皆さんこんにちは。私の発表にお越しいただきありがとうございます。
本発表では、Debian インストーラに対する GNU/Screen の組み込みに関してお話します。
まずは組み込みのあらましについてお話しします。
すなわち、Debian インストーラとはどんなものか、
GNU/Screen とはどんなものか、
GNU/Screen を Debian インストーラに組み込む必要性、
GNU/Screen サポートをインストーラに追加する方法についてお話します。
Debian インストーラとはどんなものでしょうか?
ここにおられる多くの方が Debian インストーラをご存知のことと思います。
Debian インストーラは単なるインストーラです。
しかしながら実際のところ、
これは起動可能な Debian 環境であり、
そのサイズが極力小さくなるように調整されています。
すなわち、
インストーライメージに文書は含まれないということです。
それ以外の普通の人にとって通常ならば利用価値の高い情報
(一般に「/usr/share/doc」へ配置される情報) も含まれません。
しかしながらインストール時ならば、これらの情報は必要ありません。
そうすることで、
インストーラのサイズを小さくすることが可能です。
かつて、インストーラは 1 枚か 2 枚のフロッピー内に収まっていました。
すなわち、インストーラサイズはとても小さかったということです。
今では、そうすることは不可能です。
なぜなら、カーネルサイズだけでフロッピーのサイズを超えてしまうからです。
また、インストーラはパーティション分割ソフトウェアを備えています。
このおかげで、パーティションを分割したり、
インストーラの中に新しいディスクイメージ作成したりできます。
その後、「debootstrap」が Debian 環境をインストールします。
最後に、インストーラがブートローダをインストールします。
ブートローダには数多くの種類が用意されています。
その一例として PC や ARM??? 向けの GRUB があります。
また、armel や armhf などの ARM プラットフォーム向けの
ブートローダには flash-kernel があります。
GNU/Screen とは何でしょうか?
第一に、それはターミナルマルチプレクサです。
すなわち、これを使うことで物理的な端末の中に
複数の仮想的な端末を持つことが可能になります。
さらに、短縮キーを使って仮想的な端末を切り替えることも可能です。
GNU/Screen の場合、短縮キーは 「Ctrl-A (数字)」 です。
Tmux (GNU/Screen の代替品) の場合、短縮キーは 「Ctrl-B (数字)」 です。
ここまでの説明から、皆様は Debian インストーラ内で GNU/Screen を必要とする理由が気になっているのではないでしょうか。
どんなご利益があるのでしょうか?
それでは皆様に普通のインストーラをご覧に入れましょう。
これが普通のインストーラです。
ユーザインターフェイスがあります。
もしパーティション分割や新しいディスクイメージの作成時に問題が生じたなら、
ログを確認したいと思うのではないでしょうか。
そんな時は、「Alt-F4」キーを押してログコンソールに切り替えることが可能です。
これが普通の PC の場合です。
元の画面に戻りたければ、「Alt-F1」キーを押します。
それでは実演をご覧ください。
これが普通の Debian インストーラ画面です。
ここで「Alt-F2」キーを押します。
するとコマンドラインが表示されます。
ここでは様々な情報を見ることが可能です。
「Alt-F4」キーを押せば、ログを見ることも可能です。
元の画面に戻りたければ、「Alt-F1」キーを押します。
これで元の画面に戻りました。
これが普通の PC の場合です。
しかしながら組込み機器の場合、このような便利な方法はありません。
armel や armhf などの組込み機器では、シリアルコンソールまたはネットワークを介した SSH などを使ってインストールするのが普通です。
したがって、用意される物理的な画面は一つだけです。
他に画面はありません。
実は、方法が全く無いわけではありません。
前のページを見ることが可能です。
そのための「戻る」オプションがここにあります。
戻って、このメニューを表示することが可能です。
これは上級者向けのメニューであり、
組込み機器でもここからシェルを起動することが可能です。
シェルが起動されれば、ログを確認することが可能です。
ログは「/var/log/syslog」に保存されています。
ログを開いて、内容を確認することが可能です。
しかしながら、ログを確認するときは、
毎回戻ってシェルを起動しなければいけません。
好きなときにログを確認することも不可能です。
なぜなら、インストーラが作業している間 (パッケージのインストール中など) はメニューを表示できないからです。
普通の PC ではいつでもできることが組込み機器ではできないのです。
そこで私は考えました。
もし GNU/Screen を Debian インストーラに組み込んだら、
armel などの組込み機器に対するインストールを普通の PC と同じように簡単で便利なものにできるのではないでしょうか。
このような経緯で、私は GNU/Screen の組み込み作業を開始しました。
では、どのように組み込み作業を行えばよいのでしょうか?
しばらく検索した後、
私は GNU/Screen バイナリパッケージとそれが依存するパッケージ (ライブラリなど) が udeb をサポートする必要があるという点に気が付きました。
udeb は Debian インストーラ用の特別なフォーマットで、
インストーライメージのサイズを小さくする目的で使われます。
すなわち、例えば文書は udeb 内から削除されます。
したがって、第一に、GNU/Screen とそれが依存するライブラリに udeb を作らせる必要があります。
第二に、これらの udeb を Debian インストーライメージに追加する必要があります。
第三に、Debian インストーラ内で GNU/Screen を起動させるためのスクリプトを書く必要があります。
udeb のサポートから話を始めましょう。
通常、udeb は「debian/control」で管理されます。
udeb はソースパッケージに対するバイナリパッケージのようなものです。
udeb (新しいバイナリ) をサポートするにはセクションを追加します。
その後、新しい「<pkg>-udeb.install」ファイルを作成します。
これの内容は本来の「<pkg>.install」ファイルとほぼ同一ですが、
不要なファイルに関するエントリを削除します。
この後、パッチを作成します。
そして、パッケージメンテナにパッチを送り、
パッチの内容を適用してもらいます。
新しい udeb パッケージが追加されました。
しかしながら、パッケージが DM によってメンテナンスされている場合、
残念なことに、DM はパッケージをアップロードするために、
パッケージをスポンサーしてくれる DD を探す必要があります。
同様の理由により、新しい udeb パッケージは NEW キューに入ります。
さらに、ftp-master がアップロードを認可するまで待つ必要もあります。
したがって、アップロードされるまでに通常のパッケージよりも時間がかかります。
私は GNU/Screen とそれが依存するパッケージに udeb サポートを追加し、
4 つのバグを報告し、それぞれにパッチを添付しました。
これで、udeb パッケージの準備ができました。
しかしながら、Debian インストーライメージにこれを追加する作業が残っています。
そこで、udeb サポートを追加するために、
「debian-installer.git」リポジトリに対してパッチを当てました。
最後に、Debian インストーラの起動後に GNU/Screen を起動する必要があります。
さらに、PC 上の Debian インストーラ環境をエミューレートするための GNU/Screen の設定も必要です。
Debian インストーラには 4 つの仮想画面が用意されています。
1 つ目が主画面、2 つ目がコマンドラインコンソール、最後がログコンソールです。
この状態をエミュレートしたいわけです。
それでは実演をご覧ください。
今回は、Debian インストーラを仮想マシン上で実行しています。
こちらが GNU/Screen をサポートする Debian インストーラです。
したがって、1 番、2 番、3 番、4 番、という 4 つの仮想端末が用意されています。
さらに、「Ctrl-A 2」、「Ctrl-A 3」、「Ctrl-A 4」などの
短縮キーを使って端末を切り替えることが可能です。
こちらがログです。
PC 側の立場からすると、ご覧のとおり、
これはそれほど便利というわけではないように見えます。
なぜなら、PC では「Alt-F1」、「Alt-F2」、「Alt-F3」
を使って画面を切り替えることが可能だからです。
しかしながら組込み機器側の立場からすると、
これはかなり便利です。
進捗をご報告しましょう。
実際には、ここに挙げた事柄の処理はすでに完了しています。
例えば、最初の 2 つはライブラリに関するものです。
実際には、これらの処理は必要ありませんでした。
なぜなら、Laurent さんから教わったのですが、
GNU/Screen を 2 回コンパイルするように設定できたからです。
すなわち、1 回目に通常の GNU/Screen を、2 回目に audit と pam ライブラリを使わない GNU/Screen をコンパイルするということです。
この方針を採ることにより、GNU/Screen の udeb バイナリのサイズを小さくすることが可能になりました。
実のところ、本当にサポートする必要があるライブラリは ncurses です。
ncurses は GNU/Screen のバイナリパッケージと併せて 2 週間前に ftp-master へアップロードされました。
Debian インストーライメージについて言えば、今週 Debian インストーラ Stretch Alpha 7 がリリースされた後、対応するコミットをプッシュしました。
Alpha 7 のリリース後にコミットをプッシュしたので、
Debian インストーラに組み込まれた GNU/Screen を試すにはデイリーイメージを使ってください。
それでは、恩恵を受けるデバイスについて考えてみましょう。
恩恵を受けるデバイスとして、シリアルコンソールや SSH ネットワークコンソールを使ってインストールされた通常の ARM ボードや、
SPARC64 および IBM s390/s390x などの巨大なマシンが挙げられます。
PC にも恩恵を受けるものがあるでしょう。
なぜなら、一部の PC はヘッドレスだからです。
この種のどちらかと言えば PC サーバのような PC は HDMI や VGA ポートを装備していません。
初期の私の提案に対してコメントをくださった様々な方々に感謝申し上げます。
また、udeb パッケージのアップロードに関する手助けにも感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
[拍手]
何かご質問があればお願いします。
[座長]: ええ、どうぞ。
[質問者 00]: まず初めに、私は SPARC 組み込みシステムをいつも使っています。
[質問者 00]: そんなわけで、この組み込み作業が大いに役立つことは間違いありません。
[質問者 00]: 本当に有難うございます。
[質問者 00]: あなたの作業に深く感謝しております。
[質問 00-00]: 作業を遂行する上で最も難しかったことは何ですか?
[質問 00-01]: また、「簡単じゃないか」と最も驚いたことは何ですか?
実は、最も難しかったことはパッケージをアップロードすることです。
なぜなら、あるパッケージは DM によってメンテナンスされていたからです。
通常、DM は DD のスポンサーシップがなくても
担当のパッケージをアップロードできます。
しかし、udeb は新しいパッケージとみなされるため、
スポンサーとなる DD を見つける必要がありました。
DD を見つけてアップロードしてもらうのに、ほぼ 2 ヶ月かかりました。
[質問者 00]: あと、難しいと思っていたにも関わらず、
[質問者 00]: 簡単だったことは何ですか?
えーっと
[質問者 00]: 難しいことばかりでしたか?
[笑い]
技術的な側面から言えば、組み込み作業は骨の折れる作業ではありませんでした。
なぜなら、すべてのものは用意されていたからです。
私は単に udeb サポートを追加するための簡単なパッチを書いて、
Debian インストーラの中で GNU/Screen を起動するスクリプトを書いただけです。
したがって、技術的な側面から言えば、
組み込み作業はそんなに難しいものではありません。
[質問者 00]: 素晴らしいですね。
ありがとうございます。
[質問者 00]: 他に質問は?
[質問者 01]: 今回の成果は Stretch Alpha 7 に含まれるとのことでしたが、
違います。Stretch Alpha 7 の後にコミットをプッシュしました。
[質問者 01]: なるほど、
ということは成果が含まれるのはフリーズの後になる予定ですか?
そうです。
[質問者 01]: わかりました。
[質問 01-00]: GNU/Screen 関連のコンポーネントをすべて追加することで、
イメージのサイズはどの程度増加しますか?
[質問者 01]: ものすごくですか? ほんの少しですか? それともサイズは変わりませんか?
そうですね、Debian インストーライメージのサイズはこれまでに比べてほんの少し増加するでしょう。
例えば、armel プラットフォームの「QNAP」シリーズというものがあります。
Debian インストーラは「QNAP」シリーズをサポートしています。
しかしながら、「QNAP」シリーズにはサイズ制限があります。
なぜなら、カーネルと初期 RAM ディスクをフラッシュメモリに収める必要があり、
カーネル用のフラッシュメモリサイズがおよそ 2 MB で初期 RAM ディスク用のサイズが 4 MB だからです。
したがって、フラッシュメモリのサイズは制限されています。
対して、GNU/Screen の udeb パッケージのサイズはおよそ 500 KB です。
したがって、「QNAP」向けのイメージに限って言えば、
今回の成果を含めることは不可能かもしれません。
それ以外のイメージでは、問題ないと思います。
考慮すべき大きなサイズ制限はありません。
現在のところ、今回の成果は Debian インストーラの日次ビルドイメージに含まれます。
このため、日次ビルドイメージを使えば今回の成果を試用可能です。
URL は「https://d-i.debian.org/daily-images/」です。
ここには多くのイメージがあります。
なぜなら、ここには amd64 や GNU Hurd などのサポート済みアーキテクチャすべてに対するイメージがあるからです。
したがって、適切なアーキテクチャとイメージを選ぶ必要があります。
これで私の発表を終わります。ご清聴ありがとうございました。
[拍手]