハイチは利息付きで、この賠償金を支払わされ 00:16:00.480 --> 00:16:03.272 しかも傷口に塩というか侮辱付きで。 00:16:03.272 --> 00:16:09.740 賠償金の理由は、財産の損害。 00:16:09.740 --> 00:16:11.820 それがフランスの主張なんだよね。 00:16:11.820 --> 00:16:17.713 ハイチはフランスの財産を侵害したため、賠償金を背負うことになった、と。 00:16:17.713 --> 00:16:20.840 で、この財産というのは、 00:16:20.840 --> 00:16:23.300 土地と奴隷のことだ。 00:16:23.300 --> 00:16:26.014 つまり、やっと得た自由と引き換えに 00:16:26.014 --> 00:16:28.942 宗主国にたくさんの賠償金支払い義務を背負うわけだが、 00:16:28.942 --> 00:16:31.277 宗主国に彼らを所有する権利と引き換えなんだよね。 00:16:31.277 --> 00:16:32.890 これが、傷口に塩。ひどい話だよね。 00:16:32.890 --> 00:16:33.687 僕はこれを読んだ時とてもショックだった。 00:16:33.687 --> 00:16:35.248 この金額と、 00:16:35.248 --> 00:16:38.189 そして、ハイチがこの金額を実際支払い続けるはめになったこと。 00:16:38.189 --> 00:16:43.360 この小さく貧しい国が、だよ。 00:16:43.360 --> 00:16:45.061 ハイチは、そうして1947年に至るまで 00:16:45.061 --> 00:16:50.207 西側の先進国に支払い続けさせられ 00:16:50.207 --> 00:16:53.246 自分たちの自由を買っていたわけなんだ。